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122話 グラシャラボラス戦終盤


 俺がグラシャラボラスによって死に戻って来てからしばらくたった頃。


「グラアアオオオオオオ!」

「ええ? また?」


 凄まじい咆哮が響き、プレイヤーたちが騒ぎ出す。グラシャラボラスが転移して来た時と同じ雰囲気だ。


 俺は運悪く、また調合の最中だった。しかも、手を離すことのできない工程である。


「今度は何だよ! もう!」

「ムームー!」

「――!」


 オルトとサクラが慌てた様子で俺を呼びに来た。だが、作業の邪魔をしない様に俺に触れないのはナイスプレイだぞ。


「――よし、終わった」

「クマー!」

「はいはい、そんな引っ張るなって。何があった?」

「キュー!」


 リックが俺の肩に駆け上り、ほっぺを引っ張って、グラシャラボラスの方を指さしている。もしかして倒したか?


 だが、そちらを向くと、残念ながらグラシャラボラスは健在であった。いや、むしろパワーアップしている。


「あれは……ドラゴン? うわー、めっちゃ強そうじゃないか」


 使徒たちが追い込まれて変身したことを考えれば、グラシャラボラスが変身するのも当然だろう。だが、さすがにボスなだけあり、その姿は最強の魔獣、ドラゴンの様な姿であった。顔と尻尾が竜、体は人。全身を茶色の鱗が覆っているが、2足歩行。まさに半人半竜である。いや、あの大きさだと、半巨人半竜か?


 戦闘部隊の頑張りによって、イベントが進んだらしい。しかも、イベントの進行はそれだけではなかった。


「ユートよ、ちょいと良いかの?」

「あれ、カイエンお爺さん。他の人も一緒に、どうしたんだ?」


 カイエンお爺さんを始めとした、村の老人たちが10人程立っていた。皆、家に避難しているはずなんだが……。見たことの無い人がいると思ったら、村長だと紹介された。そう言えば、一回も出会ったことが無かったな。


「うむ、まずは儂らの村を守るために戦ってもらって、感謝を」

「いや、まー」


 村を守ると言うか、イベントのためだしね。多分、純粋に村人のために戦おうなんて誰も思ってないはずだ。いや、ジークフリードくらいかね? ほとんどの奴らは、イベントの評価のために戦っているだけだろう。


「よそ者であるお主らに戦わせて、儂らだけ震えているわけにはいかん!」

「戦には慣れておらんが、儂らでも弓くらいはひけるのだ」


 そう言って、老人たちが背に背負っていた弓を構えて見せた。プルプル震える細腕で弓を引く姿は心配しかない。


「え? お爺さんたちも戦うつもりなのか?」

「さすがに森には入れんが、村に迫って来る彼奴に弓をお見舞いしてくれる!」

「我らも共に戦うぞ!」


 これって、喜んでいいんだよな? 不安しかないんだが。下手に手伝ってもらって、もし村人が死んじゃったら? 取り返しがつかない気がする。


 戦闘部隊のみんな、村が戦場になる前に頑張ってグラシャラボラスを倒してくれ! お爺ちゃんたち無理しちゃうから!


 しかし俺の祈りも虚しく、変身したグラシャラボラスは凄まじく強い様だった。死に戻って来るペースが目に見えて上がったのだ。


「うわー、あれはヤバいだろ」


 薙ぎ払われたグラシャラボラスの尻尾によって、何かが吹き飛ばされるのが見えた。直撃を食らったプレイヤーである様だ。


 さらに、口から黒い光線の様な物を吐き出している。竜と言えばドラゴンブレスだが、火炎ではなさそうだな。戦闘部隊が火にまかれて全滅する事態はなさそうで良かった。まあ、このゲームの中で森林火災があるかどうかわからないけどね。


「おい、大丈夫か?」

「白銀さんか、助かる」


 死に戻って来てへたり込んだ戦士職のプレイヤーに、手を貸して立ち上がらせてやる。革の鎧が腐食したかのように、穴が開いてボロボロになっていた。こんな状態で死に戻って来た奴は初めて見るな。


 何があったのか聞いてみると、やはり変身グラシャラボラスの攻撃によるものだった。あの怪しい光線の仕業だ。あれを浴びると防具が腐食してしまうらしい。


 腐食した防具は鍛冶師に修復をしてもらわなくてはいけないため、再出撃にかかる時間が増えてしまった。


「もしかして、俺たちがまた出撃しないといけないか?」


 現在、50人ほどが死に戻って来ている。その数はさらに増えるだろう。戦闘部隊の数が足りなくならないだろうか?


 そう心配していたんだが、俺の取り越し苦労だったらしい。



 30分後。


「ギャアアアアアアオオオオオオオオ!」


 今までの咆哮とは明らかに違う、悲鳴にも聞こえるグラシャラボラスの叫び声。ちょうど調合終わりだったため、今度は即座に反応出来たぞ。


「ムームムー!」

「――!」

「はいはい、見えてるから、引っ張らなくて大丈夫だって!」

「キュー!」

「クマー!」

「だから、今度は見えてるから!」


 俺にワラワラと群がって来て騒ぐうちの子たち。皆で俺のローブを引っ張りながら、必死にグラシャラボラスを指差している。気持ちは分かるが。


 戦闘部隊が頑張ってくれたんだろう。グラシャラボラスが石化してしまった様に、天に向かって咆哮した形のまま、その場で固まっている。そして、その姿が段々と薄れてきているのが分かった。


 1分もすると、いままであの巨体がそこにあったのが幻であったかの様に、その姿は完全に消えてなくなっていた。同時に、アナウンスが流れる。


『大悪魔グラシャラボラスの撃破に成功しました。おめでとうございます』


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