異世界インタビュー
SIDE:――――
その日、冒険者ギルド併設の訓練場に居合わせた男性職員、ネオ氏(34歳)はこう語る。
「偶にあるんですよ。あぁいった訓練場を借りての腕試しってのが。今回はチャスリウスから来た女性の騎士がうちの上司と何やら話して許可されたみたいだけど、ほんとに珍しいことですね。普通はそれなりのランクの冒険者でも申請してから何日かの調整があって許可が下りるもんですから。チャスリウスのことは詳しく知りませんけど、もしかしたら中々高位の騎士だったりとかするんですかね」
―戦闘は始めから見学を?
「ええ、まぁ。丁度その時間帯に手が空いてましたので、偶々通りがかったらあの騒ぎでしょう?何となしに見てみようかな、と」
―対戦している二人と面識は?
「いえ、どちらとも直接話した事も無いですね。女性の方は前日にギルドに来たのを見て以来だし、青年の方は…まぁこの街では知らない人間の方が少ないでしょう。以前、街を襲おうとしたアプロルダを討った英雄ってことで有名人ですよ。おまけにトレントに占拠された村からの避難民のために避難所をあっという間に作ったり、その村に赴いてトレントを討伐したりと、僕も彼の活躍には何度も驚かされましたね。まぁ同じくらい問題も起こしてますから、そういう意味でも印象深い人物です。アンディという名前を耳にしたことはありませんか?」
―エイントリア伯爵家と親交があるとか。それと近年、この街を発祥として他国にまで広まっているハンバーグを生み出した人物と聞いています。
「んー…間違ってはいないんですが、彼をよく知る人物に言わせると、とにかく何でもやる男だそうです。魔術師であり料理人でもあり発明家でもある。農業に造詣も深いとも言われてます。そうそう、ちなみに彼、うちのギルドマスターと剣でやりあったそうです。信じられませんよね、僕よりも年下なのに。あぁいうの、天才って言うんですか?ははっ」
―戦闘の様子を教えてもらえますか?
「と言っても、あまり言えることは多くないですね。あぁ、いえ、ちゃんと最後までは見てたんですが、なにせ次元が違い過ぎて、僕なんかの目で追えたものはどうもあやふやで…。はぁ、それでも構わないと…わかりました。では―」
―剣を自分から捨てたと?
「ええ。あれには驚きましたよ。普通、戦いの最中に自分から武器を捨てる人間はいませんから。剣を持って戦う立場ではない僕でも知っているぐらいですし」
―では、その時点で彼の負けだと思った?
「…負け?彼がですか?………ふぅ~。んーやはりワカっていない、アンディという人物を。そりゃあ、普通の人間なら勝負アリだわ。でもこれはアンディのハナシでしょ?彼はその時、こうやったんですよ」
―柄を叩いて剣を相手から奪う、そんなことが可能なんですか?
「彼ならやりかねませんよ。…ギルド職員やってるわけですから、アンディという人物の非常識な行動っていうのは何度か耳にはしてます。頭が良すぎて逆におかしいというか…」
―そのアンディという人物が恐ろしい?
「いえ、むしろあんな戦いを見せられたら、正直、ちょっと憧れちゃいますね。男として……。魔術と剣の腕、それらをクソ度胸で動かしている、それが…アンディなんですねぇ~」
「―という感じでした」
「…まぁいらん情報も多かったが、概ねチャスリウスの騎士の実力は分かった」
ヘスニルの街にある領主の館、そこで二人の人物がテーブルをはさんで向き合っていた。
一人はこの街を治める領主であるルドラマ、もう一人はこの館の雑事一切を取り仕切る立場にある執事のヤノス。
「まさかアンディを打ち倒すとは…」
「アンディ殿は本来魔術師です。剣での立ち合いで騎士を相手取るには少々分が悪いかと」
「うむ。…確か魔術は一切使わなかったそうだな?であれば、搦め手が主体のあやつ本来の戦いとは程遠いか」
アンディという男がとる戦法は常に意表を突き、安全に勝つというものが多い。
かつて名うての傭兵団の団長と剣で向き合って戦った時も、気付かれないように魔術で相手の動きを奪うという勝ち方だった。
そういう意味では本来の実力は発揮しきれなかったとも言えくもない。
「むぅ…。既にアンディは街を離れていたのだな?」
「はい。昨日の朝にはヘスニルを発ったと。ネイ殿も一緒に飛空艇に乗り込んでいったのが確認されています」
「当人から話を聞ければ一番良かったのだが、全く間の悪い」
深く溜息を吐くルドラマだが、その顔はどこか晴れやかなもののように見える。
この街を預かる領主としては、他国の騎士がいつまでも滞在するのをあまり歓迎は出来ない。
特にネイはチャスリウス公国で冷遇されている第二王子に付いているということも知っていたため、何か厄介ごとが持ち込まれる可能性もあった。
誰か人を探しにここへと来たということは聞いていたため、アンディ達と街を離れたということは目的の人物がアンディかパーラのどちらかであったということだろう。
面倒の種ともなり得るネイを街から連れ出した形になるアンディ達に、とりあえず心の中で感謝だけはしておこうと思った。
SIDE:END
「ほ、ほほぅうっ!なな中々に壮観じゃあないかっ!ヒッ!」
青空の中を飛ぶ飛空艇の操縦室の中、窓際に立つネイは眼下を流れる景色を見てそう口にしているが、口調は明らかに動揺を隠せていないし、足に至っては生まれたての小鹿並に震えている。
どう見ても高所恐怖症だろう。
「…ネイさん、高い所が怖いならとりあえず座ったらどうです?」
「バ、バカを言うな!怖いわけが無かろう!そうだ、怖いわけが―」
「アンディー、そろそろ着陸しようー。もうお昼だし」
「そうだな!昼なら仕方ない!アンディ君!着陸だ!」
何故そんなに強がっているのか分からないが、昼を告げに操縦室へ顔を出したパーラの意見に、こちらが引くぐらいの勢いで同意するほどに空の旅が苦手だというのは分かった。
現在、俺達はネイと共に彼女の祖国へと向かっていた。
元々馬でヘスニルまで来たネイは帰りも馬だと考えていたようだが、俺達には飛空艇があるため、そっちでの移動を勧めてみた。
空を飛ぶ乗り物というのに興味を持ったネイだったが、実際にこうして空に出てみると凛とした姿はどこへやらといった様子だ。
どうやらある一定の高さまでは平静を保っているのだが、恐らくそれは城の高さがボーダーラインになっていると推測する。
城から見下ろす景色には馴染みがあるものの、それを超える高さになると途端に恐怖を覚えるようだ。
昼食を摂るために適当な場所へと飛空艇を降ろし、せっかくだからと外で食べようと言い出したのはネイからで、少しでも飛空艇の外にいたいというほどには空への恐怖があるのかと俺達には十分伝わっていた。
青空の下、シートを広げて昼食となったわけだが、出発前に買ったハンバーガーのセットとフライドチキンを並べただけで、パーラとネイのテンションは見るからに高まりだした。
「うむ、フライドチキンとは分かっているな、アンディ君」
「うんうん。やっぱり昼はガッツリとしたものじゃないとね。あ、お茶ある?」
「はいよ。ネイさんもどうぞ」
「あぁ、ありがとう」
結構な量があるハンバーガーとフライドチキンだが、それぞれパーラとネイが恐ろしい速度で胃に収めていき、昼食の時間はあっという間に終わってしまった。
今は3人並んで遠くを眺めながら食後のお茶を味わっているところだ。
「ネイさん、チャスリウス公国ってどんなところなの?」
お茶を片手に穏やかな時間の中、パーラがふと思いついたようにネイに尋ねた。
「うーん、どんなと言われてもな。…どういうものが気になる?」
「そうだなぁ…。やっぱり食べ物かな!」
「パーラ、お前はどうしてそう…。大体、昼を食ったばかりだろう」
「はっはっはっは、いいじゃないか。私もパーラ君ぐらいの頃には食べることが楽しかったものさ。まぁ流石に食べ物だけでは我が国を語るには足りんな。よし、私なりに順序立てて話してみることにしよう」
相変わらず食い意地の張ったパーラの質問だったが、ネイもそれがツボにはまったようで、楽し気に話をし始めた。
これから向かうチャスリウス公国は大陸でみると東側に位置しており、マクイルーパと国境を接する南西以外の三方を山脈に囲まれた国土は諸外国と比較すると狭いのだとか。
周囲の山々が天然の要害となってチャスリウス全体を守り、マクイルーパとも良好な関係を結んでいるおかげで、もう随分他国との戦らしい戦は起こっておらず、百年単位で平和を謳歌している国となっていた。
チャスリウス公国の主要な産業として挙げられるのは牧畜と鉱業の二つだが、チャスリウスでのみ生息する種類の馬は名馬としてあまりにも有名だ。
普通より馬体も大きく、重い荷物をものともせずに走るチャスリウス産の馬は軍馬としても優れており、どこの国も喉から手が出るほどに欲しがるという。
「そういえばネイさんもアシャドルまでは馬で来たんでしたね」
「フスのことか。あれは近年稀に見る名馬だ。それだけに、飛空艇で連れていけなかったのは勿体なかった」
「仕方ないよ。貨物室に入りたがらなかったんだもん」
本来であればフスも一緒に飛空艇で国に返してやりたかったのだが、何を警戒したのか貨物室へと一向に入ろうとしなかったため、やむを得ず人に頼んでフスだけは陸路での帰国となった。
長旅を一緒に乗り越えてきた相棒と別れての帰国に何か思うものがあるのか、ネイは物憂げな顔を浮かべている。
「私もフスと一緒に走って帰りたかった…。くっ、まさか空があんなに恐ろしいものだったとは」
「あ、やっぱりネイさんって高い所が怖いんだね」
「こら、パーラ。あまりそうはっきり言ってやるな。本人は隠したがってるんだから」
「えー?でもあれだけ足を震わせてたら誰だってわかるよ?」
空の旅を選んでしまったことを再び後悔しだしたネイには幸い聞こえていないが、パーラのその指摘は彼女の自尊心を著しく削ってしまいかねない。
そっとしといてあげなさい。
「ネイさん、そろそろチャスリウスのおいしい食べ物の話を聞かせてよ」
「む?おぉそうだったな。我が国では牧畜が盛んなのだが、特に長い期間寝かせたチーズなどは抜群にうまい。アシャドルでもチーズは食べたが、やはりチャスリウスのものの方が私は好きだな」
アシャドルで出回るチーズはほとんどが山羊の乳から作られたものだ。
牛乳から作るチーズの味を知っている俺からすれば少しクセが強い。
パーラ達は普通に山羊のチーズをうまいと言って食っていたので、ネイがそうまで言うほどに違いがあるのだろうか。
少し興味が出てきたな。
更にネイが続けて語ったのは、チャスリウスにおける主食についてだった。
これまで行ったことのある国では小麦で作るパンを主食としていたのだが、チャスリウスに限ってはトウモロコシを粉にして作る薄いパンが主食だという。
普通に小麦も出回ってはいるがトウモロコシに比べて割高であるため、国民は大抵トウモロコシで作るパンを日常的に食べている。
何となくトルティーヤを想像して、ネイに尋ねてみたところ大体同じような感じだった。
薄く伸ばして焼いた生地に野菜や肉を乗せて巻き、特製のソースなどで食べるそうだ。
「なにそれ、おいしそう…」
「ははは、確かにうまいがフライドチキンには及ばんよ」
「いや、それはネイさんがフライドチキンを異常に好んでいるだけですよ」
「何を言う!あれほどうまい物は他にないだろう!もしあれを超えるものが存在するとしたら、それは天上の果実ぐらいだな!」
「言い過ぎじゃないですか?そんな、王族に出しても恥ずかしくないとでもいいたげな―」
「おぉ!それはいい!是非ともフライドチキンをダルカン様に召し上がっていただきたいものだな!頼めるな、アンディ君!」
「ア、ハイ」
確かにこっちの世界では珍しい料理ではあるが、元の世界でのファストフード的なフライドチキンを王族に勧めるのかと思うと何だかモヤっとしたものを覚えてしまう。
まぁ元の世界でもハンバーガーが好きな大統領もいたし、うまいと思ってもらえるなら別にいいか。
ネイはフライドチキンの考案者が俺だと知っているので、ダルカンに作ることをしっかりと頼まれてしまった。
ギラギラとした目で迫るネイが怖くて屈したわけだが、げに恐ろしきは人の(食)欲というものか。
「さて、それじゃあそろそろ出発しましょうか。できれば日が沈むまでにはアシャドルの国境まで辿り着きたいので」
「…アンディ君、操縦で疲れているんじゃないか?もうちょっと休んでも…」
「もう充分休みました。それに、ここまではかなりゆっくりと飛んできたので、もう少しだけ進みたいんですよ」
高所恐怖症気味のネイに配慮し、高度と速度はかなり落として移動してきたため、当初予定していた一日の移動距離にはまだまだ届いていない。
今日中にはアシャドルの国境を臨める辺りまで行きたいものだ。
色々と理由を付けて出発を延ばそうとするネイの背中を押して飛空艇へ乗り込み、今度はパーラの操縦で空へと飛び立った。
一度休憩を挟んだおかげか、午後に入ってからのネイは大分落ち着いていた。
まだおっかなびっくりといった様子ではあるが、時折外の景色を見るだけの余裕も出てきたネイは、空の旅を冷静に分析し始めた。
「しかしこの飛空艇というのはすごいものだな。地形や天候の影響をほとんど考慮することなく高速で飛ぶことが出来るとは、確か古代の遺跡から見つけたんだったな?」
「ええ、ソーマルガにいた時に。今ソーマルガではこれと似た飛空艇は結構な数が発掘されてますよ」
「ふむ…。私は欲しいとは思わんが、珍しい物が好きな貴族などは欲しがるだろうな」
「でしょうね。ソーマルガやアシャドル、ペルケティアでもそういう手合いはいましたし」
ネイ個人が欲しがらないのは、偏に彼女自身が高所恐怖症だからだな。
まぁそれも今の様子を見ると克服され始めているようだが、それでもやはり苦手意識は完全に消し去れないだろう。
「一応聞くが、いくら積めば飛空艇を売る?」
「いくら出されても売りませんよ。これは俺達の足であると同時に家でもあるんですから。同等の快適さを求めるなら国一つと引き換えでも足りません」
空調設備、食糧庫、風呂、愛用の寝床とどれが欠けてもいけない。
全てが揃っているからこそこの飛空艇は価値がある。
現代日本で生きた記憶のある俺としてはこれを手放すなどとんでもない。
「国一つとはふっかけるじゃないか。そうまで言わせる価値がこの飛空艇にあるとはな」
「まぁネイさんも今夜それを味わったら分かってくれると思いますよ」
「ふっ、楽しみにしておこう」
こっちの世界の住人は風呂を体験するとその魅力にたちまち取り込まれてしまう。
今まで出会った人間が皆そうだったので、ネイも恐らく同様のはずだ。
飛空艇にある浴室はソーマルガの職人の手を借りて俺が作り上げた傑作だ。
湯船には熱いお湯と情熱が詰まっている。
ネイには夜になったらその体にたっぷりと俺の熱い思いを受け止めてもうらうとしようか。くっくっくっく。
「…なぁパーラ君、アンディ君が妙に不安になる笑い方をしてるんだが」
「あぁ言う時のアンディは大抵くだらないことを考えてるだけだから、無視していいよ。どうしても我慢できなかったら叩いちゃって」
「君も中々だな」
「いつものことだからね」
何か物騒なやり取りが視界の隅で行われていたが、空の旅はゆっくりながら順調に進み、日が沈むと共に俺達は飛空艇を着陸させた。
アシャドルとマクイルーパとの実質的な国境である大森林にはまだ少し遠いが、明日の朝にここを発てば昼前には国境を超えることは出来るだろう。
手元にある俺の地図と、ネイから借りたチャスリウスまでの道のりの記載された地図を並べて明日の経路を考えていると、少し離れた浴室からネイとパーラの楽し気な声が聞こえてくる。
どうやら浴室の扉が少しだけ開いているらしい。
『沐浴とはまた違うものだな。体にお湯の温かさがしみ込んでくる感覚がたまらん』
『だよねぇ。私もアンディと出会うまではお風呂って入ったことなかったんだけど、これを知ったら水浴びなんかじゃ満足できないよ』
『全くだ』
それからしばらくして風呂から上がってきたネイとパーラに、風呂上がりの一杯を勧める。
パーラにはお茶を、ネイには冷えたエールをそれぞれ渡した。
やはり風呂で汗をかいた分それなりに喉が渇いていたようで、一度大きく喉を鳴らしてからエールの注がれたカップに口を付けて一気に呷る。
「―くぅぅう!キンッキンに冷えてやがるっ…!!」
一気に飲み干したカップを振り払うように息を吐き出したネイがそんな言葉を口にする。
それを見ていたパーラもまた、冷えた麦茶を片手にうんうんと頷いていた。
風呂上がりの一杯までがワンセットの幸福だと俺は思っている。
そして、このネイの様子を見る限りでは風呂も十分気に入ってもらえたと見ていいだろう。
「火照った体にこの冷えたエールは最高だな。できればもう一杯欲しいところだが…」
というか、風呂上がりのエールを気に入っただけのような気もするが、まぁそれはいい。
自分が好きなものを誰かにも好んでもらうというのは気持ちがいいものだ。
この気持ちのまま、俺も風呂に入るとするか。
背中に感じるネイの視線、エールのお替りをねだっているであろうそれを今は無視することにした。
チャスリウス公国を目指して三日目、俺達はマクイルーパとチャスリウス公国の国境へと近付いていた。
飛空艇に乗った初日以降、ネイは日に日に空への恐怖感も薄れていき、三日目となった今では普通に高い位置を飛んでいても目に見えて怯える姿は無くなっていた。
ただ、離着陸時に若干顔が強張るのだけはどうしても抜けないようだ。
チャスリウス公国からすれば、唯一国境を接する国であるマクイルーパはもっとも自国と親しい国という相手であるため、ネイはマクイルーパについてもそこそこ詳しい。
「西から北東へかけて弧を描くような形をした国土がマクイルーパの特徴だな。北西と東側にある鉱山がこの国の財となっているわけだが、近年では鉱山資源が枯渇してきたという噂も耳にしたことがあった。そのせいか、最近のマクイルーパは農業にも力を入れ始めている。ほら、右手側に広がる麦畑が見えるだろう?あそこは元々何もない土地だったらしいんだが、流民を大量動員して十年掛かりでこうした穀倉地帯になったそうだ」
操縦しながら視線を右側へと向けてみると、こうして空から見てもかなりの広大な麦畑が広がっており、そこから生み出される小麦の量を思うと微かに身震いを覚える。
農業機械がないこの世界で、これだけの穀物を作り育てるのにかかる手間は一体どれほどになるのだろうか。
「あ、そうだ。ネイさん、農業の神の御使いが最期を迎えた地って知らない?私達、マクイルーパでそれを探すつもりだったんだよね」
「御使いの最期…あぁ、もしかしたらあそこだろう。ここから少し南へ行った場所に村があって、そこで御使いが亡くなるまで過ごしたという伝承が残っていたと思う。私も又聞きの更に又聞きのようなものでしか知らないから確実だとは言えないが、心当たりはそこぐらいしかないな」
不確実な情報だとネイは申し訳なさそうに言うが、齎された情報は十分有用なものだった。
俺達は御使いの手掛かりに関してはほぼ持ち合わせておらず、マクイルーパに行ってから地道に探すつもりであったため、ネイの話は一足飛びに目的地を捉えることが出来たと言っていい。
惜しむらくは今の俺達は依頼を受けている身であるため、ネイを確実にチャスリウスまで送り届けるのが優先される。
なので、寄り道をするのは流石に難しいと思っている。
「よし、そういうことならちょっとその村に行ってみようじゃないか」
「えぇ?私達って今チャスリウスに行かなくちゃならないんじゃないの?」
「なぁに、この飛空艇の移動速度なら多少の寄り道など問題ない。アンディ君、針路を南へと向けてくれ」
「いいんですかねぇ…」
「依頼人の私がいいと言っているんだ。一向に構わん」
ネイは馬でアシャドルまで来て、また馬でチャスリウスに戻るつもりだったらしいので、飛空艇で移動するとかなり移動時間は短縮されていることになる。
その分を加味すれば確かに多少の寄り道も問題はないのだろう。
依頼人からのお許しも得て、俺達は早速南へと船を向ける。
しかしこうも早く目的が果たせるとは思わなかったな。
チャスリウスでの依頼を済ませてからと考えていただけに、これは嬉しい誤算だ。




