青空から涙
抜けるような青空が、泣いているように思えたのは何故だろう。
目の前の現実から目を逸らすように空を見上げたのに、その澄んだ青に涙を感じてしまって、それで結局目を逸らせずに、僕は現実に目を落とすしかなかった。
大地は赤黒い。
折り重なるものはすでに物体で、それがとても哀しい。怯えて生命を刈り取った自分が、何より恐ろしいと今なら思う。
やはりつらくなって、目を逸らして空を見上げる。
そうするのが好きだと言った、あの子供も死んだ。殺したのは――結局、僕だ。
僕になんて関わらなければよかったのにね。
自嘲しても、その表情をやめなさいと諌めてくれる彼女はいない。失わせたのは、僕だ。
どのくらいの間、そうして青空を見上げていただろう。
冬の澄んだ空気に、僕の罪も凍ってしまえばいいのにと思ったけれど、そうして僕も死んでしまえばいいのにと思ったのだけれど、僕は死ななかった。
世界はそれでもそんな僕に、美しい物を見せてくれる。見せつけてくれる。
青空に、どこから流れて来たものか、小さな雪片が舞っていた。
あぁ、世界は美しい。
太陽は輝いていて、雪片はそれにきらきらと輝いて、舞っていて、冷たく美しい。
あぁ、そう、涙も凍れば雪となる。
その日、そのときは誰も知る者はなかったが、ひとりの少年が人間をやめた日だった。
彼は英雄とも、悪魔とも呼ばれた。勇者とも魔王とも。
その彼の始まりの日、それは、なんでもない冬の日だった。