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100話 炊き出し

「そんな伝承があったとは」

「興味深いわね」

「中々重要そうな話です」


 俺はギルド前に戻ると、すでに集まっていたジークフリード、マルカ、コクテンに、先程カイエンお爺さんたちから教えてもらった村の伝承を聞かせていた。


 悪魔や神獣といった単語に、皆が心を躍らせているのが分かる。さすがはゲーマーたちだ。


「ということは、あの熊は倒しちゃいけないってことですね」

「まあ、倒すメドはまだ全く付いてないけどね。ジークフリードさんたちが死に戻った後は、作戦会議のために誰も戦いに行ってないし」


 一旦、ガーディアン・ベアの戦闘パターンをまとめる作業をしているらしい。攻撃パターンなどは結構判明してきたようだった。


「それよりも、その子供たちの救出をどうするかだ。リッケくんと言ったかな? 洞窟に居る可能性が高いのだろう?」

「確実ではないけどな」

「どちらにせよ、その怪しい洞窟は探索してみたいわね」


 そこで、コクテンたちが相談を始める。彼らも俺と同じで、洞窟の外でガーディアン・ベアと戦って引き付ける係と、洞窟を探索する係に分かれるしかないという結論に辿りついたようだ。


 俺としては、コクテンやマルカのような、強いパーティに洞窟に行ってもらうつもりだった。どんな敵が出るかも分からないしね。だが、コクテンたちは発見者の俺が行くべきだと言う。リッケと出会ったことがあるのは俺だけだし、イベントの進行には俺が居ないとダメかもしれないということだった。


「でも、俺たちだけじゃ洞窟で全滅するかもしれないぞ?」

「そこは、護衛にもう1パーティ付けるしかないだろうね」

「はいはい! それならぜひ私たちのパーティで!」


 マルカが勢い良く手を挙げた。コクテンとジークフリードに必死にアピールしている。


「白銀さんは私が守るから、安心してね!」


 いかにも、善意だけで申し出ていますと言った様子の顔でこっちを見つめるマルカ。むしろわざとらしく見えることに気づいていないのだろうか?


「その真意は?」

「真意も何も、私も白銀さんの役に立ちたいの! それだけよ?」


 頼もしい言葉だが、マルカの魂胆は分かっている。


「……洞窟に行っている間は、クママとずっと一緒」

「ぎく」

「洞窟内のルートや罠を記録するためのスクショにかこつけて、クママのスクショも撮れちゃうかも?」

「あは」

「……マルカ?」

「だって、だって~」

「下心丸見えなんだよ」

「でも、護衛もちゃんとするから!」


 マルカがそう言って縋りついてくる。ハラスメントブロックのおかげで接触はないが、鬱陶しいことに変わりはない。


「えーい、離れろって!」

「まあまあ。マルカくんたちなら実力もあるし、良いんじゃないかな?」


 ジークフリードが見かねて、間に入ってくる。いや、俺だってマルカがダメとは言ってないよ? ただ、突っ込まずにはいられなかっただけだ。


「コクテンもそれでいいのか?」

「構いませんよ。彼女たちなら任せられますしね。熊の足止めの方には私たちも参加します。あと何パーティかいれば、入れ替わりながら戦えるでしょう」

「僕も足止めに参加するよ。僕と僕の愛馬なら、囮になって引きつける役目に最適だからね」


 コクテンもジークフリードも、既に一度ガーディアン・ベアに挑んで死に戻っている。また死に戻れば、さらにイベントポイントを減らすことになるだろう。


「2人ともいいのか? 死に戻る危険性が高い役目だと思うが」


 まあ、弱いパーティじゃ足止めもできずに即全滅ってこともあり得るからな。洞窟を踏破する間、ガーディアン・ベアを引き付けていられるパーティはコクテンたちしかいないかもしれないが……。


「村人が困っているんだ。問題ないさ!」

「私たちはもう一度あの巨熊と戦ってみたいと話していたんです。前回は惨敗でしたが、次はもっと粘ってみせますよ」


 どうやらガーディアン・ベアとの戦いは悪いことばかりではないらしい。遥かに格上のモンスターなので、スキルの熟練度が多くもらえるそうだ。


「本人たちがやる気なら止めないが……」


 そこで俺は思い出した。


「これを持っていってくれよ」


 果物だ。逃走時には有効だったが、戦いで使えるかは分からないが。それでも、試す価値はあるだろう。ガーディアン・ベアから逃走するときに果物を使ってみた話をする。


 果物を受け取りながら、コクテンはなるほどとうなずいていた。ガーディアン・ベアはプレイヤーのレベル帯を上回るボスであることから、そういう救済措置的な物があるのではないかと予想していたらしい。


 コクテンは代金を払うと言ってきたが、それは断っておいた。そもそも、リッケを探しに行くのは俺が頼まれたことでもあるし、その手伝いをしてくれるわけだからね。


 むしろ、果物程度じゃ足りないと思うんだよな。そして、インベントリの中のアイテムを思い出す。


「あと、これは役に立たないか」

「豚汁ですか? 効果が凄いですね」

「僕も、これほどたくさんのバフが付いた料理は初めて見たよ」


 コクテンとジークフリードから見ても、豚汁の効果は高いらしい。普通のレシピにくらべれば材料も多いし、手間もかけているからな。


「とりあえず5人前あるんだが」

「それだと、全員分は行きわたらないか……」

「でも、ガーディアン・ベアと戦うなら、ぜひ欲しいですね。と言うかですね、効果とかおいておいてぜひ食べたいです」

「なんでだ?」

「独身の一人暮らしなもので……。お味噌汁なんか、牛丼屋さんのサービスでしか飲みませんから。ちゃんとしたお味噌汁に飢えているんですよ」


 そんな話をしていたら、いつの間にか複数の冒険者が遠巻きに囲んでこちらを見ていた。どうやら豚汁の匂いに誘われてきたらしい。


「あのー、それってどこで買えますか?」

「俺が作ったんで、売り物じゃないんですけど……。材料もないし」


 いや、材料はあるけど、売るほどの量はないのだ。自分の分も確保しておきたいし。


「あー、そうなんですかー」

「残念! おいしそうなのに」

「材料を持ってきたら、作ってもらえます? 勿論、お金は払いますし!」

「え? まあ、材料があれば」

「本当ですか?」


 一瞬、材料を教えたらレシピも教えるようなものかと思ったが、別に隠そうとも思ってないしな。そもそもリアルと同じ作り方をしただけだから、誰でも思いつくレシピだ。問題ないな。俺は野菜類、アタック・ボアの肉、味噌、小魚という材料をプレイヤーたちに教えてあげた。


 すると、皆が自分の持っている材料を取り出し始める。野菜や肉は比較的持っている者が多い。魚は、釣りスキル持ちのプレイヤーが提供してくれた。始まりの町の湖で普通に釣れるらしい。味噌は奇跡的に持っているプレイヤーがいた。第3エリアで、醸造家のNPCと仲良くなると買えるんだとか。これは良い情報を聞いたぞ。


 後はもう炊き出しの始まりである。料理人プレイヤーの取り出した調理台と器具を使い、補助してもらいながら豚汁を作り上げていく。


 大量に作ったおかげか、地味に料理のスキルレベルが上がったな。あと、料理レベルが高いプレイヤーに手伝ってもらったおかげか、俺だけで作ったものより品質が高く、効果もより高くなっていた。


名称:豚汁

レア度:2 品質:★8

効果:満腹度を25%回復させる。2時間、HPの自動回復速度上昇。2時間、体力、精神力が3上昇。


 材料を提供してくれた人たちとも話し合い、とりあえずお金は気にしないことにした。計算が色々と面倒だし、互いに得をしたと思ってるからだ。普通に売ったら結構高く売れそうだけどね。


 また、これからガーディアン・ベアに挑むプレイヤーと、材料を提供してくれたプレイヤーのパーティメンバーにも豚汁を振る舞っておいた。


 ただ、それで豚汁は終了である。幾ら大鍋で作ったとはいえ、40人前が限度だったのだ。羨ましそうに見ている他のプレイヤーたちには申し訳ないけどね。


 プレイヤーたちが食事をする風景を物欲しげに見つめていたオルトたちにも、一緒に食事を与えておいた。


 自分たちからプレイヤーの輪に混じって、一緒に食事を始めるオルトたち。皆、自分の食事を自慢するようにプレイヤーに見せて、パクリと齧りつく。そんな姿にプレイヤーたちもホッコリしているようだ。皆で広場で豚汁を食べる光景は、本当に炊き出しみたいだな。


 こんな風にワイワイと騒がしい食事が嬉しいのだろう。うちの子たちはご機嫌だ。食事を必要としないサクラまで笑顔である。まあ、楽しいのなら良かった。


「ムー!」

「キュー!」

「クマー!」

「――♪」


 この後、洞窟探索でまた苦労してもらうことになるからね。


いつの間にか100話達成です。

こちらの作品は息抜きで投稿を始めたので、まさか年内で100話行くとは思っていませんでした。

それこれも、応援して下さる読者様方のおかげです。

これからも当作品をよろしくおねがいします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 息抜きでこのプロット、面白さは圧巻です!! [一言] これからも応援しております!転剣もコミカライズおめでとうございます!
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