109話 2本目の神聖樹
2本目の神聖樹の場所をカイエンお爺さんたちから聞き出した翌日。出発から3時間後。
俺たちは神聖樹に向かいながら、激闘を繰り広げていた。まあ、俺たちはコクテンの後ろに隠れて援護するだけだが。それでも、時おりコクテンたちを抜けて襲って来るモンスターや、遠距離攻撃を放つモンスターがいた。
今も、コクテンたちの攻撃をかい潜り、1体のオークが俺に襲いかかって来ている。
オークの外見はかなり悍ましかった。目つきの悪いブタの顔に、2メートル近い上背と、だらしない贅肉ダルダルの体型。薄汚れたピンク色の肌はリアルだ。半裸のオークが迫って来る姿は、セクハラ扱いになりかねないのではなかろうか? 走る度に揺れる汗だくの贅肉が気色悪い。
テイム対象モンスターではないらしく、スキルに指定できない。出来たとしても、願い下げだが。
「ぎゃー! 来た来た!」
「ムムー……ムムー!」
「あ、オルトー!」
格好良く俺と敵の間に立ち塞がったはいい物の、敵の攻撃を受け止め切れずにポーンと吹き飛ばされるオルト。それを見ながら、俺は情けない悲鳴を上げてしまう。
「フゴゴ」
「く、くそー! アクア・ボール!」
「フゴオオオ!」
「全然きかねー!」
オルトを弾き飛ばしたオークが俺に向かって突進してくる。大慌てで水魔術を放つのだが、1割くらいしかHPを削れていない。しかも、のけぞりもノックバックもしていないし。俺の水魔術のレベルじゃ、オークにほとんど効果がないってことなんだろう。
「フゴオ!」
「ぎゃー!」
オークの棍棒で思い切り吹き飛ばされた。やべー、HPが1発で9割持ってかれた! しかも、硬直効果が発生して、身動きがとれん!
「フゴゴ」
「ぐ……」
もがく俺を見て笑いやがったな! だが、逃げられない。オルト以外のうちの子たちも、皆距離が離れてしまっている。
「白銀さん! アクア・ボール!」
「フッゴゴ!」
「おおー」
た、助かった。コクテンのパーティの魔術師が放ったアクア・ボールがオークを吹き飛ばしたのだ。しかも俺のアクア・ボールとは威力が違っている。何せ、オークのHPを6割以上削ったからね。
まあ、知力もスキルレベルも段違いだからな~。威力の桁が変わるんだろう。
「大丈夫ですか?」
「た、助かったよ」
「これ、ポーションです」
「いや、自前が有るから大丈夫」
「そうですか? ここで白銀さんに死なれちゃうと意味なくなっちゃうんで、遠慮しないでくださいね?」
「ありがとう」
俺はうちの子たちをモンスター・ヒールで回復しながら、自分は傷薬を飲んでおく。
「大丈夫か?」
「ム~」
「クマ~」
「――……」
オルトとクママ、サクラは壁役として俺を守ってくれているせいで、ボロボロだ。リックだけは陽動役なのでダメージはないが、格上のモンスターに追い回されているせいで大分精神的に疲れているらしい。
いや、モンスターに精神的疲れとかあるのかは分からないが、見た感じ動きも鈍っているし、そうじゃないかと思うのだ。
「リックもお疲れ、もう少し頑張ってくれ」
「キュキュー!」
頭を撫でてやると、リックはその小さい手を握り、力こぶを作って見せる。まだ頑張れるってことだろう。
それからさらに30分後。
「つ、着いたー!」
俺たちは道中の激しい戦闘でボロボロになりながらも、なんとか神聖樹へと続く洞窟へと辿りついていた。
「お疲れ様です」
「そっちこそ、お疲れ。足手まといの護衛をさせて悪かったな」
「いえいえ、元々はこちらから頼んだことですから」
「ほとんど戦闘に参加してないのにレベルも上がっちゃったし、気にしなくていいぞ。俺には得しかなかったからな」
モンス達は2ずつ、俺に至っては3もレベルが上がったからね。
グラシャラボラスの使徒を倒したおかげで、ここから先はモンスターが一切出現しないらしい。
とは言え、一応コクテンの仲間が前後を挟んで警戒してくれている。俺たちは散歩気分で洞窟を進むだけだ。後は、時おりオルトが採掘をするくらいかな。
洞窟を抜けた先は、1本目の神聖樹の時と同じで森となっていた。そして森の中央に花畑があり、そこの中に巨大な樹木が立っている。
その根元には、巨大な獣が横たわっていた。それは巨大な猪だ。この神聖樹の守護獣、ガーディアン・ボアだった。
ガーディアン・ボアはコクテンが近づくと、ゆっくりと立ち上がってその場を譲る。俺たちが樹に用事があると分かっているんだろうか? その眼は非常に穏やかで、この巨体にも関わらず怖さは全くない。雰囲気はガーディアン・ベアに似ているな。
「枯れそうな感じとかも、1本目の神聖樹と同じか」
葉に元気がなく、幹の一部がひび割れているし、確実に危険な状態だろう。コクテンたちが悪魔を倒したはずなのに、枯れたままという事は、やはり樹を復活させるには他の要因が必要ってことか。
「とりあえず1本目の時と同じ様にやってみよう。皆、頼むぞ」
「ムム!」
オルトは俺が渡した高級肥料を木の根元に撒いていく。もしかしたら高級肥料じゃなくても平気なのかもしれないが、1本目と同じにしといた方が良いだろうしな~。勿体ないが、ここは仕方ない。
「――♪」
サクラは樹魔術をかけているようだな。成長を促進させる術と、植物を回復させる術、両方使っている様だ。
「キュキュ!」
「クックマ!」
どれだけ効果があるかは分からないが、リックの剪定と、クママの栽培も一応使っておく。効果が無くとも、悪影響はないだろう。
そうしてしばらくうちの子たちに任せていると、守護獣がおもむろに立ち上がった。そして、その鼻先を神聖樹に押し付けた。
もしかしてこれは――。
俺がガーディアン・ベアが神聖樹を復活させた時の事を思い出していると、あの時と全く同じ光景が目に飛び込んで来た。
巨樹が青白く輝き、光を放つ。そして、蛍の様な光の粒が俺たちを包みこんだ。2回目なのに、思わず見とれてしまった。それくらい綺麗なのだ。
樹を見つめていると、お馴染みのアナウンスが聞こえてくる。
『ユートさんは既に、称号『神聖樹の加護(イベント限定)』を所持しています。ユートさんが樹魔術スキルを習得しました』
あれ? 称号が貰えなかったな。いや、そこは良いんだが、樹魔術を習得したぞ。
樹魔術はエルフやハーフリングであれば習得できるらしいが、俺はまだ条件を満たしておらず、取得可能スキルに記載されていなかった。それが取得できたのは本当に嬉しいのだ!
「おおお! 称号だ!」
「やった!」
どうやらチームを組んでいるコクテンたちも、無事に称号を取得できたらしい。良かった。ここまでコクテンたちに負んぶに抱っこ状態だったし、少しは貢献できたようだ。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
次回は4日後の更新とさせてください。
突き指のせいで、全然執筆が進まないんです……。




