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盗賊との遭遇、始めての町

 目をつむっていると匂いが変わった。草の匂いだ。肌には心地よい風を感じる。

 ゆっくりと目を開けると、一面の緑が目に入ってきた。

 くるぶしまでの短い草が一面に生えている。

 目の前左方には森が見える。100メートルくらい先だろうか。

 右方には道らしきものが見える。

 舗装されたものではなく、踏み固められただけののもののようで、そこだけ草が生えておらず横幅2メートルくらいの茶色い線がずっと先まで続いていた。


「うぉー、キタキタキタ、来たぞー。憧れの異世界。ファンタジーの世界。何度トラックに轢かれたことか。苦節5年。俺はとうとうここまで来た。後はテンプレどおりに生きていくだけだ!」(信じちゃ駄目よ)


 意味もなく草の上を全力ダッシュしてみた。

 草をブチブチと引き抜いて放り投げてみる。

「ヤッホー」お約束には入ってないはずだが、なんとなく吠えてみた。

 落ちていた石を拾い、投げる。

 そこまでやって、なんとなく気分が落ち着いてきたように感じた。


 まずはこれからどこに行くかか。いや、現在の状況確認というか持ち物確認が必須だったよな。

 ファンタジー小説の転移後の場面を思い出しつつ持ち物確認からおこなうことにした。

 幸い服も持ち物もここに来る前の状態でこちらに来たことになってるはずだしね。


 上から表がセージグリーン、裏がオレンジのフライトジャケットMA-1のパチモンも上着にジーパンだ。

 初夏のような暖かさのため上着を脱ごうかと考えたが、片手が塞がるのはまずいと前を開けるだけに留めた。


 ポケットには結構たくさんのものをいつも入れている。


 事故ってよく壊れるため、常に最新式のスマホ。もちろん圏外となっていた。調べ物をするのに役立つかもしれないが電池が心配なので電源は切っておくことにする。


 財布。中には札が7千円と小銭が結構入っている。免許証などの身分証やカード、ポイントカードなどもごっちゃりと入っている。


 手袋。100均で買った安物だ。色は黒。


 ティッシュ。今は暖かいが、ここに来る前は冬だったのでティッシュを持ち歩いている。もちろん道で配っている無料のやつだ。


 絆創膏3枚。救助活動の際に病院に行くまでもない場合に使うためにポケットに入っている。ちなみにこれを助けた人に使うことはない。下手に治療行為をするより病院に行けといったほうが楽だし後々問題も少ない。


 ボールペンにメモ帳。ちょっとしたことを書き留めるのに役立つのでポケットに入れていた。ちなみに薄着になる夏場は5センチくらいの細い小さなペンを財布に入れ、紙はレシートの裏を使っている。


 ガムに飴。数日に1つくらいしか口にしないがポケットにはいつも入っている。


 コンビニで買ったペットボトルのお茶。350ml。いつもは『袋に入れますか』と聞かれていらないと答えるのだが、今回は問答無用で袋に入れられたため。コンビニの袋に入ったままポケットに入れてあった。


 主なものはこのくらいだろうか。


「ステータスオープン」


 目の前にステータスが表示……されたりはしなかった。

 神様にお願いしておくべきだったかもしれない。

 あの時はテンション上がりまくってて冷静ではなかったためしょうがないか、他にも当てはあるしな。

 自分の手を見つつ「鑑定」。頭の中にステータスが浮かんでくる。

 手を見て鑑定したのは、体を見て鑑定した場合に着ている服を鑑定してしまうのを避けるためだ。


名前:コウスケ・オオヤマダ

LV :1

HP :18/18

MP :7/7

SP :5/6

STR :6

VIT :12

INT :6

MND :6

AGI :11

DEX :6

LUC :9


所持スキル:異世界言語能力、アイテムBOX、鑑定、能力成長率UP


 名前のところが点滅しているので、そこに意識を集中してみると名前を変えることができるようだった。

 レベルは1。普通に生活して歳を重ねていった場合にレベルはあがっているものなのだろうか。

 普通の村のおっちゃんがレベル5とかだとレベル1の俺は弱弱ということになる。


 所持スキルがアイテムBOXと鑑定、能力成長率UPか。

 ん? ここで思い出した。

 先ほどまで暑いと思いつつも手に持つと上着が邪魔だったのでそのまま着ていたのだが、アイテムBOXに入れてしまえばよかったんだと気付く。


「オープンアイテムBOX」

 目の前の空間に黒い穴が現れたので、ティッシュを入れたり出したり試してみた後に上着を入れておいた。


「クローズアイテムBOX」

 黒い穴は何もなかったかのように消え失せた。

 試してみなければならないことがある。

 オープンアイテムBOX。口には出さず念じてみた。先ほどと同じく黒い穴が現れたのを見て笑みがこぼれる。

 口に出して言わなければいけないのであれば、いろんな場面で不都合がおこることが予想されるためだ。

 鑑定についても念じるだけで問題ないようだった。



 次はどこに向かうかだよな。

 向こうに見える道を歩いて町か村を探すのがベストだろう。森は危険がいっぱいと予想される。野生の動物やモンスター、武器もないし知識も経験もないため遭遇すると危険だ。

 道へ向かおうと足を踏み出しながら森をみるとその手前の草が揺れていた。風の揺れに比べ大きく揺れている。草が倒れては起きその横の草が倒れては起き、何かが移動しているようだ。動きはそれほど早くはない。歩きの3分の1程度だろうか。

 興味を惹かれたので、そっと近づいてみることにした。

 目標から10メートルくらいのところで、草を揺らしていた犯人が見つかる。

 ノートくらいの大きさだろか。20センチくらいの緑色のぶにょぶにょのゼリーみたいな物体が動いていた。

 鑑定。声には出さず念じる。


名称:グリーンスライム

特徴:最下級のモンスターで子供でも倒すことができる。雑食だが草木を好んで食べる。体内にある核が弱点。


 キター、キター。スライムキター。序盤のテンプレモンスター。スライムかコボルド、ゴブリンが代表だけど俺は断然スライム派だー!


 テンションがあがりまくっている俺はあまり考えず緑のぶにょぶにょに手を突きいれ核を握りつぶす。

 こんにゃくゼリーほどの弾力はなく、昔ながらの柔らかいゼリーくらいの固さで容易に核まで手が届いた。

 核が潰れると結合力を失うのか、水みたいになりどしゃっと形を失い、後にはピンポン球くらいの綺麗な緑色の塊だけ残っている。

 ファンタジー小説からいくと、スライムゼリーか魔石といったところだろうか。

 手にとって見ると弾力性があり、固くはなかったのでスライムゼリーだろうと鑑定してみたがその通りだった。


 初アイテムゲットだぜー!


名称:スライムゼリー

特徴:料理や薬の材料としてよく利用される。


 あがっていたテンションが通常状態に近くなってくると、手がひりひりしていることに気付いた。先ほどスライムの核を潰した右手だ。

 あちゃー、普通に考えれば当然だよな、スライムは体内に食物を取り込み、溶かしながら食べるんだから。

 低級のスライムだから溶かされることはなかったが、ランクの高いスライムだったら手が溶かされたかもしれない。気をつけねば。冷静になれ、クールになれ、そうしなければ生き残れないぞ俺、なんてね。


 手は服で拭った。ハンカチは持っていないためだ。トイレにいった時に手を拭けないだろうと言われても、最近のトイレはペーパータオルか温風の手を乾かすやつがほとんど備え付けられているのでそんな突込みには負けない。といってもそういうのがない昔からハンカチは持たず服で拭いてたけどね。


 森に入る気はないが少し欲しいものがあったので、近づいてみることにした。

 用心しつつ一番外側にある木の枝を折る。腕くらいの太さの枝を折ろうとしたが体重をかけても無理そうだったので、その半分くらいの太さの枝で我慢した。

 それほど頑丈ではないがとりあえず武器、木の枝を手に入れた。

 木の枝が手に入ったら森なんかに用はない、道に向かい町か村を探すことにしようじゃないか。


 歩きながら頭の中を整理していく。

 トラックに轢かれて異世界転移した。異世界言語、アイテムBOX、鑑定スキルはもらった。

 テンプレからいくと、盗賊狩り、冒険者ギルドあたりだろうな。奴隷とかも早く欲しいな。

 ん、やっちまったか? 頭にある考えがよぎる。

 お約束というか、フラグってやつだ。

 盗賊が出そうな気がしてきた。

 考えれば考えるほど出てきそうな気がする。


 ひらめいたー


 おもむろに服を脱ぎ始める。下着も靴も全部だ。いわゆるまっぱだ。

 脱いだものは全部アイテムBOXに放り込む。

 地面をごろごろと転がり土ぼこりをからだにつける。

 そしてそのまま道を歩いていく。と思ったけど素足で外を歩くことがないので足の裏が痛い。というわけで靴下だけ履いていくことにする。

 靴下が余計だが、俺は裸族だ。手には木の枝を持ち、堂々と歩いていく。


「ようよう兄ちゃん。ここを無事通りたけりゃ。金目なもの……スマン」

 刃渡り60センチくらいのあまり質のよくなさそうな剣を構えた皮鎧の小汚い2人組のおっさんが現れた。

 髪はぼさぼさ、髭も伸び放題。これぞザ盗賊といった風体だ。もちろん言ってることもだが。

 そいつらはいつもの台詞をいったあとに、しまったといった感じで俺のほうを見ている。


「きゃねめーもの、これやーるんよ」

 俺はいかにも馬鹿もしくはキチガイを装いつつ、手に持っていた木の枝を差し出す。

 金目のものを持っていないとはいえ、奴隷として売られるというのは困る。

 だとすると、狂った振りをして俺自身を無価値だと思わせるほかない。

 おれの体そのものも、あー、という意味で価値を見出されると困るが、そこは考えないことにしよう。


「いや、お前から物を奪うなんて。ちょっと待ってろよ」

 盗賊のひとりが少しはなれたところにある岩陰まで走り、大きなずた袋を手に戻ってきた。

 2人が袋の中のものをぶちまけ、これとこれにするかとか話している。

「おい、盗んだもので悪いがこれをやるよ。さすがに俺らも身包み剥ぐといっても下着までは奪ってないからそこは我慢してくれ」

 簡素な服にズボン、それに護身用にとナイフをくれた。


「あーやと」

 座りこみ両足を持ち上げ、地面に背をつけごろごろ転がりながらズボンを履いた。もちろん後ろと前を逆にして馬鹿さを見せ付ける。

 ナイフは体中央で腰紐に結び、股間の前をぶらぶらさせておく。

 服は裏返しに来てもよかったが、わざわざ裏にするのもなんなのでそのまま着ておいた。


「あー、うん、まぁなんだ。頑張れよ」

「一文無しじゃぁ辛いだろ。よかったらこれ持ってけよ」

 泣きそうな目をした盗賊がたぶん銅製の通貨だろうと思われるものを何枚かくれたので、口に入れてみる。

「まーじゅ」

 ダメ押しで異常性をアピール。

「いや、これはだな。ここにっと」

 渡してくれた盗賊がズボンのポケットにお金を入れてくれた。

「この道を30分も歩けば町があるから気をつけて行きな」

「あーう」

 なんか手を振っている盗賊たちを後ろにとぼとぼ歩きで町へと向かう。


 服に武器、お金までくれて道も教えてくれた。

 案外いいやつらかもしれない。

 『ミッションコンプリート』少し怖かったけど無事盗賊を撃退?し、戦利品を手に入れた。テンション上がりまくりの脳内麻薬どばどばだったが、盗賊にばれては困ると一部冷静な頭脳が判断し、小さく呟いた。


 1時間くらいは歩いただろうか、とぼとぼ歩きのため盗賊に教えてもらったより随分時間がかかった。

 途中馬車を2度みかけたが、こちらに気にする様子もなくそのまま擦れ違っていった。

 辺りを見回し誰もいないことを確認し、服装を整えることにする。

 ズボンを一度脱いで前と後ろをきちんとした向きで履きなおし、ナイフはアイテムBOXに放り込んだ。そしてまた地面をごろごろと転がり服をぼろくし汚しておく。


 まずは今後の作戦を練る必要があった。

 向こうに見える町は塀に囲まれている。

 まだ遠く離れているため確認はできないが、門のところに衛兵もしくはそれに類するものがおり、中に入る人間をチェックしているだろう。

 ここで問題になるのが俺がどこから、もしくはどの村から来たか。何をしに来たのかだ。

 この世界の情勢、常識などがあれば無難な嘘をつけるかもしれないが、まったくそういった知識は持ち合わせていない。

 小説でよくあるのが、記憶喪失、人里離れた山奥で暮らしていたといったところだ。町へ来るまでに襲われていた人を助けてそのまま一緒に町へ入れてもらうというのもよくある。

 山奥といっても普通は近くの村と交流があったりするので、その辺を聞かれると村の名前も分からずまずいので記憶喪失でいってみることにしよう。


 町の出入り口では兵隊らしき鎧をつけた人の前に3人並んでいる。俺の前を人が歩いていたというのではなく、町の前で道が三方から合流しているので他の道から来た人だろう。

 他の人の門でのやり取りを見ることができるので助かった。

 大きな袋を担いだ商人か旅人らしき人はパスポート大のカードらしきものを見せている。

 次の番の冒険者というものなのだろうか。皮鎧に身を包み、剣を下げている人も同じくカードを見せていた。

 俺の前の袋を担いだ人は紙をみせている。村長による行商許可証とか言ってるのが聞こえる。

 さぁ俺の番だ。


「身分を証明するものをだしてください。それと町に入る目的も教えてください」


「えーと、それがなんですよね。自分が誰だったか思い出せないんですよ。ここから30分くらい歩いたところでたぶん盗賊に襲われたんだと思います。気付いたらボコボコに殴られてて『もう行っていいぞ』って2人組の男に言われ、そして走って逃げました。男たちの横には大きな袋がありましたが、もしかすると私の持ち物だったかもしれません。それ以前のことは思い出せません。私って誰なんでしょう?」

 ちょっと馬鹿っぽさを表現しつつ、数少ないこの世界での知識というか出来事である盗賊さんをダシにさせていただきました。


「弱ったなぁ。隊長を呼んでくるからちょっと待っててください」

 下っ端なのか若い衛兵は門のすぐ側の詰め所らしき建物の入り口に頭だけ突っ込み隊長を呼んでくれている。


「なんか問題でもあったのか?」

 眼光鋭い中年男性がといいたいところだが、目を擦りながら眠そうな中年男性が出てきた。お前寝てただろ、寝てたよね、寝てましたよね。突っ込みたいが今はそんなことやってる場合じゃない。

「はっ、なんでもこの人が盗賊に襲われたショックで頭が混乱し自分が誰かもわからないそうです。どうしましょうか」


「あー、うーん、持ち物確認したか?」

「はっ、まだであります」

「持ち物はこれで全部だと思います」

 ポケットから銅貨6枚を取り出し返事した。

 若い衛兵が服の上から体をぽんぽんと叩き、他に何も持っていないか確認した。

「他にはなにも持っておりません」

「困ったなぁ。このまま追い出すのも気分が悪いよな。商人ギルドか冒険者ギルドに連れて行って犯罪者かどうかの確認でもするか。ちょっとそこのお前ついて来い」

 こっちを見ていってるので、俺のことだろう。後をついていくことになった。


 門を抜け道すがら辺りを見回すが、人はまばらでそれほど賑わっている町ではないのかもしれない。

 少し歩いたところで隊長が止まった。

「冒険者ギルドと商人ギルドどっちがいいか? 冒険者ギルドはここだ。商人ギルドはもう少し歩かなきゃならん。俺としては近いし冒険者ギルドを奨める」

「はぁ、では冒険者ギルドでお願いします」

 なんとなく頼りなさげな声で返事をしたものの脳内ではテンション上がりまくり。冒険者ギルドキター、俺も今日から冒険者だー。

 剣と盾の絵の看板が掛かってる建物に俺達は入っていった。

本文中にステータス説明を入れていましたが、余計な説明と感じる人もいるようで削除し、後書きに持ってきました。

必要ない人はスルーしてください。


 HPとMP、SPは神様もいっていたように平均レベルなのだろう。

 SPってたぶんスキルポイントだよね。最大値と現在値があるみたいだし。

 STR=力だよな。これも普通。

 VIT=頑丈さかな?。トラックとぶつかってたりしてたし俺って頑丈なんだろうな。

 INT=知力ってよく言われるよな。頭の良さかそれとも魔法に関係したステータスなんだろな。

 MND=精神力かな。信仰心として僧侶系の数値に使われたり、魔法防御系に関係したりされてるよな。

 AGI=素早さだろうな。結構素早さには自信がある。轢かれそうになってるのを助けるには敏捷性と判断力が大事だ。

 DEX=これは器用さだな。自分のことを器用だとも不器用だとも思っていない。

 LUC=幸運だな。異世界に転移してくることができるくらいだし、俺って運がいいんだろう。

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