部活前篇
「清十郎!おはよう!」
「雪花か・・・」
入学して初めての週末が開け今日は入学第2週目だ、
この土日、昼夜通して働いている俺は通学途中にであった雪花の元気な挨拶に応対できなかった。
「ちょ、暗いなぁ。いい?朝の挨拶は一日の基本!はい、元気よく!おはよう!!」
「なぁ、雪花」
俺の幼馴染はそんな俺の疲れなど他人事のように自分のリズムを押し付けてくる。
実は俺は小学校中学校とあまり友人がいない。あまり話しかけてくる奴もいなかった。だからこそ雪花が図々しくも俺にちょっかいをかけてくるのは今まで面倒ながらも本当にうれしかった。嬉しかったはずなのだ・・・なのに
「もしかして・・・二人は恋人同士?」
土曜日にバイト先で客としてきていた小春風に言われたことが頭によみがえった。
「なに?清十郎。」
「いや、何でもない。」
頭によみがえり自身の心に引っ掛かった何かが自然と雪花の名前を俺に呼ばせたのだが、反応した雪花に俺は何も言えなかった。
そうして少し無言のまま通学路をともに歩く。
「そういえばさ、今日放課後何か予定ある?」
「いや・・・ないが?」
少し思い出したように雪花は言った。
「今日から2週間目でしょ?高校、今日から部活勧誘解禁なんだって、だから一緒に回らない?まだ、なかなかコイツだ!!って気が合う娘がいなくて」
「いや、折角だが遠慮する。部活をやる暇など俺にはない」
俺は雪花の申して出をにべもなく断った。
「・・・もしかして・・・おじさんの代わりに働かないといけないから?・・・その・・・本当はどんなに大変かわからない私が言っちゃいけないのかもしれないけど・・・自分の楽しみや幸せだって追いかけてもいいんじゃないかな?」
「・・・お前が、変な気を回すな。らしくない。」
俺はそう言って彼女に目をやらずに答えた。
ーそれに、お前といるというところをなるべく小春風には見せたくないしな・・・なぜだめなんだ?
俺は頭がぐるぐるになりながらもそれ以上何も言わずに黙りこくってしまった雪花と無言のまま学校へ向かった。
「よーしじゃあこれで今日は終わるぞ~」
「起立礼、ありがとうございました」
「ありがとうございました。」
担任の言葉に俺は学級委員として全員に起立礼を促し、本日の授業を終えた。
「ねぇ、清十郎君あの、今いいかな。」
小春風に名前を呼ばれた・・・呼んでもらった。どうやらせっかく高校に入ったので何か青春をが出来る部活に入りたいらしい。このクラスでできた友人たちは彼女がクラス委員としての本日の仕事を終えるのに先んじて部活勧誘の各テーブルに行ってしまうようだった。そのため心細いという理由から俺と部活周りをしてほしいというものだった。
・・・何か、午前中に雪花に言った気がする。俺は小春風に誘われてからそのことを少し考えたのだがなぜか一向に思い出せない。
「いいだろう、それでは植物に水やって、資料室に明日使う分の資料を取りに行った後に行くとしよう。」
俺はそう言ってやった。小春風は嬉しそうだった。
「じゃあ私は先に資料室に言っているね!」
「あぁわかった。それでは俺は小春風が帰ってくる前に植物に水をやっておく」
お互いにやることを決めたのち、小春風は教室を出ていった。
「なぁ、真田ぁ」
「・・・きみは誰だ?」
「はぁ?山田だよ山田一郎、お前の真後ろに座ってるじゃねぇか。」
と、不意に声をかけられる者がいた。声をかけてきたのは山田一郎、俺の後ろの席に座っているクラスメートだった。なぜだろう、確かにほとんど話したことはないとはいえ、近くに座っているというのになぜか全然知っているような気がしない。いままで自分が気にしてなかったからだろうか?だからいざ意識を向けてみると何か頭に情報が染み渡るような気がした。そして彼の姿もだ
「すまなかった。それでどうした?忘れ物か何かか?」
「・・・本当にその話し方がこの世界の、そしてお前の常識なんだな。」
「スマナイが何を言っているのかわからないが・・・」
「わからないってことはないだろう?どこの世界にそんな上から目線の戦国時代みたいな堅物な話し方をするやつがいる。アニメやゲームのキャラクター見たいな話し方自分でおかしいとは思わねぇのか?お前の親父さんやお袋さんだってそんな話し方しねぇだろ?」
ー!!そういえばなぜ俺はこんな変な話し方を・・・いや、別にそれは俺の勝手のはずだ。
特に表情を変えなかった俺は山田の言葉に無言をもって答えた。その表情が変わるには至っていない。
「衝撃も受けねぇかよ。そういえばさっきのってどうするんだよ?」
「わからない、山田、君は俺に何を言わせようと「部活周りだよ。東原の誘い断って。小春風と行くんだろう?筋、通んねぇんじゃないか」」
-そうだ!俺は雪花の誘いを・・・?!・・・なぜ俺は1日も経っていない事柄を忘れているんだ。いや、なぜ奴が俺が断ったことを知っている。
山田というクラスメートが俺の言葉を待たずに載せた彼自身の声に俺は驚愕した。
「この世界でお前は確かに自分の人生生きてるんだぜ。もっとしっかり考えて責任もって行動に移したほうがいいと思うぜ。」
「・・・山田、君はなぜそんな話をしてくる、いや、それ以前になぜ俺と雪花のやり取りを知って「清十郎君!お待たせ!じゃあ行こう!」」
山田の不自然さを感じる話に質問をしようとした俺に資料室から帰ってきた小春風が声をかけてきた。
山田はというと真剣な表情から一転にこやかな表情になって小春風に挨拶した。
「あ、小春風さん、ごめんごめん、もう真田との話は終わったから。」
「えぇっと、あなたは・・・うん、それじゃあまた明日ね!真田君!行こう!!」
小春風は山田の顔をしばらく見つめていたが結局名前を思い出せなかったようだ。まるで俺と同じで少し共感を覚えてしまった。が、それとは別に山田の言葉に対する気持ち悪さはずっと続いていた。
ーあいつは一体何なんだ?
俺は嬉しそうに教室を出た彼女の背中を眺めていたかったが、得も言われぬ気持ち悪さから山田の顔を見続けながら後ろ髪引かれるような思いで教室を出た。
「あいつ、罪悪感なかったな。っていうか、あの顔、東原と今朝会話してたことは間違いねぇみたいだな。その事自体忘れてたって顔だがそんな短時間で忘れるってことあんのか?・・なんか変な力でも働いてんのかね?攻略対象キャラ・・・か、なんていうかイケメン爆発しろって思ってたけど、複数の選択肢と決められた確率だけの人生しかないって考えてみたら、操り人形だよな。実際。そんでこの後廊下で・・・」
俺たちがいなくなり一人だけになった教室でクラスメートの山田は呟いた。