守衛さんと……
幼稚園に送っていった後、家事をしながら、悩んでいた。
響の思い。
友達に嘘つき呼ばわりされてること。
胸に深く傷ついてるのがよくわかる。
あの子は、繊細なだけに苦しんでるんだ。
私は、何気にダイニングテーブルを見た。
そこには、見慣れたお弁当の包みと水筒が置いたままだった。
護ったら、お弁当を忘れてる。時計を見れば、十一時を少し過ぎた所だ
私は、慌てて。
"お弁当忘れてるよ"
護にメールを送る。
“悪い、持ってきてくれるか?“
と返ってきた。
“わかった“
そう打ち返すと、お弁当とお茶の入った水筒を袋に入れる。
あっ、そうだ。
マネージャーに電話しないと…。
私は、袋と自分の鞄を持つと家を出た。
歩きながら、電話を掛ける。
『おっ、shioriちゃん。どうした?』
「忙しいのにすみません。来週の水曜日の午前中だけoffもらえますか?」
私が言うと。
『ごめん。仕事入れちゃった。』
マネージャーが、すまなそうに言う。
「それ、何時から何の仕事ですか?」
私の突っ込んだ質問に。
『十時から、アルバムの歌撮り。』
「場所って、決まってますか?」
『まだだけど…。』
「じゃあ、幼稚園の園庭で撮ることできますか?」
私が聞くと。
『幼稚園か…。』
マネージャーが渋る。
「私が通ってた幼稚園なんですけど…。」
と言うと。
『それなら使えるかも…。わかった。来週の水曜日に幼稚園の園庭で、一曲撮りで。で、場所は?』
マネージャーが、聞いてきた。
「今、子供たちが通ってる幼稚園です。」
勢いで言うと。
『それは、不味いだろ。』
マネージャーが、苦言をする。
「お願いします。子どもたちの為なんです。」
私が、必死に頼むと。
『仕方ないな。今回だけだ。事務所から幼稚園にオファーしておくよ。shioriの方からも言っておいてな』
マネージャーが、折れてくれた。
「ありがとうございます!」
私は、嬉しくて大きな声でお礼を言っていた。
周りが、ジロジロと私を見ていたが……。
『今まで頑張ってきた、ご褒美だ。』
と、マネージャーの声が聞こえてきた。
ご褒美だなんて……。
『じゃあ、そういう事で、今日一日、ゆっくりしてろよ。』
マネージャーの労いの言葉を聞いて、電話を切る。
しかし……。
誰にも気付かれないって、悲しいかなぁ(別に変装してるわけでもないんだけど……。)。
こんなに人出が多いところを歩いてても、気付かれないんだもんなぁ。
私って、本当にオーラがないんだな。
まぁ、その分、出掛けやすいけど……。
護の勤めてる高校に着いた。
あっ、どうしよう。
とりあえず、着いたことをメールした。
すると。
“正面玄関で、待っててくれ“
とメールが返ってきた。
仕方がない。
私は、門を開けて中に入ると、守衛さんに呼び止められた。
「すみません。一般の方は入れないのですが…。」
それもそうか…。
「玉城の妻ですが、忘れ物を届けに来たのですが…。」
私が言うと。
「玉城先生のですか?」
って、怪訝な顔をされた。
そんな、疑わなくても……。
「はい、そうです。何か、問題でも?」
「玉城先生って、結婚されてたんですか?」
何だろう、この返しは?
もしかして、知られてない?
ハァ~~。
どう説明しようか悩んでたら。
「ごめん、詩織。」
正面から、護が走ってきた。
「護。授業はいいの?」
「ああ。たまたま空き時間だったんだよ。職員室から見えたから……。」
護が、申し訳なさそうに言う。
「玉城先生。本当に奥様なんですね?」
守衛さんが、再度確認してくる。
「あぁ、妻の詩織だ。今まで話したことなかったか?」
惚けるように護が言う。
「聞いたことありませんよ。玉城先生が、結婚されてるとは…。」
と苦笑してる。
「妻も、忙しい身なので、話さなかったのかもな。忘れ物したのも初めてだし…。」
護が、恥ずかしそうに言う。
「わかりました。そういう事なら、中にどうぞ。」
守衛さんは、ニコニコしながら、中に入れてくれたのでした。