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世の中は意外と魔術で何とかなる  作者: ものまねの実
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援軍

ワッケインが負けを認めたことで見届け役となっていた団員から他の団員へと結果が伝えられ、これといった抵抗も無く捕虜としての立場を受け入れてもらえた。

そこにパーラ達村の入り口を固めていた人間達も合流し、一応捕虜を捕縛するだけの最低限の人手が揃う。


傭兵団員を穴の中から引き上げていくと、大体の人が俺を見て驚きと疑いの混ざった視線を向けてくる。

確かに団長を倒したのがどう見ても子供の俺であることに疑問を持つのは当然だが、それでも大人しくこちらの指示に従っているのは、俺の横に既に武装解除されて手を紐で縛られているワッケインがいるからだろう。


捕虜となった人たちは騎士たちの誘導の元、少し離れた場所にある街道沿いに作ったカマボコ兵舎(Ver.檻付き)に次々と収容していく。

これを作った時にはルドラマ達はいつも通りだったが、初めて見たワッケインは地面から建物が生えてくるのを見て固まっていた。

それに構っている暇のなかった俺は建物を整えていき、すべて終えてルドラマ達の元へ戻ってくると、胡乱気な目を向けるワッケインと目が合い、理由を尋ねたが何でもないの一点張りで、俺も特に追及することはしなかった。


檻付きのカマボコ兵舎の内部は単純に大部屋だけで、土魔術で硬化した石が檻の目となって各部屋を区切っている。

そこに収容した捕虜たちは全部で15人、怪我をしているため別の場所で治療をしている者が4人、他は行方不明か死んでいる。

実際生きている人数よりもいなくなった人数の方がはるかに多く、フィルニア傭兵団の戦力は壊滅状態と言っても過言ではない。

これをやったのは俺だが、先にジカロ村に手を出したのはこいつらだ。

だから死んだとしても自業自得だと言えるし、今生きている人間も恐らく何かしらの裁きが下されるはずだ。


捕虜の収容を終えると、騎士の一人がセレン達非戦闘員が滞在している野営地に向かい、全員を引き連れて俺達と合流する手はずとなっている。

その間俺とルドラマはワッケインに尋問を掛けることした。

聞き出すのはフィルニア傭兵団を雇った人間とその目的だ。

傭兵団である以上は依頼されて動いたのだろうし、フィルニア傭兵団という一級の傭兵団を雇うぐらいに経済力があり、なおかつ他国に工作を仕掛けるのに意義を見出す程度に地位の高い人物が裏にいるとルドラマは睨んでいる。


「それじゃあ依頼人はわからないと?」

「ああ。代理人から前金と支度金を貰って動いただけだ。恥ずかしい話だが、少し前に運用していた資金に穴が出てしまってな。団の維持に急遽金が必要だったのもあって依頼を受けた」

ルドラマの質問に特に言いよどむことなく応えるワッケインは尋問に協力的な態度をとっている。


「ジカロ村の住民を殺したのは何故だ?」

「そう言われていたからだ。ジカロ村を占拠したのち、住民を全て抹殺しろと依頼されていた。個人的な恨みはない」

まあそうだろうな。

傭兵というのは雇われた兵士に過ぎず、金にならない殺しは基本的にしない生き物だ。

今回ジカロ村の住民を虐殺したところでフィルニア傭兵団自体に得は無い。

となれば傭兵団はただ命令に従ったというのが普通だろう。

だからと言って罪が軽くなるわけではないが。


その後も聞き取った内容は特に首謀者につながるものとは言えず、得られた情報の質はそれほど高くなかった。

ワッケインをその場に残し、外に出て俺とルドラマと数人の騎士で話し合いを行う。

「あまり有益な情報はありませんでしたね」

「まあ期待はしていなかったがな。せめて依頼主の名前が分かれば国を通して首謀者の引き渡し要求ぐらいは出来るが…。とりあえず捕虜はこのまま拘留して駆けつけてくる領主軍に後を引き継いで、王都へ報告と連絡をすればわしらがやるべきことは終わりだ」

既にこの辺りを治めている領主に連絡は行っているのだが、今回は返事を待つ時間を惜しんで俺達が先に動いてしまっているので、これ以上俺達が主導して事を動かすのは領主の顔に泥を塗ってしまうのだそうだ。


次の日は捕虜たちの食事の世話から、怪我人の治療に忙しく動き回っていると、見回りに出ていた騎士が慌てた様子でルドラマの元へと駆けよって来た。

丁度ルドラマと話していた俺も騎士の言葉を聞いてしまった。

「失礼します!森林地帯を通る街道の先でマクイルーパ側から進軍する部隊を確認しました。数はおよそ400、掲げていた旗からマクイルーパ軍第3歩兵大隊だと思われます」

「援軍か?それにしては随分早いな。…よし、ワッケインをここに」

入れ替わるようにして出ていった騎士がワッケインをルドラマの前に連れて来た。

協力的な態度をとっていたワッケインには特に隠すことなく接近中のマクイルーパ軍のことを尋ねる。


「確かに俺達がジカロ村を押さえた後はマクイルーパから援軍が来る手はずになっていた。村側の設備の補強が終わったことを知らせるために、森を抜けた先にある丘の木に布を巻き付けるんだが、俺達はこうして捕まっている。進軍の合図は出していないのに来るのは妙だ」

ワッケインが言うにはもともと後から来る正規軍がジカロ村の占領を引き継ぐ予定だったのだが、フィルニア傭兵団がまるごと捕虜になっている現状を知らずに、連絡がないのを不測の事態と判断した現場の指揮官が直接侵攻を開始したのではないかと言うことだった。


アシャドル側ではイーアドナ男爵が兵を引き連れてジカロ村に着くのはどんなに早くても明後日になる。

その前にマクイルーパ側からの援軍の方がどうやっても先に着いてしまう。

そうなれば兵力に劣る俺達では太刀打ちできない。

仮に俺達がジカロ村に籠って守りに徹したとしても、一日と持つことなく陥落してしまうだろう。

俺が使った策は守りには向かないし、防御設備が完全ではないジカロ村では訓練を積んだ兵士の攻撃には到底耐えられない。


かといって逃げるならせっかくの捕虜を置いて行くことになり、今回の事件の実行犯と言う重要な証拠をマクイルーパに押さえられてしまい、この後の国としての抗議や非難の効力が弱くなってしまう。

『ウチの国の村に攻撃したから謝れ』『こっちは知らない。そういうなら証拠を見せろ』ということになるはず。

一番いいのはジカロ村の占拠が失敗していることに気付いてそのまま引き返してくれることだが、そうなると村の周りを調べるだろうから、俺達の存在に気付いて捕虜の奪還に動き出すだろう。


「それでその援軍はどの辺りまで来ている?」

「それが森を出て少し進んだのち、野営陣地の構築に移っており、その場を動く気配がありません」

それを聞いてルドラマが目を閉じ、腕を組んで考え込む。

だがすぐに目と口を開いた。

「こうしていても埒が明かん。わしが直接赴いて話を聞く。何人か護衛に選んで用意させろ」

「危険ではありませんか?閣下自ら行くなどと」

「こういう場合にはそれなりに地位のある人間が出向いた方が話が早いし、すぐに攻撃される心配も無い」

確かに向こうの思惑としてはあくまでも戦争に発展しない程度の小競り合いで済ませるのが理想なのに、他国の伯爵を殺してしまっては全面戦争に突入しかねない。

そういう意味では確かにルドラマが直接赴くのは重要だろう。


俺達の野営地の前にはルドラマを先頭に護衛の騎士2人と俺の合計4人が馬に乗って出発に備えていた。

「なぜ俺がこんなことに…」

思わず漏れた声に耳ざとく反応したのはルドラマだった。

「仕方あるまい。今この場で一番戦闘能力に秀でているのがお前だからな。護衛の人数が少ないこちら側に手練れを混ぜておくのは不思議ではないだろう。それに子供のお前なら向こうも油断してくれる」

ルドラマの言葉に他の騎士の連中も同意するように頷いているのを見て、どうにも断るという選択肢がないようだ。

諦めて同行を受け入れたが、久々の馬の乗り心地の悪さに俺のストレスは溜まってきている。


未だ普及していないバイクで仮想敵国と言ってもいいマクイルーパの陣地に乗り込むのは流石にまずいとの判断で、俺も馬での移動を余儀なくされたのだが、すっかりバイクの快適さに慣れ切っていたこの体には馬が走るたびに起きる振動や不安定さに改めてバイクの偉大さを認識させられた。

バイクまじパねぇ。




マクイルーパ軍の野営地の入り口に立つと、武装した兵士が出てきて俺達の前に並んで槍と盾を構えて行く手を塞いできた。

「私はアシャドル王国伯爵、ルドラマ・ギル・エイントリアである。我が国にて事前の通告なき軍事行動をとっている貴国の軍隊に対する抗議と、その目的について話をしたい。指揮官への取次ぎを願おう」

ルドラマの上げる声に目の前の兵士たちの間で僅かにざわめきが起こり、その内の一人が陣地内に走っていくのを見送った。

恐らく指揮官を呼びに行ったのだろう。


暫く構えを解かない兵士たちと睨みあう時間が過ぎ、ようやく指揮官らしき男が現れた。

華美な装飾のされた鎧とマントを身にまとい、赤毛の短髪に皺の深く刻まれた険しい顔は偉丈夫といった見た目で、立派な体格と合わさって歴戦の猛者といった風格に指揮官としての威風堂々とした振る舞いは、正直こんな小部隊を率いるのには過剰な存在なのではないかと思うほどだ。


「これはまた随分と大物が出てきたな」

ボソリとつぶやいたルドラマの言葉に、隣に並ぶ俺が反応する。

「知っているんですか?何者です?」

「トルソリウス・フィンブラ。マクイルーパ王国の将軍だ。マクイルーパにいる6将軍の一人だが、巧みな用兵と他を圧倒する武力で王国最強の名乗りを許されている。…お前とどっちが強いだろうな?」

「おかしなこと考えないで下さいよ。今は戦闘を避けて追い返すことだけを考えて下さい。ほら、来ましたよ」


小声で話す俺達の前に、壁となっていた兵士たちが脇に除けることで出来た道をユックリと歩いてきているトルソリウスだが、その後ろには副官と思しき緑色のローブ姿の男性が一人ついてきている。

そんな二人が俺達の前に進み出てきて、馬に乗っている分高い位置にいる俺達を見上げる形で対峙した。


「わざわざ足を運んでいただいた労、まことに痛み入る。私はマクイルーパ王国6将軍が一人、トルソリウス・フィンブラと申す。まずは此度の急な進軍の非礼をお詫び申し上げる。ただこちらも理由なき行動ではないことを理解していただきたい。ついては場を改めて話をしたく、わが軍の天幕にお越し願えないだろうか」

張り上げているわけではないのに強く響くような低い声のトルソリウスの言葉には、敵かもしれない相手の陣地に入る勇気はあるのかという意図が込められており、実に慇懃無礼な物言いに聞こえる。

「それはありがたい。こちらも腰を据えて話をしたい思っていた。であればその天幕で話をしようではないか」

だがルドラマも伊達に伯爵という地位についていないわけで、こんな一種の挑発染みた物言いにも過剰な反応をすることは無く、むしろ相手の思惑に乗ることで余裕を見せつけている。


馬を預けてトルソリウスに先導されて天幕へと向かう。

途中でマクイルーパ軍の人間から向けられる視線は、特に険悪なものではなく、物珍しさが勝っているようなものがほとんどだった。

軍事行動中にしては少し妙な感じがしたが、こういった経験がない俺の感覚が正しいのかわからないため、特に気にすることは無かった。


天幕に通されてまずは型通りの挨拶と、ルドラマからの抗議にトルソリウスが応えるというやり取りがあったのち、本題に突入した。

「アシャドル王国の領土であるジカロ村にて起こった虐殺、その実行犯がそちらの国で依頼を受けて事件を起こしたと既に尋問で明らかとなっている。それについてはどうされるかお聞かせ願いたい」

「その件に関してはこちらもある程度は掴んでいた。フィルニア傭兵団に依頼を出した人物については大凡の見当もついている。まずフィルニア傭兵団員をこちらに引き渡してもらい、それから首謀者を明らかにさせよう」

「臣民の命を徒に奪った輩をただ引き渡すと思うか?」

「無論タダでとは申さん。私の地位と名誉にかけて国からの賠償と謝罪を約束しよう」


こうして聞いてみると、どうも今回の事件は既に収束に向かおうとしているようだ。

今も話し合いの内容はどうやってお互いの矛を収めるかを模索しているように感じられる。

既にフィルニア傭兵団が捕虜となっているのを知っている辺り、こちらの状況もある程度向こうは知っていると見ていいだろう。

つまり後はアシャドル王国はどれだけの賠償を引き出せるか動き、マクイルーパ王国は自国の企みが露呈するのを防ぐためにと動くことになる。

現に今目の前では言葉の刃を使った熾烈な交渉が繰り広げられている。


長時間に渡って続いた交渉によって決まったのは次の通りだ。

フィルニア傭兵団はマクイルーパ王国がその身柄を引き取り、賠償として3000万ルパ、大金貨にして30枚をアシャドル王国に支払い、ジカロ村の再建にかかる費用の一切を負担すること。

さらに首謀者を捕縛したのちにアシャドル王国へと身柄引き渡しの後、正式な謝罪をすること。


そもそもアシャドル王国は一方的に仕掛けられた立場であり、しかも重要な証人を押さえているのもあって、これほどの有利な条件を引き出せたというわけだ。

これらを書面に2枚ずつ書き起こし、お互いのサインと指輪を使った印を押すことで現場で出来る正式な条約となった。

あとはこの書面を突き合わせて両国の外交官同士が細かく条件を付けたり譲歩するなりしていくことになる。


「これでお互いの条件は提示された。後はそちらに捕虜の引き渡しが済んだら、直ちに国外へと退去してもらいたい。よろしいな?」

「承知した。こちらも無駄な戦いを避けられるに越したことは無い」

握手を交わして話し合いは無事に終わり、あとは捕虜のやり取りを残すだけとなった。

預けていた馬を受け取り、俺達は自分達の野営地へと戻ることになる。

明朝をもって捕虜の引き渡しをすることになったのだが、その場所となるのがこのマクイルーパ軍の陣と俺達の野営地とのちょうど中間を指定して来た。

それを確認して野営地へと戻る道を辿っていった。


「それにしても、マクイルーパ王国最強の将軍があんな所に出てくるなんて、どうかしたんですかね?」

「…もしかすると、フィルニア傭兵団が占拠を失敗した場合に備えて、部隊派遣の名目を援軍から討伐隊に切り替えるためかもしれんな。そうすればアシャドル王国からの非難は躱せるし、自軍の派遣の正当性も主張できる」

なるほど、元々フィルニア傭兵団がジカロ村を占拠出来る出来ないに関わらず出張ってくるのに十分な理由を用意していたということか。

トルソリウスであれば少人数の部隊であってもそれなりに結果を出せるという思惑もあったのかもしれない。

「さらに言えばトルソリウスをこんな場所に送り込んできたのは、いつでも自国の最強戦力を動かせるというのを示したのかもしれん」

近くペルケティアとの会議が控えているアシャドル側からすれば、トルソリウスが国境付近に現れては穏やかではいられない。

それを見越しての行動なら実に効果的だったと言えよう。



明けて翌日、特に問題なく捕虜の引き渡しは終わり、マクイルーパ軍に囲まれて護衛されるようにして陣地に戻っていくフィルニア傭兵団の姿を見送った。

それを見ている俺はふと疑問に思ったことをルドラマに聞いてみた。

「彼らは今後どうなるんでしょうね」

「暫くはマクイルーパ王国に飼われる形になるだろう。そこで実績を積めば再び傭兵団としての活動も出来るが、当分先のことになるかもしれんな」

「あれだけのことをしてその程度で済ませるんですか?」

「前にも言ったがそれが政治というものだ。強いものほど簡単に殺さず、いつか使うために飼い殺しにする。その点ではフィルニア傭兵団は間違いなく強者の集団であるからな。それなりの罰は受けるだろうがさほど重いものではないだろう」

そんなものなのだろうか。

俺にはよくわからんが、それが政治的判断と言うやつなら、俺がどうこう騒ぐことに意味はないし、効果も無い。

この何とも釈然としない気持ちはいつか晴れる日が来るのだろうか?

活動報告にも書きましたが、夏風邪で体調がかんばしくないため、復調までは更新はできないのでどうかご容赦ください。

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