楽屋にて……②
「「エーーー」」
と響と遊星くん。
「「はい!」」
って、かなでと幸子ちゃん。
返事が、二つに別れた。
すると。
「響、遊星くん。このままだとこの部屋使わせてもらえなくなるぞ。それでもいいのか?」
護が、優しい声で厳しい一言を告げる。
それでも嫌そうな顔をする二人に。
「響。さっきママ、辛そうにしてたんだぞ。お前たちが遊んで散らかしたのを片付けようとして」
それを聞いた響は。
「ママ、ごめんなさい。僕、お片付けする」
悲しそうな顔をする、響。
「ううん、いいよ。ちゃんと片付け出来るもんね。響も遊星くんも」
私が、笑顔を向けて言うと。
「「うん!」」
って、返事が返ってきた。
「じゃあ、片付けしちゃおう」
私が動こうとしたら。
「お前は、ダメ」
って、止められた。
「何故?一緒にやった方が、早く片付けが終わるじゃんか」
「コンサートの時間が迫ってるのに無理に動いて、倒れたら困るだろうが…。お前は、大人しく座ってろ」
椅子に座らされる。
あーあ。
やること無くなっちゃった。
って、思ってたら。
「詩織、体調は大丈夫か?」
急に楽屋のドアが開いて、入ってきたのが流弥兄だった。
「隆弥兄、どうして……」
私が驚いてると。
「護が、誘ってくれたんだ」
エッ…そうなの?
護を見ると素知らぬ顔をする。
「あっ、隆弥おじちゃんだ!!」
響が飛び付く。
もう、響は誰にでも飛び付くんだから…。
「響。元気がいいな」
流隆
弥兄は、嬉しそうに響の頭を撫でる。
でも、対照的に遊星くんは、里沙の後ろに隠れた。
「響、挨拶は?」
護の一言で、響は隆弥兄から離れて。
「今晩は、隆弥おじさん」
って、頭を下げた。
「今晩は。しかし、良くしつけたよな護」
感心してる隆弥兄。
「そんな事無いですよ。二人とも覚えるのが早いから…。それに、挨拶は基本中の基本なので、特に気を付けてますよ」
護が、隆弥兄に言う。
「なぁ、護。そろそろ敬語辞めろや。なんか、背中がムズ痒くなるんだが…」
隆弥兄蛾が、そう言いながら背中を掻き出す。
「隆弥おじさん、今晩は。背中が痒いなら、かなでが掻いてあげるよ」
怖がりもせずに近付いていく二人に対して、幸子ちゃんも里沙の後ろに隠れてしまった。
「隆弥義兄さん。今晩は」
里沙が、改めて挨拶する。
「里沙ちゃん、今晩は。って、相変わらず二人は、俺のこと怖がってるんだな」
隆弥兄が、寂しそうに言う。
「すみません」
里沙が、恐縮してる。
「いいよ。メッタに会わないから、仕方ないだろ。詩織の方は、しょっちゅう遊びに来てるからな」
って、隆弥兄が言う。
そこに響が。
「隆弥おじさん、勝弥おじさんは?」
って聞いてるし…。
「勝弥おじさんは、もう会場に行ってるよ」
子供の目線に会わせて話している、隆弥兄。
さすが、教師。
隆弥兄は、護と違って、小学校の教師なので、その点は心得てるって感じ。
「僕、勝弥おじさんにも会いたい!」
響が言う。
「そっか。じゃあ、俺と会場に先に行くか?」
隆弥兄が、響に聞く。
「うん!」
嬉しそうに頷く。
「わたしも一緒に行く」
かなでも言う。
「詩織、護。連れて行ってもいいか?」
隆弥兄が、聞いてきた。
「本人達がそうしたいと思ってるのなら、いいよ」
私が、改めて二人を見ると二人とも隆弥兄の手に繋がってる。
「「やった!」」
二人は、大喜び。
「ちゃんとおじさんの言うこと聞かないとダメだからね」
「「はーい」」
二人は、元気に返事をする。
「じゃあ、連れていくな」
隆弥兄が、嬉しそうに連れていった。
隆弥兄が出ていった後に、幸子ちゃんと遊星くんが里沙の後ろから出てきた。
「隆弥義兄さんに悪いことしたなァ…」
里沙が、ポツリ呟く。
「大丈夫だって。隆弥兄、あれでも教師なんだから、子供の気持ちを一番に汲んでくれてるんだよ」
「そうだといいんだけど……」
里沙が、溜め息をつく。
「多分。優兄が、隆弥兄の事を未だに怖がってるからだと思うんだよね」
「それはあるかも…」
「優基って、隆弥さんの事怖がってたんか?」
護が、初めて知ったみたいに言う。
「知らなかった?優兄って、隆弥兄に苛められた…。って言うか、無理矢理鍛えさせられたって言う感じだから、未だに頭が上がらないの」
「そうなんだ。じゃあ、何で、お前は平気なんだ?」
エッ…。
「私は、優兄と真逆だったから…」
「真逆?」
「隆弥兄に甘やかされた方だよ。高学年や同学年に苛められたりすると直ぐに飛んできて、私を助けに来てくれたけどね。優兄の場合、逆に自分で何とかしろって、何時も言われてた」
「隆弥さん、厳しい」
「だからかな。優兄は、家族の中では誰にも頼らなくなったの」
私は、思い返してた。
中学に上がる頃には、誰にも頼ったところを見たこと無いと…。
「子供たちもそれがあって、近付かない感じなんだよね」
アハハ……。
「でも、隆弥兄は、勝弥兄より子供好きだし、勉強も教えてもらえるんじゃないかな。もう少したてば、幸子ちゃんも遊星くんも慣れると思うよ。うちの子達もいるしね」
「そうだね。じゃあ、あたし達も席に行くよ。二人とも行くよ」
そう言って、里沙が二人を連れて、出ていった。