朝のヒトコマ 2
「今日は、二人とも大人しいな。」
護が、子供たちの頭を撫でる。
「パパ、やめてよ。髪の毛グチャグチャになっちゃう。」
女の子らしい言葉を言うかなでに対して、響は屈託ない笑顔を見せてる。
「ほら、護。早く座ってよ。」
私の言葉に。
「パパ、ママに怒られてる。」
双子がクスクスと笑う。
「いただきます。」
みんなが揃って食べる朝食は、楽しい。
「そうだ。響、かなで。今度のコンサート見においで。チケット用意してもらえたから……。」
「エッ……。いいの、ママ?」
二人が顔を見合わせて戸惑いながら聞いてきた。
「うん。ママも、来て欲しいって思ったんだよ。」
子供たちに伝えると、顔が綻んで、笑顔になる。
「「やったー!」」
二人の声がはもる。
嬉しそうだな。
「大丈夫なのか? 詩織。私生活の方は、今までシークレットだっただろ?」
護が、心配そうに言う。
「そうだけど。事務所の方も、そろそろカミングアウトするかって、言ってくれてるし、私は、歌で売ってるので、私生活を話しても離れていくファンは少ないだろうって、判断されたから、招待してもよくなったんだ。それにね、二人には、私の仕事の事、知って欲しかったのもあるんだ。」
私が言うと。
「そうか……。デビューして、五年も経つもんな。」
考え深げに言う護。今までの事を思い返してるんだろうなぁ。
「そうだよ。節目の年だから、そろそろ言ってもいいかなって……。もしかしたら、護や子どもたちに迷惑がかかるかもしれないけど…」
「オレは、構わないが……。子どもたちには、触れて欲しくないな。」
護が、深く考え始めた。
「とりあえず、その事は、また後で話そう。」
護の言葉に。
「そうだね。私もその方がいいと思う。」
私がそう答えると。
「パパ、ママ。ここにシワが寄ってるよ。」
って、響が眉間を指す。
「パパの顔、怖いよ。」
かなでが、いかにも怖そうに言う。
「ごめん。ご飯の時は、皆で楽しくだったな。」
護が、苦笑し、時計に目をやる。
「護。急いで、遅刻しちゃうよ。」
「マジ…。ヤバイ。御馳走様。」
そう言ったかと思うと鞄を掴んで、ダイニングを出ていく。
私は、その後を追う。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。気を付けてね。」
私は、玄関で見送ってから、ダイニングに戻ると。
「パパ、大丈夫かな…。」
二人が、不安げな顔をしてた。
「大丈夫だよ。パパ、足だけは早いからね。」
私は、二人を安心させるように笑顔で言う。
すると、二人とも安心したような笑顔になる。
「早く食べて、幼稚園に行かないとね。」
「うん。ママと一緒に行けるんだもんね。早く食べる。」
笑顔で、モグモグと一生懸命に噛んでる姿が、可愛いんだよね。
「ねぇ、ママ。来週の水曜日に、父兄参観日ってのがあるんだって……。」
来週の水曜日?
「ママ、来れる?」
双子が、私を見上げて言う。
「ちょっと待ってね。スケジュールを確認してみるから……。」
私は、普段から使用してる鞄から、スケジュール帳を取り出してみる。
「午前中なら、空いてるよ。その時間だけでいいの?」
二人に問いかける。
「ほんと?」
「それでもいいよ」
二人は、大喜びだ。
「じゃあ、ここに入れるね」
私は、来週の水曜日の午前中、双子の父兄参観日と記入する。
後で、マネージャーに連絡を入れて、この日の午前中だけ仕事を入れないようにしておかないと…。
「ママ、ママ。」
かなでが、私の服の裾を引っ張る。
「何? かなで。」
「髪やって…。さっき、パパがグチャグチャにしちゃったから……。」
かなでの頭を見ると、確かにグチャグチャにされてる。
「ハイハイ。今日は、三つ編みにしようか?」
「うん!」
かなでが、嬉しそうに頷く。
「櫛を持ってくるね。その間に行ける用意しておいてね。」
私は、席を立って寝室に行き、鏡台の上に置いてある櫛を持って、戻ると。
二人が、喧嘩をしてた。
「何してるの?」
二人の目線に合わせて屈む。
「響が、私のヘアーゴムを取るから……。」
かなでが、泣きながら訴えてくる。
「響。何で、そんなことしたの?」
静かに、響に話しかけた。
「かなでばっかり、ママと喋ってるから……。」
響が、シュンと落ち込んで言う。
そっか。
原因は、私だったか…。
「ごめんね、響。ママも響とお喋りしたいよ。でも、先にかなでにごめんなさいしようか?」
響は、私の言葉に頷いて。
「かなで、ごめんなさい。」
素直に頭を下げた。
「響、偉いね。ちゃんとごめんなさいが言えた。」
私は、響の頭を撫でる。
響が、照れ臭そうな顔をする。
「ちゃんと謝れるって、簡単そうで、難しいことなんだよ。かなでも悪いことしたなって思ったら、謝ろうね。」
私の言葉に。
「うん。」
かなでが、静かに頷いた。
「さぁ、かなで。髪の毛直そうね。」
私は、かなでを膝に座らせて、髪を梳く。
「響。我慢しないで、ママに話してね。ちゃんと聞くからね。」
すると。
「ママ? ママは、アーティストの“shiori“なんだよね。」
響が、突然聞いてきた。
「そうだよ。」
「友達に話したら、嘘つき呼ばわりされたんだ。」
そうか……。
そうなるのか……。
「かなでも言われたけど、無視してるよ。だって、私は、嘘ついてないし、堂々としてればいいだけだもん。それに、ママの事自慢したいんだもん。」
かなでも言われてるんだ。
「ママが、皆の前で歌ってくれたら、嘘じゃなくなるよね。」
「ごめんね。響のためにも歌ってあげたいんだけど…。少し難しい問題だね。ママも考えるから、少し待って欲しい。」
「いつまで?」
「来週の父兄参観日までにちゃんと考えるから……。」
「わかった。」
響は、肩を落として、今にも泣きそう。
「響。そんなに落ち込まないで……。」
私は、響きを抱き締めた。