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世の中は意外と魔術で何とかなる  作者: ものまねの実
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討伐後のアレコレ

変異種討伐を完了した次の日、俺とパーラはコンウェルとギリアムを残して先にヘスニルの街へと帰ることになった。

倒した変異種は巨大すぎるため、誰かがヘスニルに戻って討伐完了の報告と共に、回収要員の派遣要請をする必要がある。


そこでバイクという手段を持つ足の速い俺が伝令役を請け負い、残りの面々が変異種の遺体を他の動物や魔物に損壊されないように見張るためにこの場に残る。

だが変異種という脅威が排除されたビカード村に留まるのはベテランの域にいるコンウェルとギリアムの二人だけで十分という結論が出たため、俺と一緒にパーラもヘスニルへ帰還することが決まった。


念の為にとビカード村の周囲を囲っている柵の壊れている場所を土魔術で作った壁で塞いでおき、適当な建物を囲うように土壁を作り、緊急時の避難所として使えるようにした。

変異種以外でこの辺りに生息している魔物や動物では二人の敵となり得る存在はいないと思うが、変異種という前例がある以上、何かしらの対策をしておいて損はないだろう。


「それでは俺達はヘスニルに戻ります。資材や食料とかは建物の横に置いておきましたから好きに使ってください」

村の入り口で出発する俺達を、残される二人が見送りに出てくれた。


一応余裕を持って用意して来た食料を寝床にと借りている民家の脇に積み上げておいたので、滞在中の食料は心配する必要はないだろう。

来た時とは違って戻りはバイクでの単独移動となるため、スピードを気にせずに走れるので最低限の食料を持っていくだけで十分だと判断し、残りは二人のためにすべて置いて行く。


「おう、助かる。貰った食糧分の金はギルドマスターに言えば、経費として補てんしてもらえるからな」

「ついでにこの手紙も運んでもらえるか。ルドラマ様の居館に届けてもらえるだけでいい」

「分かりました」

ギリアムから手紙を託され、俺達はビカード村を後にした。


ヘスニルからは一日がかりで移動してきた俺達だったが、それは馬の速度に合わせたためにかかった時間であり、バイクだけで走るのならば速度を気にせずに進んで半日で着くことも可能だ。

朝から走り続けて途中で簡単な昼食を済ませ、ヘスニルには夕方前には到着することが出来た。

着いたその足で俺はギルドに、パーラにはギリアムの手紙をルドラマに届けてもらうことにして、全部終わったら宿で合流することを決めてその場で別れた。


俺がギルドに入ると、メルクスラが受付から出てきてギルドマスターの元への案内を申し出てきた。

どうやら討伐に出た俺達の内の誰かが姿を現したらそうするように指示が出ていたようだ。

スムーズにギルドマスターの待つ部屋に通されると、案内してくれたメルクスラは早々に退室し、俺とギルドマスターだけが室内で向かい合う。

一見すると落ち着いて座ってはいるように見えるが、討伐の結果を早く聞きたいという思いがギルドマスターの目がせわしなく動く様子から汲み取ることができる。


「まずは無事に戻ったことを喜ぼうかの。…して、首尾はどうかね?」

そのギルドマスターの言葉には、変異種の討伐の成功よりも、犠牲者が出たかどうかへの不安の方が大きいと感じた。

「はい。トレント変異種の討伐は無事に完了しました。ビカード村の建物、施設に関する被害は多少は出ましたが、十分修繕可能な範囲で収まっています。こちらの人的被害はありません。俺達討伐隊は全員無事ですよ」

「そうか…それが何よりの良い報告だな」


全員無事の言葉を聞いて大きく安堵の息を吐くギルドマスター。

それを聞けて安心したのか、若干の笑みを浮かべてソファーの背もたれに大きく身を預けた。


「変異種がビカード村の井戸からどれだけ吸い上げたかは分かりませんが、見た限りでは水量が致命的に減っている様子はありませんでした。すぐにでも村の復興に着手しても問題はないとコンウェルさんが言ってました。それと、倒した変異種ですが、大きさがかなりのものです。コンウェルさんとギリアムさんが残って確保していますが、なるべく早急に輸送のための人員を送ってほしいそうです」

「うむ。すぐに手配しよう。変異種の大きさはどれぐらいかのぅ?」

「根っこから頭までで20メートル程かと。一応大凡の原形は保っているので、現地で解体するなりしないと馬車には積めないと思いますよ」


輸送用の馬車には20メートル近い巨体をそのまま積むことは出来ないので、恐らく現地で解体して積みやすくするはずだ。

そうしてもかなりの量になると思うので、馬車はそれなりの数派遣した方がいいと思っているが、そこはギルドマスターもわかっていると思うので特に俺から言うことはない。


その後はいくつかの質問に答え、輸送隊の編成に動き出したギルドを離れ、いつもの宿へと移動した。

すっかり日が落ちた街は、酒場や食事処では笑い声や怒号がそこかしこで巻き起こり、昼間とは違う夜の喧騒が街を包んでいた。

宿に着いて借りたままとなっていた部屋の鍵を受け取りに行くと、そこにいた女将さんから声が掛けられた。


「あぁアンディ、ようやく帰って来たね。あんたに伝言だよ」

「伝言?誰からです?」

「領主様の使いの人だって言ってたね。手紙はちゃんと受け取ったってのと、パーラちゃんが今日は向こうに泊まるってさ」

どうやら手紙を届けに行った先でそのままセレンにでも捕まったのだろう。

久しぶりにパーラの顔を見たセレンがそのまま引き留めたといったところか。


「伝言、確かに受け取りました。ところで今から食事はできますか?」

今は夕食の時間を過ぎているため、飛び入りで食事を貰うのはルール違反だが、この宿の食事を気にいっている身としてはできればここで食事を摂りたい。

ダメだったらどこか適当な所に食べに行けばいいか。


「んー、まあ少し遅いけどいいさ、適当に何か作ってあげるよ。席で待ってなさいな」

「すいません、助かります」

そう言って厨房へ向かう女将さんを見送り、すっかりガランとした食堂で待っていると、すぐに暖かな湯気を上げた食事が用意された。

運ばれてきた食事を腹に納め、久しぶりのちゃんとした寝床に就くと、やはり野営とは違うその寝心地の良さにあっという間に眠りへと落ちていた。


次の日はビカード村から避難してきた人たちの元へと赴き、村長をはじめとした村の主だった面々を前に、トレント変異種の討伐完了を報告した。

「最大の脅威であるトレント変異種は排除されました。数軒の家に被害は出ましたが、簡易的な調査では深刻な問題はないと判断します。修繕は必要ですが、それほど手間も無く直せるでしょう」


広場にある食堂兼集会所となっている屋根付きのテーブル席の一角を借りて説明をすると、それを受けて話に参加していた男性の一人が手を挙げて発言の許可を求めた。

これはこの説明を行う前に言いつけていたことで、みんなが一斉に質問をしては困るため、挙手での発言をお願いしていたためだ。

挙手していた男性を指さして発言を促す。


「じゃあ俺達は村に帰れるんだよな?いつ帰れる?」

「今すぐにとはいかないでしょう。ビカード村の周辺を調査し、危険のないことを確認した後、第一次帰還者の選定が行われる流れになると思います。なので村の復興に取り掛かれるのは早くて夏ごろになるかもしれません」


今した説明は変異種討伐に向かう道中でギリアムに聞いたものをもとにしている。

文官ではなくとも騎士団の中でも隊長格であるギリアムはこういったことに詳しいため、俺の質問に丁寧にわかりやすく教えてくれた。


村を捨てるようにして避難して来て、先の見えない生活への不安もある中で、復興の兆しから未来への展望が開けたことを村人たちは喜んでいる。

実際の所、ビカード村の被害は数軒の民家の壁が破壊されている以外は大したものではないため、村人全員が帰還できる日はそれほど遠くないはずだ。


ここに集まっている人の他に、遠巻きにこちらの話を聞いていた村人たちも喜び合っているようで、そこかしこで手を取り合っている姿が見受けられる。

そんな中で村長は喜ぶよりも、これからのことへ考えを運んでいるらしく、冷静に質問をしてきた。


「アンディ殿、その第一次帰還者の選定は我々で行なってもいいのでしょうか?」

「それは俺には何とも言いかねます。恐らく近いうちに領主様から説明の役目を任された方がこちらに来るでしょうから、その時に聞いてみてはどうでしょう?」

俺が全部のことを説明することは到底できないので、重要な質問に関しては事情を知っている人に応えてもらうのが一番いいに決まってる。


今こうして話しているのも直接討伐に赴いた身で見知ったことを説明をしているだけで、実際の懸案事項に対する領主側が出すであろう答えは何一つ口には出していない。

もちろん俺個人としての意見は口にするが、それが本当の決定事項ではないので、この後来るであろうルドラマの部下から話を聞いてほしい。


村人達への説明を終え、村長と一緒に避難所の中を見て回ることになった。

この場所もすっかりビカード村の色に染まっているようで、ほとんどの大人は外へと働きに出ているが、女たちが洗濯や掃除をしている光景の中を、子供たちは元気に走り回っている。


「子供たちはここの暮らしに慣れたようですね」

「ええ、村を離れたすぐの頃は暗い顔をしている子も多かったんですが、ここに着いて次の日にはもう元気を取り戻しておりました。これも快適な生活を送れるようにこの場所を整備してくださったアンディ殿のおかげです」

安心して眠れる家というのは心理的にも肉体的にも安らぎを与えてくれるもので、特に環境の変化に敏感な子供にはそういったものが大事だ。

こうして子供が元気な姿を見せるのは大人たちにもいい影響を与えることだろう。


その場にいた住民たちに仮設住宅の住み心地を聞いて回ったが、特に不満の声は上がることは無く、幾つか要望を聞いたぐらいで次の場所へと移動した。

移動する途中、ふと目に着いたのは大浴場のある場所で、ここの住民とは明らかに格好の違う人間が数人話し込んでいた。


「村長、あそこにいるのは?」

「あぁ、あれはヘスニル騎士団と冒険者ギルドから派遣された魔術師の方たちです。時々風呂のお湯を沸かすのを依頼しているんです」

「魔術師に頼んでるんですか?でもそれだと依頼料は結構かかるでしょう?」

「ええ、普通はそうなんですが、ここの風呂はヘスニルの街の方も利用しに来るので、領主様とギルドの両方から補助をしてもらっています。騎士団では手隙の方を、冒険者にはギルドが依頼料のいくらかを持ってもらっています」


確かにそこにいる魔術師には騎士団の所属を表すマントを付けている者と、冒険者特有の実用重視の服装をしている2種類の人種がいた。

聞くと普段は焼き石で風呂を沸かしているが、時々魔術師がお湯を沸かすのを手伝いに来てくれるのだそうだ。

火魔術を使ってお湯を沸かすのはそれほど難しいものではないが、魔術で適温を維持するのにはかなりの技術が必要らしく、こうして風呂のお湯を沸かすというのは意外といい訓練になるのだそうだ。


だが彼らの本当の狙いはそんなものではなく、単に自分たちで沸かした一番風呂に入りたいというのがその狙いの殆どを占めているらしいとは村長の言だ。

実際の所、この依頼は魔術師には人気のようで、それは報酬とは別に一番風呂という魅力的なおまけが付いているがゆえのことだろう。


風呂の維持管理は避難所の人間が請け負っているが、特に女性にこの仕事が人気なようで、何でも一日仕事を終えると肌の調子がいいという。

多分風呂の湯気が保湿効果を発揮しているからだな。


一通り見て回ったが、避難所はすっかり落ち着いた生活を送れるようになっており、問題らしい問題もなさそうだった。

後はルドラマ達がビカード村に帰還できるように調整すれば、この避難所も役割を終えるだろう。

仮設住宅は耐用年数を実験するのに使うとして、風呂はそのままヘスニルの街で使って行けばいい。

まあその辺りは俺が考えることじゃないので、村長にそれとなく話しておくだけで十分だ。

昼食を一緒にどうかという村長の誘いを丁重に断り、パーラがいるであろう領主の館へと向かう。

きっとまだセレンに構われているだろうから、俺から出向いてパーラを引き取ろうかと思い、その後に一緒に昼食を摂る店を道中に見繕いながら俺はヘスニルの街中を歩いて行った。

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