念願の奴隷購入
二人に奴隷を扱っている店まで連れてきてもらったが、俺達のような貧乏人が入る店ではないというのでここで別れた。
テント、ではなく普通の建物だ。特に看板もでておらず、外からは奴隷商の店とは思えない。
入り口で軽くノックし、「こんにちわ~」と勝手に扉を開け中を覗き込んだ。椅子や机があるが、特に変わった感じはしない。
「はい、なんでしょう」
「ここで奴隷扱ってるって聞いたんですが」
奥からでてきた小太りの男は俺の服装を見て怪訝そうな顔をしている。
俺も自分の服をみて、怪しむのも最もだと思ってしまった。
盗賊に貰った服を着てるんだもんな。それもゴブリン退治で所々に赤い返り血がついてる服をそのまま着ている。
指輪を売ったお金で服を買うんだったと後悔したが既に遅い。
「奴隷はお安いものではないですよ」
少し口調がきつくなっている。間違いなく俺のことを客とは見ていないだろう。
「金貨があれば安いのだったら買えるかな?」
ポケットから金貨を1枚取り出してみせた。銅貨1枚を100円で計算すると金貨1枚は100万円くらいの価値がある。
「失礼いたしました。どうぞこちらに」
店の奥へと案内され、ついて行く。部屋には鉄格子が嵌められており、なんてことはなく女性が4人壁際の椅子に座っていた。
「彼女らが奴隷ですか?」
「はい、そうでございます」
「檻に閉じ込めていたり、不衛生な場所で食事も満足に与えられていないのを想像していたんだが、全然違ってたな」
「何をおっしゃいますか。どこの世界に高い商品を汚い状態にして展示するものがおりますか。ここから逃げられないようにはしておりますが食事も与え、清潔にしております」
「ほう、それでこいつらはいくらだ?」
「一番左が金貨1枚でございます。年齢は32でもちろん処女ではございませんがテクニックはそれなりのものをもっております。読み書きはできませんが料理の腕はなかなかのものです。さぁご挨拶を」
「よろしくお願いします。旦那様。是非私を買ってください。どんなことでもいたします」
地球では32といえばまだ若いが、ここ異世界では人間の平均寿命も短いだろうし、食事などの生活環境のせいか年齢より随分老けて見える。俺の感覚では45歳だ。
「その隣は金貨1枚と銀貨80枚でございます。年齢は15で処女ではございません。読み書きはできず、料理は簡単なもののみ作ることができます。まだ若いですし教えればいろいろできるようになるかもしれません」
「よろしくお願いします」
金髪碧眼の美人さんだ。外国の女子高生みたいな感じかな。でも俺のことを嫌な目つきで見ている。まぁこんな怪しい見た目のやつに買われたくはないのだろう。
「その隣は金貨2枚でございます。年齢は7歳で処女でございます。もちろん確認済みです。読み書き、料理もできませんがこれから教えればいいでしょう」
「よろしく」
イエスロリータ、ノータッチ! ちっちゃい子は可愛い。でも手を出しちゃだめだ。たとえこの世界では違法ではないとしても一線を踏み越えると歯止めが利かなくなってしまう気がする。俺は自分のことを信じてはいない。
「一番右は当店のお奨めにございます。金貨6枚です。年齢は15で処女にございます。読み書きはできますし、魔法の才能もございます。料理はできなくはないですが、ちょっと苦手にしております」
うん、すんごく美人だ。束ねている髪はさらさらで金髪がきらきらして見える。ちっちゃな口が可愛らしい。予算オーバーだ。
「よろしくお願いします」
澄んだ声も素敵だ。お金はないが予約とか取り置きってできるのかな。
「他にはいないのか? 目が見えない奴とか、不治の病にかかってるやつとか」
「そちらのご趣味でしたか」
にやりと下品な笑みを浮かべているが何と勘違いしているのだろう。
「そうではないが、こいつら以外にもいるのであれば全部見せてもらいたい」
「雑用をしているものも皆奴隷は奥の部屋に集まりなさい」
男の大声の指示を聞いた女性が二人小走りで奥の部屋へと入っていった。
「さぁ、こちらへどうぞ。こちらはまだ調教前のもおりまして部屋も散らかっておりますがご容赦ください」
案内され奥の部屋へ入ると、立っている女性3人といくつか並んだ簡素な木のベッドの一つにケホケホと咳をしている少女が1人。それと鉄格子の奥に2人の男が見て取れた。
おっ、テンプレ的奴隷きたか? とテンションあがってきた俺に話しかけてくる奴がいた。
「あ、あんたは。俺だよ2日前に街道であった盗賊だよ。無事に町につけたんだな。心配してたんだ」
「服をくれてやった兄ちゃんだよな。服が血だらけじゃねーか。もしかして誰かを傷つけて捕まって奴隷送りにされたのか?」
鉄格子の向こうからむさいおっさんたちが俺に話しかけてきている。確かに見たような気がしないでもない。
「あんたらどうしてこんなとこにいるんだ?」
「正気に戻ったんだな。よかったなぁ」
なんか涙ぐんで鼻をすすってる奴がいる。
「いやさ、兄ちゃんと別れて少ししたときに兵隊が来てとっ捕まっちまったんだ」
そういえば町に着いた時に衛兵に盗賊の話をした気がするが俺は関係ないよね。関係あったとしても知らん振りしとこ。
「こいつらとお知り合いで?」
「いや知らん。それより奴隷達の説明をしてくれ」
「はい、こちらに立っている女性3人はいずれも銀貨80枚でございます。皆処女ではございません。容姿の方がぱっとせず、なかなか売れないので雑用をさせておりました。
そちらのベッドに横たわっておりますのは胸を患っており売り物にもならず、どうしようか困っているところです。
そちらの牢の男2人は今朝届いたばかりで元は盗賊だったそうで、犯罪奴隷にございます。力仕事はできそうなので銀貨90枚といったところでしょうか」
なんでこうなった?
「兄貴、一生ついて行くでやんす」「ガハハー」
店からでた俺の目の前には首に奴隷の輪を付けた男が二人立っている。
以前あったときは普通だったはずだが、いつの間にかキャラ付けまでされている。
どうしてこうなった? 俺はケホケホ咳をしている子か一番高い美人さんの予約でもするつもりだった。
だがなぜか小汚いおっさん奴隷2人を買ってしまった。後悔している。
テンプレどおりいくなら胸の病を治してあげてヒロインとして一緒に旅をするはずだったのに……
それなのに金貨1枚と銀貨80枚を支払いこんなものを買ってしまった。
「買ってしまったものはしょうがない。お前達一所懸命働けよ」
「アイアイサー」
「さて、おまえらこれからどうするか」
「兄貴は完全によくなったんでやんすね」
「正気にはなったみたいだが、まだ記憶が戻ってないようだ。一般常識とか忘れてしまったものもあるのでお前らフォローを頼む」
「了解でやんす」「わかったでんねん」
確か奴隷を買ったら冒険者ギルドでギルド登録だったよな。
「よし、ついていて来い」