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世の中は意外と魔術で何とかなる  作者: ものまねの実


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夏季閑話

この話は本編とは時系列が異なるものとなっております。

したがって、純粋に本編を楽しみたいという方は特に見なくても問題ありません。

箸休め的なものだと思ってください。


それは瓜というにはあまりに大きすぎた。

大きく ぶ厚く 重く そして大雑把すぎた。

それは 正に―






「はぁ~大きいスイカですね。これ、いくらですか?」

「大銅貨3枚…て言いたいとこだが、今年のは小ぶりでな。2枚にまけとくよ」

「これで小ぶり!?いや、でも安い!買った!」

「まいどあり~」


夏も盛りとなった今日この頃、いつものように市場を冷かしていたときのことだ。

偶然通りかかった市場で見かけた、前世の農家生活でもお目にかかることのないほどの巨大なスイカに、思わず手が出てしまった。


野菜ではなく果物として売られていること、大きさが直径で1メートルぐらいはあること以外は俺のよく知るスイカそのものであり、そのインパクトに好奇心が刺激されてしまった俺は財布の紐も緩んでしまうというもの。


何を隠そう、俺はスイカが大好物だ。

夏の味わいと言えばメロンとスイカが二大巨塔だと俺は思っているが、どちらを取るかと言われれば迷いなく俺はスイカを取る。

それぐらい大好きなのだ。


農業をやっていた時は持っていた畑の一枚をスイカ専用にしていたぐらいスイカ好きな俺だ。

巨大なスイカの味を想像して、ついつい顔が緩んでしまうのも仕方のないことだろう。

これだけの大きさとなると、普通は全体のフォルムも楕円に変形するものなのだが、綺麗な球形を保っているのはこの世界のスイカ特有の何かが作用しているのかもしれない。


果物屋の店主が家まで届けてくれるという申し出を断り、一刻も早く味わいたい俺はその巨大な丸い物体をロープで背負うと、一目散にびっくりアンディを目指して走り出した。


その大きさに見合う重量を誇るスイカは、背負って歩くのもとんでもなく疲れるのだが、そんなことは今の俺には大した問題ではない。

スイカを食べられる、ただのその一念だけがまるで強化魔術のように俺の体を力強く進ませる。

足取りは驚くほど軽い。


びっくりアンディへと到着した俺は、一端スイカを店の入り口わきへと降ろし、営業中の店内へと足を踏み入れた。

夏になればハンバーグ類の売り上げは幾らか落ち込むのだが、この店では冷やし茶漬けというまさに今の時期にぴったりのメニューで客が賑わっており、中々の繁盛っぷりを披露してくれている。


「いらっしゃいませ~!…ってなんだ、アンディじゃん。」

「なんだとはなんだ、ミルタ。曲がりなりにも店に来た人間をだなぁ―」

「そういうのはいいから、何か用?今ちょっと忙しいんだけど。もしかしてまた食事?」


素っ気ない反応のミルタだが、店内のテーブルのほぼ全てが埋まっている状況を見るに、忙しいという言葉に偽りはない。

客として俺が来たならともかく、ついさっきここで昼食を摂った俺がまた客としてというのは考えづらいため、用があってのことと推測したミルタは正しい。


「いや、実はスイカを買ったもんだから、場所を借りようと思って。デカいもんだか切り分けるのに庭先をちょっと使わせてくれるだけでいいんだ」

「へぇ、スイカ?アンディってあんなの食べるんだ」


意外だと表情にも表しながらそういうミルタに、スイカをあんなの呼ばわりしたことを詰め寄りたい気分になったが、まぁ好き嫌いは人の自由なので、そこはグッと飲み込んだ。

しかし同時に、この世界の人間であるミルタがスイカにこうまで淡泊なのは不思議だった。


砂糖の流通と値段が一般的ではないこの世界で、甘いものとしてのスイカはそれなりに価値のあるものだと思うのだが、この反応を見るとどうもそれほどでもないらしい。

前に一緒に働いてた時には、他の果物でももうちょっと反応が良かった気がするのだが。


「あれ?ミルタはスイカは食べないのか?」

「村にいた時はよく食べてたよ。でもここで働いてからは食べたいって思うことはないね。スイカを食べるぐらいならハンバーグが食べたいし」


ハンバーグとスイカは比べるジャンルとしては違うと思うのだが、どちらをも愛する身としてはミルタのこの答えは悪くない。

ようは好きなら好きでいいのだから。


「まぁでもわかったよ。庭は今なにもないから好きに使っていいと思うよ。あ、でもお客さんから見えないような場所でやってね?」

「勿論だ」


家人であるミルタの許可をもぎ取ったことで、俺は意気揚々と庭先へと向かい、いい具合に日陰になっていて店内の窓からも見られない場所にスイカを移動させる。


直径1メートルはあるこのスイカを切り分けるのに、包丁では結構な労力が必要だ。

そこで、俺は腰に提げている剣を抜き、スイカの肌に刃を当ててみた。

長さと言い切れ味と言い、これならスイカを切るのに用が足りる。


ただ、冒険者としてこの剣で様々なものを斬ってきたことを思い、衛生的な面で少し気になったので、雷魔術で剣身に熱を帯びさせ、その熱で雑菌の消毒を試みる。

流石に雑菌がいなくなったかどうかは目で見てもわからないため、やや長めに電熱を使うことでよしとした。


熱くなった剣を覚ますのに少し時間を置き、いざスイカに向き直ってその実に入刀。

植物とは思えないほどに固いその皮に、最初の一刺しは少しばかり手間取ったが、一度刃が通ってしまえばあとは簡単に切れていく。


まず真ん中から真っ二つに割って中身を見てみたが、結構皮の分厚さは気になるが真っ赤な身は水気を十分に湛えており、立ち上る匂いもあのスイカ独特の清涼感のあるものだ。


行儀が悪いが、これを見せられては我慢が出来ない。

赤い円の中心を剣先でくり貫き、早速口へと運んでみた。


口一杯に頬張ったスイカの身は、口中に溢れる水分をまずもたらし、歯に当たる食感もシャクシャクとした心地よさを楽しませる。

そして、やはりスイカを味わう上で欠かせないあの甘さを舌は待ち受けるが、どういうことか一向に舌は甘さを伝えてこない。


いや、微かに甘さは感じられるが俺の知るスイカのそれには程遠い、本当に微かなものだ。

自分が今口にしたものは確かにスイカだったのかという疑問、匂いと食感では確かにスイカだと分かりながらその実、味わっているものはスイカジュースを何十倍にも希釈したものだという混乱。


今俺はどんな顔をしていることだろうか。

きっとキツネにつままれたという言葉が相応しい、呆気にとられたものだったに違いない。


「アンディ、スイカを買ってきたんだって?」


そう言って少し離れた場所にある窓から顔を出したのはローキスだ。

客足が落ち着いて厨房も余裕ができたのか、疲れと開放感が同居した清々しい顔は夏の暑さにあって清々しさを感じさせる。


「……あ?あぁ、ローキスか…。スイカ……スイカなのか?いや、スイカだったのか?」

「え、どうしたの?なんだかすごい顔してるけど」

「実は―」




―かくかくしかじか


―まるまるうまうま




「ははぁ~ん、なるほどねぇ。…そんなに甘さがなかった?」


一通り説明し終わり、大きく頷くローキスにも俺の今の状況は理解してもらえたようだ。


「なかったもなにも、ほとんど水と変わらねーってぐらいだ。なぁ、ローキス。もしかして俺、騙された?」

「うーん、どうだろ。それを買ったのって市場の果物売りからだよね。あの干物を扱ってるとこの隣の」

「そうそう。この大きさのを見てつい買っちまったんだよ」

「あそこからは僕もたまに買うけど、ちゃんとしたものばっかりだよ。アンディ、それちょっと食べてみていい?」


ローキスの求めに応じ、俺が食べたのとほぼ同じ個所を切り出し、ローキスへと差し出す。

スイカの実を剣で切り分けられて眼前に剣先ごと差し出されるのにローキスも一瞬驚いたが、苦笑気味でスイカを手に取って口へと運ぶと、目を閉じて味を確かめだした。


「……うん、確かにちょっと水っぽいけど、スイカってこんな感じだよ」

「え!?いやいやいや!スイカってもっとこう、水分と甘さが強いはずだろ?流石にこれは薄すぎるって」

「そうかな?僕が村で食べてたスイカもこれぐらいだったけど。むしろこれで甘さが足りないって、アンディがどんなスイカを食べてたのが気になってきたよ」


なんということだ。

この世界のスイカは俺の知るものよりも圧倒的に甘くないものがスタンダードなのか。

いや、そう言えば種苗店の人との世間話で、今ある野菜と果物は大抵品種改良されていて、味も生産量も原種よりも格段に高められていると聞いたことがある。


こっちの世界での野菜や果物が地球産のものと味も見た目も同じものが多いせいか、スイカもそうだろうと思い込んでいただけだ。

スイカはウリ科に属しており、ウリ科の植物の大半が生で食べた際の甘みはさほどではないものが多い。

その常識から言えば、このスイカの味もおかしいものではないのだが、スイカ好きの俺からしたらこれをスイカと呼ぶのに激しい抵抗を覚えてしまう。


「なぁローキス。このスイカってどうやって食べてた?そのまま?」

「そのままでも食べてたね。夏の暑いときなんか川で冷やしてから食べるとすごくおいしかったよ。まぁでも、大抵は身を細かく潰して、果汁を飲み物にすることが多いかな」

「あぁ、なるほど。そういうのか」


夏の果物としては他に甘いものが普通にあるこの世界で、この大きさのスイカにどんな需要があるのかと思ったが、スイカジュースにして飲むのなら確かに悪くない。

研究によるとスイカには体を冷やす効果が認められてるし、汗と共に失われるカリウムを補充するのに向いているため、脱水症や熱中症にも効果的だ。


正確に栄養素を理解してはいないこの世界だが、夏場にスイカがいいと経験則で知った中でのこのやり方は流石だと言える。

あくまでも、このスイカが俺の知るスイカと同じ栄養素を秘めているという前提だが、見た目や微かに感じた味に見た共通点から、そうかけ離れた存在ではないはずなので、これらの効能もきっと同様にあるはずだ。


しかし参った。

俺はスイカの味を求めてこれを買ったわけだが、あの清涼感のある甘さを楽しむにはこのスイカでは到底足りない。

いっそローキスが言ったように、ジュースにでもして店で出してもらった方が処分の手間が省ける気がしてきた。


一気にテンションが下がって立ち上がる気力もない俺は、憎らしいほどにギラつく太陽が座す天を見上げてみる。

丁度日陰のこの場所から太陽は見えないが、さぞ夏染みた光をばらまいていることだろう。


「あ、いたいた。ちょっとアンディ、何してんの。午後から貨物室の整理やるって言ってたじゃん」

「やぁ、パーラ。いらっしゃい」


庭にひょっこりと顔を出したのはやや起こり気味のパーラで、そういえばそんな約束をしていたと今思い出す。


「どしたの?なんか落ち込んでるね。……ねぇローキス、なんかあったの?」

「あったというかなかったというか、そこにスイカあるでしょ?」

「え?あ、ほんとだ。なに、アンディが買ったの?」

「うん、そうなんだけど、なんかアンディが思ったより甘くなかったんだって。それで今そんな感じになってる」

「甘くないって…こんなに落ち込むほど?」

「いや、僕も食べてみたけど別に普通だよ。ちょっと薄いかなってぐらいで」


俺に尋ねるのを早々に諦め、すぐローキスに事情を尋ねた辺り、パーラから見た俺の顔はよっぽどなのだろう。

確かに今は落ち込み気味なので、説明をする気力は沸き辛い。

代わりに話してくれるローキスの存在がありがたい。


「ふーん…アンディ、ちょっともらうよ。……うん、確かにスイカだね。これで甘くないって、アンディの知ってるスイカってなんなの?」

「僕も同じこと思ったよ。もしかしたら僕達の知らない種類のスイカで、アンディが知ってるのはもっともっと甘かったりするかもね」

「まいいや。ほら、アンディ行くよ。貨物室にはまだ全然手を付けてないんだからね」

「……はぁ~、わかったよ。いつまでもこうして手も仕方ないしな」


いつまでも落ち込んでいても仕方ないし、このスイカもこれはこれでいい経験になった。

実は今、心の奥底でスイカの品種改良をしたろうかというのを考えている。

自分が望むスイカがないのなら作ってしまえというわけだ。


もちろん、品種改良など一朝一夕でやれるものでもないし、俺自身農業試験場で働いていたなどということもないので、あくまでも極端な話なだけで、もしかしたらこの世界にも俺の欲するスイカがあるかもしれない。

折角飛行艇を持っているのだから、スイカを求めて飛び回るのもいいだろう。


それこそ、別の大陸にも足を延ばしてもいいと思っている。

おぉ、これは意外といい考えかもしれない。

旅の目的に、理想のスイカを求めてというのがあってもいいな。

おやおや、ダウナーだった気持ちもなんだか今はハッピーにスキップ。


今度、パーラにこの話をしてみるか。

旨いものが絡めばあいつも乗り気になるかもしれん。

なんだかオラ、ワクワクすっぞ。


「ねぇアンディ。このスイカどうするの?まさか持って帰るとか言わないよね」

「なんでだ?持って帰るとなんか困るか?」

「私達はこれから貨物室の整理をするんだよ?こんな大きい荷物邪魔になるだけだって」


半分に切ってはいるとはいえ、それでもまだまだ巨大と言えるだけの大きさがあるスイカだ。

持って帰るとしたら貨物室に置くしかない。

片づけをする予定の貨物室に、スペースを圧迫するものを置くのを嫌がるパーラの気持ちはよく分かる。


「ふむ、それもそうか。…お、そうだ。どうせならこれでスイカ割りをするか」

『スイカ割り?』


パーラとローキスの重なって響いた声の様子から、どうやらこの世界にスイカ割りという遊びはないようだ。

大銅貨2枚の元を取るというわけではないが、折角買ったのだし、やはりスイカと言えば『割り』だろう。








ということで、店の客が全ていなくなったこともあり、ミルタも巻き込んでの4人だけのスイカ割りを始めることとなった。

スイカがあれば後は目隠しと棒さえあればやれるのだから、スイカ割りというのは用意の手間が圧倒的に少ないゲームだと言える。


既に3人にはルールは説明してある。

説明とは言っても、目隠しをして、周りから声で誘導されてスイカの元へと歩いていき、スイカを叩き割るということだけで十分だった。


トップバッターはミルタ。

こういう遊びに対しての好奇心はパーラ同様非常に高く、物怖じしない性格もあって自分から名乗り出ての一番手だ。


「じゃあパーラ、ミルタの目隠しをやってくれ」

「え?ミルタが自分でやるのじゃだめなの?」

「それだと隙間作ったりとかでズルができるだろ」

「私ズルなんてしないよ!」

「分かってるよ。そういう言いがかりをされないよう、人にやってもらうんだよ」


心外だと憤るミルタをなだめ、スイカから5メートル離れた位置に線を引き、そこへミルタを誘導する。

スイカは半分こになったものを地面に敷いた布の上にひっくり返し、半球が上を向く形で割られるのを待っていた。


目隠しをしたミルタの顔の前で手を振って見えていないことを確認したところで、ゲームスタートだ。

棒を構え、スイカの方へとゆっくりと歩きだしたミルタを声で誘導する。

俺達はスイカを挟んでミルタを見る位置に立つ。


「そのまま真っすぐー」

「そこでちょい左かな」

「違うって、右だよ」

「いや左だろ」

「ミルタから見たら右でしょ」

「ちょっとー!ちゃんと誘導してよー!」


誘導する人間が多いほど誘導される側が混乱しやすいのがこの遊びの特徴だが、これもまた楽しむのに必要な要素ではある。

ワイワイとした声の中、ゆっくりとではあるがスイカの元へと近づいていったミルタはついにその前へと立つ。


「いいぞ、そこで振り下ろせ!」

「まだだめだって。ミルタ、まだだよ。もう少し前に」

「そこから進んだら棒の根本に当たるだろ」

「そんなことない。ミルタの身長なら丁度いいはずだよ」

「ねぇどっち?もう振り下ろしていいの?」


俺から見ればミルタは丁度いい位置なのだが、パーラにとってはよろしくないようだ。

誘導の声がなくなり、指示待ちとなっているミルタに、俺とパーラは自分なりの指示を出す。


「もういいからそこで振り下ろせ」

「だからもうちょい前だって。ミルタ、まだ振り下ろしちゃだめだよ」

「いいんだって!振り下ろせ!」

「だめだよ!」

「あーもう!限界だ!振るねっ!」


俺とパーラの指示に板挟みとなっていたミルタが限界を迎え、力の限り棒を振り下ろした。

これが冒険者や騎士といった人間ならスイカを叩き割っていただろうが、生憎ミルタはただの給仕だ。

皮の分厚いスイカを叩く棒の音は軽いもので、当然ながら割るというまでにはいかなかった。


「あーぁ、ダメだったか」

「だから言ったじゃん。手前過ぎたんだよ」

「いや、それは関係ないだろ。ミルタの腕力の問題だったって」

「二人共、もうそれぐらいにしなって。ミルタ、お疲れ様。残念だったね」

「ちぇー、手応えはあったんだけどなぁ」


スイカを割れなかったことでミルタが悔しげな顔で戻ってくる。

このスイカは俺の知る物よりも大分皮も分厚く固い。

ミルタのような普通の女の子が割れないとしてもおかしいものではないため、あまり気を落とすことはないだろう。


次に挑むのはパーラだ。

ローキスは見学に徹するということなので、ミルタの次には同じぐらいにスイカ割りを楽しみにしているパーラが名乗り出ていた。

準備を終え、スタート位置へと立ったパーラを誘導するために声をかける。


「とりあえずまっすぐなー」

「別に右に行ってもいいんだよー?」

「こらミルタ。変な誘導をしない」


自分がスイカを割れなかったのがよっぽど悔しいのか、パーラを明後日の方向へと誘導するミルタをたしなめ、パーラの誘導を続ける。

だがどうしたことか、パーラはその場を一歩も動かず、手に持つ棒の先端で地面を叩いているのみだ。


「パーラちゃん、何やってるんだろ。私達の声が聞こえてないのかな?」

「いや、そんなはずは…―まさかあいつっ」

「捉えた!いゃあああ!」


動きのないパーラを訝るミルタに応えようとした瞬間、俺はパーラの企みに気付いたが、そのすぐ後に気勢を上げてスイカ目がけて飛び掛かるパーラの姿を俺達は見た。


目が見えていないとは思えないほどに正確な位置取りでスイカのある場所へと一気に近付いたパーラは、冒険者ならではの見事な太刀筋で振るわれた棒は見事にスイカの中心線を捉え、ミルタが成しえなかったスイカを割るという結果をパーラは達成した。

半球のスイカを凡そ6等分することに成功し、辺りに水分とスイカの実の欠片をまき散らしながらも目的を果たしたパーラは目隠しにしている布を押し上げ、目の前に広がる惨状を満足げに見下ろしている。


「…スイカ、この私が討ち取ったりー!」


貴様こそ万夫不当の豪傑よ、などと返すこともなく、満面の笑みを浮かべているパーラへと近づいていく。


「アンディ、見てよ。見事に割ってやったよ!」

「お前、失格」

「えぇ!?なんで!」


成果を誇るパーラに向けて俺が放ったのは、パーラが予想していたものではなかったことだろう。


「パーラ、お前魔術でスイカの位置探ったろ?」

「うぐっ!…なんのことやら」

「どういうこと?」


下手くそな白を切るパーラだが、俺には分かっている。

そう尋ねるローキスとミルタは気付いていないだろうが、同じ魔術師でありパーラの能力を理解している俺だからこそ、行動と結果を結び付けて見抜けた。


「パーラが棒で地面を叩いてた時、音の返りでスイカがどこにあるかを探ってたんだよ。こいつの風魔術は音に特化した使い方もできるから、この庭ぐらいの大きさなら問題ないんだろう」

「へぇ~、パーラってそういうことができたんだ。すごいや」

「でしょでしょ!?魔術は私の技術なんだから、それを使ってスイカの位置を突き止めるのは悪いことじゃないと思いまーす!」


感心するローキスを味方だと判断し、鬼の首を取ったように魔術の正当性を訴えるパーラだが、俺が言いたいのはそういうことではない。


「スイカ割りは別に競い合うもんじゃない。みんなで楽しく遊ぶもんだ。それを魔術なんか使って…」

「え~…でもさぁ~」


そう、スイカ割りは別に競技ではないので、誰が割ろうと、どれだけ時間がかかろうともみんなで楽しむためのものなのだ。

パーラがやったように、魔術を使って本気で攻略するのを悪いとは言わないが、折角の遊びを速攻で終わらせるのはあんまりだろう。


そんなわけで、スイカ割りはパーラの手に拠って幕を下ろすことになったが、意外と楽しかったという声が多く、ミルタはマースなんかを誘ってまたやりたいと言っていたので、この暑さが続いている内にもう一回ぐらいはやりそうな気がしている。


ちなみに、割られたスイカは俺達でおいしくいただきました。

いや、俺自身はおいしいとは思わないが、普通に食べているパーラ達を見ては文句も言い様がない。

水分補給と割り切って黙々と食べ進め、四人がかりということもあって結構な量があったスイカは処分することができた。






後日、ミルタ辺りが広めたのか、街の子供たちの間でスイカ割りを模した、目隠しで遠く離れた目標を叩くという遊びが流行り、冬に入るまで長いブームがあったことを報告しておこう。

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