車中で……
地下駐車場に止めてある車まで、護は私を抱えたまま歩く。
私は、助手席に座らされた。
「護。私は、後ろで…」
言いかけて、それを遮るよように。
「いいよ、詩織。俺、後ろで」
優兄が、そう言いながら後部座席に座る。
護が運転席に着くと、走り出した。
「なぁ、本当によかったのか?写真撮られてたぞ」
優兄が、心配そうに言う。
「いいんだよ。これで、堂々と出きるし、子供たちにも嘘つき呼ばわりされずにすむだろ」
アハハ……。
確かにね。
パパも一緒に映ってるんだから、確実だよね。
「一体、何の事だ?」
優兄が、不思議そうに聞いてきた。
「詩織がオーラ無さすぎて、嘘ついてると思われてるんだよ」
「確かに詩織には、華がないもんな」
優兄、それは、言い過ぎではなかろうか。
「オレは、それでいいと思ってるんだよ。子供たちまで追いかけられるのは、勘弁して欲しかったからな。だが、そのせいで、嘘付き呼ばわりされてるんだ」
護が、真剣な顔で言う。
「なるほどな……」
優兄が、納得してる。
「だから、PV撮りを幼稚園で撮ることにしたんだ」
私は、言葉に。
「しかも、父兄参観日にな」
被せるようにして、しかめっ面で護が言う。
「うわー。他の親にしたら、いい迷惑だな」
優兄が、自分の事のように言う。
「仕方ないじゃん。子供たちに父兄参観に行く約束してたのに、仕事が入っちゃうし…。PV撮りなら幼稚園でも撮れるし、子供たちにも見せてあげられると思ったんだもん」
拗ねるように呟く、私。
「詩織らしい考え方だな」
優兄が、子供扱いする。
「何時までたっても子供ぽくってすみません」
ふーんだ。
「ほら、すねるなよ。お前の想いは、オレだけが知ってればいいんだよ」
護が、真顔で言ってくれる。
エヘヘ……。
何時も、護の一言が、私を元気つける。
「わかったから…」
呆れた声の優兄。
「そうだ、そのPV、俺も出ることになったから」
優兄が、思い出したように言う。
なんで?
どう絡むんだろう。
「子供たちも喜ぶよ」
私が言うと。
「どうだろうな」
優兄が、冷たい声で言う。
「最近、会ってないから喜ぶと思うぞ」
護も私と同じみたいだけど…。
「忘れられてたりして…」
優兄が、寂しそうに言う。
「護、ここでいいぞ。ちょっと寄り道しないといけないんだ。それから、詩織。シングル集の最後に1曲入れたいから、その詩をお前が書け。今の想いをな」
優兄が、優しい声で言う。
護が、路肩に車を寄せて停まる。
「出来るかなぁ…」
私が不安に思ってると。
「やる前から、弱気になるなよ」
護に注意された。
「詩織の事だから、期限を付けた方がやりがいがあるだろ。一週間で作れ。わかったか」
優兄の言葉尻が力強くて。
「わかりました、優さん!」
って、答えてた。
「よろしい、じゃあ」
そう言って、優兄は車から降りた。
私は、車の窓を開けて。
「里沙に、また遊びに行くって言っておいて」
「わかった。伝えておくよ」
優兄の返事を聞いて、護が車を出した。