コンサートにてカミングアウトします
「今日は、私のコンサートに来ていただき、ありがとうございます。今まで、私生活をシークレットにしてきましたが、今日は、その話もここでしたいと思うのですが、聞いてくれますか?」
私は、会場に向けて言葉を投げ掛ける。
『聞きたい!!』
って声が、聞こえてきた。
「本当に?」
『shioriのこと知りたい!』
「じゃあ、デビューの時のこと?それとも旦那との馴れ初め?どっちかな」
『両方とも!』
との声が多い。
「そっか、時間がある限りはなそうかな」
私が言うと、ステージに椅子が用意された。
「座って、話をさせてもらうね。後ろの方見にくいかもしれないけど、ゴメンね」
私は一言断って、椅子に座った。
「そうだなぁ、私が、旦那…彼を見知ったのは、中学三年生の学校見学の時だった。優兄…優さんの案内で校内を見学してたときだった。彼ね、その時からサッカーをしてたんだ。で、人一倍努力家で、友達と話してるときの笑顔が、印象に残った。で、高校に入って文化祭で軽音部でもない私が、バンドのヴォーカルをしたの。優さんに誘われてね。その時からかな、歌を好きになったのは…。ステージ衣装が、真っ赤なワンピースだった。それも優さんが選んだのだけど、他のメンバーは、私を目立たせるためか、対照的な色合いでさ、一人悪目立ちしてた。でもね、歌ってるうちに楽しくなって気に止めることもなくなってた」
私の言葉を静かに聞いてくれてる。
「高二の秋に、彼から告白されたんだ。その時、凄く嬉しかったのを覚えてる。でね、彼が、“婚約したい”って言ってくれたときもビックリしたのと嬉しさ、それに戸惑いが入り交じった感情が溢れた。その時に私の父親からの条件をクリアしたらってことで、彼は頑張ってくれたんだ。彼は、条件を見事にクリアして、晴れて婚約したんだけど、その日から同棲が始まって、私は驚くばかりだった」
『何で?』
「だって、その当時は、家事なんて出来るわけないじゃんか。四苦八苦するのは目に見えてたからね。でも彼は“家事なんて、少しずつ慣れていけばいい。オレがやるから”って、言ってくれたんだよ。で、不安も一片に吹っ飛んじゃった」
会場内から笑い声が聞こえる。
「だけど、その同棲も長続きしなかったんだ」
その時のことを思うと胸が痛む。
「実は、彼と別れたの。理由も大好きだったから…」
『エーーーーッ』
こんなに驚かれるとは……。
「皆ならどうする?」
問いかけてみた。
『一緒に居る!!』
って声が、大多数だった。
「そうだよね。好きなら一緒に居たいよね。でも、私は違ったんだ。彼の笑顔が好きだったの。私の前では、心からの笑顔じゃなくなっていたの。このままだと彼をダメにしてしまうって思って、別れたんだ。その時は、凄く辛かったよ。でもね、周りが気を使ってくれて、立ち直らせてくれたの」
会場が、ざわつく。
「…で、二年後に偶然に出会ったんだよ。私、彼に会って“ああ、まだ好きなんだ”って、再確認させられた。彼もね、私の事好きでいてくれた。そして、再びプロポーズしてくれたの。“私でいいの?”って聞いたら、“お前じゃなきゃ駄目なの…”って、言ってくれて、それが嬉しくてそれから、また同棲し始めて、で、結婚式まで後一ヶ月ってときに子供を授かって、その時親にはおろせって言われたんだけど、彼は“その子に会いたい”って、言ってくれて……。私。まだ短大生だったから、一年休学して、一年遅れて卒業はしたけど、歌を唄いたいなって、思い始めてた」
また、静けさを取り戻した。
「その時も、優さんからデモを頼まれると歌ってたんだ。それが子供たちに聞いて欲しいってのと同時に歌で誰かを元気にさせられたらいいなぁって思いも生まれてきて、その話を優さんに相談したら、今の事務所を紹介してくれたんだ。デビューもとんとん拍子で決まったんだけど、私生活の方は、シークレットにさせられたんだ。デビューするときに子持ちの歌い手なんて、前代未聞だもんね。だから、ファンが確実についてからカミングアウトをってことになったんだ。だからって、皆を騙すようなことになったのは、素直に謝りたい。本当にごめんなさい」
私は、椅子から立ち上がり頭を下げた。
『shiori。気にしないで。オレ等shioriの歌声のファンだから』
『shioriの歌好きだよ』
って、心強い言葉が次々と返ってくる。
「ありがとう。私、幸福者ですね。…こんなに…恵まれてるなんて…」
もう、涙声だよ。
その暖かい声で、胸が一杯になる。
『shiori頑張れ』
「…本当、今日のコンサートが終わったら、私はお休みをもらうことになるけど、皆、待っててくれるかな?」
私の言葉に。
『待ってるよ!shiori。元気な子を産んでね』
って声が、あっちこっちで聞こえてくる。
「ありがとう」
『ここで、サプライズ』
突然、マネージャーの声がスピーカーを通して聞こえてきた。
エッ…何?
いきなり、客席にスポットが当たった。
そこには、護と子供たち……。
一体何が……。
三人が、ステージに上がってきた。
エッ…。
「ママ、お疲れ様」
って、響きとかなでが小さな花束を私にくれる。
「ありがとう」
私は、それを受け取り二人を抱き締めた。
「詩織、お疲れ様。今日までよく頑張ったな」
護が、バラの花束を渡してくれる。
会場もざわつき出す。
ちょっと、何?
こんなの聞いてない…。
嬉しすぎて、涙がこぼれ落ちる。
気付けば、会場から暖かい拍手が聞こえてくる。
「ほら、泣くなよ。最後の曲を届けるんだろ」
護が、優しく涙を拭ってくれる。
「…うん」
私は気持ちを落ち着けてから。
「今日、最後の曲は、私が作詞して優さんが曲をつけてくれました。今の私の思いが込められた曲です。皆に届けば言いなって思います」
私の言葉で、イントロが流れ出す。
私は、心を込めて歌った。




