114話 グラシャラボラス対策会議
「では、第一回グラシャラボラス対策会議を始めます」
無理矢理議長役を押し付けられたコクテンの言葉に、パチパチと拍手が起きた。
俺たちが今居るのは、冒険者ギルドの会議室だった。頼んでみたら、快く場所を提供してくれたのだ。
マルカたち曰く、日々依頼をこなして、好感度が上がったからではないかという事だった。言われてみると、イベント開始時に比べて受付の女性の態度も柔らかい気がする。
会議室には10人程の人間が集まっていた。
実質的な最高戦力であり、他のプレイヤーからも一目置かれているコクテン。サーバー貢献度が3位で、サーバー順位優先組のまとめ役であるジークフリード。ボス戦などで活躍し、このイベント中に名を上げたマルカ。サーバー貢献度が5位な上、守護獣装備を作り上げるトップ鍛冶師のスケガワ。
他にも戦闘、生産で活躍している上位パーティのリーダーや、プレイヤーが顔を揃えていた。そして、そこに何故か交ざっている俺だ。
しかも、会議の進行役であるコクテンの隣という上座的な位置である。逆側にはジークフリードが座っていた。何で誰も文句を言わないんだ! お前なんか出て行けって言うなら、今しかないですよ!
だが、誰も俺を追い出してはくれなかった。それどころか、最初に自己紹介をしたら何故か上座に座らされたのだ。最初は一番端でひっそりしているつもりだったのにな~。
「まずは、このスクショをご覧ください」
コクテンはこういう場に慣れているのか、スラスラと会議を進行していくな。
グラシャラボラスの前に置かれている砂時計の説明と、落ちる砂の量から導き出された砂が落ち切る日時の考察が語られる。
その後、最初から全力で挑むかどうかの相談だ。通常の様に何度か戦闘を挑んでパターンを解析するか、一か八か挑むか。明日は6日目なので、一か八か挑んだ方が良いのではないかという意見も出たが、明日はパターン解析、明後日に決戦という結論に落ち着いた。
ついで、戦闘のための準備の話だ。スケガワの守護獣装備は、戦闘系パーティに配られることとなった。話し合いは驚くほどに短かったな。インゴットを手に入れて来たコクテンたちとマルカたちが、称号があるから自分たちには必要ないと辞退したことで、他のプレイヤーもわがままを言いづらかったんだろう。
あと、一応俺も武器を辞退したことになっていた。いや、辞退したけど、俺の場合は持つ意味が無いし、他のプレイヤーからの嫉妬が怖かったから、スケガワに押し付けただけなんだけどな。そんな感心した様な目で見られたらむず痒い!
次はグラシャラボラスの攻撃方法の考察である。勿論、グラシャラボラス自身と戦闘したことはないが、その姿は俺たちが戦った中ボスの変身前の姿と非常に似通っている。コクテンたちが戦った2体目の中ボスもそっくりだったらしい。
そのことから攻撃を予想できないかと考えたのだ。その結果、HP半減後の変身と、黒い霧を放つ範囲攻撃が共通しているだけだった。
中ボスの変身後は犬と猫だったので、グラシャラボラスもかろうじて動物っぽい姿に変わるだろうとは思われたが、その程度だ。これは出来るだけ回復の準備をして行って、その場で対応するしかないだろうな。
最後に、支援についてだ。何故か俺がめっちゃ見られている。その原因は、以前俺が振る舞った豚汁であった。戦闘に参加する者や、死に戻った者に豚汁を含めたバフの付く料理を食べさせることが出来ないかと言うのだ。
「バフの付く料理は幾つかあるから不可能じゃないけど……。いや、全員て、300人近いんだろ? 材料が全然足りないぞ?」
「材料があれば、可能ですか?」
「後は人手だな。さすがに俺1人じゃMPも足りないし」
俺がそう言うと、皆が料理スキル持ちがいたかどうかを話し合う。どうも、何人かはいるらしい。多分、俺なんかよりスキルレベルは高いんじゃなかろうか? だったら、その人たちに丸投げして、俺はサポートに回れるかも? 別に作るのが嫌じゃないけど、メインで皆に指示を出すとか、さすがに勘弁してほしいし。
まあ、素直に言ったら怒られそうなので、オブラートに何重にも包んで、自分よりも料理が得意な人が居たら、その人に料理作りの責任者をやってもらいたいと伝えた。
「……それでいいんですか?」
「いや、むしろお願いしたいんだが」
「でも、それだと他のプレイヤーに白銀さんの料理のレシピを教えることになりますけど?」
ああ、そういう意味の「いいんですか?」だったのか。それは別に構わない。と言うか、隠す程の物でもない。
今はまだ材料や調味料が珍しいせいで広まっていないかもしれないが、豚汁やピザはすぐ皆に広まるだろう。だって、作り方はリアルの物を参考にしているのだ。現実で料理をしている人間なら、材料さえあれば即日辿りつく。
「別にかまわないぞ」
「おお、さすが白銀さんだ」
「え?」
なんか凄い感心された。レシピを教えるのって、そんなに驚かれるような事か? まあ、評価が上がったんなら、別にいいのか?
「と言う事は、材料さえ集まれば、色々作れるってことですね?」
「まあ、そうだね」
明日、明後日は料理漬けになりそうだな……。まあイベントも最終盤だし、頑張るしかないか。
「後はポーションの材料や、鍛冶の素材も集めないといけないだろ?」
「忙しくなるぞー!」
俺は集めて欲しい材料を一通り書き出し、コクテンにわたす。実はこの数日で豚汁やピザ以外にも色々な料理に挑戦したので、それらの材料も書いておいた。
最優先は豚汁らしいが、それ以外も用意できればそれだけ戦いが有利になるだろう。早速、有志を募って食材を集め始めるとのことだった。
「食材集めの人員を確保する時、白銀さんも一緒に皆に声をかけて欲しいんですが……」
「俺も?」
「まあ、正確には白銀さんの従魔たちに手伝ってほしいんです」
「ああ、なーる」
それくらいは構わないさ。と言うか、食材集めに協力してくれるんだったら、またスクショを撮らせても良い。
いや、それでどれくらいの人が喜んでくれるか分からんけど、俺にできるのはそのくらいだしね。
そうして、広場で声をかけてみたんだが……。
「ぜひ参加させてもらいます!」
「よっしゃー! 今度こそ!」
「やった!」
想像以上の反響で、ちょっと引いてるんだけど。前回は村に居らず、ガーディアン・ベア戦に参加できなかった者や、ガーディアン・ベアと戦う順番が来る前に中ボスが倒されてしまい、スクショの権利を得られなかった者たちが多数いたようだ。
なのに、オルト達のスクショを撮らせてあげたプレイヤーたちが方々で自慢しまくったらしく、かなり悔しい思いをしていたらしい。
「ふおおぉぉぉぉぉ!」
「食材狩りや~!」
「買占めじゃ~!」
これは期待できそうなんだけど、テンション高すぎない?
「こりゃあ、撮影会は前回以上に疲れそうだな」
「ムー……」
「そ、そんな目で見るなって」
「クマー……」
「どこでそんなジト目を覚えてくるんだよ。だって、仕方ないだろ? 皆にやる気を出してもらおうと思ったんだから!」
「キュー……」
「いやー、みんな人気者で羨ましいな~」
「――……」
「サ、サクラまで! 悪かったって!」
モンス達の機嫌が戻るのに、1時間以上かかりましたとさ。これは撮影会の後に、機嫌を取る方法を考えておかないといけないかもな……。




