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※でぃ!  作者:
5/6

※4 BL好きキマシタワー(後編)




「お二人、付き合ってるんですよね!? ねっ!?」

「い、いや……」

 とりあえず顔近いので離れて貰えますか……?


「まさかモノホンの男子同士が見れるなんて……ハァハァ」

 頬を真っ赤にさせ、興奮状態の女子生徒。


「……なんかモノホンとか言ってるぞ……」

「……なんか、ハァハァ言ってますね……」

 


 ***




 はい、ということで前回のあらすじ。


 部室に足を運んだ俺と部長。部員二人の「患部」のはずが、既に部室に一人の女子生徒が。当然、何者かも分からないそいつに対し、部長は「ぜひとも我が部にスカウトしたい」と言い出す。

 「患部」の入部条件は、とにかく残念であること。短所が目立って、それを評価され続けてきたような人。まだ残念かも分からない彼女を勧誘するのは駄目だろうと部長に伝えたが、その直後、彼女の本性が明らかに。

 ――すごく……残念です。



 ***


「ごめんなさい。取り乱してしまって……」

 申し訳なさそうにしょぼんとなる女子生徒。心から反省しているようだ。


「とりあえずさっきの質問に答えると……俺たちは付き合ってないよ?」

 付き合っているか否かの質問に答えること自体がおかしいことなんだけど。最初、彼女に対して敬語を使うかで迷ったが、首元についているリボンが赤色――つまり、俺と同じ一年生だと分かって馴れ馴れしいと思うかもしれないが、タメ口で話すことにした。


「付き合ってない? まだ『おホモだち』の関係ってこと?」

 俺がタメ口を使って同じ一年だと気づいたのか、彼女も俺に対してはタメ口で話すようになった。ってあれ、もしかして全然反省していない?


「お友達?」

「おホモだち」

「……え、ほ、ホモ?」

「そう。ホモなお友達――それがおホモだち。あなたと……その先輩はそんな関係なんでしょ?」

「部長……もう俺の手に負えません。あとはよろしくお願いします」

 早くも白旗をぱたぱたと上げて降参状態の俺に、部長がおお、と威勢のいい返事を返した。


「そういえば……お前、名前は?」

 部長が彼女に俺と接すかのような態度で尋ねる。まあ、一応先輩だしいいんだけどさ。


花園百合(はなぞのゆり)です。クラスは1年C組」

「えっ、C組!?」

 そこで驚いたのは俺だ。何せ、C組と言えば俺と同じクラスってことに……。


「俺も1年C組なんだけど……」

「え? そうなの? なんか地味で分からなかった……」

 ですよねー。その「地味だから」という理由で存在していないことになるのにはもう慣れました。まぁ、俺も彼女――花園さんのことを知らなかったわけだし、お互い様なわけだが。


「何だ、お前ら同じクラスだったのか、だったら話が早いな」

 部長が両腕を組んで、そう言いながらコクコクと頷く。


「えーっと、花園、って言ったか? 何でお前は今日、この『患部』の部室で本を読んでいたんだ?」

 部長が質問した内容は、俺も気になっていることだった。部員でも無く、ましてや入部希望でもないみたいだし。


「静かな環境で本が読みたくて……それで、旧校舎なら静かそうだなーと思って」

「それで、この部屋を見つけたのか……」

 納得気味に目を閉じて、また頷く部長。


「一応、一階から四階まで全ての部屋を回ってみたんですけど、この応接室にはソファがあったもので……もしかしてここ、どこかの部活なんですか?」

 花園さんが小さな目を丸くしながら不思議そうに首を傾げる。


「よくぞ聞いてくれた! 何を隠そう、ここは我が『患部』の部室だ!」

「かん……ぶ?」

 部長の威圧に弱冠怯んだのか、小さな声で花園さんが言葉をおうむ返しする。


「そう。説明すると長くなるのだが……一言でまとめてしまえば『傷を舐めあう部活』だ」

「だからその一言で片付けんな」

 俺には懸命になって説明していたくせに。


「傷を……舐めあう……? え、どういうことですか? 性的な意味で?」

 ……おい最後。


「性的部分は弱冠含まれるかもしれないが……」

 初耳だよ。


「時に花園、お前は人の長所を見ようともしないで短所だけを馬鹿にする今の人間社会をどう思う?」

「えっ?」

 また唐突すぎる質問だなぁ……と、俺はジト目を作って小さく息をつく。


「例えば、ここにいる誠も、今の人間社会で蹴落とされてきた」

「えっ、俺?」

 意味も分からず部長に指名された俺は、人差し指で自分を指差して疑問気味に聞き返す。


「――そうだろう?」

 部長の真剣さが伝わってくるような目つき。


「い、いや俺は……そんな、対したことじゃないんです。ただ、中学の時までは全部『地味だ』っていう理由だけで非難されてきた、っていうか」

 別に、非難されてきたと言ってもいじめられてきたわけではない。ただ、何かと言えば「地味なせい」と俺の一番の短所を理由にしてくる、それが嫌だった。自分で言えたものじゃないが、俺には短所(それ)以外の特徴が無いのかな……と、思って、俺は高校デビューを決めたのだ。

 俺の話が終わったあと、部長は一度俺を視界に入れたあと、視線を花園さんに戻す。


「つまりそういうことだ。人には長所がある。しかし、短所が飛び抜けているだけで、その長所を見ようともせず……人間はそれを非難する。花園、お前はどうだ?」

「わ、私……ですか?」

「正直……お前のような奴を、BL好きの……」

「……そうですね、俗に言われる『腐女子』って奴です」

 部長の言葉のバトンを貰って、花園さんが口を開いた。


「えっと……ちょっと話が長くなっちゃうんですけど……聞いてもらえますか?」

 先程の暴走していた花園さんと雰囲気というものがまるで違う気がした。180度、性格が変わった、というか、真剣さがオーラとして伝わってくる。

 花園さんは髪をいじりながら俯き気味になって話を始めた。


「私が、その……BLに興味を持ち始めたのは中学二年生の頃なんです。最初はコミックのアンソロジーを読むだけ、みたいな感じだったんですけど、ネットなどで調べていくうち、同人誌などにも手を出し始めました」

 同人誌。非公式でプロの漫画家などではなく、一般の人が自由に創作し、それを自分で漫画形式にしたものだ。俺はあまりそういうことに詳しくはないのだが、そういう同人誌を売る専門店や、イベントなども最近は多いと聞く。


「でも、オタクだとか、そういうのってあまりに人に知られたくないじゃないですか。私、突然人が変わったかのようにBLに走り出して、元々いた友達にそれが知られるのが嫌だったんです」

「……」

 部長はまだ話が最後まで終わっていないことを察してか一切口出しをしない。たまに見る真剣な目つきで花園さんの話を聞いているようだ。


「だから、私は自分がBL好きの変態だってことを隠して生活していたんです。でも……結局最後は、そのことがバレちゃったんです。私が同人誌を買いにある店に入ったのが偶然見られてしまったみたいで」

 それから、と花園さんが接続詞を用いて言葉を続ける。


「私は……友達みんなに避けられるようになりました。友達たちは、オタクだとか腐女子だとか、そういった部類を嫌っているみたいで……。

 友達って、こんなことだけで一瞬で失くなっちゃうんだなぁーって、ちょっとあの時は色々悩みました。でも、バレたのが中学3年生の秋頃で、もうすぐ高校受験……ってことで、高校は私の友達のいない場所を選ぼう……と」

 そこで、選んだのがこの花園学園だという。元々、話してはくれなかったがある理由でこの高校が一番自分に適しているとのことだ。


「この高校生活の間は、今度こそBL好きであることを隠そう、って決めたんです。友達もいらなくていい……とにかく平凡な自分を取り戻したかった」

「大変だったな」

 部長が天井を仰ぎ見ながらそう呟いた。


「……でも結局、もうバレちゃいましたね。私がこういう奴だってこと」

 花園さんは、笑っていたが、それは俺たちに対する苦笑いと、自分を自嘲するような二つの笑いが混ざっているような気がした。


「やっぱり、おかしいですよね。さっきの私。あれが私の隠していた本当の私なんです。引きます……よね」

「……いいと思うぞ」

「え?」

「別にいいんじゃないか? お前がBL好きの変態でも」

「……どういう、ことですか?」

 花園さんは、部長の言葉の意図がいまいち掴めないらしい。


「さっきも言ったように、今の人間社会は人の短所だけを責めて長所をまるで見ようともしない、下劣な世代だ。

 ――だから、俺はこの部活を創った。花園、お前のそのBL好きな性格――短所だと思うか?」

「そ、それは……まぁ」

「だったらそれはそれだ。でもお前はその短所一つだけで生きているわけじゃない。そんな短所なんかよりもずっと、ずっと、誰もがすごいと思える長所がある。――そうだろ、誠」

「……そうですね。人は短所があれば必ず長所もある……。少なくとも俺は、部長からそう学びました」

 あれ、何この「いい最終回だったな」ムード……。


「――俺たちの部活に入らないか? 花園」

「……えっ」

「この部活は、お前のような人材を歓迎する部活だ。この場所では、お前の短所なんて気にしなくてもいい、ありのままのお前を(さら)け出せばいい」

「……」

 花園さんがじっと部長を見た。あの「目」――今、彼女は一体何を思っているんだろう。


「どうだ?」

「……そ、その……私は……こういう人間だから……あまり人に頼られたことがなくて……その……びっくりしてしまって。

 ――い、いいんですか……? 私のような人間が……」

「――大歓迎だ。なぁ、誠」

「……はい。男二人だといい加減むさ苦しいとも思ってたし」

「ありのままの自分を曝け出せば……私、さっきみたいなおかしい人間になりますよ?」

「安心しろ。俺たち二人は、お前と同じぐらいおかしな人間だから」

 そう言って部長はししし、と白い歯を見せて無邪気に笑った。その笑いが、花園さんまで届いたのか、彼女も次第に口元を歪ませ――



「――ありがとうございます」

 やがて、顔いっぱいに、その笑顔が広がった。



 ***



「ってことで入部二人目! 花園、よろしく頼むな!」

「よろしく、花園さん」

「すみません。その、『花園』って名字で呼ぶの止めてくれませんか? あと、さん付けも」

「ふむ。じゃあ何と呼べば?」

「先輩もえっと……地味男(じみお)も呼び捨てで『百合』って呼んでください」

「おー、そうか。よろしくなー、百合」

「あのすみません、自分、地味男などではなく五十嵐誠という名前があるのですが……」

「それなら最初からそうと言いなさいよ。同じクラスだし、色々よろしく。地味……ま、誠」

「また言おうとしたな!? 言おうとしたな!?」

「あっはっは。お前たち、さっそく仲良さそうじゃないか。いっそのこと、ここから恋人になる展開、なんて面白いかもな」

「冗談止めてください。誠だってそう思っていないはずです」

「そ、そうだな……。まだ知り合って一日目なんだし」

「――誠は先輩とくっつくんでしょうが!」

「くっつかねぇよ!」

「そうだ、ここの本棚一つ空っぽだから百合、お前、好きな本とか持ってきていいぞ」

「ホントですか!? ありがとうございます!」

「うんうん。これでまた『患部』が賑やかになるな」

「ところで部長、この部活、『傷の舐め合い』とかほざいてますけど、本当のところ何する部活なんですか?」

「――ん? いや、特にそういうの決めてないから……毎日を後悔しないようにやりたいことして過ごす……かな」

「カッコイイこと言っておいてただ何にもプランを決めてないの誤魔化してるだけじゃないですか……」

「やっぱり……誠と先輩のカップル……はぁはぁ」

「だからどうしてここで息を荒ぶらせる!?」

「おい百合。俺はもうお前の先輩ではない。部長、と呼べ。部長、と」


「あ、そうですね。すみません。

 ――これから『患部』の部員としてよろしくお願いします、部長」


 


【患部活動報告日誌】

 活動二日目、BL好き残念少女こと花園百合、患部に入部。

 いったいどうなるんだ……?


 《部員の一言コメント》


 ――実は私、自分で同人誌とか作ってるんですけど、二人のこと参考にしますねっ 花園百合

 ――えっ 五十嵐誠

 ――えっ 八重樫健悟




 

サブタイトル「BL好きキマシタワー」について解説すると、「キマシタワー」は知っている人が知っている女の子同士の恋「百合」同士を表すネット用語です。BL好きの百合さん、ということで「BL好きキマシタワー」……って、果てしなくどうでもいい解説ですね。すみません。

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