103話 子供たち
オリーブトレントを、無事? かどうかはともかく、一応テイムした俺たちは、そのまま森の中を獣道に沿って進んでいった。
イベント中は戦闘をする回数が増えたおかげか、道中で水魔術のレベルが15に達し、新たにアクアクリエイトという術を覚えている。
これは込めた魔力量に比例する量の水を生み出す術だ。飲料水にもできるが、農業や生産にも使えそうだった。戦闘には使えないので少々ショボく思えるが、俺的には待望の術である。
アクアボールの水は時間が経つと消えてしまうので、水撒きなどに使えなかった。農業利用も視野に入れて水魔術をとった俺からしてみたら、かなりじれったかったのだ。
「よし、これは良いな!」
その後、数度の戦闘を経て、森が開けた場所に出る。俺たちは思わず感嘆の声を漏らしていた。
「へぇぇ、綺麗な場所だな」
「ムムー」
「キュー」
「クマー」
「――♪」
そこは一面の花畑となっており、中央に一本の立派な樹が立っている。水臨大樹を見慣れている俺たちからしても、中々の巨木に思えた。
リアルではこれほど立派な樹にはお目にかかれないだろう。俺の地元にある、観光名所にもなっている大欅でさえ、これの半分くらいの大きさだったはずだ。これが神聖樹ってやつだろうか?
ただ、巨木には見るからに異変が起きていた。
「この木、枯れ始めてるのかしら?」
「表面がヒビ割れてるな」
「しかも、根の周辺もパサパサだ」
マルカたちが言う通り、巨木の表面は乾燥し、所々ヒビ割れしてしまっている。さらに、枝葉にも所々剥げた部分があった。
周辺の木々や草花が真夏の盛りの様に青々と茂っているのに対し、この巨木だけが初冬の様な寒々しさを纏っている。
試しに鑑定して見ると、『神聖樹・弱体化』と表示されていた。
「弱体化ね……。このせいで守護獣がおかしくなったのか?」
樹を観察しながら木の周りを歩いていたら、裏側にそれなりの大きさの洞を発見した。子供だったら中に入れるかな? そんなことを考えて中をのぞき込んだら、なんと本当に子供がいるではないか。
「子供? もしかしてリッケか?」
「え? に、兄ちゃん!」
「リッケ、良かった! 無事だったか!」
やはり、リッケは洞窟に来ていたらしい。中をよく見ると、リッケと共に行方不明になっていたもう2人の子供たちも一緒だった。
「怪我はないか?」
「うん。兄ちゃんたちはどうやってここまで来たんだ?」
「どうやってって、洞窟を通ってだけど?」
「ええ? 守護獣様に襲われなかったのか?」
「お前らは襲われたのか?」
「うん」
「最初はどこかに出かけてたみたいで守護獣様はいなかったの」
「それで、神聖樹の前まで来たら、戻ってきた守護獣様がすっごく怖い顔で走って来たから」
「慌てて木の穴に逃げ込んだんだ」
そういう事か。ここまでは運良く。いや、悪くかな? ガーディアン・ベアの外出に合わせて辿り着けたけど、帰ってきた熊と鉢合わせしてしまったんだろう。
理由は分からないが、ガーディアン・ベアは狂暴化していても神聖樹を攻撃するようなことはしないようなので、何とか生き延びることが出来たんだとか。
「それよりも、何でこんな場所に来たんだ? 冒険者ギルドとかにも内緒で」
「それは――」
自分たちがやったことが、周囲に心配をかける悪い事だとは分かっているんだろう。リッケが俯きながらポツポツと話し出す。
「守護獣様がおかしくなったって聞いて」
「本当かどうか確かめにきたの」
「守護獣様は、とても優しくて、僕たちといつも遊んでくれるんです」
「でも、人を襲う様になっちゃったら、退治されちゃうかもしれないと思って」
それでガーディアン・ベアの様子を確かめに来たらしい。普段は心優しい守護獣が人を襲うなんて信じられなかったし、まさか自分たちまで襲われるとは思ってもみなかったようだ。
危機感が無さすぎるとは思うが、普段のガーディアン・ベアがそれほど穏やかで、愛されているってことなんだろう。
「白銀さん、どうしたのー?」
戻ってこない俺を心配したのか、マルカがやって来た。
「ああ、子供たちを見つけたぞ」
「あら? 可愛い! お名前は?」
マルカが満面の笑みで子供たちに尋ねる。しっかりと腰をかがめて目線を合わせるあたり、慣れている様だ。マルカの態度に安心したのか、子供たちは素直に名前を名乗る。
「おいらはリッケ」
「わたしはルッカ」
「僕はラックです」
運営の手抜きと言うべきか、いい具合に揃ってると言うべきか。
「ガーディアン・ベアがおかしくなった理由は分からないか?」
「おいらも詳しく分からないけど、やっぱり神聖樹が枯れかけてるせいだと思う。こんな酷い神聖樹の姿、おいら初めて見たよ」
「じゃあ、いつもはこんな姿じゃないってことだな?」
「うん! もっと葉っぱも多くて、もっと元気なんだ!」
「それに、この森にモンスターが出るのも変!」
「いつもは守護獣様のおかげで、洞窟と神聖樹の周りにはモンスターが居ないんです」
神聖樹の弱体化が引き金なのか? それとも、他の異変のせいで神聖樹が弱ってるのか?
「ねえ? ともかく、この神聖樹をどうにかした方が良いのよね? 何とかできないかしら?」
「まあそうだろうな……。でも原因が分からないと、どうしようもなくないか?」
「そうよね……」
木が枯れるイベントは、ファンタジーゲームじゃよくあるイベントだ。ただ、原因は多種多様で、予想もできない。
病気、呪い、毒、寄生虫や寄生植物。宿っている精霊に異変が起きていたり、水源や土壌に異常がある場合もある。
「リッケたちは神聖樹が弱体化してる原因を知らないか?」
「うーん、分からないな~」
「私も」
「僕もです」
となると、ちょっと樹を調べてみるしかないか。あと、効果があるか分からないけど、対症療法的なことも試してみようかね。
「オルト、サクラ、この木に肥料をやってくれ。あと、水もな」
「ム!」
「――♪」
ちょっと勿体ない気もするけど、俺は高級肥料をオルト達に渡しておいた。本当は自分の畑に使いたいけど、ここは奮発しておこう。
水はアクアクリエイトで作り出した水を桶に貯めた物だ。早速役立ってくれた。因みに、水の品質は井戸水と同じである。レベルが上がったら、浄化水なんかも生み出せる様になったりして? そうなったら凄まじく便利なんだけどな。まあ、今後はアクアクリエイトを利用しまくって、水魔術のレベルをバリバリ上げて行こう。
「俺たちは神聖樹の調査だな。リックもクママも頼んだぞ?」
「キュ!」
「クマ!」
リックは神聖樹の幹を走って登っていく。上の方は俺たちには無理なので、リックにお任せだ。クママは鼻をクンクンさせる様なしぐさをしながら、樹の周囲を回り始める。
「じゃあ、私たちのパーティはお花畑の方を調べるから」
「分かった。こっちは俺たちに任せてくれ」
ガーディアン・ベアが戻って来る前に、何か発見できると良いんだけどな。
現在、ゲーム中では1/15となっております。




