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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

焼き人間

作者: SIM

食欲の秋ですね。

 これはとある少年が経験した──というより、少年が『視た』物語である。

 よって第三者的視点から構築される物語であることを頭に入れておいてほしい。


 ────────


 夏が終わり、肌冷えする時間が多くなった、そんな季節。

 少し自転車を走らせれば風が当たり、肌が引き締まる感覚。


「寒い寒い寒い寒いさむいさむいさむいサムいサムい」


 多少舗道されているとはいえ、それでも自転車で走るにはやや荒れた山道を急ぐ。

 寒いから早く帰りたい。

 しかし速くこげば風が当たり寒い。

 そんな負のスパイラルに陥る少年の視界の端に黒い煙が見える。

 火事だろうか?

 そんな疑問を浮かべる少年。だが同時に良い匂いが鼻をつく。

 どうやら何か食べ物を外で焼いているらしい。


 ──ぐぅぅ。


 情けなくも腹が鳴る。

 部活帰りの少年の腹はすっからかんだ。


「……もしかしたら、貰えたりしないかなー……っと」


 そんな思惑を胸に秘め、煙が立つ方へ方向転換。

 実は前にも、焼き芋をしているおじいさんと出会い、偶然ながらに焼き芋を貰っている。

 その経験から、もしかしたら今回も……、そう少年に思わせたのである。


 煙の発生地にはすぐに辿り着いた。

 茂みに隠れその方を見る。

 少しずつ薄暗くなって行く空に、ごうごうと燃え上がる火は眩しすぎた。


「お、やっぱり焼き芋か……」


 良い匂いがとても強く感じられる。

 ふと、誰が焼いているのかを確かめるべく周囲に視線を向ける。


 二人立っていた。


「………………はっ?」


 素っ裸で。


 一人は、この暗い空間の中でもはっきりとわかるほどに白い肌をしていて、 そんな背中を隠すように綺麗で艶のある黒髪が伸びていた。後ろから見てもわかる。女性だ。


 もう一人は、夏の間に焼けたのだろうか。ギャル男も引かんばかりに真っ黒で、短く揃えられた髪はスポーツ少年を連想させる。つまりは男性。


 彼らはこんなところで何をしているのだろうか。

 いくら寒いとはいえ、直接炎に当たろうとは思うまい。というか逆に寒かろう。

 事の異常さに首を捻るも、なんだかんだで男の子。女性の裸など見る機会は滅多にない。少しでも目に焼き付けようとその場を離れずにいた。ついでに当初の目的である『焼き芋を貰おう』なんて考えは吹っ飛んでいる。


 やがて、二人だけが何をする事もなく佇むその場所へ、今度はしっかりと服を着た男がやってきた。

 その人は無造作に、素っ裸の二人の首根っこを掴んで──


「────ッ!?」


 絶句した。

 当然だ。どうして落ち着いていられよう。

 なぜならその男は、素っ裸の二人を、燃え盛る炎に押し付けたから。


「──────ァッ!!」


 声にならない断末魔が辺り一体に響き渡る。耳をつんざく嫌な音。黒板を引っ掻いた時のような声に不快感を露わにした少年は耳を押さえた。


 何が起こっている。

 理解できない。

 あの二人はなぜ裸なんだ。

 あの男の人は何なんだ。

 何をしてる。


 何をしているのだ。


 混乱だけが少年の頭を堂々巡り。影に縫い付けられたかのように身を硬くし動く事を許さない我が身。

 震える事さえ忘れ、その光景を凝視していた。


 やがて裸だった二人はその声を途切れさせ、ぐったりと動かなくなる。

 煙を吹き上げる元女性と元男性を見て嬉しそうに頬を緩めるその男に嫌悪を抱くのも当然と言えよう。


 燃えた二人を置いて、男はどこかへ消えた。そしてまた新たに二人の裸の人間を連れてきて、先と同様に火に押し付けた。また上がる絶叫。

 せり上がる嘔吐感に思わず膝をつく。

 この茂みを一歩でも外に踏み出れば、自分もあんな風になるのではないか。

 そんな恐れから、逃げ出す事も出来ず、ただただ見ているしかなかった。


 とうとう合わせて十人目になろうというところで、少年に限界が来た。

 喉の奥が灼ける感覚。異物が押し上げられ口を開き──吐き出した。

 ビチャビチャと音を立ててその場に広がる酸の匂い。吐瀉物が跳ね、己の足元を汚していくのを見ても留まるところを知らない。それどころか自分の吐き出したものにさらなる嫌悪を覚えまた吐き出す。

 部活で疲れた身体に気怠さを伴う疲労がさらにのしかかる。

 空腹だったのが幸いしたか、出てくるのは胃液だけだった。が、それはそれで見ていられない汚物ではあった。


 ようやく落ち着いたかという頃、茂みの奥がどうなったかが気になり身を乗りだ













































 気付けば少年は火の前に立たされていた。


 え、待って。何が起こったの。


 何もわからない。ただひたすらにすーすーするだけ。それと同時に刺すような熱さ。

 そこまで自覚し、自分が裸で立たされている事に気付く。


 何が、何が起こって──


 そんな少年の焦りを、首元に触れる手が消し去る。

 いや、消し去るというのは少し違う。


 焦りを、言い知れぬ恐怖で上塗りした。


 そのことに気付き、少年はこの現状を理解する。


「ぁ……ひ、ぇ……」


 喉が掠れて声が出ない。

 ひゅーひゅーとした吐息だけが漏れる。空は完全に真っ暗。揺れる炎の前で白い吐息が消えていく。


 そして、抗えぬ力に押され、少年は火に──


 ────────










































 皆さんも、焼かれる芋たちの心情を考えてみてください。































これはミステリーでもホラーでもありません。


『ギャグ』です。


焼き芋って、どんな気持ちで焼かれるんだろうなーと考えた末に思いついたギャグなのです。

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