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世の中は意外と魔術で何とかなる  作者: ものまねの実
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避難民到着、そして再会

仮設住宅作りは順調に進み、3日目には十分な数を揃えることが出来ていた。

作るほどに効率化されていった土魔術による家作りは、最終的に24棟の家が完成し、残りの時間で共同の炊事場と大浴場をそれぞれ2ヵ所ずつ作る余裕まであったおかげでかなり環境の整った避難所が出来上がってしまい、完成したそれを見た作業員たちの羨ましそうな呆れたような妙な視線が完成現場には注がれていた。


やはり大浴場の存在が彼らの羨望の的の様で、ヘスニルの街中でもお目にかかれないそれを街の住民も利用できないかと言う相談を現在受けている。

俺としては別に問題ないのだが、ルドラマをはじめとした行政側は様々な調整が必要なため、住民の代表との相談会が頻繁に開かれていた。


とはいえそれは俺には関係ない話なので、作業はガンガン進めていく。

次に手を付けるのは避難所の周囲を囲む柵の補強だ。

防護柵の強化と言ってもそれほど変わったことをする必要はなく、単純に防護柵の突き立っている地面ごと盛り上げて高さを増し、その外側の地面を掘り下げて最高落差7メートルの壁を作る。

これだけの作業であればすぐに終わるのだが、とにかく手を入れる必要のある範囲が広く、まだ夜も明けきらない早朝から取り掛かり、間に何度か休憩を入れたがとにかくぶっ続けで作業を進め、すべて終えたのは陽が落ちてから大分立ってからのことだった。


流石にこの日は宿まで帰る気力も無くなり、完成していた仮設住宅に入って倒れるようにして眠りについた。

出入りに使う門以外の全てにこの作業を行う必要があったのだが、流石に範囲が広いため、この作業には丸一日かかってしまった。

簡単に請け負った防護柵の強化だが、実際は予想以上に手間と時間がかかってしまい、見通しの甘さを思い知らされた。


明くる朝、疲れが取れて目を覚ました俺が外に出て朝日に向かって伸びをしていると、何やら人が騒いでいる声が聞こえた。

声の元をたどると、恐らく仕事に来た作業員と冒険者の集団が揉めているようだ。

「尋問をしているわけじゃないんだ。ただ昨日の朝までなかった壁が急に出来ているわけが知りたいだけだ」

「だから、俺達もたった今来て知ったんだよ。確かに一昨日までは壁は無かったのは確かだが、何で急にこんなものが出来上がったのかこっちが知りたいくらいだ」

どうやら俺が作った土壁が問題になっているようで、今ここにいる冒険者と作業員は昨日の朝までここを見ていなかったようだ。

今いる作業員は恐らく昨日はいなかったのだろう。

いたら俺が壁を作っているのを見ていたはずだ。

多分彼らにしてみたら突然街の横に壁が出来上がったことに、得体のしれない恐怖に似た感情を抱いているのかもしれない。


そんな中に俺がのこのこと出て行ったら面倒なことになりそうなので、その場をソッと立ち去り、現場の責任者が来るまで避難所のチェックに動く。

とはいっても特に問題があるわけでもなく、新しく完成した防壁にほころびが無いかを確認するだけで全て終わってしまう。

その頃には現場責任者である補佐官も来ており、冒険者への説明という大役を見事果たしていた。

責任者である彼には防壁の補強も伝わっているはずなので、説明に問題はないだろう。


朝に一悶着あったが、既に避難所は完成したと言っていいほどで、残りは食料や生活道具を搬入して、門代わりに丸太で組んだ馬防柵を設置すれば後は避難民の受け入れを待つだけとなる。

「アンディ、おはよう。何してるの?」

「おう、パーラか。おはようさん。避難してくる人たちのために風呂を用意してやろうと思ってさ」

風呂に水を溜めている所へパーラがやって来た。

長い移動で疲れているだろう避難民のために、俺が出来る精一杯のもてなしとして風呂を用意しておこうと思っていた。


この場所に作ってある大浴場は、土魔術で掘り起こした際に出てきた石を組んで隙間を粘土質の土で埋めて、仕上げに魔術で圧縮することで硬化させた露天風呂風の造りをしており、大人が10人は余裕で入れるだけの広さは俺が電熱でお湯を沸かすのにも時間がかかってしまう。

これからここで暮らす人たちが気軽に風呂を使うことは難しいだろうが、そこはヘスニルの住民も使うとすればルドラマ達が何かしらの解決策を編み出すだろう。


とりあえず今は水だけを溜めて置き、避難民が着く頃に合わせてお湯にすればいいと判断し、パーラを連れ立って門の前へと移動する。

そこではルドラマを筆頭にヘスニルの行政官が集まっており、これから到着する避難民に関する打ち合わせをしていた。

既に先触れとして避難民に同行していた騎士が馬で報告に来た後であり、もうじき到着する旨を俺も聞いていた。

なので門の前に俺も一緒に出て出迎えようと思ったのだが、どこか適当な所で立ってればいいだろうと思っていた所、補佐官の一人が俺の姿を見つけ、手招きをしてきた。

ルドラマにも俺の存在を耳打ちし、近付く俺達をルドラマの傍へと誘導していく。


「アンディ、家の件、ご苦労だったな。わしも見たが実に見事な出来栄えだった。時間のない中、よくぞ成し遂げてくれた。礼を言うぞ。さて、もうじき避難民が到着するが、2人もここで出迎えるがよい」

「恐れ入ります。ですが、自分には閣下の傍に立つなど恐れ多い事。どうかこの身は列の端にでも捨て置いていただければとお願い申し上げます」

軽く頭を下げる俺に倣って、パーラも頭を下げる。


「何を言う。お前の成したことには相応の価値はある。構わん、わしの隣に立つことを許す」

伯爵であるルドラマの隣に一冒険者である俺が立つなど、身分差がありすぎるために通常ではありえないことだ。

たとえ普段から親しくしていたとしても、公の場では弁えた態度を取るべきだし、周りの行政官も普段の俺とルドラマの付き合いは知っているが、この場での俺の振る舞いは理解しているはずだ。


だが伯爵であるルドラマにこうまで言われては断ることは出来ないし、何となく周りも咎めたりもしないので、この配置は最初から決まっていたようだった。

促されるまま俺はルドラマの左に立ち、さらに俺の左にパーラが着く。

前を見ると、徒歩で移動する避難民の列の先頭が目視で確認できる場所まで来ており、その護衛と思しき騎士が乗った馬が並走していた。


「ルドラマ様、何を企んでるんです?」

前を見ながらボソリとつぶやくと、ルドラマも顔をこちらに向けることなく口を開く。

「何も企んでなどいない。ただ避難民がこれから暮らす家を作った人間が誰なのか知っておいた方がいいだろう?」

「それだけですか?」

「まあお前の顔を知っておいた方が、この場所で暮らすのに困った時に頼りやすいというのもある。わし等が動くよりもお前なら大概のことは素早く解決してくれそうな気がしている」

つまり俺を避難民たちの窓口にしようとしているということか?

確かに設備の殆どを作ったのは俺だから、何か不具合があった場合は俺だと対応しやすいが、それならそうと面と向かって言ってくれればいいのに。


そんな風に思っていると、避難民の先頭集団から騎馬が一騎、こちらに向けて駆けてきた。

馬の上には手綱を握っている騎士と、その後ろに老人が乗せられていた。

ルドラマの前で馬体を横にして、ヒラリと身軽に飛び降り、兜を脱いで膝を突いた騎士の顔は、俺も知っている人物だった。

遅れて同乗していた老人が騎士のやや後ろに膝を突いて首を垂れる。


「護衛隊ギリアム・スーラウス以下16名、ビカード村住民の護衛の任、無事果たしました」

「ご苦労。無事の帰還を嬉しく思うぞ。報告は後で聞くとして、まずは避難民の収容を始めてくれ。疲れているとは思うが、頼んだぞ」

「はっ!」

ルドラマからの言葉に力強く答えたギリアムが顔を上げると俺と目が合い、一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにその表情を収めて馬へ跨り、また来た道を戻っていった。

俺がここにいることの意外性に驚いた顔をしていたが、最上位者であるルドラマの前で声をかけるわけにもいかず、すぐに任務に戻っていったのだろう。

多分、後で落ち着いた頃にでも話をしに来るかもしれないな。


「さて、面を上げよ。ビカード村の村長だな?此度は災難であったな。」

「おぉ、勿体ないお言葉です。エイントリア伯爵様に置かれましては、村民の身を助けて頂いたばかりか、避難先までご用意頂く格別のご厚意には、ただただ伏してお礼を申し上げるのみです」

丁寧な言葉でお礼の言葉を口にする村長は、流石に伯爵の立場にいる人間と会うのは初めての様で、顔に浮かぶ緊張の色は濃いままで、恐縮しきりだ。


「領民が襲われたのだ。騎士がその身を盾にして戦うのは当然のこと。さらに避難先を整えるのもまた領主として当然である。簡素な家で悪いが、この場所で身を落ち着かせてほしい」

「この身を助けて頂いただけでも過分なご温情を頂いた上に、住む場所までご配慮頂けたのです。家を失った我らには十分でございます」

「うむ。…家は十分な数を用意してあるが、何か問題があればこの者に言うといい。ここにあるほとんどの施設はこの者が手掛けたものだ」

そう言ってルドラマが俺の背を押して村長の前へと歩み出させる。


「初めまして。俺はアンディ、冒険者をやってます。そっちのはパーラ、俺の仲間です。俺とパーラが皆さんの家を整備しましたので、住居関係のことで何かありましたら遠慮なく言ってください」

俺の自己紹介に合わせてパーラが俺の隣へと動き、村長に顔を覚えてもらう。

そんな俺達を見て困惑の表情を浮かべる村長は、俺とルドラマの顔を交互に見ている。

まあ俺みたいな子供が住居の何を手掛けたのかよくわからないといったところだろう。


土魔術の実演をして見せるために、俺は地面を軽くつま先で叩く。

足の先から魔力を放出し、イメージしたものを土魔術がなぞり始める。

すると俺達からみて右手側に長テーブルと椅子が作り上げられた。

この後ルドラマは村長と詳しい話をするだろうから、気を利かせてテーブルを用意してやった。

ついでとばかりにパーラが風魔術でテーブルと椅子の上を撫でるようにして風を吹かせ、簡単な掃除をする。

それを見て驚きに目を見開いている村長の様子から、俺達の存在の証明をする企みは上手くいったようだ。


「とまあ見ての通りだ。この者はなりこそ子供だが、中身は立派な魔術師よ。ここの住居も土魔術が使われている。補修や改修はこの者に言えばある程度はなんとかするだろう」

「いやはや…恐れ入りました。子供の見た目で判断してしまうとは、まこと愚かしい事でした。アンディ殿、何かある時はどうかよろしくお願いします」

「ええ、遠慮なく仰ってください」

村長から一定の信頼を得ることが出来たところで、早速と言わんばかりにルドラマ達はテーブルを使って話し合いに移った。

今回の事件でビカード村が受けた損害や、今後のことについてなど、政治色の強い話し合いに俺とパーラは加わることはせずに、その場を離れて避難民の受け入れの手伝いに回ることにした。


すでに避難民の先頭集団は避難所内へと入っているところで、どの人も長旅の疲れを隠す余裕はないらしく、やっと安住の地へたどり着いたことに対する安堵感で明るい表情を浮かべていた。

避難所の中では炊き出しが行われており、到着した人たちに温かい食事が振る舞われている。

長い距離を移動しながらでは碌な食事を摂れなかったのだろう、食事の乗ったトレイを受け取った人たちは皆一様に嬉しそうな顔をして、それぞれでグループを作って食べ始めた。


少し余裕が出来た頃に俺は浴場へと向かい、お湯を沸かす。

剣に雷魔術を使った電熱を利用したお湯の沸かし方は今の所俺にしか出来ず、今後は生活する人間の手でお湯を沸かすようにしてもらいたいものだ。

とりあえず調理の時に竈で焼き石を作っておいて、それを湯船に投入してお湯を沸かすやり方なら魔術を使わなくても何とかできるだろう。


水魔術で水流を作り、満遍なく温水を作り、適温を確認したらもう一か所も同じようにお湯を沸かしたところで、避難民の元へと向かう。

食事を終えてめいめいに会話をしている人達の注目を集めるためにパンパンと手を叩く。

「はい皆さん、食事を終えた方は注目してください。これから大浴場へ移動して、お風呂に入っていただきます。食事が済んでいる方の中で男性10人ずつの組を作ったら、一組ずつ俺に付いて来てください」

「風呂ってあの風呂?水を浴びて終わりじゃないのか?」

「長旅で体が凝っちまってるんだ。お湯が使えるなら何でもいいさ」

「とにかく、俺達がまず行こう。このテーブルの10人で固まれ」

集団の中でもリーダー的な存在であろうと思われる男性達が10人、俺の近くへ寄って来た。


こちらを子供だからと言って訝しむ様子がないことから、恐らく村長から話が通っているのだろうと推測する。

村長はまだルドラマと話をしているが、村の誰かに俺のことを伝えておけば、後は村のネットワークで話は広まっていくため、混乱は抑えられるだろう。

パーラには女性と子供の入浴の世話を頼むことにする。

俺と同じように組ごとに連れて行き、風呂の入り方を説明して、入浴を終えた組の誰かをメッセンジャーにし、次の組を呼んでもらえば次々と捌ける。


大浴場へ向かい、服を脱いだ人たちを前に、湯船に入る前の注意事項を話す。

湯船に入る前に掛け湯をして体を洗ってから入ることを指導し、汚れが落ちたところで湯船へと入らせる。

風呂用の手桶は家の窓やドアを作っていた作業員たちに用意してもらったものが浴場の隅に積み上げられているので、数が足りないということは無い。

「アチチチッ…ちょっと熱いけど気持ちいいな」

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ~なんだこりゃ~。何か知らんけど声が出ちまうわ~」

「こりゃあいいな。体から疲れが抜けるみたいだ」

「あっちこっち固まってたのが解れてくのがわかるぞ」

お湯に浸かると皆一様に体の力が抜け、口々にその気持ちよさを語りだす。

どうやらお湯に浸かる習慣のない人間でもこの気持ちよさは分かるようで、惚けるようにお湯に身を委ねている。


あまり長い時間浸からせるとのぼせてしまうので、適当な所で上がらせる。

全員がお湯から上がるのを渋るのだが、そこはしっかりと長湯の危険性を説明し、納得してもらう。

風呂から上がって着替えた人たちに、エールが入ったカップを渡す。

風呂上りと言えばやはり冷えたビールと言うのが元日本人としての美学であり、それは恐らくこっちの世界でも同じだろうと考え、風呂上りには大人はエールを、子供には柑橘系の果実水を飲ませることにした。

パーラの方にも一応女性でエールを飲む人もいるかもしれないのでエールを置いているが、女性用の風呂には子供が一緒に入浴するので、果実水を多めに用意している。

本当はコーヒー牛乳が欲しい所だが、牛乳はともかくコーヒーは手に入りそうにないので、このあたりで妥協した。


多少汗をかいた体には手元のエールは何よりのご馳走に映るだろう。

一口目を口に含んだ瞬間、大きく目を見開くと一気にエールを呷っていく。

最初の一口を口にしてしまったらもう止まらない。

そこそこの量があったエールが一息で飲み干され、男たちの歓喜の声が上がった。

「ぶはぁー!うまい!うますぎる!」

「くぅー、染みるねぇー」

「こんなうまいエールは初めて飲んだぜ!」

「ああ全くだ。こうして落ち着いて飲んでみるといつものエールなのに、さっきまでのうまさは何だったんだ」

風呂上がりの最初の一口には喉の渇きでブーストがかかっているせいで、普通のエールでも何倍も上手く感じられるようだ。


「このエールは普通のエールですけど、風呂上りだからこそのうまさがあるんです。水分補給もかねて、風呂から上がったらかならず何か飲むようにしてくださいね」

「おう、わかった。しかしこれだけうまいと風呂に入るのが楽しみでならんな」

定期的に風呂に入ってくれれば衛生環境もよくなるだろうから、エールという餌で頻繁に入浴させることが、後の疾病対策へとつながっていくだろう。


「さて、それでは次の組をどなたか呼んできてもらえますか?」

エールのうまさを語り合っている男性達にメッセンジャー役を頼むと、来た時とは違って陽気な態度で他の村人たちの所へと戻っていった。

彼らの口から説明された方が、俺が説明するよりも信憑性は上だし、風呂を説明するのに彼らの方が他の村人に分かりやすい言葉で語ってくれるだろう。

使った手桶の整理や、排水口の詰まりを確認し、次に来る人たちを待つことにした。

取りあえず風呂の説明が終わったら俺達の仕事は終わりでいいだろう。

住む家の振り分けは村長やルドラマが決めるとのことなので、村人たちには風呂で疲れを取ったら与えられた家でゆっくりと休んでもらおう。


村人たちが疲れを取り、それぞれに与えられた家で生活の準備をしている光景を見ていると、後ろから声を掛けられた。

「久しぶりだなアンディ」

振り返ると声の主である騎士、ギリアム・スーラウスその人が立っていた。

「ええ、お久しぶりです。まさか隊長さんにあんなところで再会するとは思いませんでしたよ」

「それはこっちのセリフだ。ルドラマ様の隣に立つお前の姿を見た時は驚いたぞ。おまけにこの避難所もほとんどお前が作ったと聞いたぞ?まったく、こんなものを見せられては何が何でもこちら側に引き込んでおけばよかったと今更ながらに思うな」

呆れる風を装ってため息を吐くギリアムだが、その声色はどこか楽し気なものになっていた。

俺もギリアムと久しぶりに会って、懐かしさと嬉しさが顔に出るのを堪えきれずにいるぐらいだ。


「そういえばテオさんとエレイアさんはどうしてますか?隊長さんだけがここに来たということは、護衛隊に同行していなかったのでしょう?」

「あぁその通りだ。あいつらは今は別の任務で別れている。あいつらも騎士団の中では腕利きでな。隊長格ほどではないにしろ、そこそこ忙しく動いているのさ」

そう言えばテオは斥候として優秀だし、エレイアは女性の騎士と言うことで貴人の護衛にはうってつけと、こうして考えるだけで結構な需要があると思わせる。


「あぁそうそう、聞いたぞアンディ。お前、アプロルダを倒したんだってな?何かやる奴だとは思っていたが、まさかそこまでやれるなんてな」

「いや、誤解ですよ。俺が倒したんではなく、策を提示して同行しただけですって。誰から聞いたか知りませんけど、その手の話は誇張されてますから、話半分で聞いてくださいよ」

本当にこの話は誰が盛っているのかわからないが、ヘスニルの街中では俺がアプロルダを仕留めたという話になっているぐらいで、本来の立役者であるコンウェルが否定しないおかげでどんどん酷くなっていく。


曰く、一瞬でアプロルダの巨体を凍結させて倒した。


曰く、巨大な岩山を生み出して圧殺した。


曰く、自分の体の何倍もある巨大な斧で首を刈り飛ばした。


どれも微妙に本当のことが混じっているのが曲者で、話をせがまれた当事者たちが話の全部を否定しないせいか、俺が冒険者たちへトラウマを植え付けるほどの戦い方をしたと思われてしまっている。

おかげでギルドへ行くと、なにか恐ろしいものを見るような目が向けられることが多くなっていた。


「まあ俺も全部が本当だとは思っていないが、それでも倒したことは事実だ。よかったらその時の話を聞かせてくれ」

「構いませんけど、本当に面白い物じゃないですよ?」

話をせがむギリアムに背中を押され、近くにあった食堂へと連行されていく。

まあ俺も久しぶりに会った友人と話をするのは嫌ではないので、多少の楽しさは覚えていた。


「そういえば噂で聞いたが、アプロルダの鱗を食いちぎったってのは本当か?」

あんな硬いものを食いちぎれるわけがないだろう。

噂を鵜呑みにするのはやめてほしい。

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