見栄張っちまった
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件で」
俺と少女を見た奴隷商の笑顔は少し引きつっている。
「冒険者ギルドで確認したところ、この子の主人は誰も登録されていないことになっていた。それでこちらで登録してもらいたいのだが、できるか?」
「えぇ、もちろんですとも。さぁこちらへ」
不自然な笑顔は俺を客と認識したためか自然なものとなり奥へと案内された。
登録料は銀貨10枚と言いかけるのを遮り、金貨1枚だなと無理やり金貨を押し付けた。ちなみに銀貨100枚だったものはここに来るまでに金貨1枚に両替してきている。
「これで文句ないだろうな。この子は完全に俺のものとする。返せといっても聞かんぞ」
「もちろんですとも。決してそのようなことは言いません」
時々ケホケホと咳をしている少女を連れ、奴隷の登録をおこなった。首輪に主人の血をたらし、奴隷商の連れてきたローブの男がなにやら唱えると首輪が光り、それで登録完了だ。
少女には予め奴隷として開放することもできるがどうするかと確認をとっていたのだが、彼女は売られたときに奴隷として生きていくことを決心し、病気にかかって捨てられる直前に死を覚悟したそうだ。
そのため捨てられていたところを拾い、ヒールで咳の症状を和らげている俺に恩を感じ是非奴隷として使ってください。どうか捨てないでくださいと涙ながらに懇願してきたので奴隷として登録することになった。
「もう演技はいいぞ」
「はい、ご主人様。これからよろしくお願いいたします」
彼女には奴隷商の前では大分治まっている咳を以前のように頻繁にするよう指示を出しておいた。病気が少しでもよくなっていることを知られるのはあまりよろしくない。
無理やり金貨を渡したのは俺のプライドと彼女へ恩を売ったことを見せ付けるためだ。拾ったのではなく、きちんと奴隷として買ったのだということをわからせるためだ。
病気の奴隷を安く買うというテンプレ的行動に反するが後悔は…たぶんして…ない、んじゃないかな、と思うよ?
「ついでに服と下着を買って帰りたいのだが、体は大丈夫か?」
それに対し少女は大丈夫といったものの少し辛そうだったため、ヒールをかけると少し体調はよくなったようだった。
あまり甘やかすのもよくないというのもあるが、何より面倒だったので帰りについでに買うことにした。
服屋では安物の服で染色もしていないクリーム色のワンピースに数着の下着を購入する。服はそのまま着せて帰ることにしたら店員が髪も梳かしてくれた。もじゃもじゃで隠れていた猫耳がでてきてグッドだぜ。
宿でおかみさんに一人追加したことを告げると、今の3人部屋のままなら料金はかわらないということだった。奴隷は人数で計算されるのではなく、部屋のベッド数で料金が計算されるらしい。ちなみに朝食のサービスはベッド数分だということなので追加で頼まなくてはならない。
俺と少女が同じベッドでとも考えたが、俺と少女がベッドをひとつずつ、残りのひとつはドヤッキーとトンズルーが交代で使うことに決まった。
「今日はよろしくお願いします」
俺はナイフなどの投擲武器を、ドヤッキーは弓を、ドンズルーは武器を使っての防御技術の訓練の依頼をだしていた。報酬はひとり半日で銀貨1枚、ギルドの手数料が50%で3人分銀貨4.5枚となった。
半日の訓練で俺には投擲スキル、ドヤッキーには弓スキルがついていた。ドンズルーは何も覚えてこなかった。
同じ武器を使い続けるとスキルがあがることがあり、訓練をおこなった場合は特に覚えやすいということらしい。
たぶん戦闘でもスキル経験値は入るが、訓練では効率よく練習するため入手スキル経験値が高いと予想される。
訓練が終わると日が暮れる前に町に戻れるよう時間調整をしつつ短い時間森で狩りをおこない、ギルドで換金をおこなってきた。もちろんケホ子は留守番だ。
なにしろ金がないのだから、少しでも稼がなくてはならない。
慌しい一日だったが夕食を食べた後やっとひと息つくことができた。
ちなみにケホ子だが、夕食のときは奴隷が主人と一緒の席で食事などとんでもないと言ってたが、当然同じ席で同じ料理を食べさせた。奴隷はこれが普通の反応だろ、男達は見習えよな。
「そういえば、お前ってなんて名前なんだ?」
「売られるまではドドと呼ばれてました」
今まで名前を聞いていなかったなと、今更ながら聞いてみたが酷い名前だ。
「あー、うん、他の名前を付けてもいいか?」
「もちろんです。ご主人様のお好きな名前を付けてください」
「よく咳をするから、ケホ子でどうだ?」
「素晴らしいお名前です。ご主人様にお名前を付けていただけるなんて光栄です」
「いやいやいや、やっぱやめ。フィラにしよう。決めたお前は今日からフィラだ」
「ケホ子もいいですが、フィラも素晴らしいですね。ありがとうございますご主人様」
心の中ではケホ子って呼んでたけど、さすがにまずい。というか口に出して言うのがちょっと恥ずかしい。
フィラとはジプソフィラエレガンス、つまりかすみ草からとった名前だ。こういう時は花言葉からつければかっこいいのだが、残念ながら俺は知らない。
ただ銀髪から白い花をイメージしてつけたのがこれだ。
「気に入ってもらえたようでよかった。そういえば、お前って10歳くらいか?」
「いえ、12歳です」
「そっか、それでお前、いやフィラはどうして奴隷に? いや、言いたくなければ言わなくてもいいんだぞ」
「4年前に流行り病で父と母をなくし、その後村長の家で奉公していたのですが昨年の飢饉で半年前に奴隷として売られてしまいました。その後間もなくして咳が出るようになり、他の人が売れていく中私だけが売れずにずっと残っていったんです」
背も俺の胸より下くらいだから130センチくらいだろうか、ワンピースから出ている手足は簡単に折れそうなくらい細く、胸の膨らみも外からは一切窺い知ることができない。あまりまともな食事は与えられていなかったのは間違いないだろう。
「希望すれば村に帰ってもよかったんだが、どうして奴隷として生きていくなんて辛い生き方を決めたんだい?」
「村長の家で奉公していたといっても、たぶん奴隷として扱われてたんだと思います。いつもお腹を空かせていて草や木の根で空腹を紛らわせていましたから。帰っても奴隷、残っても奴隷。一人で生きていく力もないですし、それでしたら助けていただいたご主人様に尽くしたいです」
う~ん、えぇこやなぁ。
「わかった。それと俺は冒険者だし、金持ちではないからフィラも冒険者として手伝ってもらうことになるから覚悟しておけよな。だけど少し回復するまで、フィラは宿で留守番をすること。一緒にいられるときにできるだけヒールをかけてやるから時機に回復するだろう」
「はい、ありがとうございます。ご主人様」
「おい、おまえら明日からはしっかり稼ぐぞー」
「アイアイサー」×2
「キュアポイズン!」
「はい、スーッとします」
2日間ギルドで稼ぎまくったお金で神殿で毒消しの魔法を覚えて、それをフィラに何度もかけていた。ほんとのところ病気回復の魔法があればよかったのだが、高位の神官しか覚えることができず教えることはおろかこの町には唱えることのできる神官さえいなかった。
そのため毒消しの魔法を教えてもらって毒ではなく病原菌を除去するよう念じながら使っていた。さっきまで魔法をかけるとすーっと体の中から魔力が抜けていっていた感じがしていたが、それがなくなった気がする。ドンズルーを殴ってダメージを与えて「ヒール」。うん、魔力が消費されてる。自分を鑑定してステータスっと。
名前:コウ
所持名:奴隷の所有者 下克上を成し遂げたもの へたれ後輩 おばちゃんを倒したもの 異世界よりきたりしもの ハイテンション
LV :6
HP :126/126
MP :49/82
SP :52/53
STR :33
VIT :67
INT :32
MND :51
AGI :62
DEX :32
LUC :9
所持スキル:異世界言語能力、アイテムBOX、鑑定、能力成長率UP、威圧、爪武器、投擲
所持魔法:ヒール、キュアポイズン、キュアディシーズ
久しぶりに確認したステータスだが驚くほど数値が上昇しているな。というか、ほんとに驚くべきは教えてもらいっていないキュアディシーズが所持魔法に入っていることだ。
ためしにキュアディシーズを使ってみると先ほどまで使っていたキュアポイズンと同じ感じがした。病原菌を除こうと考えながらキュアポイズンと唱えていたが、実際にはキュアディシーズがかかっていたらしい。
あくまで想像だが、この世界の魔法はイメージが大事で詠唱はイメージを補填するものではないかと仮説が立てられる。スキルは最初覚えていなくとも、例えば剣などは使っていれば自然に剣スキルを覚える場合がある。
それと同じように魔法も自然に覚えていくことが可能なのかもしれない。もっとも仕組みを理解していないといけないとか、派生系の魔法しか覚えることができないとか縛りはあるかもしれないがその辺のこれからおいおい試していくとしよう。
「キュアディシーズ! いつの間にか病気回復魔法を覚えていたみたいだから使ってみたがどうだ?」
「はい、よくなった気がします。でも先ほどまでは魔法をかけていただくとスーッと気持ちよくなっていたんですけど、それがなくなってしまいました。」
「おぉ、やっぱりだ。病気がなおったためにフィラに効果がでなくなったんだよ。どうだ、まだ咳がでるかい?」
「はい、そういえば咳もでなくなった気がします」
「おめでとうでやんす」「おめでとでんねん」
「ご主人様、皆様ありがとうございます。これからはご主人様のお役に立ってみせますので、よろしくお願いいたします」
「あぁ、期待しているぞ。念のためヒールを何度かかけておくがまだ無理は禁物だ。とりあえず今日はゆっくり休んで明日はそうだな。朝飯を食ったらギルド登録だな。その後は俺たちは森でモンスター退治をおこない、フィラは町中でいくつかお使いをやってもらうつもりだ」
「わたしもご主人様についていきたいです」
「いや、だめだ。病気は回復したかもしれないが、その間に衰えた体力はそうもいかない。まずは町中で体力を取り戻してもらう」
「わかりました…」
「明後日からはきちんと一緒についてきてもらうから覚悟しておけよ」
「はい!」
陰っていた顔が雲間から太陽が覗かせたように一瞬にして明るくなった。うんうん、女の子は落ち込んだ顔より笑顔が一番だね。