遺跡というよりも遺物
流砂に沈んだ先にあった洞窟。
光が差し込まないせいで時間の感覚に欠けるこの環境では、空腹だけが時間の流れを教えてくれる唯一の指標だ。
既に四度の食事を終えていることから、一日以上は経っているはずだが、正確な時間はやはり外に出ない限りはわからない。
食事は相変わらず巨大ムカデがメインだったが、もう一つ食べられるものも見つけた。
僅かに湿り気のある場所に群生している苔が今の俺の食事に一品加わっていた。
この苔は他の虫たちも餌にしているらしく、俺が食べても体に異変はないことから、貴重なビタミンとミネラルの補充先として重宝している。
十分な食事と仮眠によって魔力はかなり回復してきており、今なら遺物の扉を開けるだけの魔力を充填できそうだ。
改めて再び扉の前に立ち、開閉装置へと魔力を送り込んでいく。
今保有する魔力の半分ほどを使った頃、開閉装置が淡い光を放ち始め、その光に触発されたかのように遺物全体に微かな振動が走る。
補助動力が起動したことで機能の幾つかが活動をはじめ、それに応じて遺物も息を吹き返したかのように動きを見せた。
カーリピオ団地遺跡の時はエレベーターを兼ねた出入り口だったせいで大量の魔力が必要だった。
今回はあの時ほど大掛かりではない装置への充填となるため、注ぎ込んだ魔力は比較的多くない。
これはあくまでも俺を基準とした話なので、普通の魔術師だと起動させる分の魔力を充填するのも2回に分けるぐらいは必要かもしれない。
俺以外の人間がこの遺物を見つけていたとして、内部に侵入できずに放置したのはこのせいだろう。
開閉装置に点滅を繰り返すスイッチを見つけ、それを押すと扉が勢いよく上へと跳ねあがった。
スライドする形で上へと上がったため、俺に被害はなかったが、そのあまりの勢いに少しだけ驚いてしまった。
正直、初見の人間には優しくない仕組みだ。
とはいえ、これで内部へと侵入することができる。
早速松明を手に中へと入ろうとするが、よくみると内部にはオレンジ色の明かりがポツポツと灯っており、松明は必要なさそうだ。
松明をその場に残し、改めて内部へと侵入してみると、まず目に付いたのはオレンジ色に照らされた通路が左右に延びる光景だった。
風紋船の原型と予想するこの遺物だが、内部は木製ではなく全て金属で構成されており、船というよりも航空機や新幹線に近い内装だ。
通路の天井に設けられている非常灯が等間隔に並んでいるおかげで、通路の奥まで見通せるのは楽でいい。
松明片手に調査を想定していただけに、これは嬉しい誤算だ。
さて、左右どちらへと向かうかだが、俺が今いるのはちょうど遺物の中間地点、恐らくだが右手側が船の船首部分へと続く道だろう。
この遺物のフォルムは細い矢じりのような形なので、流線型の先端、つまり細い方が大抵船首となっているはずだ。
超古代文明のよくわからん技術でこの常識を覆らされているのなら話は別だが、見た所それほど俺の知る技術とかけ離れた造りはしていないようなので、俺の常識に習って行動しよう。
通路を歩く俺の足が奏でる音はやはり木の板の上を歩く時のそれではなく、リノリウムの床を歩く時のような音と感触なのは何となく病院や学校のような感じがして少し懐かしさを覚える。
まさかこんなところで前世を回顧する瞬間が訪れるとは、古代文明はやはり今よりも相当進んだ技術で溢れていたらしい。
一本道の通路を歩くこと十数分。
一応警戒して移動したのでこのぐらいかかったが、未知の遺跡などでは慎重に行動しても間違いはない。
ようやく通路の行き止まりとなっている場所に辿り着いたが、当然ここで終わりとなるわけがなく、明らかに開閉機構の影が目につくそれはやはり扉となっており、この向こう側に部屋がありそうだ。
中々頑丈そうな扉は本来であれば鍵でもかかっていてもおかしくはないのだが、取っ手を握って横にスライドさせると簡単に開いてしまった。
何かの映画だかで見たことがあるが、補助動力の復活と同時にロックが初期化されたとかだろうか。
もしかしたら最初から鍵なんかかかっていなかったという可能性もあるが、今は扉が普通に開いたことを喜ぼう。
開いた扉の向こうに広がる空間は正にコックピットと言えるような場所で、操縦席のようなコンソールが並ぶシートが一つ、壁際を向いているシートが二つの計三つのシートがあるが、こうして見ると航空機のコックピットと変わりがない。
風紋船の操舵室を見たわけではないが、明らかに船のそれとは違う気がしている。
もしかしたらこの遺物は風紋船とは別の乗り物なのか?
室内にあるシートの中で、中央奥にある操縦席と仮定しているシートに腰かけ、コンソール周りを色々と見てみる。
目の前で点滅している楕円形のディスプレイに触れてみると、すぐに反応が返ってくる。
パソコンがスタンバイ状態から復帰するように、ディスプレイに色々と文字と図形が表示されると、それらが流れるように現れては消えてを繰り返された後、ようやく落ち着いた画面に表示されたのは、恐らく初期設定の画面だと思われるものだった。
やはりこれも標準で使われているのはパルセア語の様で、画面に表示されている文字は今の俺には解読は出来ない。
しかしながら俺もソーマルガに来てからはパルセア語の単語を幾つか覚えている。
特にタブレットを使っての授業の際にはパルセア語から共通語への切り替え方も指南していたので、この画面に表示されている文字のなかから『設定』と『言語』の単語に絞って探していけば、表示言語を共通語へと切り替えることが出来るはずだ。
ディスプレイはタブレット同様にタッチ操作が可能で、直感的な操作が出来る仕組みは、この遺物が存在していた時代のスタンダードなのだろう。
慣れた手つきで操作していき、程なく言語が共通語へと切り替わった。
見やすくなったディスプレイを読み込んでいくと、どうやらこの画面一つで遺物全体の機能を操作することが出来るようで、現在のこの遺物がどういう状況なのかもモニターに表示された。
補助動力が復活したことで現在スタンバイ状態にあるこの遺物だが、メインの動力に始動の命令を送ればすぐに全システムを立ち上げることが出来るらしい。
そしてその命令もこのディスプレイから送ることが出来る。
早速システム起動の命令を送り、細々とした入力を終えると、オレンジ一色だった室内灯が蛍光灯のような白い光に変わり、空調が動くような音も聞こえ始めた。
ディスプレイに表示されている各種ステータスも次々と起動の信号を返してきていることから、どうやら完全に起動できたと判断できる。
洞窟内の気温に合わせて、遺物の内部もかなり冷えていたが、こうして空調が動き始めると室内温度が上昇し始め、少し経つとかなり過ごしやすい気温へと変わっていた。
思ったよりも体は冷えていたようで、温かい室内に環境が変わった途端、知らずに安堵のため息が漏れていた。
やはり人間は明かりと温かい部屋に置かれるとリラックスする生き物なのだと思い知らされた。
座っていたシートの背もたれに体を預け、少しだけ目を閉じて体を休めると、次の行動へと移る。
遺物の機能を復活させることに成功したら、次はこの遺物が何なのかを調べたい。
ディスプレイを操作してデータベースらしき部分へとアクセスし、引き出せるだけの情報を探っていくと、大凡のことが分かってきた。
今俺がいるこの遺物はやはり古代文明が作り出した乗り物で、なんと空を飛ぶ船だと判明した。
船種としては飛空艇、あるいは飛空船というのに分類されるとのこと。
船名は『オハンリー』、元々は都市間を移動する物資輸送船だったが、戦時徴用により戦闘艦として運用され、戦争終結後には武装を外した上でモスボール処置を施されていた。
しかしその後、民間に払い下げられたオハンリーは再び輸送船として活躍していたらしい。
長年働き続けたオハンリーもいよいよ退役となり、どこかの博物館に展示されることとなる。
時代の変遷とともに性能も運用方法も変わりつつある中で、スクラップにされずに展示品として残されることになったこの船は運がいい。
展示品となる運命にあったこのオハンリーは、当然ながら輸送も丁重に行われ、自力での飛行はせずに空輸されることとなったのだが、その際に何らかの事故によって積荷であるオハンリーが落下し、さらに運悪く流砂に飲み込まれてこの場に至ったということだ。
これらは全てデータ上に日誌の形式で残された情報から拾い上げたものだが、どうやらこのオハンリーと共にここに落とされた人間が残したもののようで、日誌の終わりの方には遺書らしき記述もあった。
遺書を書き残した人間は一人だけで、恐らくこの人物が船と一緒に流砂に飲み込まれてしまった運の悪い人間だったのだろう。
他に一緒に遭難した人間のことが全く記されていないことから、遭難したのが一人だけと判断しても間違いはないはず。
もしかしたらオハンリーと共に流砂へ飲み込まれたその人物が、洞窟内に残されていた白骨死体の内の一つなのかもしれない。
色々と記録を見てみたが、どうやらこのオハンリーはまだ普通に稼働できるようで、古代文明の基準でロートルの烙印は押されたものの、今のこの世界の技術水準で見るとかなりぶっ飛んだ乗り物だと言える。
貨物輸送船として活躍していただけあって運搬能力は同じ大きさの海上運航船にも引けを取らず、航行速度もこの世界の乗り物で並ぶものはないだろう。
空を飛ぶ乗り物で言えば、人が乗れるように調教された飛竜が存在しているが、データベース内のスペック表を見るとオハンリーの方が圧倒的に早い。
退役間近には人を乗せて遊覧飛行も行ったという記録もあり、船内にはいくつかの部屋と座席が設けられたスペースも存在している。
高高度を飛行することも想定されたこの船は内部の環境を保つために十分な密閉性も確保されており、短時間であれば潜水能力も有しているらしい。
無補給で4000キロメートル以上を航行する能力があり、滞空に限って言えば日単位で留まることができる。
俺の記憶にある航空機で言えば、ボーイング747-400という飛行機が12000キロメートルを飛行する能力を持っているので、それと比べると見劣りしそうな性能だが、オハンリーの優れている点は給油という作業を必要とせず、一定時間動力を休ませるだけで再び飛行へと移れるという、とんでもなくエコな乗り物だということに尽きる。
こうなるとこの船の動力源が気になる所だが、それも簡単にではあるがマニュアルに記載されていた。
船に搭載されているのは大型の人造魔石を3つ連結して動力源としている『ベルギルアス』という名前の半永久機関だ。
機能保全に必要なこと以外は詳しく記載されていないが、このベルギルアスは製造の段階で莫大な魔力を必要とするが、一度最初期の起動を終えてしまえば以降は魔力の補充は大気中から勝手に行ってくれるため、よほど深刻な不具合が発生しない限りは放置していても動力を供給し続けてくれるという。
ただ、時折人造魔石内に発生する澱のようなものを取り除くために、たまに人の手で魔力を流し込んで澱を取り除く作業が必要だが、それ以外はほぼメンテナンスフリーだということになる。
俺が補助動力を立ち上げるまでは休眠状態だったのは、恐らく船内とその周辺にある程度の大きさの生命反応がなくなったことを察知した船のシステムが自己保全の判断をしたせいだろう。
人がいない分だけ船内の環境維持にシステムのリソースをまわす必要もなく、その上飛行もしないのだからベルギルアスの稼働率を落として魔石内に不純物が発生しないようにというこの措置は実に効率的だ。
これだけ高度な技術が使われているものをただ博物館に展示するのは勿体ないと思うのだが、どうもこれは古代文明の発展によって時代遅れの技術扱いになっているようで、物自体は記載されていないがこれよりもより便利で効率的な動力源が存在しているらしい。
骨董的な価値のおかげで展示に回されることになったオハンリーだが、これ一隻だけで今の世界の技術革新がどれほど進むのかを想像すると胸が熱くなる。
とはいえ、今の俺にはそんなことはどうでもいい。
てっきり風紋船のようなものだと思っていたが、空を飛べる乗り物と分かった以上、これは洞窟を脱出するのに使わせてもらおう。
そうとなったらすぐにでも操縦を覚えたい。
データベースから操縦マニュアルを見つけ出し、それをディスプレイに呼び出す。
船の構造から飛行の仕組みまで色々と出てきたが、それらを細かく見ている時間は今の俺にはないので、手っ取り早く必要な情報だけをピックアップしていく。
基本をすっ飛ばしていきなり飛ぼうというのだから無謀だとはわかっている。
しかし今はとにかく時間が惜しい。
食料にしろ水にしろ、生きるのに必要な物資がとにかく不足している今の状況では、悠長に飛行訓練などしていられない。
前世で農薬散布用のラジコンヘリを使っていたが、あの経験を生かすことが出来るだろうか。
こうして操縦方法を見ていくと、流石は進んだ文明だけあって、一人で操縦することも想定されているらしく、ある程度細かい作業は船のシステムがサポートしてくれるようだ。
AIのようなものが積まれているのか、危険な事態に陥りそうな操作を行うと警告文が表示されるのは実に便利なものだ。
ディスプレイには発進シークエンスのような一覧が表示されており、それに従って順番に発進作業を進めていくと、それまでただの壁だと思われていた部屋の壁に淡い光が走り、全面が外を映し出すようになった。
全周囲モニターとは、これを作った奴はロマンをわかっているな。
諸々の準備が終わり、船体を浮かび上がらせるために、今座っているシートのひじ掛け部分にある操縦桿に手をかける。
右手側が機体の向きを、左手側が速度と高度にそれぞれ制御が割り当てられており、この辺りは前世とよく似た仕組みをしていた。
やはり古代文明の人間も入力装置に関する発想は似通ったものになるようだ。
出力を少しづつ上げていくと一度だけ微かな振動が伝わって来た。
それに呼応してディスプレイに表示されているパラメータが次々と動きを見せる。
滑走路を必要としないこの船は上昇もスムーズに行え、まずは少しづつ高度を上げて天井付近へと船を持ち上げる。
その際に船に取り付けられていたライトを灯し、天井へと向けて明かりを投影しておく。
これで天井が見えなくてぶつかるということはないだろう。
船体の動きを乱すほどの風がない洞窟内は、ただ高度を上げるという作業程度であれば俺でも特に問題なく操縦出来た。
車の運転にしろラジコンヘリの操縦にしろ、大掛かりな機械を自分の手で動かす際には緊張感と共に妙な高揚感も覚えるものだ。
周囲の岩肌にぶつけないように上昇していき、天井付近で一度静止する。
浮上から停止までほぼ揺れらしいものを感じないのは、上昇速度が遅かったのもあるが、この船の機体制御技術が優れている証拠だろう。
静止したまま周囲にライトを向けて探ると、オーバーハング気味の岩肌に隠れるようにして空いている横穴を見つけた。
丁度この船が入れるほどの大きさだが、やや上へ向かって続いているせいで、船の窓からは奥を見るのは難しい。
ぶつけないようにその横穴に船を進入させ、船体は水平にしつつ斜め上に上昇していくと、岩が穴の途中を半端に塞いでいた。
人が通るならともかく、この船が通るだけの隙間がない通路となっており、仮に船を降りて身一つで岩の隙間を縫って進もうにも、穴自体は徐々に角度が急になっているようなので、途中で進めなくなる可能性が高い。
恐らくこの船と一緒に遭難した人物もこの横穴には辿り着いていたはずだ。
しかしこれを見て脱出を諦めたのではないだろうか。
落盤というよりも、この穴の上から落ちてきた岩がつっかえているような状況なので、取り除くことさえ出来れば船で上に上がること自体は出来そうだ。
普通なら大掛かりな機材でもなければ動かせそうにないほどの大きさの岩だが、幸運なことに俺には土魔術がある。
土魔術で岩に干渉するのは非常に面倒で、魔力の消費も普通の土への干渉に比べて桁違いに跳ね上がるが、全く不可能というわけではない。
コツコツと少しづつにはなるが、必ずこの岩を取り除くことは出来るはず。
問題はこの岩を取り除いたとして、さらにその奥にまた別の岩がある場合だ。
一つ取り除くのにかかる労力はバカにならんし、二つ目に遭遇してしまったら果たして俺の心は折れずにいられるだろうか?
いや、ここは二つ目の岩の存在が無いことを祈りつつ、目の前の障害を排除することに集中しよう。
船はこの場に滞空させておき、船を降りた俺は岩肌に足場を見つけながらのちょっとしたロッククライミングをしながら件の岩へと張り付くことが出来た。
船の操縦席から見ていた時よりも、こうして直に見た方が大きさはさらに増しているような錯覚を覚える。
まずは岩の表面に手を当て、軽く魔力を流し込みながら岩の変形を試みる。
普通に今まで触れてきた岩であればこれぐらいの魔力が必要だろうなという感覚で行ったが、意外なほどあっさりと岩が形を変えていく。
どうやらこの岩はかなり土寄りの性質のようで、変形の始まりに多くの魔力を使う以外は意外と消費は軽いものだった。
これは思ったよりも作業は捗りそうだ。
とはいえ、あくまでも魔力の消費量が抑えられただけなので、実際の作業量自体はそれほど減らない。
下手に岩を変形させて転がってしまうと、滞空している船にあたって損傷してしまうかもしれないので、依然慎重な撤去作業が求められている。
とりあえず船が通れるだけのスペースが確保できたところで再び船を進めていく。
二つ目の岩との遭遇を警戒しながら進めていくと、穴の向きが少しづつ入り組んだものに変わり始めた。
上に進んでいたものから横に、横から下、再び上へとくねくねとしたルートを移動していくと、流石に船を何度か岩肌に擦ってしまったが、致命的な損害がないのは幸いだった。
ただまぁ、ぶつけるたびにディスプレイに出てくる警告が俺を責めてきてつらいが。
どれだけ進んだのか、そろそろ精神的な疲れが隠せなくなってきた頃、向かう先にポツポツとしたかすかな光が見え始めた。
ようやく出口が見えた喜びから船の速度を上げ、一気に外へと飛び出した。
外は夜になっていたようで、船が浮かぶ空は星と月が主役となる時間帯だった。
砂漠の星空の美しさを知っていたつもりだったが、こうして地上を離れた空に浮かびながら見る星は、地上で見たときよりも迫力を感じる。
そのせいで星空の美しさの方に感動してしまい、脱出できた喜びが少々霞んでしまったのは仕方ない。
このまま船をどこか街か村に向けて進めたいところだが、夜の砂漠は地形を把握するのに困難で、高度を上げて街の明かりを探そうにも、正直今の疲労した俺が上空の気流に翻弄されず船体を滞空させるだけの気力がない。
今夜はどこか適当な所に船を降ろし、日が昇ってから人のいるところへ向かおう。
平地よりも高地の方が魔物に襲われる心配は少ないはずなので、船の高度を下げつつ、ライトを下へ向けてよさそうな場所を探す。
こういった下を見るのにも全周囲モニターは便利で助かる。
探し続けて暫くすると、脱出した場所から少し離れた所に段々になっている岩場があり、その中腹に丁度船が停泊できるだけのスペースを見つけることが出来た。
ゆっくりと船を降ろしていき、無事着地に成功し、ようやく一息着けた。
俺が流砂に飲み込まれてから脱出までどれくらいの時間が経ったのか、洞窟内での時間経過がわからないが今が夜になっていることから一日は経っていると見ていいだろう。
あるいはもっと長い時間気絶していたのならもう二・三日は加算してもいい。
体感としては洞窟で気が付いてから船を見つけて脱出するまではあっと言う間だった気もするが、実際どれだけ俺は遭難していたのか気になる。
コンウェル達は流砂に飲み込まれた時点で俺は死んだものと考えるだろうが、パーラはきっと俺の帰りを待っている気がする。
むしろ俺を探して流砂に飛び込むぐらいはしそうな気もするが、それは流石にコンウェル達が止めてくれるだろう。
何とか無事なことを伝えたいところだが、それにはまず街に行ってギルドに生存報告をしてからになる。
多分俺は作戦行動中の行方不明者として扱われているはずなので、受付にギルドカードを提出して本人確認をしてもらえば問題ないはずだ。
ギルドカードには本人以外が使えないように魔力的な認証が施されており、たとえ他人のギルドカードを使って成り済まそうとしても、強固なセキュリティの前に御用となる。
ギルドカードと本人が揃っているのだから、生存証明は確実にしてくれるだろう。
明日からの行動の指針はこれで決まったな。
街か村を見つけ、ギルドで俺の生存証明を行い、パーラの下へと帰る。
これらを決めた所で不意に訪れる睡魔に誘われ、どこか眠れる場所を求めて船の中を歩き回ると、いくつかある部屋の一つに腰を据える。
6畳程の広さのこの部屋は何人かで使うもののようで、左右の壁に2段ベッドが取り付けられており、クッションマット自体は残されていないが、何枚か布を敷けば固めのベッドとして使えそうだ。
ベッドを整え、横になるとすぐに睡魔が俺の瞼を引き下げ始めた。
やはり人間は文化的な生活を送らないと精神的な安定は得られない生き物なのだ。
ベッドが使えるというだけでこれまでにない安らかさを覚え、俺は眠りの世界への扉を開いた。
 




