121話 紐なしバンジー
態勢を立て直して再びグラシャラボラスに戦いを挑んだサポート班なんだが、その士気は中々に高かった。
「みんな! 頑張るわよ! オルトちゃんの弔い合戦なんだから!」
「おう!」
オルトファンの女性が真剣な表情で叫ぶ。いや、死に戻ったけど、村の広場に戻ればすぐ復活するから! 何故、全員そんなやる気なんだ?
オルトファンたちの雄叫びはかなり本気っぽいけど、それ以外のプレイヤーも分かっていて雰囲気を楽しんでいるんだと思う。みんなノリが良いな。
「猪を援護しつつ、グラシャラボラスを攻撃するわよ!」
「突貫!」
「おーい。くれぐれも無理するなよー。時間稼ぎが目的なんだぞー!」
「うおー!」
やばい、士気が高すぎてちょっと暴走気味だ! 紙耐久の生産職がそんな突っ込んでどうする!
案の定、1人がグラシャラボラスに捕まり、飲み込まれた。
片足をガーディアン・ボアにロックされているとは言え、森の木々を遥かに超えるその巨体だ。腰を屈めればかなりの距離まで腕は届く上、まるでゴムでできているかのように伸びる。しかも、一見人間の様な形なのだが、その動きは関節を無視した異常な物だった。
伸ばされるグラシャラボラスの腕に生産職の面々は次々と捕らえられていく。
厄介なのはそれだけではない。時おり掌から放つ黒い煙の様な遠距離攻撃は、ダメージ+麻痺という嫌らしさである。
しかも一定時間ごとに、範囲攻撃である黒い光を放ってくるのだ。これがまたそれなりの威力があり、HPが低めの俺たちには結構つらい。
「やべ! ガーディアン・ボアが死にそうだ! 回復しないと――」
俺にもまだオルトが死に戻った動揺が残っていたらしい。まったく周囲が見えていなかった。いや、見えていてもかわせたかは分からないが……。
ガーディアン・ボアの回復をしようと向かっている途中、背後からグラシャラボラスの手に捕らえられてしまった。
「グラァァ!」
「うわー!」
グラシャラボラスに放り投げられて宙を飛びながら、丸かじりパターンとどっちがマシだったのか考える。結構滞空時間があって、そんな事でも考えてなかったら恐怖のあまり泣き出してしまいそうだったのだ。
ぐんぐん近づいて来る地面。
「ぎゃー!」
ゲームの中であっても、思わず目を瞑って頭部を両手で守ってしまった。いやー、やっぱ紐なしバンジーは恐ろしすぎるって!
ドン!
大きい音とは裏腹に、衝撃は大したことが無い。ウレタンマットに倒れ込んだのと変わらない程度だ。
だが、次に目を開けた時、俺は戦場ではなく村の広場にいた。やはり死に戻ったか。
「ムムー!」
「おお、オルト!」
「ムー!」
先に死に戻っていたオルトがダッシュで飛びついてきた。まるで俺を待っていたかのように、俺のローブに顔を埋めている。
従魔は死に戻ったと言っても、復活ポイントで先に復活して待っているわけではない。今回の様に主がその場所に戻ってきた時点で復活するのだ。なので、寂しいとか感じないはずなんだけどな。
それが分かっていても、こういう態度をとられたら妙に愛しくなってしまう。
「オルト。お前のおかげで助かったぞ! 良くやったな!」
「ムー」
照れた様子で頭をかくオルト。俺もその頭を撫でまくってやる。結構強くワシャワシャしてるんだが、オルトは嬉しそうな顔でニコニコしていた。
「うんうん、愛いやつめ!」
「キュー!」
「クマー!」
リックとクママが左右からしがみ付いて来る。オルトだけズルいって事だろう。クママたちもちゃんとボス戦でタゲ取りやポーション運びで頑張ったからな。
「お前たちも可愛いぞ~!」
「クックマー!」
「キキュー!」
ここまで来たら、サクラもだな! 自分からアピールできずにもじもじしていたサクラの頭も皆と同じ様に撫でてやる。
「――♪」
よしよし、サクラも喜んでるな。
そうやってしばしモンスたちと触れ合っていたら、後ろから声をかけられた。
「白銀さんも死に戻ったんですね」
「アメリアか。俺もそっちと一緒で紐なしバンジーだよ」
「あれ、怖いですよね~」
「思わず悲鳴が出ちゃったよ」
現れたのは先に死に戻っていたアメリアだった。しばし、紐なしバンジーの恐ろしさについて語り合う。
すると、さらに数人のプレイヤーが死に戻って来た。俺たちと一緒に出撃していた生産職の面々だ。
「うあー、死んだー!」
「こわ!」
「まさか、3人いっぺんに飲み込まれるとは思わなかった……」
その場でへたり込んでいる。やっぱ、グラシャラボラスにパックンされる方がショックが大きい気がするな。俺はぶん投げられるだけで済んでマシだったかもしれない。
「おい、大丈夫か?」
「白銀さん……。大丈夫、ちょっと腰が抜けただけだから」
「それは大丈夫じゃないだろ」
「それよりも、皆に戦闘部隊が戻って来てくれたって知らせてくれないか?」
「お、本当か?」
コクテンたちが戻って来て、グラシャラボラスと再度戦闘を開始してくれたようだ。
「ああ、ガーディアン・ボアと一緒に戦ってくれてるはずだ」
「私、皆に言ってくる!」
アメリアが大きな声で、戦闘部隊が戻って来たと皆に触れ回っている。それを聞いて、方々から大きな歓声が上がった。
やはり皆不安だったんだろう。下手したら、生産職がまた出撃しなきゃいけないかと思ってたしね。
「ふぅ。と言う事は、俺たちはまたサポートに戻れそうだな」




