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世の中は意外と魔術で何とかなる  作者: ものまねの実


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二匹目のどじょう

フェルディナントアカハナサボテンという植物がある。

ソーマルガに昔いたフェルディナントという植物学者が発見したサボテンで、上に楕円形を描くように伸びるのが特徴の砂漠の固有種だ。

砂漠の特定地域ではよく見かける種であり、その活用方法が長年に渡って研究されてきた結果、このサボテンから抽出した樹液に幾つかの薬品を化合させた液体が、ドレイクモドキを始めとした何種類かの爬虫類型の魔物を酩酊状態にさせることで動きを鈍らせる効果があると近年になって解明された。


薬品の状態での長期間の保存が難しく、常備こそされていないが、薬師に材料を持ち込めば比較的簡単に作ってもらえるため、今回の作戦で急遽用意することは出来た。

揮発性が非常に高く、大量に吸引すれば人間にも多少の悪影響はあるのだが、主に爬虫類に効く薬品であるため、命に関わるような問題にはならないので使い勝手がいい。


俺達から見える岩場の向こうでは傭兵達によってその薬品が入った容器が次々とドレイクモドキを目掛けて投げ込まれ、容器が壊れたことで空気に触れて気化した薬品が薄い煙となってドレイクモドキを覆い始めている。

風のない今の状態でならすぐに効果は現れるだろう。


傭兵達が俺達のいる方へと離脱するのに合わせて、冒険者が騎乗したラクダがドレイクモドキを掠めるようにして向こうへと駆け抜ける手筈となっている。

ユノーら隊長格が自分の部隊に檄を飛ばしているのを耳にしながら、遠目にドレイクモドキがいるであろう靄の辺りに目を向けていると、傭兵達の動きが変わった。


「コンウェルさん、傭兵隊が変な動きをしてますけど」

「変な…?どういうことだ?」

伝令役にユノー達への出発の指示を伝えようとしているコンウェルだったが、俺の言葉を聞くと隣へと身を滑り込ませるようにして横たわらせ、手渡したスコープを覗いて傭兵隊の様子を見る。

「作戦ではこの後こちらへと離脱してくるはずでしたけど、どうもドレイクモドキに攻撃を仕掛けるつもりの様です」

「…確かに。どういうつもりだ?サザの奴め」


傭兵隊の役割は速度を活かしての高速での薬品散布、その後囮役と入れ替わる形で離脱して後方で待機だったはずだが、俺が見た所傭兵隊たちはこちらへ向かわず、一旦ドレイクモドキから距離を置いたあたりで陣形を整え始めたのだ。

まるでこれからドレイクモドキへと突撃を仕掛ける前のように横一列に並び、その中心にはサザが陣取って何やら大声を上げていた。


「チッ、さては他所から別命を受けたか」

スコープを除きながら漏らしたコンウェルの声は苦々し気なものだった。

「多分、サザはドレイクモドキを追い払うんじゃなく、討伐してその素材を持ち帰ることをどっかの貴族あたりにでも頼まれたのかもしれん」

「そういうのっていいんですか?ギルドと街の上層部の決定に背くことになると思うんですが」

「もちろんいいわけがない。今回の作戦はギルドとフィンディの代官達が共同で発令している。現場判断で多少の変更は問題ないが、作戦目標を追い払いから討伐へ勝手に切り替えるのはやりすぎだ」


コンウェルの言うことは傭兵暮らしの長いサザも当然分かっているはずだが、それをこうもあっさりと覆す行動をとるということは、ドレイクモドキの素材を欲しがった貴族等がサザへと秘密裏に個人的な依頼をしたというのが考えられる。


ドレイクモドキは討伐が非常に困難な魔物であるため、その素材の価値は途轍もなく高価だ。

ドラゴンほどではないにしろ、鱗から牙、骨に肉にと利用価値は幅広く、特に内蔵は薬となるものが多い為、貴族が欲しがるのもこの部位が多いそうだ。

危険にさらされる傭兵達の命などよりも、ドレイクモドキの素材に天秤を傾ける発想というのは何とも貴族らしい。


「ギルド側に作戦行動を逸脱したのを報告すればサザには重い処分が下されるだろうが、依頼主がそこそこの地位でフィンディの行政に食い込んでいたらお咎めなしってのもあり得る。サザはそういうこともあって今回の行動に出たんだろう」

「後ろ盾を得ているからこそ派手に作戦を無視して動けるわけですか。…それで、どうしましょうか?傭兵隊が戦闘に移るなら、囮役は意味がなくなります。俺達も戦闘に加わって討伐を手伝うか、作戦の継続が困難だと判断して一度撤退して仕切り直すか。俺としては後者を推しますが」


正直、今の状況は想定していた最悪の状態とは全く方向性の違う展開が成されており、この後どういう風に事態が推移していくのか全く予想がつかない。

討伐への移行自体を想定していなかったわけではないが、一部隊の独断で作戦が変更されるのは流石に予想外が過ぎたし、なによりも予定していなかったドレイクモドキへの攻撃が作戦に加えられるのは全体の士気に関わる。

ここは一度船へと戻り、作戦を組み立て直すのも一つの手だ。


「それはサザ達を見捨てるということか?」

「見捨てるも何も、サザさん達は勝算あって行動を起こしたはずです。俺達の援護を当てに独断専行するほど甘い考えは持たないでしょう」


そもそも俺達に何も言わずに勝手に行動しているのだから、このまま俺達が撤退しても文句を言われる筋合いはない。

コンウェルの言う見捨てるという言葉も、ドレイクモドキの手強さからサザ達がピンチに陥ることを見越してのものだ。

そこに討伐の成功を楽観視する感情は微塵も込められていない。


「だとしてもあんな少人数でやり合うのは自殺行為だ。みすみす死なせるのを見過ごせるかよ。俺達の隊を半分に分けて40人ほどで援護に向かう。ドレイクモドキを倒しきれるとは思えんが、いくらかの傷を負わせられれば撤退までの時間稼ぎぐらいはできるだろう。そこで何とかサザを説得してみる」


そう言ってコンウェルは身を翻して砂丘を下って行き、囮役として出発予定だった冒険者達が待機している一角へと向かっていった。


後に残された俺とパーラは、引き続きサザ達の動向を見張る。

ドレイクモドキを覆っていた煙が徐々に薄まり始め、ついには完全に消え去った頃になってサザ達が突撃を開始した。

先頭を走るのはラクダに跨ったサザで、高く掲げた自分の得物であるバルディッシュが士気を鼓舞しているようだ。


酒に酔ったように手足をフラつかせているドレイクモドキに最初の一撃を加えたのはやはりサザだ。

すれ違いざまにバルディッシュを横薙ぎに振るい、ドレイクモドキの左前足へと刃が吸い込まれていく。

スコープはパーラが使っているので魔力で強化した視力でのみの判断となるが、遠目にもドレイクモドキの足に血の花が咲くのを確認できた。


人との対比でわかるその巨体の体高は10メートルを優に超えるほどで、もたげた首まで勘定に入れると全高は15メートルにも迫る。

ここで初めて目にしたドレイクモドキの顔だが、確かに俺がイメージするドラゴンとよく似たもので、白っぽい体の色さえなければ、ドラゴンと言われたら納得してしまいそうだ。

あまりに体が大きいため、攻撃できる箇所も自然と手足と尻尾に限られてしまい、サザ達の放った攻撃も致命傷とはならないが、これを繰り返すことで相手に出血を強いていき、やがては倒すまでに至るわけだ。


続く他の傭兵達もそれぞれ得物を手に果敢にドレイクモドキに攻めかかり、4本ある足に様々な攻撃を加えてそのまま通り過ぎて行った。

ドレイクモドキは首を使っての噛みつきに手足で踏みつけるなどの攻撃をしてくるため、接近してそのまま留まるのは非常に危険だ。

なので一撃離脱の戦法が基本となるが、大人数での行動となればスムーズに事が運ぶとは限らず、円滑な離脱は中々困難になりやすい。


しかしこの部隊はサザの指揮が的確なのか、非常によく統率された動きで整然とした走りで離脱していく様は、芸術的な感動を覚える。

本人の性格はともかく、集団での指揮に定評があるのは伊達ではないようだ。


酩酊状態から、傷を負わされたことで激痛を覚えたドレイクモドキは荒れ狂うようにして手足と尻尾を振り乱し、地面や岩場に向けてその威力は振るわれた。

舞い上がった砂煙と飛び散る石礫がドレイクモドキの怒りを代弁しているようで、怪獣ともいえる巨体が暴れるだけで地形が変わってしまいそうな錯覚を覚える。


流石にそんな状況では砂塵が収まるのを待つしかなく、サザ達は砂煙が立つ場所を遠巻きに眺めるだけとなっていた。

図らずも一時の膠着状態と言える状況になったことで、編成の終わった援護の部隊も随時出発していった。


手練れを送り込むとあって向かったのは十数人程度だけだったが、先頭を走る4人が黄1級のユノー達が全員確認できていることからも、下位ランクの冒険者を束にして送るよりもずっと戦力として期待できるはずだ。

見送っていたパーラがボソリと口を開く。


「アンディ、私達はどうするの?このまま待機?」

「普通ならそうだろうな。こっちに残った部隊も物資の管理以外の人間は船に戻ることになるかもしれんが、その際の指揮を任されるってのも考えられる。これでも俺は白3級だからな。でも多分その前にコンウェルさんが呼びに来て―」


最後まで言い切る前に、俺達の元へとラクダに跨ったコンウェルが走り寄って来たため、そちらへと意識が向けられる。


「アンディ、パーラ!お前たちも一緒に来てくれ!使える戦力が足りん!」

「了解です。…こんな風に呼びに来るだろうと思ってたが、やっぱりその通りになったか」

「アンディって時々予言者みたいな読みをするよね」

「俺が予言者だったらもっと安全な旅程を組むね」


装備を整え、回されてきたラクダへ一緒に跨った俺とパーラは先導するコンウェルに続いて走り出す。


少し先を行く援護の部隊の砂塵を追いかける形になるが、その向こうに見える遠くの方ではドレイクモドキの立てていた砂煙はもう大分晴れている。

この位置からは分からないが、サザ達は恐らく二度目の突撃を仕掛けている頃だろう。


ラクダの走る速さはかなりのもので、すぐにサザ達の姿がはっきりと分かる位置にまでたどり着くことが出来た。


「チコニア!遠距離攻撃が出来るのを連れて向こうの丘に上がれ!そこから合図があったらドレイクモドキに攻撃しろ!ユノーとスペストスは何人か連れて向こうの岩場まで回れ!突撃の機を窺うんだ!」

「はいはーい。任せて」

「あいよー」

「了解した」


怒号のようなコンウェルの指示にそれぞれ気負いのない返事を返し、迷いのない動きで集団は分かれていく。


俺とパーラはコンウェルについてサザ達の方へと向かう。

二度目の突撃を終えて一息を付いているサザ達の元へと向かうが、その途中で何人かの死体が目につく。

死体はどれも強い打撃を受けて体の一部が潰されるか千切れるかしているが、恐らく足で踏まれたり振り回した尻尾に当たったのだろう。


正直見るに堪えない惨状だが、失われた戦力を数えるためにも目を背けることは出来ない。

一回の突撃で大凡2・3人が損耗されているようだが、元々の傭兵隊の人数は80人程だったため、単純な戦力の減少度合いはまだまだ軽い方だ。


「サザ!テメェ、勝手に作戦を変えやがって…っ!撤退の準備をしろ!時間は稼ぐ!」

部隊の再編成を行っているサザへと叫ぶようにして話しかけるコンウェルに、サザはたった今気づいたと言わんばかりに驚いた顔を浮かべた。

「コンウェルか。丁度いい。お前も手伝え。小隊を指揮する奴が足りなくて困ってたとこだ。癪だがお前にでも頼らんとヤツを倒し切れん」

コンウェルの言葉など一顧だにせずに自分の意見だけを言うサザに、流石のコンウェルも荒げる声がその激しさを増す。


「いい加減にしろ!今回の作戦は討伐じゃない!それを勝手に変えたせいで、見ろ!ドレイクモドキに向かっていくたびにこれだけの死体が増えたんだぞ!…これ以上被害が出ないうちに撤退するべきだろう!」

「死人が出ているからこそ撤退は出来ん!今おめおめと引き下がったら死んだ奴らは何のために死んだんだ!」


正直、急な作戦変更に振り回されて死んだんだろうと思ってはいるが、それをこの場で口に出来るほど俺は空気が読めない奴じゃない。


「…だからこそ今生き残っている奴らを無事に帰すことを考えたほうがいい。第一、これ以上戦ってもドレイクモドキを倒すのに決め手が欠けてるだろ」

「いや、そんなことはない。俺達がただ無駄に突撃を繰り返してたと思うか?ちゃんと狙いがあったんだよ。ドレイクモドキがもう少し首を下げればこいつを打ち込める。そうしたら一気にケリが着く」

そう言ってサザが騎乗しているラクダの脇に下げられている鎖の束を撫でると、それを見たコンウェルが驚愕の声を上げた。


「そいつは…まさか暴勇の鎖か!何でお前がそんなものを持っている!?」

コンウェルが口にした暴勇の鎖とやらは、どうやらその驚き様からかなりの逸品だと思われるが、それが何なのかは俺には分からない。

見たところただの鎖としか思えないし、しいて言えば銀色とは違う真っ白な色をしているのが特徴的なぐらいだ。


「詳しくは言えんがドレイクモドキの討伐を依頼して来た奴から借りたものだ。こいつをドレイクモドキの首へ巻き付けさえ出来れば勝てる。だからコンウェル、協力しろ。討伐を失敗で終わらせることは出来んのだ」

悲壮感の籠った眼で見つめてくるサザに、コンウェルも何かを感じ取ったのか、一言も発せずに睨みあっている。

「サザ隊長!部隊の再編制が終わりやしたぜ。いつでも突撃出来まさぁ」

そんな二人に割り込むようにして傭兵隊のメンバーの一人が準備が整ったことを告げた。


「よし、すぐに次の突撃を仕掛けるぞ。そう連中に伝えて来い。…俺達はドレイクモドキの右側をすり抜け様に攻撃する。コンウェル、協力する気があるならお前らは反対側を頼む」

返事を待たずにサザは傭兵隊の下へと走り去っていく。

後に残された俺達はそれを見送るだけに留め、しばし立ちすくむだけとなっていた。


時間にしてどれだけ経ったか、サザ達がまだ動いていないことからもさほど長い時間ではないはずだ。

いつまでもこのまま突っ立っているわけにもいかず、とにかく何か流れを起こそうとした俺よりも先にコンウェルが口を開く。


「…俺達も突撃の準備に入るぞ。アンディ、パーラ。お前らは他の連中にサザが暴勇の鎖を持っていることを伝えて回ってくれ。ユノーとスペストスとメツラにはサザとの動きと連動して動くことも忘れずにな」

「それは構いませんけど、暴勇の鎖ってのは一体なんです?コンウェルさんがそうまで討伐へ意識を切り替えるぐらいの凄いものなんですか?」


先程までは撤退を第一に考えて行動していたコンウェルが、サザに暴勇の鎖があることを知った途端、急に意見を変えたのはそれだけあの鎖がドレイクモドキに有効な何かであることを示唆しているのではないか。

もしかしたら特別な魔道具なのかもしれない。

その辺りを聞いてみないことには俺も討伐へ取り組む気概も沸かないってもんだ。


「あぁ、あれか。簡単に言うと巨大な体の魔物に効果がある拘束具だ。元は遺跡から見つけた風紋船の原型になった古代の船に積まれていた魔道具だったらしい。チコニアならもっと詳しいことを知ってるだろうから、伝令に回った後にでも聞いてみろ。そのままチコニアの隊に加わってくれて構わん」


一刻が惜しい今の状況においては実に簡潔な説明で済まされてしまった。

とはいえ、俺達もゆっくりしている暇はないので任された伝令の仕事に勤しむとしよう。

詳しい話を聞くためにもチコニアは最後に回そう。









「暴勇の鎖ってのはそもそも正式な名称じゃないのよ。あれを最初に使った人間が勝手にそう呼んだだけで、その呼び名がそのまま広まったってわけ」


チコニアによると、暴勇の鎖が最初に見つかったのは今から400年ほど前のことだそうだ。

当時、ソーマルガの遺跡調査団が発見した巨大な遺跡群の一つに、巨大な船らしき構造物が納められた建物があり、そこで見つかった暴勇の鎖を持ち帰って研究したところ、強い魔力を持つ生き物に使うと対象の体重に比例して鎖自体の重さが増していくという特性があることが分かった。


つまり多くの魔力を持つ魔物で、且つ巨体であればあるほど鎖の重さが増すことになり、暴勇の鎖を巻きつけられた巨大な魔物はその動きを大きく封じられることになる。

今回のドレイクモドキにもそれは有効で、サザがあれを切り札的に思うのもこの効果を見越してのことだ。


「でも暴勇の鎖って確か今はどっかの貴族家が管理してるって話だったのよねぇ。今回サザに依頼したのってもしかしたらその貴族家の筋かもしれないわね」


巨大な魔物に効果のある魔道具の暴勇の鎖は、やはり管理も厳重にされるもので、おいそれと気軽に貸し出されたりしないのだそうだ。

そういうことならサザに鎖を貸した人物イコール依頼した人物という図式が読み取られ、どこの貴族家の依頼かは分かりそうだ。


コンウェルも口にこそ出しはしなかったが、暴勇の鎖を管理している貴族家ぐらいは知っていそうだし、チコニアの様子からも俺が知らないだけで意外と有名な話なのかもしれない。

もう少し突っ込んだ話を聞こうと思ったが、どうやらそれは難しくなったようだ。


「チコニアさん、合図が来ました。弓と魔術は準備を完了してます。攻撃の指示をお願いします」

「わかったわ。すぐに行きます。…お話はおしまいね。あなた達はどうするの?このまま私の隊に加わる?」

「そうしろとコンウェルさんからは言われてますね」


実際俺とパーラは魔術師として遠距離攻撃の手段を持っており、チコニアの隊でも数が少ない魔術師として攻撃に加わるのが一番いい。


俺達はチコニアの隊の連中に混ざって、遠くに見えるドレイクモドキへと攻撃を加える準備をする。

かなりの長距離から攻撃するため、射程距離の短いレールガンもどきは除外、同様にパーラも今使える風魔術で射程が長いのはない。

したがって俺は土魔術による石礫の弾丸を、パーラは銃による狙撃を選択した。


石礫の弾丸は命中精度は高くないが、目標の巨体には狙いがつけやすいので連射することで対応できる。

銃による狙撃は命中精度は抜群だが連射はいまいち、さらに今回は討伐ではなかったので弾倉もそれほど持ってきておらず、予備を含めて手持ちは弾倉2つのみだがパーラの狙撃の腕があれば無駄弾の心配はない。


見たことのない道具を構えるパーラに周囲から不思議そうな視線を向けられるが、すぐにチコニアの上げる合図の声でその視線も散っていった。

「ユノーとスペストスがいい位置に出たわ。味方にあたらないように攻撃開始。まずは弓矢を一斉射、次いで魔術師が続いてちょうだい」


弓矢よりも魔術は攻撃へと移る手間が多いため、どうしても攻撃の瞬間は一呼吸遅れてしまう。

そこで弓と魔術で攻撃のタイミングをずらし、目標への到達時間にわざとズレを持たせてドレイクモドキの行動を阻害するつもりなのだろう。


俺は両手に小石をそれぞれ掴み、パーラは初弾を装填するコッキングを行う。

攻撃の準備は出来た。

遠くではサザとコンウェルがそれぞれドレイクモドキへ突撃を開始したのが見える。

正面から仕掛けるようだが、それに呼応してドレイクモドキの後ろ側からはユノーとスペストスも突撃していく。


「今よ!撃て!」

チコニアの合図でまず弓矢が弾道軌道を描いてドレイクモドキへと一斉に襲い掛かる。

数はそれほど多くないが、それでもすぐさま第二射を放って密度を上げた矢の壁は狙い違わずドレイクモドキの体へとその大半が降り注いだ。


ドレイクモドキはその体表が鱗で覆われているが、この数の矢であればいくらかの傷を与えられるはず。

そんな考えはただの希望的観測に過ぎないことを次の瞬間に思い知らされた。

なんと体に突き立つと思われた弓矢の全てがまるで岩に弾かれるようにしてドレイクモドキの体から跳ね返って地面へと力なくばらまかれてしまった。


まさか一本も突き立つことなく終わるとは予想しておらず、一瞬呆気にとられたが、すぐにチコニアの声で現実に戻された。

「次、魔術!撃て!」

発動準備を終えていた魔術師達は、その声に弾かれるようにしてそれぞれ得意な魔術をドレイクモドキへと打ち込んでいく。

火球や風の矢といった攻撃がドレイクモドキへと飛び掛かり、それに少し遅れて俺の石礫の弾丸も続く。


目標へと直撃すると火球は爆ぜ、風の矢は刃となってドレイクモドキへと牙を剥いた。

流石に弓矢とは違って威力の高い魔術はドレイクモドキに確実なダメージを与えたようで、巨体は大きくのたうつように暴れ出した。

ほとんどの魔術が与えたダメージはせいぜい鱗をいくらか剥がす程度のものだったが、そんな中でも俺とパーラの攻撃は中々甚大なダメージを与えたようだ。


鱗を突き破って体の深くまで届いたような穴がちらほらと見受けられるが、比較的穴が広く浅いのは俺の石礫の弾丸の跡で、狭くて深い穴を空けているのはパーラの撃った弾丸によるものだ。

負わせた傷の数は俺が多いが、一発のダメージはパーラが大きい。

それは一緒に攻撃をした他の面々も気付いたようで、俺とパーラへと注がれる視線に畏怖の色が含まれていた。


そんな中でもチコニアは目を爛々と輝かせており、特にパーラの持つ銃へと興味の大半が注がれているようだ。

あの目は後で銃を譲ってくれとか言いかねない目だ。


注目されるのに居心地の悪さを感じながら、俺達の攻撃がサザ達の突撃に花を添えたのか、暴れるドレイクモドキを果敢に攻め立てる姿を遠目にも見える。

前足2本はサザとコンウェルが指揮する部隊によって、着々と傷が与えられていき、一方の後ろ脚はユノー達が率いる部隊が攻撃と離脱を繰り返してダメージを蓄積させていく。


遠距離からの攻撃で不意を突かれて思わぬダメージを負ったドレイクモドキが暴れ、それに乗じたサザ達による足への攻撃が何度か繰り返されたのが実を結び、ドレイクモドキが膝から一気に力が抜けた様にくずおれていった。

遠吠えに似た悲鳴を上げながらドレイクモドキがその長い首を地面へと叩き付ける。


その機を逃さんとサザが一騎駆けで部隊から突出し、地面に伸ばされたドレイクモドキの首へ目掛けてラクダから飛び出しながらしがみ付いた。

手には暴勇の鎖が握られており、それを高く掲げた次の瞬間、鎖がまるで大蛇の如く蠢き始め、意志を持ったかのようにひとりでにドレイクモドキの首へと巻き付き始めた。


それに気付いたドレイクモドキが抵抗し始めるが時すでに遅し、何重にも鎖が巻かれた首は上げられようとする度に地面に吸い寄せられるようにして落とされる。

2度ほど首を上げては落とされを繰り返されると、ドレイクモドキの首は完全に地面に縫い付けられた形となった。


首こそ動かないが体はまだジタバタと動くドレイクモドキを囲むようにして集まった傭兵達が上げる勝鬨の声が風に乗ってここまで届いて来た。

「終わったみたいね。さあ、私達もあっちに行きましょう」

終息宣言とでも言うべきか、そんなチコニアの言葉に俺達もそれぞれラクダへと飛び乗り、コンウェル達の元へと急ぐ。


長距離でドレイクモドキと対峙した俺達に比べ、前線で戦った者達の方が喜びようは大きいが、俺達もそれに負けないほどに勝った喜びは顔に満面の笑みとなって表れている。

自然と砂丘を下るラクダの脚も早くなるというものだ。

並走する他の冒険者達もそれぞれ軽口を叩き合いながらお互いの健闘をたたえ合っている。


そんな中、パーラだけが真っ先にそれを見つけることが出来た。

「アンディ!ドレイクモドキがもう一匹いる!右斜め前!」

切羽詰まった声で叫びながら指さすその先に目線を向けると、そこには岩場のドレイクモドキ目掛けて駆けてくる別のドレイクモドキの姿があった。

距離が離れていたことと砂丘から下る最中だったことに加え、パーラの目の良さがあって初めてその存在を見つけられた。

どうやら討伐はまだ終わらないらしい。

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