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宿屋での再開

「ごめんくださ~い」

 椅子やテーブルがたくさんある部屋から奥のほうへ声をかけた。

 普通は食事などに利用されるのだろうが、時間が中途半端なので誰もいない。


「は~い」

 女性の声が聞こえ、奥から出てきたのは……おばちゃんだった。

 くびれのないビヤ樽のような胴、ボンレスハムのような腕、まん丸な顔。違うのは頭に白い布を被り、エプロンをつけていることくらいだろうか。

 あれ? どうしてと問うと、この町は初めて? ギルドの受付嬢と宿屋の看板娘は双子の姉妹なのよとカラカラと笑って教えてくれた。

 心の中でテンプレと違うだろ、チェ~ンジと神に願ったのは言うまでもない。


 料金は1泊朝食付きで銅貨30枚とのことなので、2日分を払う。

 盗賊からもらった銅貨6枚と先ほど稼いできた銅貨55枚とあわせて61枚。そこから60枚払ったので残りは銅貨1枚。

 宿屋の料金から考えても夕食分には程遠いだろう。

 まだ日は高かったが、その日は休むことにした。 

 なぜ2日分払ったかって? 明日も稼げるか心配だったからさ。

 夕食? そんなものはない。お金がないんだから。1日や2日食べなくても死にはしないよ。それに朝になれば朝食にありつけるしね。


 1階は食事を提供する酒場兼食堂で2階が宿泊客用の部屋だった。

 部屋は外から鍵をかけることができるようになってはいないが、かんぬきタイプの鍵がついており内側からだけは鍵がかけられるようになっている。

 留守にする場合、荷物を置きっぱなしにはしておかないほうがいいだろうな。もっともアイテムBOXを持っている俺には関係ない話ではあるが。

 ベッドに横になり、今日一日を思い起こした。


 トラックに跳ねられ神に会い異世界転移した。スライムに出会った。盗賊も退治した。冒険者ギルドに入り薬草採取もおこなった。

 うーん、順調だ。これぞテンプレ的冒険だな。明日はどうしよう。

 奴隷、ゴブリン、護衛、米、味噌、zzz




 何時間寝ていたのだろうか。12時間以上は間違いなく寝ていたであろう。

 窓をあけると日が昇ってきているのが見える。

 階下では食事の用意をしているようで、かちゃかちゃと音が聞こえていた。

 朝食はもう1時間くらい待ってとのことだったので、井戸の場所を聞き指で歯をみがき、顔を洗う。タオルは…まぁ服で拭いたけどさ。

 タオルというか、顔を拭いたりする布は自分で用意するのが一般的らしく備え付けられてはいない。

 どうにかして金を稼がないことには、やっぱりまともな生活もできないじゃねーかよ。


 と、そこで気がついた。水に映っている自分の顔を見て。

 金髪碧眼・・・ではなく、こげ茶色の髪に黒い細い瞳。髪はサイドが短く前から頭頂部にかけてが長いソフトモヒカンというやつだ。顔は細っそりしているが特によくも悪くもない。

 100点満点で50点が平均とすると、それより少し下の45点くらいだろう。

 長年見慣れた顔だ。顔をぺたぺたと触ってみても、髪を摘んで目の前に持ってきても、この世界に来る前と同じ顔、同じ髪だ。

 異世界転移した時に金髪碧眼の美形になるなんて嘘っぱちだ。若返るというのも嘘だ。

 神よ! お仕事忘れてます。美形に変身させ若返らせるの忘れてますよ。

 異世界転移が始めてのあの神様にテンプレを書いて渡せばよかったと思ったが既に遅かった。

 神を呼んで念じてみたが、チャンネルが繋がる気配はない。

 少しショックだった。テンプレ通りならイケメンでモテモテだったはずなのに。


 朝食までまだ少し時間があるようなので、気を取り直して今日の予定を考えてみることにする。

 今日もう1泊する料金は払っているので宿代は問題ないのだが、食事をするだけのお金がない。

 なにはともあれお金だ。この世界のお金が必要だ。

 ギルド依頼は朝一斉に取り合いになるというので、その様子を見つつ人が減ってきた頃に依頼を探すことにする。

 ド新人が依頼の取り合いに混ざってもいいことはないだろう。

 人が減ってからゆっくりと吟味するのが吉だ。


 受付のおばちゃんにももう一度謝らなきゃな。

 その場で謝るだけでなく、後日もう一度謝罪の言葉を述べるのがよい。日本ではそう学んだ。

 

 町中も見て歩きたい。物の相場を知るのは大事だ。

 もしかすると異世界の日本から持ち込んだものを高く売ることができるかもしれない。

 しかしそのことにより危険に巻き込まれる可能性があるので気をつけなくてはならない。

 実際に小説でも考えなしに異世界のものを売って思わぬ金を手に入れて強盗に狙われたり、珍しすぎるものを所持していたせいで他にも持っていないかと襲われたりしていたがそうはなりたくない。

 奴隷が欲しいが、金が必要なためこれは後回しになるだろうな。


 と、チリンチリンと音が鳴ったので階下に行ってみた。

 予想通り朝食の準備ができた合図だった。

 厨房入り口には大きな鍋が置かれたテーブルがあり、そこには髭面のごついおっさんが皿にスープをよそっている。

 宿泊客と思われる客達はカップに水を汲み、スープをひと皿、それと横に置いてあるパンをひとつ脇に抱え適当な席についているようだ。

 同じく真似をして、水とパンとスープを手にし席に着く。


 ほんとはその辺の奴らと話をして情報収集をするのがいいのかもしれないが、テンションが上がった状態でないと内気なため、周りに人のいない席に着きひとり黙々と食事をすることにする。

 パンをそのまま齧ったが固い。パサパサする。

 まぁ知ってるんだけどね。このくらい常識だよ。

 パンをちぎりスープに浸して食べる。まぁ食べられなくはないといったところだ。

 だが、空腹は調味料という言葉を加えても、いまいちという評価しかつけることはできない。


 耳をそばだてて冒険者の話を聞いていたが、特に有用な話は聞こえてこない。

「ここいいか?」

 俺に向かっていったのだろうか。他にも席はあいているし、俺にじゃないよなと思いつつも、ぼんやりと声をかけてきた男に顔を向ける。

 そこで椅子から一気に立ち上がって深々と頭を下げた。この間約1秒。レベルアップした俺の敏捷性は伊達じゃないぜ。

 ではなく、声をかけてきたのは昨日の男だった。俺をぶちのめしたあいつだ。


「昨日はすんませんでした」

 謝罪の言葉を口にしているともう一人の男もやって来たので、俺はもう一度頭を下げ『昨日はすんませんでした』


「僕もここいいかい? リタさんも許すっていってたし、そのことはもういいじゃない。それより昨日から冒険者始めたんだって? その歳で始めるなんて大変だね。それに聞いたけど記憶がないんだって?」


 リタさん、いや受付のおばちゃんの元にかけよっていった方も相席してもいいか聞いてくる。

 皮鎧を着て、腰にはショートソードをつけている。見たところ10代半ばから後半、20はいってないように見える。

 俺をボコボコにした男の方も皮鎧にショートソードと同じ装備をしており、年齢も同じくらいだろう。

 それに比べて俺は25歳。初心者冒険者というには少し老けているかもしれない。


 謝っただけで相席を許可したともなんともいってないが、勝手に前の席に二人は腰掛けた。

 いや、まぁ勝手にすればいいんだけどね。断る理由もないし。


「僕達もまだ駆け出し冒険者に過ぎないんだけど今日一緒に依頼を受けてみない? いろいろアドバイスもしてあげられると思うんだ」

「うん、いいんじゃない」

 咄嗟に二人を見て念じた。鑑定。

 俺をボコボコにした方の名前はボコール、Lv6、もうひとりはヨール、こちらもLv6だった。

 すかさず立ち上がり頭を下げた。

「よろしくお願いしますっす」


 二人にはこの世界について色々聞いてみたいことがあったので質問をしてみた。


「魔法を使ってみたいんだけど」

「魔法は魔術学園に行って教えてもらうか、魔法がこめられた水晶を使って覚えるかかな。あ、水晶は魔法屋で買うことができるよ。そうそう回復魔法は神殿でお金を払って教えてもらうこともできるよ。もっとも才能がない場合は覚えることはできないけどね」


「ここはなんて国? この周りの国の名前と関係は? この町の近くの町とか村は?」

「そんなに一度に聞かれても……。この国はアランドラ王国、北の山向こうの国がホクテス、西の国がシャンテ共和国。北の国は間に高い山があるのであまり交流はない。西の国とはたぶん仲良くやっている。この町からずっと離れているけど東と南は海。国はこんなところかな」

「それじゃぁこの町の近くは僕がと言いたいけど、そろそろ行かないと依頼がなくなっちゃうよ」

 辺りを見回すと先ほどまでいた冒険者風の人たちは数人を残していなくなっていた。


「ほらほら、急いで」

 俺達も宿屋をあとにした。

次は夜に投稿かな

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