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車内で

turrrr…turrrr…。

静かな部屋に電話が鳴り響いた。


「はい」

『“shipori“今すぐ出てこれるか?』

マネージャーからだった。

「大丈夫です」

私は、思わずそう答えていた。

『今から、記者会見するから、事務所まで来いって社長が…』

「わかりました」

私が電話を切ると。

「マネージャーさんから?」

護が聞いてきた。

「うん。今から、記者会見するから、事務所まで来いって」

私がそう告げると。

「そっか。オレも付き合うよ」

護が言う。

「子供たちの迎えは?」

「もう、お義母さんに頼んだ」

素早いなぁ。

「ほら、支度してこいよ」

護に急かされた。

「わかった。でも、何で護が早く帰ってきたの?」

私の問いに。

「無理矢理帰されたんだよ。ほとぼりが冷めるまで、出てくるなって、言われた」

護が苦笑する。

それって、私のせいだよね。

「ごめんね。私が行ったばっかりに…」

「気にするな。何時かこうなるって思ってたから…」

護が笑う。

「ほら、支度。マネージャーが待ってるんだろ」

「うん」

私は、護に背中を押されながら、寝室に赴く。


記者会見なんて、初めてだから、何を着ればいいんだろう?

「どうしたんだ?」

「何着たらいいんだかわからなくて…」

私が戸惑ってると。

「詩織らしい格好で行けばいいんじゃないのか?」

私らしい?

「かっちりした、スーツって柄じゃないだろうが。だったら、爽やか系のワンピースとか、カジュアル系で、誰もが真似したくなるような格好でいんじゃないのか」

そっか。

護の言う通りだ。

今の私をそのまま見てもらうチャンスなんだ。

だったら、私らしい服装で行くのが、ベストなんだ。

私は、赤のノースリーブのワンピースを選んだ。

その上に、黒の薄いカーデガンを羽織った。

まだ、これが着られるなんて…。

鏡台に向かい、軽く化粧をする。

「準備できたか?」

護が、ドア越しに聞いてきた。

「うん」

私は、ドアを開けて笑顔で言う。

「心配だから、送るよ」

護が、車を出してくれることになった。


一様、結婚指輪をして行った方がいいよね。

私は、左薬指に指輪を嵌めた。

「詩織。行くぞ」

「はーい」

私は、いつもの鞄を掴むと玄関に急いだ。



「久し振りに指輪嵌めてくれたんだな」

護が、嬉しそうに言う。

「そうだね。本当は、ずっとしていたいんだけどね。仕事上、そうもいかなかったから…」

肩を落として言う。

「仕方ないさ。結婚してたこと隠してたんだからな」

護が、苦笑する。

「やっと、発表できるんだな」

嬉しい反面、怖いと思ってる。

「どうした。浮かない顔して」

護が、心配そうに聞いてきた。

「ちょっと、怖くなってきた。ファンの反応とか、どうなんだろう?」

不安をそのまま口にする。

「大丈夫だろ。お前の口から聞いたら、納得するだろ」

護の言葉一つで、落ち着いていく。

「それに、詩織はテレビに出て売ってたわけじゃないだろ。詩織の歌を好きになってファンになったヤツの方が多いとオレは思うが…」

護の笑顔が、私にとってもいい薬だとこの時、改めて思った。



「いざとなったら、オレも出てやるよ」

護が言う。

頼もしいなぁ。

「それは、ダメだよ。学校とかに迷惑かけちゃうし…」

「そん時は、そん時だ」

護が、覚悟を決めたように言う。

そんな時だった。

turrrr…turrrr…。

私の携帯が鳴り出した。

「はい」

『詩織。俺だけど…』

声の主は、優兄だった。


「どうしたの?」

『俺も、お前の会見に立ち会うから…』

優兄の意外な申し出だった。

「そんな事しても大丈夫なの?」

私が聞き返すと。

『仕方ないだろ。里沙が、“詩織を助けてあげて“って言うから…』

里沙が…。

『元を正せば、俺の曲を歌ったところから始まってるんだ。俺にも責任はあるだろ』

って。

「優兄、ありがと」

お礼を言うと。

『おうよ。どうせ、護もそこに居るんだろ。そう言っておけ。じゃあ、後でな』

そう言って、電話が切れた。



「優基、何だって…」

「優兄。私と一緒に会見に出てくれるって…。“俺のデモを頼んだせいで、歌手になったんだから“って。そこをフォローしてくれるって…」

優兄の言葉を伝えると。

「そうか。お前らの繋がりも暴露されるんだな」

護が言う。

「別に構わないよ。優兄の曲が、素晴らしいのは、皆知ってるから、大丈夫だと思う」

「ほんと、お前ら兄妹仲良しだね」

護が、呆れたように言う。

「そう言うけど。優兄が出てくれるのって、里沙のお陰なんだからね」

私は、苦笑した。

「何で、里沙ちゃんが関係あるんだ?」

不思議顔の護に。

「里沙が、優兄に言ってくれたんだよ。“詩織を助けてあげて…“って…。それがなかったら、多分出てくれるなんて、言わない」

「優基、そういうところあるな。でも、よかったな」

「うん」

話していたら、再び車内に鳴り響いた。

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