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10話 情報屋

「ねえ。そこのお兄さん、ちょっと見て行かない?」


 振り返った先に居たのは、獣人の女性だった。頭上には青マーカーが出ている。どうやらプレイヤーであるようだった。


「お姉さん、プレイヤーさんですか?」

「そうよ」

「へえ、NPCの店だけかと思ってた」

「まあ、プレイヤーのお店は、まだ珍しいかも。露店なら結構安く手に入るんだけどね。一部職業なら初期ボーナスで手に入るし」

「そうなんですか。じゃあ、せっかくだから見せてもらおうかな」


 そして気がついた。


 NPCショップとは値段が違うな。例えば傷薬だが、NPCの店よりも10G安い。だが、毒薬は150Gも高い。


「値段は、お姉さんが設定してるんですか?」

「お、気づいた? そうなのよ。そこがプレイヤーズショップの利点よね」

「毒薬が高いのは?」

「ああ、これはプレイヤーズメイドの品だから。効果が少し高いのよ」


 なるほど、確かに品質が★3だ。


「まあ、NPCショップとどちらがいいかは、その時々ね。中には暴利をむさぼる悪質なプレイヤーだっているし」


 そう言ってくれるこのお姉さんは、信用できそうな気がする。少なくともNPC露店と大幅に値段のズレはないし。


「防具は置いてあります?」

「あー、防具は今はないねぇ。道具メインの店なのよ。武具なら、西の小広場にあるルインの武具店がおすすめだよ」


 確かに薬とか多いな。ルインの武具店か。覚えたぞ。


「じゃあ、これって売れます?」

「お、君が作ったの?」

「はい」

「ふーん。★3の下級ポーションか。いいね。これなら200Gで買うよ」

「ええ? そんな高く? 売ります!」


 ★1の下級ポーションは売値が200Gだぞ? 買値が200ってことは売値はどうなるんだ?


「まあ、草類はNPCショップと変わらないよ? でも下級ポーションとかはうちの方が大分高く買ってるかな。次の町なんかだと値段が上がってきててね、そっちに持ってくと飛ぶように売れるんだ。特に★3以上はまだ貴重だから」

「ええ? でも、安いポーション2つ買った方が安上がりなんじゃ?」

「クーリングタイムがあるからね。ギリギリの戦闘中に使うには、少しでも効果が高いポーションじゃないとダメなんだよ」


 なるほど。ポーションはクーリングタイムが10分だからな。戦闘中に何度も使えるモノじゃない。だったら、ちょっとでも回復量が多い方が良いってことか。


「それにしても、他の町の相場も知ってるんですか?」

「そうだよ。うちらの専門分野だしね?」

「専門分野? そういう職業があるんですか?」

「いや、私は商人だよ。まあ趣味っていうかね。一応うちのクランは情報屋をやってるのよ」


 クランというのは、プレイヤー同士で作るグループだ。仲の良い者や、同じ目的を持っている者たちで助け合うのが目的である。


「うちらのクラン『早耳猫』は、自称情報屋のクランなんだ」

「もうこの段階でクランを組んでるんですか? もしかしてβテスター?」

「どうだろうかね? ここは情報屋だよ? 君の情報も教えてくれたら、教えてあげる」


 おお、情報屋とは! さすがLJO。悪戯っぽく笑うお姉さんを見ていたら、ちょっと楽しくなってきたぞ。


「俺はユート。職業はテイマー。リアルは会社員です。初期ボーナスは186」

「ぷっ。ボーナスポイントまで教えてくれる人は珍しいよ!」


 おっと、調子に乗りすぎたみたいだ。


「でも、俺の情報なんかでいいんですか?」

「うん。いいよ。面白そうだし」

「面白そう? なんで?」

「だって、あなたテイマーでしょ? しかも、初期ボーナス186ってことは、βテスターじゃない。なのに、もう★3の下級ポーションを作れてる。普通じゃないね? 何故かモンスも連れてないし」


 あれだけの情報でそこまで見抜かれるとは。情報屋ってのは凄いな。その情報も信頼できるってことだ。


「じゃあ、私のことを教えてあげる。私の名前はアリッサ。ここは『アリッサの万屋』だよ。そして、うちら早耳猫は確かにβテスターだけで構成されたクランだね。しかも元攻略組ばかり」

「凄いな。じゃあ、なんで始まりの町なんかで露店やってるんです?」


 普通のβテスターなら、初日に次の町に移動して行ってしまった。


「まあ、色々あるのよ」

「色々って――、ああ、そうか……」


 等価交換という事なのだろう。


「ここだけの話にしてほしいんですが」

「本人の許可を取らずに、情報を売ったりしないわ」

「昨日、称号を獲得しましたよ?」

「いいわねあなた。話が早くて。なるほど、白銀の先駆者ね」


 俺の外見をみて、直ぐに思い至ったようだ。


「そうです」


 ちょっと恥ずかしいな。不名誉称号だし。ただアリッサさんの笑みは、嫌な笑いじゃない。面白がっているようではあるけど、そこに悪意みたいなものは感じられなかった。


「ふふ。じゃあ、今度はこっちの番ね。うちらは攻略最前線にいたわ。趣味も嗜好もバラバラだったけど、全員共通してたのが好奇心。このLJOの世界を隅から隅まで見てみたい。知らない場所に行って、知らないことを知りたい。それがみんなの原動力であり、私たち全員の目的だった」

「まあ、分からなくもないです」

「そうでしょ? でも、うちらは思い知った。だってね、2週間必死に頑張って、攻略できたのはこの世界の100分の1にも満たなかったのよ? 単に攻略組として前線に立つだけじゃ、この世界を知り尽くすことはできない。それがクランの結論だった」

「だから、情報屋?」

「ええ。もともと、情報屋はやってたけど、正式サービスからは、もっと本格的かつ大々的にやることにしたわけ」

「それで、儲けが出るんですか? 掲示板とかもあるし」


 情報をわざわざ買い求める人はそう多くない気がする。知りたいことがあれば、とりあえず掲示板見る人が多いだろうし。


「まあ、儲けは考えてないから。それにね、ロールプレイの一環で掲示板をあまり見ずにプレイしたいっていう人も結構いるんだよ」


 なるほど、そういうロマン溢れるプレイも有りかもな。俺には無理そうだが。でも、情報屋っていう響きにはテンション上がってきたぞ。


「そういう人は、情報屋を積極的に利用してくれるし。あと、人よりも少しでも早く、正確な情報を知りたい人は多いからね、そういう人は掲示板と併用して積極的に情報を買いに来てくれるから。だから、トントンくらいにはなると思う。βの時も似たような感じだったし」


 情報の売り買いで儲けるのではなく、情報を手に入れること自体が目的なんだし、損しなければいいのだろう。


「だからね、何か面白い情報があれば買うよ? 欲しい情報を売ることもできるし」

「えーと、1つ疑問が。相場はどうなってるんですか?」

「うーん。情報屋って、まだ私たちしかいないのよね。だから、相場は私たち次第? 上がりもすれば、下がりもする」


 そりゃそうだよな。情報なんて水物だろうし。その時々で、値段なんて変わるだろう。


「適正価格と思うかどうかもそちら次第」


 問題は、彼女たちが信頼できるかってことだが、信頼できそうな気はする。ここで情報が高すぎるなんて噂が立ったら、情報屋を続けられなくなるだろうし。そこまでとんでもない料金ではないだろう。


 うーん、面白いな情報屋。ぜひ情報を売ったり買ったりしてみたいぞ。買いたい情報はいっぱいあるけど……。そうだ、俺には売れそうな情報があるじゃないか!


「いくつか情報を売りたいんですが?」

「ほほう。初心者のあなたに、売れる情報があると? まあ、1つは予想がつくよ」

「はい、称号に関しての情報です」

「やったね、声をかけた甲斐があったわ!」

「いや、そんな大したものじゃないですよ?」


 所詮はお祭り称号だ。能力は大したことがなかった。しかし、アリッサの笑みは崩れない。


「いいのよ。ユニーク称号の詳細が分かるってだけで、十分だから」

「なら良いんですけど」

「その情報なら、1000Gで買うわ」

「え? まじですか? そんなにいいんですか?」


 100Gくらいかと思ってたよ。


「初回サービスで少しおまけしてるけど、貴方しか明確な情報を持ってない、ユニーク情報っていうのは大きいわね。それと、この情報で他の二人の称号に関しても推測ができるし、悪くない情報だわ」

「そんなものですか」

「今は高く感じるだろうけど、先に行けば、おこづかいみたいな物だしね」


 しかし1000Gは今の俺にとって大金だ。俺はすぐさま、ステータス欄の称号『白銀の先駆者』の部分をアリッサに見せる。


「じゃあ、ステータスの上昇はないのね?」

「はい、賞金とポイントとスキルだけです。やっぱ、たいした情報じゃないでしょ?」

「そんなことないわ。貴重な情報をありがとう。感謝するわ。それにね、掲示板にも公開されてない攻略必須情報だったら、もっと高かったのよ? 高額すぎる訳じゃないわ」


 金銭感覚が崩壊しそうだ。気を付けないと。


「まだ何かあるんでしょ?」

「モンスターに関する情報ですね。β版からの変更点についてです」

「へえ?」

「ノームっていますよね。βテストでは第3エリアからの登場だったらしいんですが、正式サービスからは、第2エリアでも登場しますよ」

「本当に? それって、結構な情報よ? あなたがどうやって知ったのか、気になるわね~」


 まあそうだよな。低レベルの三死野郎が、第2エリアの魔物の情報を持ってるなんて、誰も信用するはずがない。


「これを見てください」


 俺は再び自分のステータスをアリッサに見せた。使役モンスターの欄に、ノームと記載されている。


「なるほど、アドバンステイムを取ったのね?」


 それだけで得心がいったようだ。アリッサはウンウンと頷く。


「良く知ってますね」

「そのくらい知ってなきゃ、情報屋は名乗れないわよ」

「じゃあ、これで信用してもらえました?」

「ええ、完璧な裏付けだしね。300G出しましょう」


 ただ第2エリアに出るかもよ? っていう情報が300Gに化けたぞ。


「普通の小さい変更点情報だったら、100Gね。でも、ノームっていうのはかなり厄介な敵なのよ。土魔術は強いし、逃げ足も速いし。初見殺しでもあるし。βテストでも、相当な数のプレイヤーが、ノームにやられたはずよ。でも、ドロップが凄まじく美味しいの。正式サービスでも同じかは分からないけど。それが第2エリアにも出現するなんて、かなり貴重な情報だわ。出現場所の情報もあったら、3000G出してたわよ?」


 まじですか。情報が1つ買えればよかったのに。予想以上の収入を得てしまった。


「じゃあ、今度は買わせてください」

「いいわよ。何が知りたいの?」

「そのノームについてです。攻撃方法とか」

「500Gになるわ」

「それで構いません」

「βテストだと、第3エリア後半の、捨てられた坑道に出現するモンスターの1種だったわね。遠距離から土魔術で攻撃してくる上、近接では土の棍棒を振り回す厄介な敵だわ。最も恐れられていたのが、足元を土魔術で陥没させる通称『落とし穴』。これでバランスを崩され、棍棒で殴り殺されるのが最も多いパターンだった。初見での致死率は90%以上」

「うわ~、えげつないな。でもそれは変ですね?」

「あら、どうして?」

「俺のノーム、戦闘ができないみたいなんですよ」


 土魔術で遠距離攻撃どころか、落とし穴さえ使わなかった。


「ああ、そういうこと。βでもそうだったわよ。テイムされると、性質とかが変化するタイプのモンスターがいるらしいわ」


 まじか。今後、気を付けないとな。強いモンスターかと思ってテイムしたら。生産系だったなんてこと、オルトだけで十分だ。


「そういえば、ドロップが美味しいとか言ってました?」

「ええ、レアドロップが特にね。土結晶っていうんだけど」

「土結晶?」

「武器に付与して属性を持たせたり、錬金に使ったり、かなり応用の利くアイテムだったわ。しかもその下位品である土鉱石に比べて数段効率が良くて、生産職なら誰もが欲しがった。ドロップ率0.01%以下っていう鬼確率で、当時は幻のアイテムなんて言われたこともあったかしら。それに、ノームは鉱石を100%ドロップするから、ノーム狩りに勤しむパーティは多かったはずよ」

「なるほど。参考になりました。もう一つ情報を買いたいんですけど」

「いいわよ」

「この辺で採取できる採取物で栽培できそうな物が知りたいんです。草だけじゃなく、樹木系も教えてください」


 ついでに聞いておこう。薬草、毒草、麻痺草、傷薬草、食用草以外で、採取できる物が知りたいのだ。


「それなら300Gの情報ね」

「わかりました」

「西、南の森なら、青どんぐり、赤テング茸。西の森で緑桃が採取できるけど、かなり奥地な上に、絶対生っている訳じゃないからおススメはできないわ。あと、南の森で、光胡桃が採取できるわね。これは、緑桃以上に難しいけど」

「光胡桃?」

「ええ。普通の胡桃の木に低確率で生るの。外見は普通の胡桃で、見分けるのが困難。夜には僅かに光るので発見しやすいけど、南の森は夜になると難易度が跳ね上がるから、危険度は昼とは比べ物にならないわ。夜の南の森は、ソロならLv12以上が推奨だから」

「12か……俺には無理だな」


 光胡桃、かなり欲しいけどね。死に戻りは確実そうだ。諦めるしかないか。


「ありがとうございました」

「うん、じゃあまたね~」


 俺は軽く挨拶すると、露店を後にする。短い間に、色々な実入りのある時間だったな。所持金も5850Gまで増えたし!



作者のもう一つの作品と交互に更新していこうと思いますので、

出遅れテイマーは12話から当面は2日おき更新とさせていただきます。


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― 新着の感想 ―
出遅れテイマー。ゲームの序盤から出遅れが一つ、作者のもう一つの作品からも出遅れの形で世に出したので一つ・・・といった理由でこの名前になったのだろうか?
[一言] あぁ、あのアリッサ姐さんにも こんな心に余裕を持っていた頃があったんだな・・ これがやがて人間爆弾に怯えてポンコツ化する可愛い人になってしまうなんて・・
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