01. 変わりたいと思えること
あら、はじめまして。…やだ、いらっしゃいませ、って言うべきだったかしら。うふふ、あなたが初めてのお客様なものだから、わたくしもまだ慣れないの。許してくださいませね。今日はどのようなご用件で?あら、ここがどういうところかご存知ない?まぁ、ほんとうに迷い猫ちゃんだったのね。わたくしのお客様第一号にぴったりだわ。これもきっと神様の思し召し。ここであなたと出逢えたことに感謝します。ほんとうにありがとう。
ふふふ、ここは迷える子猫ちゃんの……子羊ではないの、子猫ちゃんなのよ、子猫ちゃんのためのお教室なの。お勉強やお仕事に習い事、家族・友人・恋人とのお付き合い、子猫ちゃんはがんばりやさんばかりだから、がんばってがんばって……ふと、泣きたくなってしまうことがあると思うの。人の一生というものは、短いようで長く、長いようで短い。生きていくなかでいつだって晴れているわけではないでしょう? 暗闇のなかに囚われてしまうこともあるでしょう? わたくしはだれかの雨をやませることも、太陽を昇らせることもできない。けれど、雨もわるくないわ、暗闇もかすかな光さえあればいいのね、って……そうね、わたくしはだれかの傘やレインブーツや灯台や星になりたいのね。
雨のなかを、暗闇のなかを、代わりに歩くことはできないし、そこから救い出すこともできない。けれど、歩く力になれるのなら、なんだってするわ。かつて、わたくしがたくさんの人にそうしてもらったように。
ねえ、せっかくいらっしゃったのだもの。騙されたと思って、わたくしのお話を聞いてくださらない?数えきれない星が瞬く空の下で、あなたとわたくしは出逢った。わたくしの一瞬と、あなたの一瞬が交差して、新しいあなたと、新しいわたくしが始まっている……これを運命だといわずしてなんだというの。ふふ、ありがとう。そう、とりあえず、聞くだけでもいいの。そうしないと始まらないものも、始まらないものね。
では、今日はこれにしましょう。初めてのお客様だし、わたくしのお客様第一号には、きっとこれが、いちばんふさわしいわ。
「変わりたいと願うひとは、きっと変わることができる」
あら、そんなに疑り深い目で見ないで。人は簡単には変われない? そうね、それはたしかだわ。簡単には変われない。「ネガティブな考え方を変えましょう」「ポジティブになりなさい」「楽しいことを考えなさい」とたくさんの人が言う。言うのは簡単だけれど、それができないからこそ、変われないからこそ、悩んでいるのだものね。
けれど、わたしは断言するわ。あなたは、変われる。きっと変わることができる。……なぜかって? それはとても簡単なことだわ。
「あなたが、今、ここにいるから」よ。
あなたは悩んでいる。変わりたいと願っている。だからこそ、今、ここにいる。そもそも、変わりたいと思ったことがないひとは、「人は簡単には変われない」なんて言わないわ。それを言えるのは、変わりたいと思って挑戦したけれど、挫折したひとだけ。
人はだれしも少なからず、変わりたいと思っている。けれど、自分のその感情に……すなわち「変わりたい部分」から目を背けてしまうひともいるわ。そんなことない、今のままでいいんだ、って。そんなひとは、変わりたいと願うこころに気づくことはない。変わりたいという気持ちを自覚している、それだけであなたはすばらしいの。0のものを1にすることほど、むずかしいものはないわ。
そしてなにより、「挫折」というものは「挑戦」しないと生まれないものよ。あなたは自覚するだけにとどまらず、挑戦までしている。変わりたいと思うことは、「現在の自分自身」への挑戦にほかならない。ひとは、現状維持していたい生きものなの。けれど、あなたはみずからに挑戦している。誰の強制でもない、自発的にそれをできるあなたが、変われないはずがないの。
変わることは、あなたが考えているほど、むずかしいことじゃない。でも、あなたが言うように、簡単なことでもないのも、たしかよ。それは、忘れてはいけないことを、忘れてしまいがちだから。これだけは、いちばん大切なことだから、けっして忘れないで。
「あなたを変えられるのは、あなたしかいない」ということを。
わたくしはあなたの代わりに雨の中や暗闇の中を歩くことも、そこから救い出すこともできないし、雨をやませることも、日を昇らせることもできない。それはあなたが歩く道だからよ。あなた自身が、他のだれでもない、あなた自身のために、しなければいけないことなの。誰かに何かを期待してはだめよ。あなたの人生だもの。誰かに委ねてしまわないで。
あぁ、長くなってしまったわ。最初のお客様だから張り切ってしまったの。ごめんなさいね。もしも、あなたがわたくしに逢いたいと思ってくださったのなら、また逢いに来て。わたくしは、いつでもあなたを歓迎するわ。
あなたを救えるのは、あなたしかいないということを、決して忘れないでいてね。




