神との出会い
「馬鹿野郎! 危ねぇじゃねーかっ!」
「そっちこそ気をつけろ、轢いてたら大変なことになってたんだぞ! ぼく、大丈夫だったかい?」
危機一髪でトラックに轢かれそうになった男の子を救った英雄。それが俺、大山田広助だ。
三流大学に進学したものの、だんだんと学校に行くことが減り夏休み過ぎにはもうほとんど行くことがなくそのまま大学中退してしまった。
大学時代からずるずると続けているコンビにバイトもはや6年目の25歳となってしまい、そろそろ真面目に生きなけりゃと思ってしまう。
俺は町のちょっとした有名人、人命救助で表彰されたことが8回もある町のヒーローだ。
詳しく言うと、トラックに撥ねられそうになった人を助けたこと69回、ライトバンに撥ねられそうになった人を助けたこと52回、普通車に撥ねられそうになった人を助けたこと32回、溺れている子供を助けたこと2回のレスキュー隊員顔負けの仕事っぷりだ。(真似するなよ)
ただし、怪我で入院したことも21回もある無茶振りだ。(絶対真似するなよ)
皆には正義感あふれる素晴らしい人と思われているが、ほんとのところそうではない。
交通事故で怪我をして保険金や見舞金をもらおうと思っているわけではない
実のところ結構がっぽりもらってて、貯金はすごい事になってるんだけどね。(信じて真似するなよ死ぬから)
今日もいつものように横断歩道の脇で子供達の安全を守っていた。
日が暮れてきたためそろそろ帰ろうと思ったその時。
横断歩道をベビーカーを押して渡ろうとしている若い女性に向かってトラックが突っ込んできている。
横断歩道の信号は青、トラックの運転手の頭は軽く上下にカクンカクンと揺れている。
交差点の中ほどを過ぎているが、横断歩道の女性は気付いていない。
「危ない(チャンス)!」
叫ぶと同時に俺は飛び出した。
1歩、2歩、3歩。女性の真横に付け、軽く手を払いベビーカーを手離させ、女性を歩道側に抱え投げベビーカーも同じ方向へ強く押し出す。
ベビーカーを持ったままの女性を投げるとベビーカーがどのように動くか予想できず、赤ちゃんが放りだされる可能性もあるためひとつ動作を加えたのだ。
これも何度も人助けをおこなった経験の賜物だ。
女性は無事歩道に投げ出され倒れていた。ベビーカーも倒れずそのまま女性のところまで無事届いている。
それを見届け安心したが、トラックは俺の目の前数十センチのところまで迫っていた。
これは逃げられない。
今回は怪我ではなく死んだかな。と衝突までの一瞬にそんな考えがよぎる。
ドスン
そんな音を聞いた気がする。
4トントラックのブレーキなしの本気の一撃だ。
ぶつかった俺は吹っ飛び、そしてタイヤにひき潰されていた。
「あれ?」
俺の口からは間の抜けた声がでた。
さっき確かに轢かれたよな。即死クラスだったよな。
なぜか白い部屋に横たわっている。
というか、部屋かどうかもわからない。
ずっと向こうまで白い。霧の中というようでもない。見渡す限り白い。
それに横たわっているという言い方も正しくない気がする。地面も天井もなく浮いているような気がする。
手を何度か握っては開いてと動くことを確認する。床に手を突き起き上がろうとするが、手には何の感触もないものの起き上がることはできる。
ここは死後の世界だろうか? それとも……
「待たせたかのう?」
目の前に不意に現れたバスケットボール大の白い玉から声が聞こえた。玉は続けて喋る。
「わしは上級神第三位級の神で数多の世界を管理しておる。お主はトラックに轢かれて死んでしまったわけじゃが、ほんとは死ぬ運命にはなっておらなんだ。普通は死すべき時でない場合に死にそうなったら、死なないように天使達に手を差し伸べさせるのだが、いかんせんお主はそれが多すぎて助け損なってしもうた。生き返らせてやりたいところじゃが、体はほれあの通り」
俺の右前方の真っ白い部分に色がつき、景色があらわれた。
そこにはぐちゃぐちゃに潰れた赤い肉の塊が映されている。
げ、俺は吐きそうになった。
「ああなってしまっては生き返らせるのには骨が折れる。そこでじゃ、とその前に。よく見ろぐろいじゃろ、あれを忘れるでないぞ。それと死ぬ瞬間の景色、痛みも忘れるでない。それが糧となる。
話がそれてしもうたが、お主にはいくつか選択肢がある。
体を復元し事故の関係者達の記憶をいじり生き返る。まぁこれはわしの手間的にお奨めはせん。次は他の世界に飛ばしてそちらで生きる。新しく別の生を生きる。といった方法がある」
「キタコレー」
俺はヒーローではない。夢見る青年なのだ。
周りの人間には隠していたが、俺はラノベやネット小説が大好きだ。
異世界召喚物、異世界転移物の小説やゲームにあこがれていた。
今の退屈な生活を一変させたいと横断歩道前で子供達の安全を守っていたのだ。
「キタコレー! トラックに轢かれて異世界転移。キタキタキター!」(あくまでお話なので実際にトラックに飛び込んじゃ駄目よ)
俺のテンションがマックス近くに上がっているのに引き換え、白い玉はズサっと俺から離れ小刻みに揺れている。
「急にどうしたのじゃ。驚かせるでないぞ」
白い玉の声は動揺しているのか軽く震えて聞こえる。
「それで、それでその次を早く! とりあえず転移希望です。異世界転移。ファンタジー世界。剣と魔法の世界が希望ですがもっと情報プリーズ!」
待ちきれずに話の先を急かす俺。
光の玉で体や顔があるわけではないのでよくわからないが、なんとなくドン引きって感じがするがそんなことは気にしないし、気にする余裕もない。もうテンションマックス状態だ
「異世界への転移希望じゃな。その場合は今の年齢のまま異世界へいくことになる。体の修復はサービスじゃ。服も持ち物も死ぬ際に身に着けていたものはそのまま移してやろう。それでよいかの?」
「忘れてるものが結構ありますよ。異世界では言葉は同じなんですか? 同じじゃないなら読む書く聞く話すの言語能力をください。それとチート能力を忘れてますよ。飛ばしてくれる世界はスキルタイプの世界ならスキルもください。常識でしょ!」
若干テンションが下がってきた俺はぶっきらぼうに言い放った。
「常識って何なのじゃ? わしゃ知らんぞい」
動揺が伝わってくる。
「よくあるパターンで異世界に転移させる場合にその世界の人に比べて段違いの身体能力や魔力を与える。大量のアイテムを所持することができる空間、通称アイテムBOXの能力。アイテムや人の状態を見ることができる鑑定能力。それに他にもスキルをくれるのが普通でしょ。もう、テンプレどおりにやってよね」
「そ、そうなのかの? わしゃ今回のようなケースに遭遇するのは始めてなので許してやってくれ。えっと、行く予定の世界はスキル制の世界じゃ。おぬしのおった世界とは違って魔物がおり安全とは言えぬ。言語能力、アイテムBOX、鑑定能力は了解した。身体能力については今と同じ、魔力についてはその世界の平均とするが、レベルが上がった際の能力値は他のものたちよりあがりやすくしておいてやる。これでどうじゃろ?」
「追加スキルは? 追加スキル忘れてるよ」
「す、すまぬ。そこまではわしの権限ではどうすることもできぬ。許してくれ」
「しょうがありませんね。さっき言った条件でお願いします」
「よ、よしわかった。ちょっとの間目を瞑っておれ」
テンプレ的おはなしを書いてみました。