研修生
新しく従業員を迎え入れるための準備をした次の日の朝方、ローキスとミルタの二人が店を訪ねてきた。
確かに早いうちに顔を出すようにとは言ったが、まさか次の日すぐに来るとは少し予想外だ。
丁度開店準備に動いていた時間だったので、その場でパーラとの顔合わせを済ませ、研修生として受け入れることとなった。
とはいえすぐに店に立たせるわけにはいかないので、まずは給仕としてミルタをパーラの元につけて、ローキスは調理担当として俺の元につける。
一応二人には給仕と調理のどっちがやりたいかの希望は聞いたが、ミルタは料理をしたことは無く、逆にローキスは実家では料理を作る機会があったというので、この配置となった。
今はこの組み合わせだが、その内給仕と調理も入れ替えて適性を見る必要もあるので、とりあえず一通りの仕事をこなせる程度にはなってくれればそれでいい。
「揉む時に気を付けるのは手の温度で肉の脂がなるべく溶けないようにすること。そうすれば焼いた時に脂が肉汁として中に閉じ込められるから、噛む時に口の中で肉汁が溢れる感じになる。んじゃ今の感じで作ってみて」
「はい!」
実際に作りながら作業の流れをローキスに説明していく。
俺の説明に真面目な態度で頷き、時に質問を返しながらハンバーグの作り方を覚えていったローキスに、早速作らせてみる。
その作業を見守りながら、テーブル席の方へ意識を向けてみると、ミルタがパーラの指導を受けており、先輩風を吹かせて説明をするパーラの声はどこか嬉し気に弾んでいるように聞こえた。
「じゃあ言ってみて」
「いらっしゃいませ!ご注文をお伺いします!」
「うん、いいね。元気なのは大事だよ。ただ、ミルタは少し声を抑えても十分お客さんは聞き取れるから、気持ち抑えめで注文を聞くように」
「そう?この声が普通なんだけど…。まあわかったわ!」
「だからもう少し声を抑えてってば」
声の大きさが変わっていないことから絶対分かっていないだろうと突っ込みたかったが、ミルタの教育はパーラがするので、俺はローキスの方へと再び意識を戻した。
やはり調理経験があるだけに手際はいいもので、時折迷うように動きが止まる時はあるが、それは俺が教えたことを思い出しているからで、すぐに次の動作に移ることからも問題はなさそうだ。
教えた要点はしっかりと押さえて、なおかつ初めてにしては手早く調理を済ませるローキスの手際の良さは素直に感心できる。
「よし、問題はなさそうだな。あとは出来上がったハンバーグを試食するだけだが、まあ大丈夫だろ。暫くは俺の補佐で動いてもらうけど、段々調理にも加わってもらうからそのつもりで」
「わかりました」
「あぁそれと、さっきも言ったけど別に丁寧な口調をする必要はないぞ?」
「え、あぁうん。わかってるんだけど、教えてもらっているんだからどうしてもそういう態度になっちゃうんだよね」
俺達4人は年もほぼ同じであるし、同じ職場で働くのだから肩ひじ張らない対等な関係、いわば仲間という意識で付き合っていきたいと思い、相応の態度が必要な場面でない限りは砕けた接し方を求めることにした。
ミルタはもともと礼儀には疎い質だったのですぐに受け入れたが、ローキスは真面目な性格のせいで、雇い主である俺と先輩のパーラにはまだ丁寧な口調で話しかけることが多い。
それ自体は悪い事ではないのだが、なんとなく距離を感じてしまうので段々とでも慣れていってほしいものだ。
出来上がったハンバーグを早速試食してみるが、予想通り特に問題は無し。
そのまま客に出しても問題はない出来だ。
そもそもハンバーグ自体がレシピ通りに作れば普通に出来上がるものなので、心配はしていなかった。
ローキスにも食べさせてみたが、本人はハンバーグを初めて食べたので、そのうまさに驚いている。
「口の中で肉汁が溢れて来る…!あんな小さな肉がこんなに美味しくなるなんて…。アンディはすごいよ」
「んー…まぁ俺も作り方を一から考えたわけじゃないけどな。本とかで知った色んな調理法を合わせて完成させただけだって」
ハンバーグという完成形を知っていて、その調理法も知っている身からすると、一から俺が開発したように思われると少し罪悪感を覚える。
ある意味ではこの世界でハンバーグを最初に作ったということは開発したとも言えなくはないのかと少々強引に自分を納得させたが、こうして純粋に尊敬の目を向けられると、居た堪れない気持ちが時折湧き上がるのはどうしようもない。
出来立てでアツアツのハンバーグをはふはふと食べるローキスを微笑ましく見ていると、俺の背中に視線が刺さるのを感じた。
振り返ってみると、カウンターテーブルから覗き込むように厨房を見て涎を垂らしているパーラとミルタの顔があった。
ミルタへの指導はどうしたとか涎を拭けとか色々と言いたいことはあるが、ご馳走を前にした犬のようなキラキラとした目を向けられては無碍には出来ない。
「…わかったよ。今作るから座って待ってろ」
「「やった!」」
俺の言葉に満面の笑みを輝かせる二人は、双子かと思うぐらいにシンクロした動きで椅子へと座り、大人しく料理が出来上がるのを待つ態勢へと移っていた。
苦笑を浮かべて調理に取り掛かった俺を追いかけるようにしてローキスも調理の補助をし始め、すぐに二人分のハンバーグは出来上がる。
パーラとミルタの前にハンバーグの乗った皿を置くと、いそいそと切り分けて口に運ぶパーラの動きを見たミルタもそれを真似て口に運ぶと、食べなれたパーラとは違って初体験のハンバーグの旨さに衝撃を覚えたようだ。
目を見開いたミルタは震える手で2口目を切り分けると、まるで宝石を見るような輝いた眼でフォークの先のハンバーグを見つめ、笑みが深まった所でまた口へと運ぶ。
パーラも中々幸せそうに食べるのだが、それ以上にミルタは喜びが極まって泣いてしまうんじゃないかというぐらいに感動を顔に表して食べている。
正直ここまで喜んでくれると作った身としてはかなりうれしい。
「ミルタは随分嬉しそうな顔をするな」
「あの子は昔からそうだよ。嬉しい時は全力で喜ぶんだよね」
上半身を左右に揺らして喜びを表すとともに、椅子から延びる足もブンブンと振っている仕草は年相応に落ち着きのなさを物語る。
今はまだ客がいない時間帯であるので、こうして落ち着いて過ごせるが、この後のランチ時の忙しさに初めての二人がどうなるのかが見ものだな。
朝方から少ないながらも客は来るもので、初めて顔を見るミルタをパーラが新人だと紹介し、接客の経験を積ませてミルタの緊張もほぐれた頃に、1日の内で最も忙しい時間帯を迎えることになった。
「ローキス!ミンチ肉追加だ!それと石窯の火加減も見ておけ!」
「はい!ミンチ肉はとりあえずこっちにある分で全部だから、すぐに次を作るよ!火加減は大丈夫!さっき薪を足しといたから!」
戦場のような厨房では基本的に怒号のような指示が飛び交うことになるが、別に怒っているわけではなく、単に忙しくて余裕がなくなり、自然とこんなトーンになっているだけだ。
「アンディ!セット4つ追加!」
「あいよ!」
「6番テーブルにお客さんだよ!お茶足りないから足しといて!」
パーラがオーダーを通すと、続いてミルタが中身のお茶が少なくなったポットを厨房に戻し、中身が満杯のポットを搔っ攫うようにしてホールへと戻っていった。
のんびりとした時間から一転して忙しさの嵐に放り込まれる形になったミルタとローキスだったが、始めの頃は目を回しながら右往左往するだけだったが、俺とパーラが指示を出して動かしてやると段々と動き方を覚えていき、忙しさのピークを迎える頃には大分慣れた様子で仕事をしていた。
人手が増えたおかげで随分と楽に店が回り、何とかランチの大波を乗り越えて一息つける時間がやって来た。
丁度この時間は店内には客がほとんどおらず、初めての仕事で疲れただろうローキスをパーラ達と一緒に休ませていると、来店のベルが鳴らされる。
応対にはパーラがして、俺は調理に取り掛かっていると、突然誰かの悲鳴が聞こえた。
「ひぃゃぁああっ!」
何かあったと判断した俺は、火にかけていたハンバーグを一旦下ろし、声の発生源を目指して厨房を飛び出した。
客がパーラ達にちょっかいを出したかと思ったが、今までパーラにそんなことは起きていなかったことから、狙われたのはミルタだろうと予想を付ける。
「や、止めて下さい!お客様、ここはそういう店では!」
「はぁはぁ…少年の温度を感じるぅ~…うぇへえへへへへ」
果たしてそこにあった光景は確かに店の人間が客に襲われている光景だったが、俺の予想していたものとはだいぶ違っていた。
テーブルの一角では客として来ていただろうサティウが恍惚の表情を浮かべ、ローキスを抱きかかえて膝の上に乗せ、ひたすら頭を撫でている。
それを唖然として見ているパーラとミルタは、目の前で起きている光景に意識が追い付いていないのか、ローキスを助けることもサティウに注意することすら出来ずにいる。
そういえばパーラはサティウがこういう奴だとは知らないのか。
一緒に旅をした仲ではあるが、しっかりと話をしたことは無いのだろう。
ショタコンである一面は普通にしていればまず表面的にはわからないので、知り合いの突然の行動にショックは大きいのかもしれない。
「…何やってんですか、サティウさん…」
「…はっ!?あ…っ、違いますアンディ殿!たまたま!たまたまこの子が視界に入ったからこうしてるだけで…。私はアンディ殿が膝に乗りたいって言えばいつでも―」
「あ、そういうのはいいんで」
呆れた顔を隠さずに声にもその色を乗せて話しかけると、俺と目が合ったサティウは何故か慌てだし、まるで浮気が見つかったかのような言い訳を始めた。
というか視界に入っただけでローキスを膝に乗せるって、衛兵に通報すれば普通に捕まるんじゃないか?
「ちょっと衛兵を呼んできますんで、そのまま―」
「呼んだ?」
「は?あ、タッドさん。来てたんですか」
何と店内に街の衛兵であるタッドが既にいるではないか。
タッドはたまにハンバーグを食べに来るので、この時間帯にいるということは何らかの理由で交代時間が遅れて昼食も遅くなったのだろう。
丁度店内に入って来たばかりの様で、店の入り口からこちらに歩いてくる。
「たまたま昼飯を食いに来た衛兵ならここにいるぜ。用件は…まあなんとなくわかるが」
タッドが向ける目線の先では、店の従業員一同が集まっているテーブルで、その従業員の一人を捕まえているサティウがいるのだ。
何かあると判断するなら、サティウが疑われるのは仕方ない。
俺としても別に本気で衛兵を呼ぼうと思っていたわけではないのだが、タッドがこうしているのなら少しばかりサティウに懲りてもらおうとタッドに説教を頼もうとしたその時だった。
恐らく衛兵に突きだされる程度に後ろ暗さを抱いたのか、サティウが突然テーブルに置かれたコップを一気に煽る。
「く、仕方ない。グビリ……ブシュフゥーっ!」
「うわ汚ねっ!?ぐぁ、目がっ!」
そして口に含んだ液体を霧状にしてタッドの顔面に吹きかけた。
まるでヒールレスラーの毒霧のような使い方だが、吹き出したのは麦茶なので人体に害はない一方で、目に液体が飛び込んだ形となったタッドは視界を封じられ、ただ立っているだけのその横をサティウが駆け抜けていく。
突然の展開に付いて行けない俺達は何の反応も出来ず、サティウが疾風の様に店を出ていくのを見ていることしかできなかった。
残されたのは呆気にとられる従業員一同と、服の袖で顔を拭っているタッドを含めた数人の客による何とも言えない妙な空気だけだった。
「あぁ~くそっ…。何だったんだ、あの女」
ようやく視界が回復したタッドがこぼしたのは、突拍子もない行動に出たサティウに対する不機嫌さと困惑が入り混じった言葉だった。
「あの人はエイントリア伯爵家の紋章官で、サティウさんと言いまして、ちょっとおかしな癖はありますが、仕事は出来る人です。…多分」
「紋章官ン~?あれが?チッ…まあ特に重罪というわけじゃないから追いはしないが…。一応領主様に抗議の文章を送っておくか…?」
「それぐらいはいいんじゃないですか?」
サティウに関しては知り合いでもあるし、悪い人間ではないのは確かなので、一応フォローの言葉を言っておくが、それでもタッドが抗議の行動に出るのを止めることはしない。
完全にサティウの自業自得だからだ。
タッドも被害らしい被害は顔に麦茶を掛けられたくらいだし、相手が伯爵家に属する紋章官のため、一衛兵としては抗議するぐらいしか出来ないが、この出来事をルドラマに知られたサティウには何かしらの罰が与えられるだろう。
ちょっとした騒ぎはあったが、それ以外は特段問題も起こらずこの日の営業を無事に終えることが出来た。
時間的には3時前ぐらいかと思う頃に材料も尽きたので、外に出て玄関脇に提げられた営業中と書かれた木札を引っ繰り返し、休業中と書かれた面を表に出して店内に戻る。
するとそこにはテーブルに突っ伏しているミルタとローキスの姿があり、その横にはパーラが微笑みを浮かべて見守っているという、どこか懐かしさを感じる光景があった。
「いつか見た光景だな」
「少し前の私達がいる。声高に言おう、私はその域を既に通過しているとッ!」
「どうしたお前」
パーラに話しかけると、何が嬉しいのか随分テンション高めに二人を指さしてそう言いだす。
自分が味わった苦労を共有できる人間が増えたことが嬉しいのだろうか。
そんなパーラを困惑の目で見るローキスとミルタだが、それ以上に疲労が辛いようですぐに考えることを放棄して再び顔を突っ伏した。
こんな状態であるので、二人に俺が回復用に水魔術を使ってやり、パーラが店内の清掃と片付けを請け負ったのだが、それらが済んだ頃には外も夕暮れに染まり切っており、新しくこの家に来た二人を部屋に案内してやることにした。
疲労感が幾分か和らいだ二人は多少ぎこちなさを残しながらも階段を上り、まずは居間に置かれた自分たちの荷物を手に取り、俺の先導で個室へと向かう。
「右手側奥から順に俺とパーラの部屋だ。二人は左側の2部屋を使ってくれ」
「一部屋使っていいの!?なら、私こっち!」
俺の言葉を聞いたミルタは嬉しそうな様子を隠さずに手前側の部屋の扉を勢いよく開けて室内へと飛び込むようにして入っていった。
残った部屋はローキスが使うことになるのだが、ミルタとは違ってどこか遠慮がちに扉を開けて室内を見ると、なぜか入ることもせずに突っ立っている。
「どうした?何か問題でもあったか?」
ローキスの様子に室内に何かあったのかと後ろに立って覗き込んでみるが、特におかしなところは無く、昨日見た時と変わりなかった。
「あぁいや、問題なんかないよ。ただ、こんないい部屋を僕一人で使っていいのかなって」
「ん、別にいいんじゃないか?どうせ部屋は余ってるんだし、個室の方が気楽だろう?」
「まあそうだけど…」
何をそんなに遠慮しているのか気になって聞いてみると、元々家族で暮らしていた時は兄弟で一つの部屋に寝起きしていたので、これだけの広さの部屋を一人で使うことができるとは思っていなかったのだそうだ。
てっきりミルタと一緒の部屋に入れられると思っていたのが、まさかの個室を与えられることとなって、嬉しさよりも戸惑いが先に立ってしまっていたようだ。
とはいえ、室内に入って中を見回してみて、自分に与えられた部屋だと実感すると嬉しさがこみあげてきたようで、すぐに笑顔で荷ほどきをするようになっていた。
そんな二人を置いて、俺とパーラは居間に向かい、今日の売り上げを数える作業に移る。
一日の内で昼の間のみの営業で得られる金額としては破格の売り上げを叩き出した。
開店当初と比べても今の売り上げは10倍以上となっており、明日の食材と燃料に回す金額を抜いて、残った金額がこの日の利益となる。
今まではこの利益から俺とパーラはそれぞれ銀貨1枚を取り、残りは店の積立金としていざという時に備えて貯めていた。
今日からはミルタとローキスが一緒に働く仲間として加わるので、二人にも1日の終わりに賃金を払うことになっている。
どれぐらい支払うかをパーラと少し話したが、別に俺達と一緒でいいかという結論がすぐに出た。
風呂と夕食の準備が済んだ頃に、ミルタとローキスは部屋の整理を終えてダイニングへと集まって来た。
元々大した荷物は無かったようだし、恐らく一人部屋を与えられた喜びを噛み締めていたのだろうと思ったのだが、どうやら二人ともベッドに少し横になったら眠ってしまっていたようだった。
確かに初めての仕事にしてはハードだったので、それも仕方ないだろう。
食事の匂いに空腹を刺激されて起きてきたという二人に、まずは風呂を勧める。
流石に避難所で頻繁に風呂を利用していただけあって入り方に問題はないとは思うが、一応俺とパーラがそれぞれ男女に分かれて二人と一緒に入って使い方を教えることにした。
風呂の広さは子供が二人で入るぐらいなら広すぎる程なので、特に窮屈さを覚えることは無いだろう。
避難所での風呂とは違って、大勢が一緒に使うような広さのない風呂というのは新鮮なようで、一緒に入ったローキスは興味深げに浴室内を見回していた。
風呂から上がると用意されていたのは、店の材料の余りで作ったメンチカツ擬きだ。途中まではハンバーグと同じ作り方だが、焼くのではなく衣をつけて揚げ焼きにするメンチカツはハンバーグとはまた違った旨さがあり、パンとスープが付くだけで十分なご馳走になった。
食事が終わるとミルタとローキスが片付けを申し出たので任せた。
ダイニングにはちょっとしたテーブルを挟んで向かい合って並ぶソファがあり、そこで寛いでいると片付けを終えた二人が来たので、俺の近くへと呼び寄せる。
二人を対面のソファーに座らせ、用件を切り出す。
「今日はお疲れさん。んじゃ今日の分の賃金を渡すぞ。これはそのまま二人のものになるから、好きに使っていいやつだから」
そう言ってソファの対面に座る二人の前に銀貨を1枚ずつ置く。
ミルタはすぐに手を伸ばして嬉しそうな顔をするが、なぜかローキスは目を見開いて銀貨を見つめていた。
銀貨に手を伸ばすことをせず、身じろぎすらしないその様子に少し心配になって声をかける。
「うわー…、綺麗ー」
「…ローキス?」
「アンディ…、これって本当に今日一日分なの?」
「そうだけど…。少ないか?一応家賃とか食費を引いてその額を渡してんだけど」
「あぁ違うよ。貰いすぎなくらいだって。…本当にいいの?」
おずおずといった様子で尋ねて来るローキスにしっかりと頷きを返してやると、若干の震えが乗った手を銀貨に伸ばし、自分の目の前に持ち上げて感慨深げな目で銀貨を見ていた。
ローキスは初めて手にした労働の対価に感動しているようで、ミルタの方は銀貨の輝きを純粋にきれいだと喜んでいる。
村では銀貨を使う機会がほとんどないため、ミルタは銀貨を見るのはこれが初めてなのだそうだ。
その銀貨で何を買えるのかはまだ知らないようだが、その辺りはパーラにでも教えてもらうといいだろう。
今まで俺とパーラだけだったこの家に、新しく加わった住人のおかげで騒がしいままに夜は更けていった。




