記者会見
今回は、長目です。
飽きずに付き合っていただけたらと思います。
「大丈夫だよ。気を付けるから…」
「わかってるよ。でもなぁ、単体じゃないんだから…」
私たちの会話を聞いていたマネージャーが。
「それって、双子ってことか?」
って、聞いてきた。
「はい、双子みたいなんです」
「そうか。あまり無理させられないな」
真剣に悩みだすマネージャー。
「はらshiori。優基も来たから、会見場に行くぞ」
社長に促されて、部屋を出る。
「災難だったな」
優兄が言う。
「私がいけなかったんだ。普段からオーラがないからって、油断してたから…」
私が、反省してる。
「でも、よく気が付いた奴いたな」
優兄が、感心してる。
「一様、自己紹介したからね」
私は、苦笑しながら答える。
「いや。自己紹介しただけで、アーティストの“shiori“に行き着かないだろ。よっぽど、詩織の曲が好きじゃなきゃバレてなかったと思うぞ」
優兄の言葉に付け足すように護が。
「優基の言う通りだよ。最初に声をかけてきた奴“shiori“の大ファンで、ファンクラブにも入ってるくらいだ」
って言う。
そうだったんだ。
「ほら、会場に入るから、口閉じろ」
社長に言われ、口を閉じた。
護は、入り口で歩みを止めて、壁に凭れている。
社長の後にマネージャー、私、優兄と続いていく。
記者達の前に向かい合って立つと、お辞儀した。
そして。
「本日は、お忙しい中、お集まりいただき恐縮です。先程の件についての説明と今後の活動について、この場をお借りして、お話しさせていただきます」
社長が、マイクを通して言う。
「先程“shiori“が、ある高校に訪れたのは、ご主人の忘れ物を届けに行ったためです」
社長が、私のかわりに話す。
「ちょっと待ってください。“shiori“さんは、ご結婚されてるんですか?」
そこは、ちゃんと説明しないと……。
「それは、本人に直接聞いていただいた方がいいでしょ」
社長が、私に視線をよこす。
私は、覚悟を決めた。
「私は、デビュー前に結婚も子供も生んでます。結婚する前にも違う事務所ですが、オファーを頂きました。その時は、バンドのヴォーカルをしてたので、単体でのデビューは、断りました。結婚して、子供を生んでからも、歌の事を忘れられなくて、優さん…。優基兄さんに話したら、今の事務所を紹介してくれました」
「デビューのきっかけになったのは、何だったんですか?」
「それは、僕がまだ駆け出しのシンガーソングライターの時にデモをshioriに歌ってもらってたことが、きっかけでした。そのうち、デモの歌の主の事を詮索されて、shioriに行き着いた事務所がオファーをしに来ました。その時点では、乗り気じゃなかったshioriが、結婚して、子供を生んでから、『歌を唄いたい。子供たちに聞いて欲しい』って、言ってきたのを覚えてます」
優兄が、真顔で言う。
「作詞家の優さんとshioriさんは、兄妹なのですか?」
「僕たちは、実の兄妹です」
「shioriさんは、ファンを騙してたってことですか?」
「……」
私は、答えに困った。
騙したことになるんだろうか?
「近々、ファンの皆様だけにカミングアウトをする予定でした」
マネージャーが口を開いた。
「shioriは、デビューする時から、私生活の事も公表したがっていましたが、事務所で考えて、シークレットでデビューさせたんです」
「それは、なぜですか?」
「画面に出して売るのではなく、声だけで売れると踏んだからです。彼女の声は、魅力的で、伸びのある声をしてます。それにクオリティー、ビジュアルもいいので、宣伝するにも使えました。ある程度の期間を過ぎて、ファンがshioriの声を好きになってくれてるのがわかってきたので、私生活を公表して、頑張ってるママさんたちのリーダーてき存在になってくれると判断して、公表すると決めた矢先だったんです」
社長の真剣な眼差し。
「shioriさんに質問ですが、旦那様は、教師ってことでいいんですよね?」
「はい」
「ネットに掲載された写真に写ってるshioriさんの横に居る人ですよね?」
「すみません。私、それを見ていないので、答えようがないのですが…」
私は、そう答えた。
「そうです。僕の大親友ですから」
優兄が答えた。
「優兄…」
私が小声で言うと。
「大丈夫だって」
優兄が、自信ありげに言う。
「shioriさんの旦那さんって、大学時代、人気があったサッカー選手ですよね」
女性記者が突こんできた。
辺りが、ざわつく。
私は、護に目線を送った。
護が、微かに頷いた。
言っていいってことだ。
「そうです」
私は、堂々と頷いた。
「その人とは、何時からのお付き合いになるんですか?」
そんなに突っ込まれると困るんだけど…。
私が、答えずにいると、
「それ以上は、聞かないでください。知りたい人は、僕のブログにアクセスしてくれれば、大抵の事は載ってますよ。
優兄が、笑顔で答えた。
「それでは、今後のshioriの活動ですが、年内中にシングル一枚とアルバム一枚、シングル集を一枚。それに治なんだコンサートを最後に産休にはいることになってます」
マネージャーが言う。
「産休ですか?」
「ええ。今、shioriのお腹に新しい命が宿っています。なので、年内一杯の活動後、産休にはいります」
社長が、付け足すように言う。
私の横で、優兄が。
「本当か?」
と、小声で聞いてきた。
「里沙には、伝えたよ」
私も小声で言い返した。
「俺、聞いてない」
里沙、優兄には言わなかったんだ。
「護は、知ってるのか?」
私は、小さく頷いた。
「…で、あいつがあそこに居るわけか…」
優兄が、一人納得してる。
「shioriさん。今、幸せなんですか?」
突然、話を振られて。
「幸せです。優しい旦那と可愛い子供たちにか囲まれて、楽しい日々を過ごさせて頂いてます」
満面の笑みを浮かべて答えた。
「以上で、会見を終了させていただきます」
と、社長が締めた。
お辞儀をして、マネージャーの後に続いて歩いていた。
何もないところで、つまづき。
倒れ込みそうになった。
わーっ…。
「何やってるんだよ」
護が、支えてくれてた。
「アハハ…。ゴメン……」
私は、苦笑いをする。
「まったく…。昨日の疲れ、残ってるんだろ」
護が、耳元で言う 。
「ほら、しっかり掴まってろ」
って…。
えっ…。
まさか、ここで…。
って思ったときには、お姫様抱っこされてた。
「ちょ…ちょっと、護。恥ずかしいってば…」
「ダメ。これ以上は、無理させられるかよ」
って、そのまま歩き出した。
「護。いくらなんでも、過保護すすぎ」
優兄が、護の肩に手を置き苦笑い。
「そう言うがな。今日の詩織、睡眠もろくにとって無いんだ。その上、また双子だって言うんだぜ」
護が、真顔で言う。
「それ、マジ」
優兄が、大声で言うから、注目を浴びるはめに…。
「嘘ついて、どうするんだよ」
「護。落ち着いてよ。取り合えず、下ろしてもらえると嬉しいんだけど…」
護の耳元で言う。
「降ろせるわけ無いだろ。今、無理されても困るんだよ。だから、大人しく抱かれてろ」
苛立たち気に言う。
「…わかった。心配してくれて、ありがとう」
私は、素直にお礼を言う。
「当たり前だろ。お前以上に大切な奴は居ない」
と断言する護。
嬉しいけど、恥ずかしい。
「そこの二人、何時までやってるんだ?さっさと行くぞ」
社長に促される。
護は、私を抱き抱えながら歩く。
「今日は、このまま帰れ。後の事は、また連絡する」
マネージャーに言われて、駐車場に向かう。
「お疲れ様でした」
私は、マネージャーに声をかけた。
「お疲れ」
マネージャーの短い返事が、返ってきた。
「護。今日は、車なのか?」
優兄が、聞いてきた。
「ああ…」
護るが、短く答える。
「じゃあ、送ってくれるか?」
「わかったよ」
護は、ぶっきらぼうに答えていた。