119話 心強い援軍
戦闘部隊との戦場から、大分村に近い位置に転移してきたグラシャラボラスの足止めをするために、俺たちサポート部隊は村を出撃していた。
グラシャラボラスの近くまで全員で移動し、その後は、10人5組で順番に戦いを挑み、死に戻る。そういう戦法である。
壁役をできる人間が居ればもっと違う戦い方もできたんだろうが……。ちょうど死に戻って来た戦闘部隊が8人いたんだが、運悪くタンク職が一人もいなかったのだ。盗賊と、魔術師、回復職だけだった。
なので積極的にダメージを与えるのではなく、ひたすら逃げて回復して、できるだけ戦闘時間を引き延ばすつもりである。
そういう作戦だったんだが――。
「まさかここまで手こずるとは……」
「いやー、参っちゃいますねー」
「俺たちほとんどが貧弱な生産職だしなー」
「あははー」
グラシャラボラスにたどり着く前に、普通の雑魚戦で苦戦をしていた。ふーかもここまで苦戦するとは思わなかったのか、俺の言葉に苦笑いしている。
グラシャラボラスの影響なのか、出現するモンスターが全て黒い靄を纏っており、パワーアップしてやがるのだ。
しかも俺たちはほとんどが生産職。俺は生産職の中でも特に弱い方だが、強い人でも戦闘部隊には劣る戦闘力しかなかった。しかも、タンクもアタッカーもいない状況では思ったように戦闘が出来ないらしい。
サポート班で最も強いのはアメリアとその従魔たちだが、彼らの戦闘力と、死に戻り戦闘部隊の面々の力が無かったら、倍以上時間が掛かっていたかもしれないな。
それでも生産職なだけあってポーションやお役立ちアイテムの数だけは潤沢なので、アイテムの力と人海戦術の力技でなんとかフィールドを突破し、グラシャラボラスの手前まではたどり着いていた。
まだ多少の距離はあるが。
「これ以上は厳しいかもね」
「仕方ない、グラシャラボラスが近づいてくるのを待つしかないか」
これ以上進むと森の深層部になってしまい、出現するモンスターが一気に強くなってしまうらしい。なので、消耗を避けて、この場所でグラシャラボラスを待ち構える作戦だ。
奴が村に近づいてきてくれていて良かったかもしれん。転移位置から動いてなかったら、俺たちじゃたどり着くまでに死に戻りが出ていた可能性があるからな。
「さて、戦闘なわけだが、第1班、準備お願いします」
「よっしゃ! いくぜ!」
「おう!」
ふーかの言葉に、第1班の面々が気合を入れる。一応、弱い人間から順番に戦う様な班分けになっていた。だったら俺も1班で良いと思うんだけどね。何故かアメリアと共に4班にされてしまった。
主に、皆のモチベーションのためである。
「だって、オルトちゃんが目の前で倒されちゃったら、私戦えない!」
「サクラたんがあんな化け物と戦うなんて……。断固阻止! 俺たち第3班で食い止め続けるんだ!」
「おう!」
「クママたんは私たちが守るのよ!」
「リックちゃんモフりたい」
という訳だ。
なので俺たち後続班は、すぐにグラシャラボラスに戦闘を挑める程度の位置で皆の戦いを見守ることになっていた。
「よし、もう少しでグラシャラボラスが来るわよ!」
「で、でっかー!」
「あれと戦うのかよ」
さすがにあの巨体が近づいてきているのを見たら、皆腰が引けている。まあ、普段から激しい戦闘をしてないし、仕方ないが。
「腹をくくれ!」
「ちくしょー!」
「第1班ファイトー!」
「あの道を越えたら、突撃するからな!」
「おう!」
そうして、第1班の10名がグラシャラボラスに突撃しようとした、その時だった。
「ガオオオオオ!」
大きな咆哮が聞こえて来た。一瞬、グラシャラボラスの咆哮かと思ったら、違う。もっと遠くから聞こえて来た様だ。
「なんだ?」
「新手か?」
俺たちが騒めいていると、ふーかが森の向こうを指差した。
「あれを見て!」
「げえ! まじかよ! 新手か? とか言った奴誰だ! マジになったじゃないか!」
「一度は言ってみたい台詞だったんだよ!」
「言い争ってる場合か!」
こちらに向かってきているのは、巨大な獣だと思われた。木々が邪魔していまいち見えづらいが、四足歩行で走ってくることは確認できた。あれとも戦わなきゃいけないとなったら、俺たちなんて瞬殺だろう。
何せ、大きさがガーディアン・ベアと同じくらいある。
「いや、ていうかあれって、ガーディアン・ベアじゃないか?」
「え? そうなの?」
「そう言えばそうかも!」
「そうか、俺たちしか見たことないのか……」
生産職でガーディアン・ベアと接触したのは、俺とアメリアしかいないらしい。だが、あれは間違いなくそうだ。他の生産職たちは迫りくる巨体を見て不安そうに囁き合っている。
「でも、なんでこっちにくるんだろう?」
「また狂暴化してるとかないよね?」
「え? まじ?」
ここから見た感じ黒い靄も見えないし、狂暴化している様にも見えないが……。
「とりあえず、突撃しないで様子を見よう」
「そ、そうですね」
俺の提案に、ふーかが頷く。俺たちはグラシャラボラスの向こうからこちらに向かって走って来るガーディアン・ベアを、固唾を飲んで見守った。一体何が起こるのか。
2体同時に相手にするという最悪のパターンも考えていたんだが、そこまで鬼畜仕様ではなかったらしい。
「ガオオオオー!」
「グラアアアア!」
「おお! やった!」
「お熊様がやりおったー!」
「いけ! そこだ!」
なんと、ガーディアン・ベアがそのままグラシャラボラスに襲い掛かったのだ。右足に抱き付くと、太腿の辺りに噛み付く。
大きさで言えば、ガーディアン・ベアでさえグラシャラボラスの3分の1程度しかないが、それでも心強い援軍である。
「よし! ここは一気に攻撃を加えましょう! 私達に少しでも注意が向けば、クマがより長くグラシャラを押さえていられると思うし!」
ふーかの提案が満場一致で了承され、俺たちは作戦を変更して皆でグラシャラボラスに突撃した。
魔法で攻撃する班、魔術やポーションで皆とガーディアン・ベアを援護する班に分かれる。ガーディアン・ベアに近づくのはちょっと勇気が必要だったが、やはりこちらに攻撃してこない。これは、協力してくれると考えていいだろう。
「よし、皆もあのデカブツを攻撃だ! オルトはガーディアン・ベアの援護な」
「ムッムー!」




