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02. 口角をあげて過ごす

 にゃんこちゃん、いらっしゃい。また来てくれたのね、嬉しいわ。ふふ、もちろん覚えていてよ。だってわたくしの初めてのお客様だもの。ねぇ、以前にお会いしたのはいつかしら? そう、ちょうど一週間前なのね。いえね、こことは時の流れがすこし違うみたいだから。どうかしら? わたくしは「変わりたいと願うひとは、きっと変わることができる」と言ったけれど、あれからなにか思うところはあって?


 そうね。あなたのように、変わりたいと思っているのに、きっと変われないと感じるひとは多いわ。そして、あきらめてしまうひとも、かなしいけれど多い。けれど、あなたはこうも思っているはずよ。変われるものなら、変わりたい、って。そうでしょう。


 それがとても大切なの。変わりたいと思ってあなたは今、ここにいる。こうしてわたくしと話をしている。それこそが、あなたはまだ、自分をあきらめてはいないということ。変われると、信じているということよ。信じたいと思っている。その気持ちが、なによりも大切なのよ。ここにいる。それこそが、自分をあきらめていないという何よりの証拠なの。あなた自身が、あなたのこころの声に、耳を傾けてあげて。変わりたい、というこころの声に。


 ふふふ、そう。その調子。じゃあ、今日は、具体的な話をさせていただこうかしら。


 ひとは幸せだから笑うのか、笑うから幸せなのか。たのしいから笑うのか、笑うからたのしいのか。あなたはどちらだと思う?


 そうね、普通に考えたらそうだわ。たのしいから笑うのだし、幸せだと感じるから笑う。かなしいときや苦しいときには、笑えないわよね。でも、脳はそうじゃないのよ。わたくしたちの脳は、簡単にだませるの。順序を簡単に入れ替えることができる。



 つまり、「笑うから幸せで、笑うからたのしくなる」のよ。



 そう!そうなのよ!……うふふ、いやだ、興奮しちゃったわ。ごめんあそばせ。あの方のことは、わたくしも存じ上げています。メダリストのご令嬢と共に話題となることが多い方ですしね。ひとつの芸だと思われているのが残念だと常々思っているの。けれど、あの方の仰っていることは、まさに正しいのよ。


 そうね。あの方のように大きなお声で、ということがむずかしいことくらい、わたくしにもわかるわ。愛しい殿方の前だとなおさら、できないわよね。ふふふ。だから、わたくし考えましたのよ。あの方のように、とまではいかないけれど、それでも、とてもいい方法よ。



 「口角をあげて毎日を過ごす」の。



 どうかしら。微笑んでお仕事をしたり、微笑んで授業を受けたりするの。あの方のように笑うことに比べたら、口角をあげて1日を過ごすことくらい、とても簡単でしょう?


 不審者だなんて。白い歯をみせて満面の笑みを、だなんて申し上げていませんわよ。口角をあげるのです。きっと、あらたな気づきがあると思いますわ。


 わたくし? そうね、いかに己が怖い顔をしていたか、ということに驚きましたわ。鏡のなかのわたくしの顔は、わたくしがつくりだした顔で、いつものわたくしの顔ではなかった。あとは……そうね、微笑むということが、いかに頬の筋肉を使うか、ということに気づいたかしら。ふふふ、10分もしないうちにね、頬がぴくぴくしてくるの。ぴくぴくしながら、それでも微笑んでいるとね、ほんとうにおかしくなってきてしまって。なんだかその日はとてもしあわせな1日だったわ。


 無意識なお顔、つまり今のままの怖いお顔のまま、月日を過ごしてしまったらと、想像したことはあって? きっと、お年をめした頃には、とても不幸そうなお顔にならないかしら。くっきりとしたほうれい線に、わんこちゃんのように垂れ下がった頬、下がりきった口角。なんだか想像するだけで、かなしくなってしまうわ。


 そうね、外見だけでひとを判断するのは愚かなことよ。でも、むすっとしたお顔をなさっている方を拝見してお幸せそうだわ、なんてわたくしは思えない。わたくしたちの顔には、わたくしたちが思っている以上に、その人生とこころがあらわれると、わたくしは思っているの。


 たしかに、笑っていられない状況だってあるわ。かなしいときも、怒りがおさまらないときもある。そんなときに笑いなさい、と言われても笑えないわよね。


 だからこそ、「口角をあげる」の。さいしょはそれでいいの。ただ、口角をあげるだけ。だんだんと「微笑みの顔」になっていくわ。かなしいとき、怒りがおさまらないとき、笑わなくていいの。口角をあげるのよ。


 ただ「口角をあげる」こと意識してみて。気がついたらきっと、いつものむすっとした顔になってしまっているから、そのたびにこころのなかで「口角、口角!」唱えて、ぐっと口角をあげる。「微笑みの顔」=「いつもの顔」になるまで、ずっとよ。


 いい報告を待っているわ。


 心配いらないわ。あなたとは、きっとまた逢える気がしているもの。こういうときのわたくしの予感はあたるのよ。

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