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世の中は意外と魔術で何とかなる  作者: ものまねの実
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おっとこのおっとこのロっマっン

季節は冬へと向かいはじめ、人々の服装も寒さに耐えるために徐々に厚手の物が多くなってきている。

この国の冬はあまり雪は深くならないが、寒さは相応に厳しい。

王都の街並みも冬への備えに活気づいている。

あちこちの民家から、家の隙間を塞ぐ為に板を打ち付けている姿が見受けられた。

店で売られている食料品も、長期保存を目的としたものが増えてきている。


現在俺は王都の北西部に広がる職人街へ向かう巡回馬車に乗っている。

さすが王都だけあり、街の広さは半端じゃない。

端から端まで移動するのに1日がかりになるくらいだ。

そのため街の主要道路には乗り合い馬車の定期便が走っており、銅貨6枚を払えば王都内であればどこへでも行ける。


街の区割りは中心の王城を囲むように貴族の居住区があり、東西南北に延びる大通りを境に、北西を職人街、北東を商業区、南東を市民の居住区、南西に研究・学術機関という分布となっている。

これらは厳密な分け方ではなく、居住区内でも店はあるし、学術区内に職人の工房が存在する場合もある。

なんとなくの傾向で分けられているだけなので、貴族街以外は明確な制約が存在しない。

職種別で分けられているのは利用する側からすれば非常に便利で、自然と目的の物を買い求めるのに最適な今の形が形成されたようだ。


今日俺が職人街に向かう理由は魔道具の制作を依頼するためだ。

俺が求める魔道具はあまり一般的ではないらしく、ヘスニルで探していたところ、いっそ作った方がいいと言われたことがあった。

そのため、王都へ来たこの機会を生かして魔道具工房を訪ねてみることにしたのだ。


ヘスニルでは魔道具は売っていても作ってはいないので、一から制作するには王都まで行かなくてはならない。

いくつかの魔道具工房で有名どころをホテルで教えてもらい、丁度折よく馬車の時間とも重なったのでその足で向かうことにした。

今向かっているのはクレイルズというハーフリングの職人の工房だ。


ハーフリングという種族は手先の器用な者が多く、大抵のハーフリングが服飾工房や細工職人として生計を立てる中で、魔道具職人になるのは珍しいらしい。

評判を聞くと腕は悪くないが、とにかく仕事が遅いらしく、客が納品を待てずにキャンセルされることもざらだとか。

ただ、仕事が遅いのには理由があって、彼が作った魔道具は非常に丁寧な作りで、故障が普通の魔道具に比べて圧倒的に少ないため、購入した客からの口コミによって人気は高い。


そんな職人の工房はやはり想像通りの荒れ方をしている。

工房に着いて真っ先に目についたのは、建物の前面左右に乱雑に立てかけられている数十本ほどの金属の棒だった。

他にも魔道具の材料に使われるだろうと思われる、束ねられた何かの生き物の骨らしきものやら何本もの丸太まで様々な種類の、ガラクタとしか思えないものが置かれている。

盗難防止だろうか、置かれているものにグルグルに鎖が巻かれており、頑丈そうな鍵付きで建物に固定されていた。


乱雑な荷物の山の中で、かろうじて見えているドアをノックして来訪を告げる。

だが返事がない。ただの留守だろうか。

そう思ってドアの取っ手を押してみると、抵抗なく開いてしまった。

開いてしまったものは仕方ない、中の様子を窺うついでに、この不用心な工房の留守番をしてやろう。

そう自分に言い訳をして中に入っていく。


内部は工房兼店舗らしき造りで、部屋中央に長テーブルが置かれていて、そこで向かい合うように椅子が4脚あり、筆記用具と紙の束が置かれている。

おそらくここで注文を聞いたり打ち合わせをしたりしているのだろう。

奥のほうにはドアがあるが、その先は生活空間となっているのだろうか?

半開きのドアからは微かに物音が漏れ聞こえてきた。


ソッと覗くと、その室内では机に向かい、何やら作業をしている小柄な人影があった。

彼がクレイルズだろうか。

作業に没頭して来客に気づかなかったのかもしれない。

作業部屋のドアの前に戻り、強めにノックする。

流石に今度は気付いた様で、作業の手を止めてこちらを振り向いた。


「んむ?…おや、お客さんだね」

初めてハーフリングを見たが、本当に子供みたいな容姿だ。

伸ばし放題の赤髪を頭頂で一纏めにしたパイナップルのような髪型が特徴的だが、顔立ちは普通の子供と同じだ。

灰色のつなぎ姿でこちらに近づき、名乗りを上げる。


「いらっしゃい、僕はここの工房の主のクレイルズ。ウチに来たというとは魔道具の制作依頼だね?こっちへどうぞ」

ドアを出て店舗部分へと向かい、打ち合わせの席に着いた。

対面の席を勧められて、話を始めた。

「どうも、俺はアンディと言います。制作依頼と言えばそうなんですが、クレイルズさんが制作可能なものかわからなかったので、とりあえずまずは相談からと思いまして」

中々失礼な言い方になってしまった。

俺の言葉は行き成り店にきて『こんなのが欲しいんだけどお前に作れるのか?』と言っているのと同じだからな。


案の定クレイルズの目がスゥっと細まり、次いで口元に笑いが浮かぶ。

こんなことを言う客は珍しくないのか、面白いものを見つけたと言わんばかりの顔をしている。

「ウチは規模は小さいけど制作の腕はそれなりだと思っててね。時間はかかるんだけど、必ず客の満足のいくものを作ってきた自負はあるんだよね」

言いながらテーブルの上の紙を広げ始め、製図の準備に入る。


暫く紙に書き込む音だけだ響いていたが、それが止むと俺の目をしっかりと見て依頼の内容を聞いてきた。

俺が形状から機能まで細かい要望を出し、クレイルズが素材と費用を説明しながら図を描いていき、それにさらに要望を重ねていくというブラッシュアップを重ねていくと、気付けばすっかり昼となっていた。


「大体の完成形はこんな感じだね。ただ、僕から一ついいかい?確かに普通のよりも車輪の数を減らしたら少ない動力で動かせるだろうね。けど、縦に並んだ車輪が2本だけで走れるとは思えないんだけど」

設計図に書かれたバイクの形をした乗り物に疑問の声が出される。

「そのあたりはご心配なく。コツはいりますけど、慣れると意外と走れるもんですよ」


こっちの世界でも馬の要らない魔道具の馬車、魔道車という発想はあったのだが、人が乗った馬車を動かせるだけのパワーを生み出す動力の問題がいつもつきまとい、また費用対効果の面でも魔道車の開発は進展しなかった。


クレイルズから聞いた話だと、魔道車の駆動方式で主流なのは、魔石で強力な風を起こし、車体に張った帆を風で押して進む、陸上版の船のようなものだそうだ。

しかしこれだと向かい風の中では進めず、小回りも利かない。

足が遅くて操縦も面倒、なら馬の方がいいだろうということになってしまう。


だが今回俺の作ろうとしているのは現代のバイクそのものだ。

運転方法から形状まで忠実にバイクを再現している。

フォルムは特にこだわって、見た目アメリカンなバイクを作るつもりだ。


馬も悪くないが、速さで言ったらバイクに軍配が上がる。

運用も俺の魔術を使うことで、浮かび上がる問題のいくつかをクリアできると考えた。

悪路の走破性を考えたらオフロードバイクが適しているんだろうが、荷物を積んで走る必要もあるので、自然と大型になっていき、それなら男の憧れの形で行こうとなった。


大体の話を終えて、動力の問題に移るとする。

これに関しては俺からの提案で、ちょっとした実験を見せるために、クレイルズに言って材料を用意してもらう。

磁石と銅線と鉄心だ。

銅線は無かったので、俺が銅板を雷魔法と土魔法で成型して作った。

その光景を見て驚いたクレイルズに質問攻めにあったが、そういう魔術だと言ってシャットアウトした。


今回行うのは小学校の実験並みに簡単なものだ。

コイル状にした銅線を巻いた鉄心に触れないよう隙間を開けて磁石を挟んで配置する。

もちろんしっかりと整流子も再現する。

簡単ではあるが、電磁力で回転の得られるモーターの完成だ。


これでも学生の頃は科学に夢中になったものだ。

今でもこれくらいの物はなんとかなる。


今回作ったのはあくまで実験用の小さなものだったが、この規模を大きくすれば魔道車を動かすのに十分なものになる。

あとは歯車を使って力を増幅していけばいい。

これで動力の問題は解決できる。


一つ一つ説明をしながら工房のありあわせの材料で作ったモーターを動かしてみせるとクレイルズが食いつき、先ほどから興奮した様子で観察し続けている。

今のところ電気を作れるのは俺だけなので、モーターの回転が落ちてくるとクレイルズがいちいち発破をかけてくるのが面倒くさい。


「アンディ、これは面白いね。正直、何でこれで動くのかよくわからないけど、これなら動力としての性能は期待できそうだね。あぁー!ほら、回転が落ちてきてるよ!もっと速く速く!」

回転数は確かに落ちたが、充分な大きさがあれば魔道車を動かせるだけの力はある。

そのことを何度も説明したが、それでもクレイルズからしたら全く新しい技術の形に魅せられたのだった。


その後はクレイルズからの質問に答えて、大雑把な仕組みを紙に書いて渡すと鼻息荒く読み耽っていた。

他の作業を止めて俺の依頼に集中するので、1週間後にまた訪ねてくるように言われた。


用の無くなった工房を後にして馬車に揺られてしばらく行くと、見えてきたのは王都の冒険者ギルドだ。

同じ組織だけあって建物の形は支部と本部で共通したものとなるのだろうか。

大きさ自体はヘスニルの物と同じか少し大きい位だが、建物の古さにより歴史の重みを感じることができる。


さて、今回俺は王都の冒険者ギルドでやらなければならないことがある。

そのための準備をしてきた。

来る途中の古着屋で買ったいい具合にくたびれた質素な服に着替えた。

ヘスニルの冒険者ギルドではできなかった、『新人冒険者イビり』をこの王都のギルドでやるのだ。

やはりあれをやらずして異世界冒険者は始まらない。

ここなら俺のことを知っている人もいないし、人口の多い王都なのだから絶対にガラの悪い人間はいるはず。


早速中に入ると、やはり中の構造はどこも共通なのか、ヘスニルと似通っている。

窓口と掲示板にフードコートと馴染みのある内部に、なるほどこれならどこのギルドであろうと混乱せずに利用できるだろう。

ついそれに感心しながらキョロキョロしていると、併設のフードコートから2人の冒険者風の男達が近づいて来た。

横目で見るとニヤついた顔を隠さず、こちらに向かって歩いてくる様はまさにチンピラといった風体か。

新人イビリをやるぐらいなのだから、冒険者としては行き詰っているのかもしれない。


―釣れた。

つい心の中でつぶやいた言葉に、笑いが顔に出ないように注意しながら、なるべくお上りさんの新人冒険者の雰囲気を維持する。

そうしていると、遂に男たちが俺のすぐ横にたどり着いた。


「よぉ坊主、おま―」

「アンディ!アンディじゃねーか!お前も王都に来たのか!」

先ほどのチンピラ冒険者の声を遮って話しかけてきたのは、ヘスニルで何度も俺をパーティに勧誘してきた赤髪モヒカンの鬼人族、オルムだった。

またしても俺の夢は破れた。


こんな厳つい男で、なおかつベテラン凄腕と思われる冒険者の知り合いに難癖をつけるほど彼らはバカではなかったようだ。

明後日の方向を向きながら口笛を吹いて立ち去るという誤魔化し方はいっそ清々しい小物っぷりだった。


「ん?今の奴らは知り合いか?だとしたら悪かったな。ついお前を見つけて嬉しくなっちまってよ」

「…いえ、彼らは別に知り合いではありませんよ」

正直、俺の楽しみをつぶしてくれたオルムに思うところはあるが、まさか絡まれるのを待ってましたとは言えず、やり場のない感情を持て余しそうだ。

ああ…、やっぱり俺は異世界テンプレを楽しめない星の下にいるんだなぁ。


オルムは王都には依頼で滞在しているだけで、暫くしたらヘスニルに戻るのだそうだ。

しばしの談笑の後、オルムは用事があるということで立ち去って行った。

後に残された俺はベテランのオルムと親しく話が出来るなんだか凄い奴認定されてしまい、遠巻きに見ている人達にちょっかいを掛けられることもなくなり、結局依頼を見ることなくギルドを後にした。

無念。


今日はもう何もする気が起きず、ホテルへと帰ってくると、ロビーで呼び止められる。

「おかえりなさいませ。アンディ様宛にお手紙を預かっております」

手渡された手紙にはしっかりと封蝋がされているが、そもそも俺に紋章の見分けがつくわけがないので、素直に送り主を聞くと、エイントリア伯爵家からとのこと。

部屋に戻ってから開封すると、明後日に伯爵家を訪ねて来いということを大袈裟に書いてある。

普通に家に来いっていうのも長々と言葉を飾らなきゃならないとは、貴族ってのも大変だな。

俺みたいなタダの冒険者に出す手紙なんてもっと大雑把でもいいと思うけどな。


約束された日に伯爵家を訪ねると、応接室に通された。

出されたお茶を楽しみながら待つと、ルドラマが現れる。

「すまんな、待たせたか」

「いえ、それほどは。早速で恐縮ですが、今日の呼び出しの用件はなんでしょう?」

対面のソファーに座ったルドラマが手に抱えていた書類の束の中から1枚の紙を取り出す。

ハガキ大のそれを俺に渡し、話を始めた。


「来週、マクシムのお披露目パーティを執り行う」

これまた急だな。

招待状の作成・送付にかかる時間を考えて、1カ月は先だと思っていたが何か早まる要因でもできたか?

ちょっと仕掛けてみるか。

「随分と急ですね」

「それだけの理由があるということだ。…知りたいか?」

そう言って疲れた目でこちらを見てきたが、それだけで何となく想像ができた。

「むしろ、当てましょうか?王族かそれに連なる身分の方が急遽参加を希望してきた」

ルドラマがニヤリと笑ったところを見ると、どうやら正解のようだ。


「当たりだ。…まったく、よくそこに考えが至るものだ。参加を打診してきたのは第2王子のティニタル殿下だ」

現在この国では第1王子と第2王子の王位継承権争いの真っ最中らしい。

第1王子のガレアノスは内政に長けた手腕で王国の官僚たちから支持されており、ガレアノスが王位に就けば国の発展は間違いないと言われている。

反対に第2王子のティニタルは軍事方面に強く、本人が近衛隊の指揮権を持ち、軍人に受けもいいため、ティニタルが王となればアシャドルは軍事的に強い国となるだろう。


どちらも王としての資質は方向性は違えど十分なものを備えているため、派閥の勢力は見事に拮抗しているとのこと。

「しかし、それだと国は荒れませんか?どちらも王になり得る器なら、最後は殺し合いになりますよ」

古今、王位継承権争いというのは互いの勢力の削り合いから始まり、暗殺合戦を経て内戦へと突入するというのが往々にしてある。

今回もマクシムのパーティに出席することで、エイントリア伯爵家との親密さをアピールするとともに、まだ社交界に不慣れなマクシムを取り込むことで、伯爵家を自分の側へと引き込もうというのだろう。


「いや、それは無い。絶対に無い」

きっぱりと断言するルドラマに理解が出来ず、その先を促す。

「ふむ…、少し言葉が抜けていたな。王位継承権争いとは言ってもどちらが王位に就くかの争いではないのだ。この問題の面倒な点はな、両殿下ともが自分が王位に就きたくない・・・・・・というところにあるのだ」


話をまとめると、ガレアノスは自分の能力は宰相として最も生かせると判断して、弟のティニタルを王位に就けて自分はその補佐に回ることが一番国のためになると考えている。

一方のティニタルは軍人としての働きこそが己の生きる道として信じているため、兄に王を任せ、自分は前線に立ち王国の剣・盾として生きるのが相応しいと思っている。

つまり、どちらも相手を王にしようと動くので、命を狙う段階まで発展することはありえないのだ。


「…率直な感想ですが、えらい面倒な話ですね」

「わしを含めて政に携わる皆がそう思っとる」

知らずお互い溜息を吐いてしまう。


それぞれの王子の後ろ盾となっている貴族としても、まさか対抗する相手を王位につけさせるための工作を練る必要があるとは、予想の斜め上過ぎて逆に考えつかないのだろう。

これは面倒な話ではあるが、国としては2つに割れる心配が無いという点においては平和的な結末を望めるはずだ。

ただ恐らく歴代の王位争いに比べ、今代は最も珍妙なものとして歴史書に記されるのは間違いない。


「問題はパーティを開く場所だ。当初の予定ではわしの屋敷で開くつもりだったが、参加の礼にティニタル殿下が王城の一角を開放するとおっしゃられた」

確かに王子がパーティに参加するとなると警備やら何やらで伯爵に一気に負担が増える。

それを考慮して王城でのパーティ開催を提案してきたのだろう。


「別によろしいのでは?それならルドラマ様の負担がかなり減りますし。いいことではないですか」

だが俺の言葉にルドラマは苦い表情を浮かべている。

何か王城でパーティを出来ない理由でもあるのだろうか。

「わしの負担は確かに減る。だが、それではマクシムが可哀想でな」


どうやらマクシムは今回のパーティに俺を招待する気だったらしく、先程ルドラマから手渡されたのはそのパーティの招待状だった。

しかし、急遽開催場所の変更により、貴族の身分にない俺の参加は不可能になった。

そのことをマクシムに告げられず、困っているようだ。

マクシムが一人で初お披露目に臨むのに俺がいたらいくらか気が休まるとは思うが、徹底した偽造が出来ない限り、身分の壁はどうしようもない。


「分かっているとは思うが、国内での身分の偽造は王国法できつく罰せられる。わしも手を貸せん」

先を読まれてしまい、ますます打つ手はないな。

残念だが今回は諦めてもらおう。


そう言おうとして、ふと思いついた。

確か王国法では貴族の身分を偽るのを禁じているが、それはあくまでも調べてみて判明したらの場合だ。

なら調べようのない身分を用意すればいいんじゃないか?

「ルドラマ様、王国法で禁じられている以外の方法で身分を偽った場合はいかがでしょう?」

「同じことだ。貴族でないものが貴族と名乗るのは許されていない」

だがそこに抜け道がある。


「俺の身分を他国の貴族として扱えばいいんです。王国法に引っ掛からない身分、つまり他国で貴族でありながら貴族ではないものです」

俺の言いたいことが分かってきたのか無言で先を促す。

「今回のパーティにはたまたま伯爵家を訪れていた遠い国の人間が招待される形にします。その国では貴族ではなく、『武官』という公的な身分を与えられた遊歴の男ということにしましょう」


王国法では貴族と偽るのは許されていないが、遠い国の貴族的な立場の武官として偽ってはいけないという法は記されていない。

そもそも厳密には貴族ではないのだから。


もちろん、精査すれば罪に問われることにはなるのだが、今回のパーティに参加するだけの、今後表に出てこない『武官』の男が一度だけ現れる。

その男こそが変装した俺というわけだ。

屁理屈もいいところだが、この男を探ろうとするならパーティが終わってからになるだろうし、その時には件の男は姿を消している。

罪の追及もしようがない。


説明していくとルドラマは訝しそうなものからだんだん面白そうな顔に変わっていき、そして俺の案は許可された。

このルドラマという男は伯爵としての立場から法律を破ることは厳格に許さないが、王国の不利益にならない程度に抜け道を使う分には面白がって煽るような気がある。

これも為政者として清濁併せ呑む気質を持ったルドラマならではの在り方か。


「それで、変装するとは言うがどうする?お前の身長を誤魔化す必要はあるが、なによりも顔をどうするつもりだ。覆面で覆っていては城には入れんぞ」

顔を隠している不審者を城に入れるバカはいないだろう。

しかし顔がわかっていれば、どこかで俺の嘘が露呈してしまう恐れがある。

なので、顔を隠さずに隠すという、とんちの効いた解決策が必要だ。


「そこは考えがありますので、ご安心を。ともかく、パーティ当日ギリギリまで準備に追われることになると思いますので、マクシムにはルドラマ様から説明しておいてください」


早々に伯爵邸を後にし、街中を駆け回る。

必要な道具と加工できるだけの腕を持った職人を探し、ルドラマから支給された準備のためのお金で超特急で加工してもらう。

結局すべての準備ができたのはパーティの前日の朝だった。

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