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露店巡り

「兄ちゃん、今日はもう終わりかい?」

 昼前なのにギルドに戻ってきたら受付のおばちゃんが怪訝そうに聞いてきた。


「今日は先輩たちに町を案内してもらおうと思って」

 先輩達は横を向き、依頼掲示板を見てる振りや、外を見てる振りをしている。

 もちろん一度宿に戻り特定部位が濡れた服は着替えさせてきた。


 おばちゃんは先輩たちふたりの態度の変化に気がついているのかいないのか素知らぬ風に、ひのふのみ、ゴブリン8匹で銀貨1枚と銅貨60枚ね。と渡してきたが分けやすいように銅貨160枚で報酬を貰う。

 この世界では銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚と換算されるのだ。

 先輩達に銅貨60枚と60枚、俺に銅貨40枚で振り分けたら泣きそうな顔で遠慮してくれたが、今回は先輩方の授業料もあるのでと押し切った。

 

 次は町の散策をと言ったら、二人は案内させてくださいと付いて来てくれた。

 武器防具屋へ入ったが高くて何も買えない。

 俺の所持金の銅貨41枚ではショートソードの研ぎの依頼さえ考えてしまう。

 ゴブリンから奪った錆びたショートソード5本、皮の鎧3つが銅貨90枚になったので3人で等分した。

 皮鎧の数が少ないのは傷や血の為使い物にならないと拾ってこなかったものがあるためだ。

 ここで銅貨30枚を払い革の靴を購入した。

 さすがに靴下と言う名の布の靴はもう卒業だ。



 太陽が真上付近になり、昼飯でもと屋台を覗くと肉を焼いたものが銅貨3枚。果実を絞った飲み物が銅貨2枚だった。

 宿が銅貨30枚と考えると、銅貨1枚で日本円に換算して約100円くらいが妥当なところではないだろうか。

 肉と飲み物を買おうとしたところ、ボコール先輩がここは俺がと払おうとしてくれたが自分で代金は払った。

 

 道具屋。実はここに用があったのだ。

 自分一人だと不安だが、間にかます人間があればなんとかなるだろう。

 10円玉3枚と100円玉1枚をヨールに渡して道具屋でいくらになるか調べてもらうことにした。

 10円玉はほぼ銅で、残りは亜鉛や鈴など少し違う素材が混ざっている。100円玉は大体銅で残りがニッケルだ。

 そこで間に人をかまし、査定してもらうことにした。


「うーん、こっちの茶色いのは銅だな。意匠が素晴らしいので銅貨30枚。こっちの銀色のは銅のようだが、他にもなにか混ざってるな。こっちも銅貨30枚だ」

 思ったより低い査定にがっかりだ。俺の日本の通貨は古代の通貨として見られるものではなく、素材価値と芸術価値の値段だそうだ。

 売るのを渋ったら銅貨40枚にまで値上がりしたが、その程度で身元ばれしたり狙われたりするのは嫌なので断った。

 予想外の展開にちょっと残念。

 

 綿100%のちょっと贅沢なTシャツはなんと銀貨35枚で売れた。

 先ほどまで身に着けていたため汗臭かいかもしれないが、まぁいいとしよう。

 YES ロリータ NO タッチとデザインされているが、この世界の人は読めないだろうし意味も理解できないだろうし気にする必要はない。

 他に売れそうなものはと、まぁあるにはあるが身ばれしたくないので今日のところはこれでいいとしよう。


 冒険に必要なものとして袋を買うことにした。

 アイテムBOXがあるからほんとのところ必要ないんだけど、対外的に袋をもっておく必要があると考えた。

 他の人も使っている気配がないことだし、下手にアイテムBOXスキルを持ってることをばらすこともないだろう。

 袋はお金を入れるための小袋ひとつに討伐証明部位を入れるためのスーパーの袋くらいの大きさのものをひとつ、拾った装備品などを入れるためのサンタの袋とまではいかないがそれより少し小さめの荷物袋をひとつ。

 全部で銅貨20枚だった。  



 次は魔法でもと神殿に連れて行ってもらうことにした。

 この町には癒しの女神ナール神を祭った神殿と、二つ名を司る神、デアル神を崇める神殿の二つがあるというので、まずは癒しの女神の神殿に連れて行ってもらう。


 神にお布施を払えば神聖魔法を教えてもらえるというので銀貨1枚を神父に渡したがありがとうというだけで何もない。

 ヨールが銀貨10枚必要というので追加で9枚を渡すとヒールの魔法を教えてくれた。

 神に仕える身という割りに結構しっかりしている。

 ヒールは魔法の素質のあるものしか覚えることができず、お金だけではなく素質も必要なのらしい。

 俺は運よくなのか、魔法の素質はあるようだ。


 次は二つ名を司るデアル神殿へ向かったが、こちらはナール神殿に比べて明らかにぼろっちかった。

 神官らしきよれよれのローブをまとったおじさんに聞いてみたら、二つ名ってかっこいいでしょ。

 特に効果はないよって笑って教えてくれた。

 あんまし釈然とはしないものの銀貨1枚をお布施として渡してみると俺の体が一瞬光に包まれた。

 鑑定で確認してみると、

 



名前:コウ

所持名:下克上を成し遂げたもの へたれ後輩 おばちゃんを倒したもの 異世界よりきたりしもの ハイテンション

LV :3

HP :48/48

MP :18/18

SP :32/33

STR :20

VIT :39

INT :14

MND :14

AGI :36

DEX :14

LUC :9


所持スキル:異世界言語能力、アイテムBOX、鑑定、能力成長率UP、威圧

所持魔法:ヒール


 たぶん、二つ名がステータスで見られるようになった。

 おばちゃんを倒したものって、ギルドの受付のおばちゃんだよな。

 他の人に二つ名が知られるのは勘弁してもらいたい。

 このあたりはこの世界ではどうなっているのだろう。

 なんか期待していたものと違う。

 勇者ではないがそれ的なもの。剣聖とか剛拳とかかっこいいものはいくらでもあるでしょ。これはなんか違うよ。



 残り所持金、銀貨24枚と銅貨11枚。銀貨100枚が金貨1枚なのでそこまで貯まったら奴隷を買いに行ってみよう。


 そういえば定番といえば定番の金儲けを忘れてた。

 鑑定スキル持ちならば、露天でレアなアイテムみつけて売れば大儲けだったよね。

 異世界冒険物のテンプレにも入っているし、ここはやらねばなるまい。


「露天とかってあるかな」

「は、はい~。この町はあまり大きくないので、露天市は5日、15日、25日と5のつく日だけしかやってません。今日は10日だから市がたつのは5日後です」

「数件程度でしたら今日でも広場に露天がでてるかもしれませんよ。いってみませんか?」

 俺がボコール先輩の答えに不満そうな顔をしたものだから、即座にヨール先輩がフォローしてくれている。


「そうだね。連れて行ってくれると助かります。先輩」


 二人に案内してもらって広場に来るとぽつぽつと数人の露天商らしき人が敷物の上に様々なものを並べて座ってるのが見て取れた。

 魔力感知なんてもってれば一気に魔力のこもったアイテムを見つけられるかもしれないが、残念ながらそういったスキルを持ってはいない。


「そういえば鑑定スキルなんて持ってるといいアイテムを見極められるんだろうけど、そういったことはないの?」

「鑑定スキルを持ってる人はこの町だと5人しかいないし、どこの国でも乱用を禁止されていて国やギルドで使用を管理されているんです。SPが切れると使えなくなるので結構順番待ちらしいですし、鑑定してもらう場合は料金も高いらしいですよ」


 重要な情報ゲット。自分を鑑定してステータスを見たときにいつもSPが減っていた理由がわかった。

 鑑定もそして下手をするとアイテムBOXもSPを消費して使ってるのかもしれない。

 怪しまれないように片っ端から鑑定スキルを使ってみたところいくつか面白そうなものが見つかった。


「おっちゃん、ここにある指輪とかっていくら?」

 並べられてある指輪をいくつか指さして聞いてみた。


「おっ、指輪かい。そこの髑髏のやつは銀貨5枚、何も飾り気のないシンプルなやつが銀貨3枚、赤い宝石がついたやつは銀貨8枚、銅のやつは銅貨40枚だよ」

「ちょっと高いんじゃない?」

「そんなことないさ。この3つは銀製の指輪だからこのくらいが相場さ。だって銀貨と同じ銀なんだぞ」

 そう言われればと納得したいところだが、値切るのが普通なんだよな。小説とかでは。元いた世界では値切る交渉なんかやったことないがテンプレ通りやってみなくては。


 ちらちらど髑髏の指輪をみつつ、うーん高いよなとつぶやいてみる。

 ポケットからお金を取り出し、露天のおっさんから見えないように所持金を数えている振りをする。

 

「おっちゃん、このシンプルな銀の指輪が欲しいんだけど、銀貨2枚と銅貨50枚でどうだ! 」

「ん? 髑髏のではなくこいつでいいのか?」

「いやー、ほんとは髑髏のがいいんだけど、高すぎるんでこっちならなんとか買えるかなと」

「そっか。おっちゃんもその値段で売ってやりたいとこなんだが、ちょっとそこまでの値下げは無理だわ。銀貨2枚と銅貨60枚、それが精一杯だ」

「うーん、もう一声、銀貨2枚と銅貨55枚でどやー」


「そんなおんぼろ指輪は、銀貨2枚でも高すぎると思うぞ」

 俺の微妙な駆け引きの横からボコール先輩が口を挟んできた。

 一瞬しまったという顔をしたおっちゃんをじと目で見つめてたら値段が下がった。

「目利きの連れがいたんじゃ、商売上がったりだ。銀貨2枚でいいよ」

「ありがとう。はいこれね。ボコール先輩のおかげでいい買い物ができたよ」

「ちなみにおっちゃんの見立てでは銀貨1枚と銅貨80枚だ。銅貨20枚分は勉強代だと思っておきな」

 渡した銀貨を懐にいれながら教えてくれた。


鑑定!

 

名称:小魔法防御の銀の指輪

特徴:少しだけ魔法に対する防御力があがる指輪


 店で相場とか調べてないがこれって銀貨2枚以上は間違いなくすると思うぞ。

 おっちゃんの言ってる金額は魔法が付与されていない普通の指輪だった場合のものだろう。


 おっちゃんの露天から離れて、次に目をつけていた露天へと向かった。そこにはガラクタが所狭しと無造作に置かれており、後ろに眼鏡をかけた頼りなさげな若者が座っていた。


「どうですか、掘り出し物もあるかもしれませんよ?」

 うん、駄目だ。商売の駆け引きとかまったくできない俺から見ても駄目だ。こんな売り方じゃ売れるものも売れないよ。

 目的のものがあったので、そのまましゃがみ込みいろいろ物色している振りをした。


 変な木彫りの人形、銀色の小箱、折れ曲がってて途中までしか鞘から抜けないぼろい剣、錆びた片方だけしかない籠手、欠けたり使用感満載の食器などなど。

 小箱を手に取に取ってみた。銀色をして上部に丸いへこみがあり、蓋を開けようとしたがどうにも開かない。ひっくり返しても力を入れてもびくともしない。

「それですけどたぶん宝石箱なんです。元々はそのへこんだ所に宝石がついてたんですよ。でもどうしても箱は開かないし、宝石だけ取って別に売っちゃったんです」

 箱を振ってみたが特に音はしない。

「空ですか?」

「はい、私も中は確認していませんが空だと思います」

「これいくらですか?」

「開け方がわからないんで、同じくらいの重さの銀貨でいかがですか? その箱は銀製ですし」

 それではと手で持った感触で重さを量っていくと、銀貨18枚と同じくらいの重さだった。

「結構高いですねぇ」

 正直な感想だった。

「そうですね。わたしもびっくりです」

 いやいや、商売下手すぎでしょ。

「銀貨18枚でこれもつけてくれませんか? これって片方だけですか?」

 錆びた指部分まである籠手を指差し聞いてみる。

「ごめん、片方だけなんだ。代わりといってはなんだけど、もうひとつつけてあげるよ」

 ガラクタの山からごそごそと皮製の籠手を取り出してきた。こちらは両方揃っている。

「着けてみてもいい?」

 了解をもらい両手に嵌めてみたがしっくりとくる。固い皮は前腕部から指の第三関節までを覆っており指先は自由に動かすことができ、使いやすそうだ。

「ぴったりだね、よかった」

 銀貨18枚を払い、小箱と錆びた左の籠手と皮の籠手を受け取り、こちらでは口を挟まなかった二人と露天を後にした。


 

名称:宝石箱

特徴:魔法で鍵がかかった宝石箱。開け箱と唱えると鍵が解除され、閉じろ箱でロックされる。


名称:錆びた鉄製の仕込籠手(左)

特徴:魔力を流し込むことにより3本の鉤爪が飛び出し鉄の爪武器となる。爪部分はとても短く殺傷力に欠ける。



「そういえばこの国って奴隷はどういう扱いなの?」

「どういう扱いって、それこそどういう意味だ?」

「いや~、アハハハ」

「犯罪を犯したものが奴隷にされたり、お金に困って奴隷として売られたりだね。奴隷は値段が高いので貴族や金持ち商人くらいしかもってないので、町中ではあまりみかけないね」

 異世界来たら奴隷購入だろってことで、奴隷制度があるか軽く聞いてみたかったのだが流石ヨール先輩。


「この町には奴隷を売ってるとこってあるの?」

「あるにはあるが、安いのでも金貨1枚はするって話だし行ったことはない。行って見たいのか?」

「はい、お願いしたいのですが、その前に魔法のかかったアイテムを取り扱っている店に連れて行ってもらいたいんですが」

「それだったら道具屋かな。王都とか大きな町には魔道具屋があるんだけど、この町みたいな小さなとこは道具屋がいろんなものを取り扱ってるんだよ」

 残金は銀貨4枚と銅貨11枚だ。露天で買ったアイテムが高く売れるといいんだけど。


「さっきのお客さんかい。あの珍しい貨幣を売る気になったのかい?」

「これを買い取ってもらいたいんですが、いくらになりますか?」

 先ほど道具屋を訪れたときはボコール先輩に対応をお願いしたが、今度は自分でやることにして先ほど露天で買ってきた銀の指輪を差し出した。


「銀の指輪かい? そうさね、銀貨1枚ってところだろ」

「銀貨2枚分くらいの価値はあるんじゃねーか?」

 先ほど目利きっぷりをはっきしたボコール先輩が口を挟んできた。


「売る場合はそうかもしれないが、買い取る場合だと1枚くらいだ」

「この指輪から魔力を感じる気がするんですが、よく見てもらえませんか?」

「うーん、魔力のかかった品物は見ただけだとよくわかんねーからな。銀貨1枚払えば鑑定してやるぞ」

「えっ、道具屋さんって鑑定できるんですか?」

「おう、一日4回までしか使えないが鑑定スキルを使えるぞ。ただし店の外で使うと捕まっちまうがな」

「それではお願いします。はい、銀貨です」

 鑑定結果を元々知ってるのでお願いしたが、連れの二人はやめた方がとか言ってる。


「それじゃいくぞ。……うーむ。……おぉ! 当たりだぞ。こりゃ小魔法防御の銀の指輪じゃな。なかなか凄いもの持ってるじゃないか」

「さっき露てんぐゎ」

 ボコール先輩の足を蹴り付けて黙らせた。


「金貨2枚。いや、金貨2枚と銀貨20枚でどうじゃ?」

 ヨール先輩をみると頷いているので、その金額で売ることにした。値段交渉とか相場を知らない俺にはきつすぎる。

「それでいいです。また何かあったらお願いしますね」

 そういって道具屋を後にした。

 ポケットには金貨2枚と銀貨23枚、銅貨11枚が入っている。これでテンプレのように念願の奴隷を手に入れることができる。

 たぶん俺の顔には下卑た笑みが浮かんでたことだろう。


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