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世の中は意外と魔術で何とかなる  作者: ものまねの実


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『頂戴する』んだ。これ業界用語

コット達の鍛錬指南役を引き受けてから暫く経った。

冬の寒さのピークとも言える時期も過ぎ、寒さが和らぐ日々に春も遠くないと思えるようになってきた。


あれから毎日走り込みを続けたおかげでコット達も体力がかなりついてきたようで、最近はフルマラソンばりに走り続けても大分余裕を見せるようになっていた。

模擬戦を行っても、一対一なら俺達にはまだまだ勝てそうにないが、三対一での戦いならかなりいい勝負をするようになってきている。


前衛中衛後衛と、それぞれの役割に応じた戦い方を洗練させていくコット達は、数か月前と比べると別人と呼んでいいほどに成長を遂げたと言っていいだろう。

三人で組んで戦うのにもかなり慣れてきた最近は、一人一人が個人の地力を伸ばす方向で模擬戦を重ねている。


ドネンは既にパーティの壁役としての役割を全うするのに十分な思考と実力を備えているし、コットも中衛としての立ち位置を理解した動きは随分と心得たものだ。

シアの方は、元々優れていた弓の腕前に加え、懐に入られた際の近接戦闘の技術も身に付いたことで、パーティ全体で見る戦闘能力はバランス良く向上したと言える。


正直、黒級のレベルを超えて戦える人間を育て上げたという自負はあるが、それにしてもちょっとダーティな方向に強化した気もしている。







「オラオラァ!」


俺とコットのタイマンでの模擬戦を開始してすぐに、持久戦を捨てて速攻で距離を詰めてきたコットは、リーチの差を生かした攻撃で仕掛け、それを俺は剣での小回りが利く戦い方で捌くという展開が続いている。


出会ってすぐの頃のコットとは比べ物にならないその槍捌きに、本当に強くなったと感心するが、時折足元の泥を蹴り上げての目潰しを仕掛けてきたたり、槍を囮に俺の剣を奪いに来るなどクレバーな手を多用するようになったのは、俺とパーラがそういう戦い方を見せすぎた影響からだろう。


槍使いとしての実力は大分上がったし、そういう小狡い技を使うのに躊躇しなくなった今のコットは、非常に手強い相手として成長していた。

俺が仕掛ける目潰しなんかも十分に警戒されているため、自然とお互いに正攻法での攻防に比重が移っていく。


コットの使う槍は模擬戦用の刃引きされたものだが、重量は本物と遜色ないため、剣で受ける時の衝撃は激しいものになっている。

防戦一方のように見える俺の姿に、コットもテンションが上がりっぱなしのようで、叫ぶように声を上げてさらに攻撃の手を加速させた。


「どうした!アンディ!守ってばっかだなオラァ!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

「言っとけ!そんな手数だけを増やしても無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」


コットの槍は一撃一撃に力を込めて振るえば重さは増すのだが、今のように連続での攻撃となれば、どうしても一発あたりは軽いものになる。

鋭さはそのままでも、軽くなった一撃を剣で弾くのは難しいものではないため、こうして拮抗状態を生み出せているというわけだ。


槍と剣が激しく撃ち合う音が辺りに響き、俺とコットの周りは舞い上がる雪でまるで吹雪のような光景が出来上がっていたが、それもすぐに終わりを迎える。


今俺達が使っている武器は、イムルの伝手でギルドからレンタルされているもので、ここしばらくの間ずっと使い続けていた。

手入れは勿論していたが、それでも想定より酷使しすぎたのか、かなりガタが来ていたらしい。


それまでとは一風変わる、ガギンという重く鋭い音が辺りに響き渡る。

ラッシュの最中、剣とぶつかった槍の穂先がちぎれた際にあげた断末魔の音だ。


一瞬にして真上へと吹き飛んでいった槍の一部を見送ったコットが攻撃の手を止め、俺も槍の柄を一度叩くだけですぐに剣を引き戻し、放物線を描いて遠くへ行く穂先を目で追う。


武器の喪失で決着という、締まりのない終わりとなったが、これが実戦なら俺の剣がコットを刺して全てが終わりとなるわけで、この模擬戦も一応俺の勝利ということになる。



「はぁ~…ちょっと無茶させ過ぎたか」


ただの棒と成り果てた槍を目線の高さに持ち上げ、溜息を吐くコット。

この溜め息の正体は模擬戦に負けたからではなく、壊れた槍の弁償についてのものだ。


ギルドからのレンタルということになっている模擬戦用の武器を壊してしまった以上、当然ながら弁償の義務はある。

幸い、模擬戦用の武器は既に古くなった武器を加工するか、鍛冶見習いが練習用に作る程度の物であるため、値段がそれほど張らずに済むのは救いだろう。


ただし、今のコット達は前に負った怪我の治療費と冬の間の生活費でカツカツであるため、痛い出費となることは間違いない。

恐らくコット達が槌猪によって負わされたトラウマも、自信をつけた今ならば克服できると思うので、じき春になって依頼の数も増えたら、その報酬で賄ってもらいたい。


「ちょっとちょっとー。今の私達はあんまりお金ないんだから、余計な出費には気を付けようって言ってたのコットじゃない。これ弁償でしょ?なにやってんのよ、もう」

「仕方ねーだろ。別にわざとやったんじゃないし、それに武器も結構ガタきてたんだからいつかこうなってたって」

「そりゃあわかるけどさぁ…」


シアがこちらへと歩いてきながら呆れた口調でコットに話しかけるが、返すコットの言葉に自分の腰に提げた弓へと視線を落とす。

たった今壊れたコットの槍もそうだったが、弓や剣なんかも同様にかなり傷んではいる。


イムルから借りた模擬戦用の武器は予備もあるにはあったのだが、その後に訓練場で使う分が足りないからと返却を求められたため、今ある武器だけで今日までやってきたツケがたたったようだ。


「まぁまぁ。コットさんの槍が壊れたのは俺も多少の責任はあるし、弁償には俺も幾らか出すからその辺で」

「マジで!?おぉ、感謝っ…!圧倒的感謝っっ!神はここにいたっ!」


随分安い神もいたものだ。

割り勘を申し出た俺に暑苦しい礼を言うコットが少々うざいが、調子に乗ってラッシュを仕掛けた責任も多少はあるので、それぐらいはしてもいいとは思った。


「ただし、イムルさんには叱られると思うから、それはコットさんが担当な」

「神は死んだ…もういない」


普通に考えて、借りたものを壊したのだから小言ぐらいはあるだろう。

よっぽどイムルに怒られたくないのか、分かりやすい反応で膝を屈するコットを放置して、シアとともに焚火に当たりに行く。


「それにしても、コットとアンディ君の戦いは相変わらず賑やかねぇ」

「いや、俺は別に騒いでるつもりはないんだけど、コットさんがいっつもうるさいから自然と、ね」

「そう?なんかさっきの無駄無駄言ってる時のアンディ君は結構楽しそうな顔してたけど」


…まぁ確かに、成長したコットと魔術抜きでやりあうのが楽しかったのは否定しない。

元々人を育てるということにさほど興味があったわけではないが、いざやってみると、この手で鍛え上げた相手との闘いは妙な高揚感があった。


思い返すと何かやらかした感はあるが、別段恥じることではないので、気にしないでいいだろう。

そう、たとえ俺の横を歩くシアからニヤニヤとした顔を向けられていても、決して気にしてはいけない。


焚火のあるエリアへと到着すると、そこには俺達のためにお茶を温めてくれていたドネンの姿があった。

口数は多くなくとも、こういう気配りが出来るドネンはまじイケメン。

無言で差し出されたカップを受け取り、湯気の立ち上るお茶をすすると胃の中からジンワリと広がっていく温かさに安どのため息が漏れた。

春が近いとはいえ、まだまだ寒い体には温かい飲み物がよく沁みる。


コット達の仕上がりは上々だ。

本人達が望んだ強さに届いたか俺にはわからないが、トラウマを作った原因である槌猪を倒すのであれば、十分な実力が付いたはずだ。


俺は精神科医ではないのでトラウマの克服方法をそう多く知っているわけではないが、トラウマを植え付けられた相手を倒すことで克服できるというのは聞いたことがある。

元々コット達も重度のトラウマ持ちというわけではないので、恐らくこのやり方でいけるはず。

とはいえ、槌猪も活動を始めるのは冬が終わってからなので、もう少し鍛錬を積ませて勝率を上げさせてやりたい。


そう考えていると、疾走するバイクがこちらへ向かっている姿が焚火越しに見えた。

バイクを運転しているのはパーラで、ここにいる全員の昼食の調達を頼んでいたのだが、妙に速度を出して走っているのが気になる。


「パーラちゃん、随分飛ばしてるけどなんかあったの?」

「さあ?」


俺と同じことを感じたシアもカップ片手に迫るパーラを見ているが、シアが一番最後にパーラと会話をしていたはずなので、彼女が分からないということは街の方で何かあったということだろう。

俺達の下へと辿り着いたパーラはせかせかとバイクから降りると、こちらへと駆け寄ってきた。


「おかえり、パーラ。昼食は買ってきたか?」

「ただいま。ちゃんと買ってきたけど、それより面白い話仕入れてきたよ。…シアさん、コットさんは?」

「コットならあっちの方でうなだれてるけど…。何?面白い話って私達に関係すること?」

「そうそう。だからコットさんも呼んできてくれる?昼食食べながら話すから」

「わかったわ。じゃあちょっと待ってて」


若干興奮気味のパーラがコットを呼ぶように言い、それを待つ間パーラの買ってきた食べ物を木箱の上へと並べていく。

サイドカーから取り出した籠の中からは見慣れたものが出てくる。


「なんだよ、またハンバーガーか。ここ最近こればっかだな」

「いいじゃん、おいしいよハンバーガー」

「いやそりゃ美味いのは分かるけどよ、お前に食い物買いに行かせるといっつもこれだ。たまには違うのが食いたいよ」


俺が昼食を買いに行く時は毎回飽きないように違うものを選んでいたのだが、最近はパーラが買い出しに行くことが多いため、自然とハンバーガーを昼食にする日が続いていた。

もしかしてローキスからキックバックでも貰ってんのかと疑ってしまう。


ちなみに昼食代は全員が割り勘で出すことになっているので、あまり高い料理を買わないようにしているため、このハンバーガーのセットは安くて美味いとコット達に好評ではあった。


「だってコットさん達がこれ好きだって。毎回でもいいって言ってたもん。ドネンさんだって好きだよね?」

「…ああ、ハンバーガーはうまいからな。俺は毎回これでもいい。ただ、アンディの言いたいことも分かるし、次は違うのを買ってくることも考えるといい」


口を尖らせてそう言うパーラは、薪を割いていたドネンにも同意を求めると、珍しく饒舌に語るドネンに、俺もパーラも少し驚いた。

寡黙なキャラが時々よくしゃべると、不思議と聞き入ってしまうのは世界の真理だ。


「お待たせ―って変な雰囲気ね。なんかあった?」


レアな場面に出会ったことで言い合いも忘れて呆けていた俺達だったが、コットを連れて戻ってきたシアの声で意識を戻し、たった今あったことを話す。


「あはは、確かにドネンは普段あんまし喋んないから急にいっぱい話しだしたら驚くよねぇ」

「まぁこいつもハンバーガーを気に入ってるから、これから食べれるって思ったら口数も増えるってもんさ。それよりも、パーラ。俺らに話すことがあるんだろ?飯食いながらってことだし、早速食おうぜ」


言われて空腹感が増した俺達は、それぞれ自分の分を手にしたら早速かぶりつく。

先程飽きたようなことを言いはしたが、やはり相変わらずローキスの作るハンバーガーはうまいもので、当然文句など言うことなく食べ進めていく。


そうしながら、パーラが持ち帰った面白い話というのを早速聞いてみた。

ハンバーガーを頬張りながら語るパーラの話は正直聞き取り辛かったが、とりあえず食べるのが一段落するのを待つと大分聞き取りやすくはなった。


「ングン…で、いつものように、昼食を買いにびっくりアンディに行ったわけよ、私。そしたらそこに昼を摂りに来た冒険者がいてさ、その人達が話してたのを偶然聞いちゃったんだけど、なんと、槌猪を見かけたらしいの。この時期によ?」


槌猪という言葉を聞き、一瞬表情が険しくなるコット達だったが、すぐに気を取り直して再びパーラの話に耳を傾ける。


「その後ちょっとギルドに寄ってイムルさんに聞いたら、確かに槌猪の目撃情報は一件だけあるらしいのよ。でも槌猪が活動するにはちょっと早すぎるから、調査してみてその結果次第で討伐依頼をだすかもって」


冬が終わりに近付けば活動を始める魔物も出てくるのだが、それも例年ならもっと先のことだ。

雪が解け切っていない時期に魔物が出てくるとなれば、何か普通ではない原因があるのかと考えるギルドが調査に乗り出すのはおかしくはない。


へスニル周辺ではあまり見かけることのない槌猪だが、討伐を依頼するなら黒級上位から白級下位のランク帯が当たることになる。

黒級下位のコット達が槌猪の討伐に挑むことはまずできないが、正直この機会を逃したくない俺としては、少々荒療治ではあるがトラウマ克服のためにも槌猪の討伐をコット達の手で成し遂げさせてやりたい。


「パーラ、その討伐依頼はいつ頃掲示板に出ると思う?」

「うーん…調査で二日かかるとして、早いと四日もすれば出てるんじゃない?」

「意外と早いな」

「いや、あくまでも私の予想だからね?もしかしたらもっとかかるかもしれないし、逆に早まるかもしれないよ」


そうは言うが、俺もパーラと同じ見解だ。

この季節、暇な冒険者が多いため、斥候職による調査は人員を集めやすい。

あまり槌猪の生態に詳しくない人間であっても、数を揃えて二日・三日かければ十分な情報は集められるだろう。


「いや、大体そんなもんだろう。コットさん、そういうわけなんだが、あんた達はどうしたい?」

「…どうって?」

「槌猪の討伐、やってみないか?」


言った瞬間、コット達は揃ってギョッとした顔を見せた。

まるで考えていたことを言い当てられたような、そんな顔だ。

先程から黙り込んでいたコット達の様子から、その心境を読むことは簡単であった。


「そりゃあこの手で倒せるならそうしたいさ。そのために強くなりたかったんだからな」

「私もコットと同じ意見だね。ドネンもそうでしょ?」


シアの言葉に、頷くことで応えたドネンを含め、三人が槌猪討伐の意志を示す。

これまで口にこそしてはいなかったが、コット達の態度からはいつか槌猪を倒すという意気が感じられていた。


「けど俺達に討伐は無理だ。いや、やれるかどうかの話じゃなくて、槌猪の討伐依頼を受けられるランクが足りてないだろ?確か槌猪の討伐基準は黒一級以上だって聞いたぞ」


コットの言う通り、調査次第で槌猪の脅威度が黒二級相当と結論付けば、黒四級でも槌猪の討伐依頼を受けるのはギリギリ可能だが、恐らくは白級のランク帯で募集されることになるだろう。

だが、それは普通に依頼を受ける場合の話だ。


「まぁ確かに。けどそれはあくまでも依頼を受けて討伐するとすれば、だ。それ以外の方法なら問題はない」

「と言うと?」


俺が何を言いたいのかよく分かっていないコット達は、首をかしげて次の言葉を待つ。

戦いの時だけではなく、こういう場面でのクレバーな思考はまだまだのようだ。


「要は、コットさん達は街の外に出て、たまたま調査隊と同じ道をたどり、たまたま遭遇した槌猪を討伐する、という偶然に恵まれるってわけ」

「……ん?それっていいの?調査隊の後をつけて横から獲物は掻っ攫うってことじゃない?」


気付いたか。

シアの言う通り、実際他人の成果のおいしいとこだけを頂くということなので、正直褒められたことではない。


「そういう言い方はよくない。掻っ攫うんじゃない、『頂戴する』んだ。これ業界用語」

「アンディなに言ってんの?」


パーラの突っ込みを無視して、コット達の様子を伺ってみると、やはりあまり乗り気にはなれないようだ。

横取りというのは冒険者をやってく上で一番嫌がられることなので、コット達の心情は分からんでもない。

なので、このやり方が嫌だというのなら強制はしない。

大事なのはコット達の意志だ。


そしてその意志は、俺の策に乗ることを選んだらしい。


「その案乗るぜ、アンディ。槌猪はいつか倒すって決めてたんだ。今やらないでいつやるってなもんよ」

「ええ。調査隊の人達には悪いけど、こっちの都合を通させてもらいましょう」

「…同感だ」


やる気に満ちた目で俺を見てそう宣言する三人に、俺も頷きで応えた。

そうと決まれば早速ギルドに向かってイムルに調査隊の出発予定を聞き出したい。

ただし、コット達が槌猪を横から頂戴することは言わないでおく。

これはもしコット達のしたことがギルド側にバレた時、イムルにまで追求が行かないようにという配慮からだ。

言い出したのはシアだったが、なるほどその通りだと納得させられた。









「調査隊ならもう編成も終わってるし、食料の手配が済む明後日には発つわよ。…なんでそんなことを?」

「あぁいや、ちょっと気になったもので」


思ったよりも早い。

イムルから聞いた出発日は、俺達がこれから準備を始めてもギリギリ間に合うかどうかというほどだ。


受付を離れてフードコートへと場所を移す。

コット達と頭を寄せ合い、今後の動きについて話し合う。

やや声を潜めてしまうのは、多少のやましさのせいか。


「明後日とはまた随分と急だ。コットさん、明後日までに準備を終えて出発ってのはできそうか?あぁ、俺達の方は問題ないからそっち目線でな」

「まぁ俺達は食料と防寒具を手配すればいいだけだから、出来るっちゃあ出来るな。シア、頼んでいいか?」

「了解。じゃあいつものとこに頼んでくるわね」


コットに頼まれたシアがテーブルを離れ、急ぎ足でギルドを出ていく。

それを見届けてから俺とパーラへと向き直ったコットは、真剣な顔で口を開いた。


「なぁ、アンディ。槌猪の討伐なんだけどよ、俺達だけの手でやらせてくれねぇか?」

「…理由を聞かせてもらっても?」

「我が儘だよ、俺達のな」


俺としては槌猪の討伐に着いて行く気満々だったのだが、当事者ともいえるコットに断られるとは少し驚いた。

ただ、驚きはしても納得もできてしまう。


「お前らのおかげで、俺達も強くなったという自信がある。だからこそ、俺達だけの力で槌猪を倒したい。正直、お前らが一緒に来てくれるのは心強い。だから、その時になったら多分頼っちまうかもしれないんだ」


なるほど、確かに我が儘と言うだけのことはある。

安全を考えるよりも、自分達が果たすべき目標を優先したいというその意志はコットらしいと思う。


「そのことは他の二人も?」

「話して了承を貰ってある」


見るとドネンも頷いているので間違いないようだ。


「気を悪くしないでくれよ。コットさん、あんた達は一度槌猪にこっぴどくやられてる。骨折で済んだのは運が良かった方で、今度は命を落とすかもしれない。そういう危険を考えた上での結論なんだな?」

「ああ。絶対に勝てると自惚れてるつもりはない。けどな、倒さなきゃ前に進めねぇって思いがやっぱりあるんだよ。これをどうにかしたいってのが俺達の意志なんだ」


正直、槌猪を倒すだけなら俺かパーラのどっちかが着いていくだけで余裕で片が付く。

しかしそれではコット達のリベンジと言えないので、俺達の手を借りずにやり遂げたいという思いは理解できる。


俺自身、槌猪と戦ったことはないが、伝聞した強さを基準にするなら、三人でかかるコット達に負けはないと踏んでいる。

それぐらいの強化はしたつもりだからだ。


「…わかった。そうしたいっていうならその通りにしたらいい。これは元々そっちの問題なんだ。俺から何かを強制することは道理じゃない。パーラも、それでいいか?」

「うーん…コットさん達の師匠としては少し不安だけど、言いたいことも分かるからね。いいんじゃない?」


弟子のように思うコット達の身を案じながら、信頼して送り出すということも師としての正しい姿ということをパーラは分かっているようだ。


そんなわけで、槌猪討伐の際には俺とパーラは同行せず、コット達のパーティのみで向かうことになった。

はっきり言って、俺達が同行しないことで討伐の難易度は上がる。

無事に帰ってこれないかもしれない。

それでもこの討伐を考えると、コット達だけでやり遂げることに意義がある。


一緒に戦うことはできないが、応援をするぐらいはできる。

コット達の無事を祈って、ただ見守ることにしよう。

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