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入学式

「なので~君たちにはこの学園での3年間を有意義なものにしてほしい」


 校長先生の話が終わった。うちのクラスメートは長い話にしびれを切らしたのだろう憂鬱そうに下を向いている。


「なぜだ、よくよく聞いていれば素晴らしいスピーチなのだが。うん、生きてきた道はそれぞれ違えどやはり一度でも組織の上に立ったことのある方のスピーチは素晴らしい。政治力とはよく言ったものだな。さて・・・雪花は?」


 俺は隣のそのまた隣のクラスの列のほうを見た。雪花が立っている。例にもれず雪花もうなだれている”もう長いよ~”とその表情が言っている。

 因みに雪花は俺とは違うクラスになった。


「続いては生徒会長からのご挨拶です。」

「え~まだあるの~?」


 司会の言葉にそう反応する雪花、かなり辟易しているようだ。


ー雪花よ我慢が足りないぞ。


 俺はそう心に思い呆れたように笑ってしまった。

 と、後ろのほうでキャーと黄色い歓声が上がる。見てみると上級生の女子たちが壇上に手を振っていた。俺はそれに背かず彼女たちが声援を送る対象に目をやる。 長身痩躯、爽やかに整った短い髪、甘いマスク、眼光からは賢さを伺わせるような光を宿した男子生徒が壇上にたった。なるほど彼が生徒会長ということだ。天は2物を与えずとは言うが事彼に対してはそれは例外のようだ。


 生徒会長はその声援に気恥ずかしそうに右手を上げる。その対応に上級生の女子生徒たちがさらに歓声を上げた。


「みなさん。ご入学おめでとうございます。話をする前に皆さんのお顔をゆっくり見させてください。」


ー面白い。ありきたりなスピーチではなくまずは奇をてらったか。皆の意識を向けさせるつも⋯何をしている?


 俺は最初皆の注目を集めるために会長が行うギミックだと思った。実際に彼は一歩マイクから離れて全員の顔を眺めるようにしていた。しかしその動きは途中で止まってしまっていた。正確にいえば眺めている途中にいた一人の生徒に目を向けたところで止ってしまったのだ。


「!!」


 俺は会長が誰に目を向けているのかに気付いた。目を向けた相手、それは今朝方学校に来る途中にぶつかった女子生徒だった。当の彼女は会長にじっと見つめられて困惑しているように視線を右往左往していた。勿論会場内も進行が止まってしまったことでざわざわと騒がしくなる。


ー会長ともあろうものが何をやっているんだ?あの子が迷惑そうだろう?


 俺はそう思った。そして同時に自分の考えがおかしいことに気付いた。あの子は今日初めて会ったばかりだ。そんなことを気にする必要などどこにもないのだ。なぜそんなことを思ってしまったのかが分からなかった。


「なぁ、もしかしてお前あの子のことで今なんか考えていた?」

「い、いや、そんなことはない。」

 

 後ろのクラスメートがふと質問してきたことに俺は否定で返した。


「スミマセン、何を話そうか忘れていました。実は・・・」


 会長は我に返ったようで一言俺たち新入生に対して断ったうえで内容を話し始めた。今思えば失敗を装うことで生徒会長も新入生も根底ではあまり変わらないということを意識づけたかったのかもしれない。親近感が生まれたのか周りの同級生たちは笑いながら話を聞き始めた。


 内容自体は特に濃いものではなかったが⋯校長の話を聞かなかった彼らに話を聞かせるように仕向けられたのは尊敬すべきところかもしれない。




 入学式が終わり教室に戻った俺たちは担任の促すまま自己紹介の時間をとった。俺にとっては学校は学ぶもの、家族を養うために役立てる何かを培うために通っているに過ぎない。友達を作るというのはあまり考えていなかった俺はあまりクラスメートの自己紹介を聞いていなかった⋯なの

「小春風恋です!みんなと仲良くなりたいです宜しくお願いいたします。」


 彼女の自己紹介だけはなぜか聞いてしまった。というよりももっと知りたいと思うようになった。なぜかはよくわからない。本当に今日が初めて会った日、朝にぶつかったとはいえ因縁なんてのもないはずなのだ。


「次、真田清十郎」


担任が俺の名前を呼んだ。その声に席を立つ、皆新しい環境にテンションが高いのか近くの席の奴らと会話が弾んでいる。別に長く話すつもりもないし、なるべく早く終わらせたい。


「みんな清十郎君の自己紹介だからちょっと静かにしようよ」


とそんなことを考えていたら小春風が皆に注意を促した。何故かはわからないがその行為に少しドキッとした。なんというか今日初めて会ったのにもかかわらず気を使ってくれる彼女の行動が嬉しかった。


「なんだよ清十郎君ってお前らもう付き合ってんのかよ?手ぇ早いな。」


後ろのほうを見た。燃え盛るような赤い髪を持つ両耳にピアスをした男子生徒がガムを噛みながら茶々を入れた。拘束にあるネクタイなどとっくに緩めて第2ボタンを開けていた。そしてその言葉を聞いたクラスメートたちが茶々を入れる。小春風が慌てた。


「違うよ!そんなの!私まだ誰とも付き合ってないし!ね?その真田君?」


小春風は俺に聞いてきたが口下手な俺が何か話すとまたぐちゃぐちゃになりそうだったため。俺は必要最低限の事しか話さなかった。


「真田清十郎です。宜しく」


俺は座った。耳が痛いがいろんなところから”否定しなかったぞ真田!”やらなんたら言われたが余計にかき乱すことはしたくない。小春風には後で謝ればよいだろうくらいにしか思っていなかった。


「これでまずは真田ルートと獅堂ルートの自然発生イベントの最初のほうはクリアか・・・」

俺の右後ろで先ほど入学式で声をかけたクラスメートが呟いていた。


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