116話 出撃
現在時刻は7日目の6時。戦闘部隊がグラシャラボラスに向かって出発する時間だ。
料理は全て配ってある。グラシャラボラスとの戦闘直前にインベントリから出して食べる作戦だった。
サーバーの300名中、250人程が戦闘部隊、俺を含めた残りがサポート部隊である。
最初この部隊分けで、色々と揉めたらしい。コクテンやジークフリードに協力している者だけではなく、自分たちのパーティだけでイベントを進めて来た者もいるからだ。こっちに協力しろという話は、彼らにとっては軍門に下れ、下に付けと言われている様に感じたんだろう。最初は協力はしないと言って来た。
だが彼らだって、自分たちだけでレイドボスに挑んでも、絶対に勝てないと分かっている。結局無駄死にになるだろう。だったら不本意でもこちらに協力して、少しでもポイントを稼いだ方が得だと考えたらしい。結局、最後には協力してやってもいいと言って来た。
現場では色々と混乱もありそうだよな。多分、抜け駆けを狙っているだろうし。
ただ、俺たちにはあまり関係ないかな? 彼らは戦闘職のプレイヤーばかりだったので、俺たちサポート班には振り分けられていないのだ。まあ、生産職は1人じゃ何もできないから、最初から大人しくコクテンたちに協力しているしね。
そんな俺たちサポート部隊の仕事は、死に戻って来た戦闘部隊の人間の回復等が主だ。鍛冶班が破損した武具を直し、薬師班が使ってしまったポーションを補充する。俺たち料理班は、死んで効果が切れてしまった料理をまた渡す役目だった。
不足したらまた作らなきゃいけないので、遊んでもいられない。あと、グラシャラボラスの姿を見た村の人との折衝と言うか、村人への説明などもしなくてはならない。これは何故か俺の役目だ。いや、分かってるよ? サーバー貢献度1位だし、村人と一番仲いいのが俺だ。俺が適任なんだろう。
戦闘部隊が出発するのを見送っていると、マルカを始めとしてうちの子に声をかけて行くプレイヤーが結構いた。
「クママちゃん! 行ってくるね!」
「クマー!」
「オルトちゃん! 私、頑張るから!」
「ムッムー」
「リックたん、応援しててね!」
「キュ!」
「サ、サクラたんの応援があれば、百年闘える!」
「――♪」
別に、誰にも声かけられなくったって、寂しくなんかないんだからね!
「ムムー」
「クックマー」
「そ、そんな、慰める感じで膝をポンポン叩くなよ……」
そんなことをやっていたら、コクテンとジークフリードが近寄って来た。
「白銀さん、行ってきますね」
「ユートくん、サポートは任せた!」
「うおー! 俺に声をかけてくれるのはお前らだけだ!」
「ど、どうしたんですか?」
「大丈夫かい?」
おっと、思わず大きな声を出してしまった。
「すまん、何でもないんだ。いよいよボス戦だな」
「ああ、任せてくれ」
「全力を尽くします」
「頑張れよー」
「ムッムー!」
「キキュー!」
「クーマー!」
「――!」
俺が皆に手を振ると、うちの子たちがコクテンたちに向かってお得意の敬礼をした。いつの間にかリック、オルト、クママ、サクラと、綺麗に背の順に並んでいる。見せ方を分かってるね君たち。
すると、各所から黄色い悲鳴が上がる。俺が思っていた以上にうちの子たちの敬礼姿は威力があったらしいな。
かなりの人数がその場に立ち止まり、血走った眼でこっちを見たり、逆走してきてうちの子たちを凝視している。
その後、沸き立つ可愛い物好きたちはコクテンらに宥められ、何とか旅立って行ったのだった。
というか、予想以上の騒ぎになってしまった。せっかくの隊列を崩してごめんよコクテン。
イベント7日目、7時頃。
「ガオオオオオオオオオオォォォオォォッ!」
「鳴き声デカッ!」
「ムムー」
遂にグラシャラボラスとの戦端が開かれたようだ。凄まじい咆哮の直後、グラシャラボラスが暴れ出したのが見える。
しかし、あんな巨人とどうやって戦うんだろう? 20メートル以上はあるんだぞ?
見ていたら、周囲から一斉に魔術が飛ぶのが見えた。
遠距離から魔術で攻撃し、足元を戦士たちが攻める。あとは弱点を発見して、そこを突く。それくらいしかやりようがないだろう。戦いながらパターンを分析して、被害を減らすことも忘れてはならない。
さらに想定される事態としては、グラシャラボラスが村、もしくは神聖樹に到達してしまうパターンだ。もしグラシャラボラスがそれらに到達すれば大きな被害が出るだろう。そうなればポイントの喪失は免れないと思われた。
実際、結界が解かれた直後からグラシャラボラスがゆっくりと動き始めていた。多分、村に向かっているんだろう。すでに初期の位置から、村までの距離は半分ほどになっているのだ。
「さて、戦闘が始まったし、いつ戦闘部隊が死に戻って来るか分からないぞ」
「ムー」
「みんなも手伝ってくれよ?」
「クマー!」
「キュー!」
「――♪」
まあ、死に戻って来たプレイヤーたちの癒しくらいにはなるだろう。




