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世の中は意外と魔術で何とかなる  作者: ものまねの実


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また桜の咲く季節に…

ホーバン率いる盗賊団によるヘバ村占拠の騒動から一夜明けた。


盗賊団はホーバンを除く全員を捕縛、村人との接触は好ましくないというネイの判断で、今度は彼らが倉庫へと監禁される番となっていた。

彼らは今後、その身を犯罪奴隷として引き取られることになっており、金銭や労働力としてヘバ村へ償いをしていくことになる。


一味の中には銃による怪我を負っていた者もいるため、弾丸の摘出と止血だけはしておいた。

その際、気絶させた上でとはいえ、銃創を抉るようにして弾丸を取り出した俺を見て盗賊達は震えあがっていたが、変に反抗的な態度を取られるよりはビビらせた方がいいと判断して特に細かい説明はしていない。


監禁されていた村人も無事に解放され、別々の倉庫に分けられていた家族が再会を喜ぶ姿があちらこちらで見られた。

村の女子供を違法奴隷として売り飛ばそうとしていただけあって、乱暴な扱いはされていなかったものの、そこそこの日数を日の差す事も無い倉庫に押し込められていたため、中には精神的に参っている人もいるはずだ。

そういう部分のケアは同じ村人同士で時間をかけて癒していくのが一番いい。


村長をはじめ、村人が次々に俺達の下へとお礼を言いに来るという時間がしばらく続いたが、俺達を含めた全員が疲労を覚えているのは明らかであったため、とりあえずこの日は皆家に帰って眠ることにした。

あと数時間で夜が明けるとはいえ、自分の家で眠れるということが彼らにとっては日常へと戻ることの一歩目となることだろう。






夜が明け、日が大分昇ってから俺達は村長宅にある一室で目覚める。

昨夜の内に村長からお礼の一環として自宅に部屋を用意してもらったのだ。

戦闘行為を行った後にしては意外と熟睡してしまったたのは、寝具が上等だったのもあるが、やはり疲れていたというのが大きい。


居間へと向かうと、村長とネイがテーブルを挟んで何やら話し合っていた。

恐らくホーバン一味の処遇など関してだろうが、漏れ聞こえてくる声音は落ち着いたもので、かなり煮詰まっていると見ていい。


「やあ、おはようアンディ君」

「おぉ、アンディ殿。おはようございます。よく眠れましたかな?」


俺の姿に気付いたネイが声をかけてきて、それに反応した村長も声をかけてきた。


「おはようございます。ええ、ぐっすりと眠れましたよ。…ネイさん、パーラは?」

「もう起きて外に行ったよ。村の中を見て回るそうだ」


俺達がヘバ村に来た時には既に村は盗賊に占拠されていたため、今日からの光景がこの村本来のものとなる。

そういう改めて肌で感じることをパーラは楽しむつもりなのだろう。


「そうですか。…ネイさんは何を?」

「村長殿と今後のことについて話をしていた。捕まえた賊徒共も今は大人しくしているが、いつまでも村に置いておくのは住人も気が休まらんだろう?それで近隣の領主へ護送の人手を要請する手紙を作っているところだ」


見るとテーブルの上には書きかけの手紙と筆記具が置かれていた。

騎士として公的な文書を作ることも多いネイが村長にアドバイスをしているようで、少しだけ覗ける長々と書かれた文章には、相手が領主ということもあって実に回りくどい挨拶が多い。

機嫌を損ねた領主が嘆願を後回しにするというケースもあると聞くので、こういう形式から入るのは必要なことだ。


今の所大人しくしている盗賊一味だが、村にずっと置いておくと村人が受けた恐怖がいつまでも残ってしまう。

さっさと犯罪奴隷として領主辺りにでも引き取ってもらいたいという村長の願いも理解できる。


「そうだ、アンディ君。君が探しているというあの件、村長殿に聞いてみたらどうだ?」

「私にですか?ええ、もちろんお答えできることでしたらなんでもお聞きください」

「実は俺達がこの村に来たのはあるものを探してのことでして―」


丁度村の代表者がいることだし、ヘバ村に来た目的である農業の神の御使いが最後を迎えた場所を聞いてみる。

もしも村長でも分からないのであれば、村の年寄りにも聞くつもりだ。

さほど大きくない村で昨日一日歩き回って手掛かりを得られなかった身としては、出来れば村長の口からヒントの一つでも得たい。


「―というわけでして、何かご存じありませんか?」

「…それはもしかしたらあれのことかもしれませんな。いや、私も親から聞いただけですし、その親もまた更に親から聞いたという程度なので確たるものとも言えるかどうか…。それでもよろしければ」

「いえ、十分です。今はとにかくどんな手掛かりでも欲しいんです。なにせ昨日俺達が歩き回った程度では何も知れなかったものですから」

「はははっ、それはそうでしょう。なにせ御使いが亡くなったのはここではなく、村から少し離れた丘でのことですから」


なんと、てっきりヘバ村こそが御使い終焉の地と思っていたが、どうやら正確にはヘバ村の近くにある丘こそがそうだと言う。

いくら村中を探しても手掛かりがないわけだ。


「そこへ行かれるのでしたら地図を用意しましょう。…ただ、もう少し早く来ていれば、素晴らしいものをお見せ出来たのですが」

「素晴らしいもの?」

ピタゴラスイッチ的なものでもあるのだろうか?


「ええ。御使いが己の亡骸を埋めると定めたその丘ですが、なんでも昔、サクラという木を自らの手で植えられたそうで。この辺りでは他に見かけない種類の木でして、春になると薄紅色のそれは綺麗な花が咲くのですよ。あれは是非ご覧いただきたいものです」


村長の口から飛び出たのは共通語での桜ではなく、正しく日本語の発音をなぞったサクラという言葉だった。













ヘバ村から離れた場所にある御使いの眠るとされる丘は、バイクで向かうと本当にすぐの場所にあった。

ここに来たのは俺一人だ。

ネイは村長ともう少し話し合うことがあり、パーラは村でなにやら手伝っていて忙しそうだったので一声だけかけ、こうして久しぶりに一人バイクを走らせることとなった。


バイクを降り、丘を登った先にあったのは、緑の葉が生い茂る十数本の木と、それに囲まれるようにして佇む墓だ。

墓と言ってもこっちの世界の形ではなく、日本人に馴染みのあるいわゆる墓石がそこにはあり、墓碑銘も共通語と日本語の両方が並んで記されたそれは、確かにここに日本人がいたという証だった。


周りに立つ木々は桜と言われればそうとも見えるが、正直花が咲いていないと見極めるのが難しい。

ただ、枝の先にプクリとした小さな蕾を見つけ、それを見てようやくこの木は桜なのだとわかったぐらいだ。


冒険者として活動してきて、色んな場所にも足を運んだが、桜の花が咲く場所というのは見つけられなかった。

元々この世界には存在しないのかと諦めていたが、こうして目の前に存在を感じると郷愁の念を誘われてしまう。


ヘバ村の村長が言った通り、出来れば春に来て花見といきたかったところだが、そもそも桜があると知ったのはついさっきだし、それを考えても仕方がない。

桜に関してはとりあえず今はこれぐらいにして、もう一つの方へと意識を向ける。


異世界においては異様だと言える日本風の墓石。

訪れる人が絶えて久しいのか、墓石の表面に苔は生えっぱなしで、周辺に生える雑草も伸び放題という状態はなんとも物悲しい。


同郷の好というわけでもないが、少しだけ墓をきれいにしてやりたいという思いが芽生え、簡単にではあるが墓掃除の時間となった。

水魔術で墓の表面に生える苔を洗い流し、こびりついた土汚れは布で擦って落としていく。


一時間後、墓周辺の草も刈り終え、だいぶ見栄えも良くなったことで改めて墓石を眺める。

長方体の墓石の表面に大きく刻まれているのは『菅井・ナガセ』、隅の方に小さく『久志』とある。

恐らくこの墓に眠っているのは菅井久志、男性だろう。

御使いの一人の名前も冠しているのは、後の訪れる人がいた場合のためにということか。


そして、墓石の裏側にも細かく文字が刻まれていた。

前半は共通語でこの地を訪れた人へと向けた挨拶のようもので、周辺にある桜の木に関する説明も色々と書いてある。

長年かけて見つけた山桜を品種改良したものだそうで、どうやら元はこの丘一杯に桜の木を植えたようだが、長い年月で数が減って、今では墓の周りが残るだけとなってしまったと推測する。


後半の方は日本語に変わっており、同郷の人間へと向けたメッセージとなっていた。


『これを読めているということはここにいるのは同じ日本人だということだろう。こうして文字のみでの対面となったことは寂しいが、この周囲に植えられた桜の花を見て日本を懐かしみ、楽しんでほしい。さて、ここを訪れた理由がもしも元の世界に戻る手がかりを求めてのことだとしたら、残念ながら存在しない。これは確かな検証で得た結論のため、覆しようのない事実ということは保障しよう。あるいは私の知らない帰還の手段もあるかもしれないが、30年探し回って得たこの答えをどう取るかは自由だ。この世界を先に生きた者として言えることは多くない。地に根を下ろし、子を生み育て土に還る。人として最も基本的な生き方を楽しむことこそが、この世界に流れ着いた人間として正しい生き方だと思う。既に死んだ者の言葉として忘れてくれても構わない。ただ同胞の行く先を案じると共に、強く生きてくれることを切に願う』


異世界に転生か、あるいは転移なのかわからないが、同じ日本人であり異世界を生き抜いた先達である菅井久志の言葉は、重さを伴って頭に染みわたっていったような気がした。


俺自身、この身は転生者であると断定して今日まで生きてきたが、それでも心のどこかで日本に帰るということを期待していた。

だが現実は不可能だという結論を突き付けられたわけだ。


桜の木を品種改良でこの世界に生み出した菅井久志という人物は、恐らく優秀な科学者か研究者なのだろう。

そんな人間が検証を行って辿り着いた答えが帰還の望みはないということ。

普通なら絶望を覚えるところだが、今の俺はこちらの世界で生活基盤を確立し、知り合いや仲間も多くできた。


一瞬感じた、地に沈み込みそうな喪失感はすぐに消え失せ、むしろ来た時よりもスッキリとした気分になったのは、元の世界への未練が断ち切れたからかもしれない。

もちろん、完全に忘れられるわけではないが、こっちの世界で骨を埋めるという菅井久志の言葉を、今の俺は驚くほどあっさりと飲み込むことが出来た。


最後に墓に手を合わせ、次は桜の咲いている季節に来ようと誓い、その場を後にした。

歩き去る俺の背中に風が吹きつけた。

ふと、それが何だか今は亡き同胞からのエールのように感じたのは少し感傷的過ぎるだろうか?







バイクを走らせヘバ村へと戻る道中は、一人ということもあってどうしても思考は先程のことへと向いていく。


この世界で農業の礎を築いたとされる五人の御使い。

その内の一人と思われるナガセという名前が墓に刻まれていたことから、まず間違いなく菅谷久志を含めた五人は例のアイドルとの兼業農家五人組の名前をあやかったに過ぎないだろう。


何か深い狙いがあったのか、それとも何となくその場のノリでやったのかは分からないが、俺のような後世に訪れた日本人を驚かせるのには成功している。

この大掛かりで愉快な悪戯を計画した人間とは是非とも差しで話をしたかったものだ。


得るものもあり、諦めるものもあった墓参りとなったが、これはあくまでも寄り道だ。

この先は本命であるネイの依頼へ向けて、気持ちを引き締めて臨むことにしよう。


昼前にヘバ村を出て、なんやかんやで戻ってきたのは夕暮れが迫る時間となってしまった。

村の入り口にバイクで近づくと、やはり盗賊に占拠されたことが尾を引いているのか、武器を手にした村人数人の姿が見える。

こちらがバイクだと遠目で気付かれてはいたのですんなりと村の中に入ることは出来たが、あの感じを見るとしばらくはヘバ村を訪れる商人や旅人には厳しい日が続きそうだ。


村の中を走っていると、家々から漂う夕餉の香りに食欲が刺激され始め、バイクのスピードを挙げそうになるのを堪えながら村長宅へと到着すると、何やら家の中から賑やかな声が聞こえてくる。

バイクを間借りしている納屋の一角へと収め、家へと入った俺を出迎えたのは色んな料理の匂いが混ざった匂いと、つまみ食いをしようとするネイから皿を守るパーラの声だった。


「それはいかんぞ、パーラ君!フライドチキンは温かいうちに食べなくては礼を欠くというもの!さぁ、その皿をこちらへ渡しなさい!」

「ダメだって!ネイさんはさっきもそう言って一人で全部食べちゃったじゃない!フライドチキンはもうこれ一皿しかないんだから、摘まむなら他の皿にしてよ!」


「他のも無論食べるさ。だがその前に、そのフライドチキンの感想が欲しいとは思わんかね?アンディ君にいきなり食べさせるよりも、私で試した方がよくないか?」

「ムムム…そう言われると…いやダメダメ!どうせネイさんは全部食べちゃうもん!」

「(チィ…、粘るな)そんなことないさ~」


居間に入った俺の目に飛び込んできたのは、テーブルに並べられた様々な料理と、椅子に上がって高い位置に皿を持ち上げているパーラの足元に縋りつくネイという、なんとも妙でありながら事の顛末が先のやり取りだけで十分に読めてしまうものだった。


「どうしたんですか?これ」

とりあえずテーブルの傍にたたずむ村長に話しかけると、困り切っていた顔を浮かべていたのが安堵の色変わっていく。


「おぉ、お戻りになられましたか。これは助けていただいたお礼にと村の者が皆様に持ってたものですよ。テーブルに乗り切らないものもありますから、台所にいる妻に言っていただければお好きな物をご用意しますぞ」

「それはいいんですが、ネイさんとパーラはいつからああして…?」

「さぁ…?パーラ殿が作ったフライドチキンがまだ湯気を立てておりますからまだそうは経っていないと思いますが」


まさかと思い居間の隅に置いていた料理道具の入った荷物袋を探って見ると、香辛料が入っている小袋の束の中にあるフライドチキン用にブレンドしたスパイスの袋が明らかに軽くなっており、パーラはそれを使ってフライドチキンを作ったようだ。


きっとパーラが村長夫妻に世話になったからとフライドチキンを振る舞おうと考えたのだろうが、このブレンドハーブはチャスリウス公国に付いたときにダルカンにフライドチキンを振る舞う時に備えて用意していたものなので、思わずため息が漏れてしまう。

せめて使う前に一言をと思ったが、よく考えると今日の俺は村にいなかったので、パーラにそれを期待するのは違うか。


まぁスパイスはまたブレンドすればいい。

それよりも問題は、このハーブを使ってパーラが作ったフライドチキンがどれほどのものかということだ。


「あ!おかえりアンディ!見てよこれ。フライドチキン作ってみたんだけどさ、ちょっと食べて感想聞かせてよ」

「だから感想なら私が―」

「どれ、一つもらおうか」


縋りつくネイを押しのけたパーラが、俺の方へと突き出した皿に盛られたフライドチキンを手にする。

本来であれば揚げて作られるフライドチキンではあるが、油が大量に確保できないこの場では揚げ焼きの手法を用いたと思われ、全体的に衣の色合いは薄い。


匂いはそれ用にブレンドしたスパイスを使ったので完璧。

では味の方はどうだろうか。


一息に齧り付くと、サクッとした食感が最初に感じられた。

不思議と衣がクリスピーな感じに仕上がっており、かなりいい。

肉の方はジューシーさが少し足りないのは残念だが、これはこれでヘルシーさがあって悪くない。


「ねぇ、どう?作り方はアンディに教えてもらったけど、ここじゃ油を大量に使えないから、前にローキスに聞いたやり方でやってみたんだけど」

「あぁ、やっぱり揚げ焼きで作ったんだな…うん、いいんじゃないか?普通のよりも食感が変わってるし、油も軽いから胃にもたれないし」

「本当?よかった~。なんか出来上がりの色が変になったから不安だったんだよね。いや、試食はしたよ?私は美味しいと思ったけど、アンディはどうかなぁって」

「大丈夫、ちゃんとこれはこれでフライドチキンだ。うまいよ」


確かにこの世界でフライドチキンを最初に作ったのは俺だ。

作り方はパーラにも教えたので、アレンジを利かせた形になった今回の出来に不安を覚えるのはわかる。


しかし、こういう変わったアプローチでの改良を試みるのは決して嫌いじゃない。

クリスピーチキンとして見ると、よくぞヒントもなしでこれに辿り着けたと称賛したいぐらいに完成度は高い。

惜しむらくは味付けがやや薄めになってしまっていることだが、これは好みの問題だろう。


このフライドチキン一つとってみても、パーラは料理の腕も悪くないのだから、たまにでいいから食事の当番を買って出てくれてもいいのではと思う。

まぁこれを言うと、アンディが作ったほうがおいしいからといつもの答えが返ってくるため、あまり期待するべきではないか。


「アンディ君食べたね?食べたよな!?よしパーラ君、私も頂くぞ!いいな?」

「はいはい、どうぞ食べて下さいな」


俺が食べている間もソワソワとしていたネイだったが、ようやくパーラからお許しを得た瞬間、まるでネコ科の狩猟姿のようにフライドチキンへ飛びついて一心不乱に貪り始める。

この反応を見るとこのタイプのフライドチキンもお気に召したようだ。


「さぁ、俺達も夕食にしよう。村長さんも是非フライドチキンを召し上がってみてください。うちのパーラの力作ですよ」

「それは楽しみですな。ではお言葉に甘えて」


せっかくなので村長の奥さんも一緒にテーブルに呼び、この豪勢な夕食を全員で楽しむことにした。

どれから手を付けようかと迷うほどにたくさんの料理があり、目移りしそうだ。


「そう言えばアンディ、あそこの丘に行ってきたんでしょ?どんなとこだった?」

「あぁ、御使いの墓があったな。あと桜の木も。花は咲いてないけど、ありゃあ確かに桜だ」

「へぇ~、サクラね。見たことはないなぁ」

「春先になると、あの丘は遠くからでも綺麗な薄紅色に染まるんです。咲きぶりも中々見事なものですので、どうぞ、春にまたいらしてください」


村長の言う通り、桜の花が咲く光景を知っていれば、一度は見てほしいというのには日本人の魂を持つ者として同意できる。

場所は分かったことだし、来年の春には花見に来るのいいかもしれない。


「む、アンディ君。そのフライドチキンに手を付けていないようだが、食べないなら私が貰うぞ?」

「もう!ネイさんはまず自分の分を食べてからにしてよ。あんなに作ったのに一人で全部食べる気?」

「はっはっはっは、いいではありませんか。ネイ様、よろしければ私の分を召し上がってください」

「おお!いいのか、村長殿。では有難く」


しかしこのネイのフライドチキンにかける情熱は普通ではないな。

大好物だとは分かっていたが、ここまで目の色を変えるとなれば、いっそスパイス依存症とかを疑った方がいいのか?

そんな症例があればの話だが。


「ネイさん、チャスリウスへ向かうのはいつ頃にしますか?」

食事をしながら、今後の日程についての話をネイに振ってみる。


「とりあえずあの盗賊共が護送されるのを見届けてから村を出ようと思う。今日の昼に領主の下へ使いを出したから、えー…村長殿、どれくらいだ?」

「そうですなぁ…、馬の足次第ですが片道三日ほどでしょうか。諸々整えて護送の人手を連れて戻ってくるまで十日はかからないとは思いますが」

「だそうだ。十日を目安に出発の準備を整えておいてくれ」


十日とはまた長い滞在となりそうだが、まぁキリのいいところとして護送を見届けたいというネイの気持ちもわかるので、しばらくはこの村の厄介になろう。

ただ世話になるのもどうかと思うので、明日辺りにでも何か手伝えることを探すとしよう。


「あ、そうだ。アンディ、明日ちょっとバイク借りるよ」

「おぉ、いいけどどこにいくんだ?」

「ちょっと近くの森に。今日村で聞いたんだけどさ、今の時期美味しいキノコがあるんだって。それを採りに行くんだ」

「へぇ、キノコか。一人で?」

「ううん、詳しい人と一緒に。あ、女の人だから心配しなくていいよ」


それを聞いて心配しなくていい理由ってなんだ?

むしろ女だけで森に行くことを心配するもんだと思うが。


まぁパーラは森の歩き方も心得ているし、何かあったらすぐに逃げてくればいい。

俺は明日、村の中を見て回るつもりだし、パーラが持ち帰ってくるキノコで何か作ってやることを考えて過ごすとするか。

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