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勇者と魔王

 冒険者ギルドは昼前だというのにそこにはそれなりの数の冒険者がおり、雑談をしたり、掲示板をみたり、受付に並んでいたりしていた。

 あそこでは受付のおばちゃん一人だったが、こちらは今は三人しかいないが窓口が五つもある。さすが王都だ、規模が全然違う。

 カルファの登録はというと少し痩せているとはいえ、相当な美人の女性が冒険者登録に来たというのでやっかみの声や絡んできた奴もいたが、熟練と思われる冒険者にたしなめられすぐに場は収まってしまった。

 久しぶりに威圧の出番か? と思ったが少し残念だった。


 受付で盗賊について聞くと案の定討伐依頼がでており、既に冒険者のパーティが依頼を受けアジトを探している最中らしかった。

 護衛依頼中に盗賊に襲われ、盗賊達を壊滅させ頭領以下数名を捕獲したことを伝えると報酬金額の60%の金貨1枚と銀貨20枚が貰えた。30%が依頼を受けて出かけていったパーティへキャンセル料として、10%がギルドの取り分となり、ギルドは冒険者達へキャンセルを伝える役目もある。

 次いでかねてより聞きたかった質問、魔王の襲来と勇者の召喚について聞いてみた。

 受付の若い男性は、そういうのはあそこにいる人が詳しいですよと壁際に立って室内の冒険者をにこにこと眺めている白い長い髭をたくわえた小柄な老人を指し示して教えてくれた。


 元冒険者なのだろうか、それとも長い髭の老人のイメージからして魔術師でそれも現役だからここにいるのだろうか。

 あれこれ考えてしまったが老人に声をかけると、ここでは騒がしいし奥で話をしようと個室に案内された。


「勇者と魔王について聞きたいんじゃったな」

「はい、前にいた町のギルドに魔王が現れ、勇者の召喚をおこなったと貼紙が貼ってあったのですが、誰も詳しい話を知らなかったもので王都だとそれが聞けるのではと思ったんです」

「あんまりかんばしくないからのう。うまく言ってたら大きく宣伝するところじゃがそうでもないんであまり話を広めてないんじゃ」

「それでいったいどうなんでしょう」

 老人は長い顎鬚に手をやり、きながらこちらを見てにこにこしている。


「あんまりくな。わしも暇じゃしの、ゆっくり話してやるわ。事の起こりは1ヶ月位前じゃ、街の上空を大きなドラゴンが飛んでいるのを誰かがみかけ街は騒然となったのじゃ。ドラゴンは上空を何度か旋回した後、城の方へ向かうとドラゴンの背から人が飛び降りてきたのじゃ」

「そ、それが魔王なんですか?」

 気がはやり話の腰を折って口を出してしまった。


「まぁまぁ、ゆっくり聞いておれ。実際そやつが魔王で城の発表によると襲撃されたということじゃ。そして魔王に対抗するため王家に伝わる秘儀で異世界から勇者を召喚したんじゃ。まぁこの辺が普通に言われてる話じゃの」

「他にもなにかあるんですか?」

「魔王が来た際に最初に会ったという門番はわしの知り合いなんじゃが、そいつに聞いた話じゃ。魔王と名乗ったそいつは黒い髪に赤い目のまだ若い青年だったそうじゃ。そしてはじめに門番にいった言葉は『魔王ですが、王様に会わせてもらえないでしょうか』だったそうじゃ。魔王がじゃぞ」

 それで、と先を促すと老人は機嫌よく話を続けてくれた。


「門番が取り次いでしばらくすると騎士団長が来て魔王と共に城の中に入っていったそうじゃ。そしてしばらくして魔王は一人で出てきたそうじゃ。門番からは魔王と名乗るものはごく普通の青年に見えたし、戻ってきた時の彼の表情が何がなにやらわからないといった感じ見えたのでどうしたのか聞いたそうじゃ。とちょっと待っておれ」

 一息に話していたが湯飲みを手に取り喉を湿らせた後また話を続けた。


「魔王が言うには、中に入ると20人位に囲まれ襲われたそうじゃ。剣を振るってくるもの、魔法を唱えるものおったそうじゃが、煩わしかったので吹き飛ばしたそうじゃ。そしてそのまま奥へ歩いていると前を数人に塞がれ、王は体調がすぐれぬので帰ってくれと言われたそうじゃ。それで城から出てきたと言うのだ。後で調べてみたが、吹き飛ばされたときに軽い擦り傷を負ったものがいる程度で、死者も一人もでておらんかったそうじゃ」

 魔王襲撃が俺の期待したような話ではなかったが、この話好きの爺さんに引き込まれてしまってせっついた。


「結局魔王とまともに話をしたのは門番だけで、戦闘も兵士が一方的に仕掛けただけで無かったに等しいようなものじゃが、城ではこれを魔王襲撃と呼んでいるらしい。まぁ確かにあの黒いドラゴンは恐ろしかったがの。わしもこの歳でちびりそうになったわい」

「その後魔王とは何かあったのでしょうか?」


「う~ん、何かあったという話は聞かんのう。たぶん魔王とはそれでしまいじゃ。」

「それで次は?」


「次は勇者の話じゃ。召喚された勇者じゃがの12、3歳といったところでまだあどけなさの残る少年じゃ。それでも勇者ということで兵士20人を擁する小隊の隊長という権限まで与え送り出したそうじゃ。だがモンスターに会っては兵の後ろに隠れ、町に戻ってくればひとさまの家に勝手に上がりこみ箪笥などを漁っておったそうじゃ。しかし1週間位前に自由にさせてくれと、兵を残してどこかに行ってしまったそうじゃ。それから後の行方は掴めておらん。これでわしの知ってる話はおしまいじゃ」

 俺が勇者ではなかったのか……勇者召喚の儀式をおこなったが、俺は離れたところに飛ばされて召喚されたんだと思ったが違ったようだ。

 時期的に見ても俺が異世界から来たのと同じ時期だったために期待していたが少し残念だ。

 その後、老人からはこれからどうするのかと聞かれたり、この街での依頼についてやギルドについて、冒険者について等々いろいろ話をしたが、仲間が待っているのでと話を切り上げてギルドを後にした。


 とりあえずまとめると、魔王は別に王国を襲ったわけではないし、勇者は家出ということか。

 まぁ、物語的にここは勇者を探すべきなんだろうな。でも情報ないしな、なんてぼやいていたら意外なところから情報が入ってきました。


「10歳前後のえらい強い餓鬼ならあんたらに会った日の朝に部下があったらしいぞ。一人で歩いてたから攫おうとしたんだが魔法を撃ってきたんで逃げてきたって言ってた」

 盗賊のお頭がなぜかこんな都合のいい情報を持っていたので整備済みの馬車で進路方向にある村へと向かうことにした。



 村の広場には人だかりができていた。何事かと覗いてみると、少年が袋叩きにあっていたので側にいたおじさんに聞いてみると盗人を懲らしめているというのだ。

 鑑定! 名前がユウト・ナカノムラ、Lv18、間違いない、やっぱこいつは勇者だわ。


「みなさん、どうしたんですか。そんな子供に乱暴を働くなんて可哀想じゃないですか」

 演技力に自信はないが、人だかりをかき分け少年の下へと向かう。


「あんたこいつの知合いか何かだか?」

 一斉に怪しいものを見るかのように俺に視線が集まった。


「知り合いではないが、どうしたのか事情を教えてもらえますか?」

「そいつは人の家に勝手に入ってはタンスを漁って物を盗んでいくだ。それを咎めると自分は勇者だとかいって盗みをやめようとせず、ちからずくで止めようにも強すぎて歯が立たなかっただ。そっただもんで村の皆で相談し飯に麻痺茸を混ぜて捕まえ、こうして懲らしめてるだ」

 はぁ、確かにRPGゲームではタンスや壷を漁るが、それをここでやったのかよ。


「それでこの後どうするつもりなんですか? 殺すまで暴行を加えるんですか?」

「町まで行って役人に届けるのもいいだが、そっただことに人手をかける余裕も無いんで、商人に奴隷として買ってもらおうと思ってるだ」

 少年は麻痺して動かない体でこちらを縋るような目で見ている。


「そいつと少しはなしをしてもいいか?」

「いいだが、たぶん今はしゃべれねぇだよ」

 見捨ててもいいが、どうするかな。


「おいお前、喋れないだろうが俺の問いに対して首を動かすとか、目で答えるとかできるか? たとえばはいなら目を一度閉じる、いいえなら二度目を閉じるのように」

 少年は首を縦に軽く振った。おいおい、たぶん麻痺はしていて村人達と戦うのは無理だが、少しは動けるって事か。


「お前は今村人達からリンチを受けている。このままだと奴隷として売られていくことになる、わかるか?」

 少年は首を縦に振った。


「よし、わかるならいい。だったら、俺に奴隷として仕える気は無いか?」

 少年は首を横に振る。


「いいえか。お前は奴隷というのがどういう扱いを受けるものを見たことがないか?」

 少年は見たことがあるのだろう。顔が真っ青になっている。


「俺も奴隷は使うが、他に比べて格段に待遇はいいはずだ。後ろにいるやつは皆俺の奴隷だ」

「兄貴はよくしてくれるでやんすよ。飯もきちんと食わせてくれるし、結構自由にさせてくれるでやんす。普通奴隷だとろくに飯も食わせてもらえないし、殴る蹴るの暴行を受けるなんて日常茶飯事でやんす」

「それでどうする?」

 それでも少年は首を横に振った。


「そっか、俺は今日明日とはこの村に泊まって明後日には出立する予定だ。気が変わったら言ってくれ。それとあんたら邪魔してすまなかったな」

 俺はその場を後にした。


 

 翌々日、朝食時に宿の主人から少年が奴隷になることを承知したので広場に来てくれと連絡があった。

 俺に奴隷として買わせることに少年に了承させるよう村人達に予め頼んでおいたのだ。

 強い奴隷だから高く買うという理由をで金貨2枚を支払うといったら村人達は協力的になった。

 奴隷商が売る際はその位の値段になるかもしれないが、買い取ってもらうとなると銀貨50枚程度に買い叩かれるのがおちだから当然といえば当然だ。

 常にマヒ状態にさせ、広場に二日間置いておかれ、頻繁に暴行を受け少年の心が折れたところで村人が奴隷の話を出しそれを少年は了承した。


 盗賊達のよく使う仮の奴隷の首輪をつけ、王都とは別の町へと奴隷の正式契約をおこなうために向かった。

 勇者というのがばれると国に取られかねないと予想しているからだ。

 自分達が大変な思いをして召喚した勇者を勝手に奴隷としてもっていかれるのを許すはずがないから当然だ。

 奴隷契約する際に名前を変え、髪を染めさせれば簡単にはばれないだろう。

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