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※3 BL好きキマシタワー(前編)





 俺が「逝けメン」こと八重樫健吾先輩の創り上げた部活動――「患部」に成り行きで入部した、翌日、高校入学二日目がやって来た。

 授業という授業は無く、係決めだったり、学年行事の説明だったりと、ロングホームルームを経て、午前中は終了。お昼をはさんで、午後からは体育館で新入生歓迎会が行われた。

 新入生歓迎会と言うのは、名前通り、新入生である俺たちを歓迎する会。主に、部活動の紹介の場である。あらかじめエントリー登録を済ませた部活動がそれぞれの活動内容を説明したり、実技を披露してくれた。

 運動部である野球、サッカー、テニス、バトミントン、バレー、バスケ。文化部である軽音部、手芸部、文芸部、コンピューター部。どの部活も今日のために準備していたのか、完璧なパフォーマンスを見せてくれた。

 そんな中、俺は頭の中で考える。


(……『患部』はエントリーしてないのかな)


 部活動紹介も終盤に差し掛かっているが、患部の登場は未だに無い。いや、万が一あったとしても、部員は部長を除いて俺一人だけ。部長の考えるパフォーマンスを想像するだけでバットエンドしか見えない。

 ……結局、患部の登場は無く、新入生歓迎会は終了した。そういえば、生徒会に申請無しで勝手に作った部活だし、この会にも出れなかったのかもな。



 ***



 そして、訪れた放課後。仮入部期間で、一年生は様々な部活動の部活動体験を行うために散り散りになる。

 生徒が少なくなって、静かになっている教室で、俺と藍川は席に座って雑談に勤しんでいた。


「藍川は入る部活とかあるのか?」

「部活っていうか、やっぱり俺は生徒会だな。今日、このあと生徒会室に行って話すつもり。……誠は? 入る部活とかあんの?」

「……ど、どうだろうなぁ」

「まぁ、仮入部期間は来週まであるし、お前に合う部活動を決められるといいな」

 ししし、と無邪気に藍川が笑う。励ましの言葉を貰ったのは嬉しいが、もう既に入部してるぜー、なんてこととてもじゃないけど言えたもんじゃない。

 いや……ね? 野球部だとか、軽音部だとか、そういう部活動に入部しているのなら話は別よ? でも、俺が(強制的に)入部したのは「傷の舐め合い」を目的とする残念な部活。そんなことを話せば、ドン引きされること請け合いだ。


「でも、生徒会活動って結構大変なんじゃねえの?」

「大変そうだよなー。でも、俺は恋のためなら何でもするぜ!」

 あ、熱い……! まるで目が燃えているかのような勢いだ。


「誠ー!」

 会話の途中、藍川の声とは違った声色で、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。


「ん?」

 藍川は聞いたことのない声だからか、声が聞こえてきた教室の前扉に目をやる。


「げっ……」

 前扉から俺のクラスに入ってきたのは、紛れもない八重樫健悟部長だった。


「いつまでも来ないから迎えに来たぞ」

「は、はぁ……」

 俺の前で立ち止まった部長。俺のクラスに残っていた生徒全員が部長に視線を向ける。それもそのはず。この人、見た目はかなりのイケメンさんだからだ。中身が残念だということを知らなければ、女子からもモテモテだろうな。


「誠、知り合い?」

 藍川が尋ねてくる。


「え? あ、まぁ、ちょっと……」

「お前は誠の友達か?」

 俺と会話していた藍川に、部長が声をかける。


「藍川尚っス。席が近くて友達になりました」

 この学校では、上履きと女子のリボンが学年の色ごとに異なっている。俺たち一年生は赤、二年生は緑、三年生は青といった感じだ。

 部長の上履きの色は青。それを見て先輩だと察して、藍川は敬語を使ったというわけだ。確かに先輩は先輩だが、尊敬に値しない人だから、敬語を使う必要を今一度考えたほうがいいのかもしれないが。


「そうか。うちの誠とこれからも仲良く頼むぞ」

「ういっス! 先輩は誠のお兄さんですか?」

「お兄さんという関係ではないな」

 ハハハ、と苦笑を浮かべ、部長が藍川の言葉を否定する。


「誠とは昨日からの付き合いなんだ。今、俺と一緒に(部活動に)付き合ってもらってる」

「……え」

 

 何 言 っ て ん だ こ の 人 。

 クラスに残っている生徒がざわつき出す。


「五十嵐君と付き合ってるんだって……」

「これってあれでしょ、『ホモ』って言うんでしょ?」

「入学二日目なのに……五十嵐の奴やるな……」


 うわああああああ! どんどん誤解が広がっていくううううう!


「ま、誠……?」

 驚きを隠せない藍川が、俺を見ながら震え声で言う。


「ま、待て藍川! 何で声が震えてるんだ!?」

「べ、別に俺はいいと思うぞ……? 恋愛は、どんなものだって、恋愛だと思うし」

「違うからな! さっきの言葉は語弊っつーか……言葉のあやってやつ!」

「俺は……お、応援するぞ?」

「違うっつってんだろうが! 頼むから話聞け!!」

「やめろよ、誠。尚が困ってるじゃないか」

「俺が一番困ってるよ!」

「本当か!? 何だ、何で困ってるんだ!?」

「アンタのせいだよ、アンタの!」

「ど、どうした? 顔が赤いぞ?」

「だからアンタのせいだっつーの!」

 何で入学二日目にして俺がホモと勘違いされなきゃいけねぇんだよ!

 とにかく、この状況を何とかしないと俺に明日がない。


「ぶ、部長……もうここ出ましょう」

 恥ずかしさで小声になってしまったが、俺が通学カバンを肩にかけて立ち上がる。


「ん、そうか」

 部長が腕を組んで二、三度コクコクと頷く。


「それじゃあ尚、ちょっと誠を借りてくぞー」

「誤解を招く言い方すんなぁ!!」

 嗚呼――どうして俺がこんな目に……。


「じゃ、じゃあな――……」

 理解するよりも訳の分からない展開に、尚は引き気味に呟いた。



 ***



「何で教室に来たんですか!」

 教室を出て、旧校舎の廊下を歩きながら、俺が堪えていた言葉を部長にぶつける。


「さっき言っただろ? いつまで経ってもお前が来ないから」

「待ってりゃいいでしょうが! 迎えなんて必要ないですって!」

「だ、だって……初めての部員だったし」

 何で顔を赤らめているんだこの人は。


「それに、ちょっと相談したいことがあってな」

「だったら何でそれを教室で言わなかったんですか……」

 付き合うだとかそんなことを言わず、相談があると言えばせいぜい「兄弟」としか見られなかったのに……。


「それで、相談したいことって?」

「ほら、患部って、まだ正式な部活じゃないだろ?」

 そりゃアンタが勝手に創部した部活だからな……。


「部活動ってのは、最低でも四人の部員が必要なんだ」

「必要、って言っても先輩、生徒会のこと嫌ってるんでしょう? 申請なんか絶対しないって言ってたじゃないですか」

「ん? ああ。安心しろ、申請するつもりはさらさら無いぞ」

 いや、安心はしませんけどね。


「考えても見ろ。今の部員は俺と誠、たったの二人だけなんぞ?」

「はぁ、そうなりますね……」

「男二人だけでジャンルがBLと勘違いされたらどうする!?」

「……先輩、さっきからわざと言ってません?」

 教室での誤解を招く言葉の数々を思って、俺がジト目で部長を見る。


「わざと? 俺はいつだって本気だぞ。……とにかく、俺はもっと部員が欲しいんだ! 最低でも四人! 俺と誠で二人だから、後二人だな」

「二人入るのは絶望的だと思いますけど……」

 短所のせいで居場所を失くした残念な人たちが傷を舐めあう部活動なんてまさに誰得だよ……。


「大丈夫だ。要するに、残念な奴を二人見つければいいんだからな」

「それが難しいって言ってるんですよ」

 と言うか、残念同士集まっても結局残念になるのがオチなのでは? ……とは口に出さず、心の中で呟いてみる。

 旧校舎の階段を上がって、4階。真っ直ぐ伸びる廊下の一番奥に、「応接室」こと患部の部室はあった。当然、生徒会に部活動申請をしていないため、正式に認められた部室ではない。


「とりあえず、女子が欲しいな。男二人だけではどうもむさ苦しい」

「女子なんて余計に難しくないですか? 残念な女子なんてそう簡単にいるわけ……」

 ここはアニメや漫画の世界ではない、現実の世界。女子は難しい、と言ったが、そもそも本当に「残念だ」と分かるような人物自体この学校に居るかすら怪しい。


「え? でも女子で残念な奴はいるだろう? BL好きの腐女子みたいな」

「万が一居たとしてもそれを表に出す女子は少ないと思います」

 それに、BL好きな腐女子全員が残念では無いだろう。


「だから、そういう奴を探すんだよ、俺たちで!」

「はいはいそうですねー」

 軽く部長の言葉を受け流しているうち、俺たちは応接室前に到着。応接室の扉を開ければ、もうそこは患部の部室である。


「とりあえず部室で色々と策を()るかー」

「ま、それが妥当かもですね」

 部長が扉を開けて、部室の中へ。昨日見たとおり、部室はまるで遊ぶためだけに作られたような設備でいっぱいだった。

 そして、すぐに何かの違和感に気づいた。何と、部室のソファに腰掛け、読書の真っ最中の生徒がいるではないか。

 赤茶色のブレザーに、鮮やかな橙色をしたチェック柄のスカート。髪は紅蓮色のウェーブがかかったショートカット。決して大きくはないが、膨らんでいると分かる胸元。紛れもない女子生徒だ。足を組んでいて、あと少しで……あ、あれが見えてしまう……! そこで俺は慌てて女子生徒から目をそらす。


「……」

「……」

 部長は、何も言わずに反対側の赤いソファにどすん、と腰を下ろした。

 ……え? 何? これ、スルーすべきなの?


 何が何だか分からないので、俺はひとまず部長の隣に座ることにした。


「……」

「……」

「……」

 女子生徒は、俺たちを見る気もせず読書に夢中。


 いや、



 なんていうか、



 この状況、



 ――すごく気まずい……ッ!

 っていうか、何でここにいるの? ここ、仮にも(本当に仮だけど)俺たちの部室なのよ?


「……誠」

「……なんでしょう?」

 小声で、耳打ちしてきた部長に俺が反応する。


「……俺たち、あの子に何か求められているのかな」

「……あぁ、なるほど」

 先輩もあの女子生徒のことが気になっていたんですね。


「う、うーん……何か、声をかけてみるとか……」

「『どんな本を読んでるの?』的な感じでいいと思うか?」

 なるほど。女子生徒は今、読書の真っ最中。読書に夢中で俺たちに気づいていないということは、それほど読書が好きだということ。どんな本を読んでいるのか、という質問には食いついてくるかもしれない。

 ふと女子生徒の本を覗くと、


 『(おとこ)たちの宴♂ (全年齢版)』


「――部長、駄目です。もうアウトです、あの本」

 しかもあの本、やけに薄い。


「いや、これはチャンスかもしれないぞ? よく見てみろ。あの本はどう見ても男同士が(自主規制)するものだろう?」

「なっ、こんな場所でさらりと何言ってんですか!」

「とにかく、俺の求める女子とはこういう腐女子なんだ。これは我が部活に勧誘するしかないだろう」

「でも、いくらああいう本を読むと言っても、残念とは限らないでしょう? それを考えるべきですって」

「そ、そうか……うーん」

 いい案だったのになーと悔しさを見せながら、部長がソファに寄りかかる。それと同時、女子生徒が本を読み終わったのだろうか、ぱん、と本を閉じて近くのテーブルの上に置く。

 頬を赤らめていて、表情はキラキラ輝いている。内容に非常に満足したのだろうか。


「あぁ……やっぱり男同士っていいわぁ……」

 姫が流れ星に願うかのように、両手を合わせて女子生徒が呟く。


 そのあと、ついに女子生徒と俺たちの目と目が合った。


「……」

「……」

「……」

 数秒間の無言タイム。何を言えばいいのかということで頭を巡らせていたうち、ついに重い口を開いたのは女子生徒だった。


「あの……ちょっといいですか」

 女子生徒の高いソプラノ声に、俺と部長は一瞬、びくっと怯む。


(一体何を聞くつもりだ……?)


「そ、その……二人は、どのような関係で?」

「えっ?」

 女子生徒の意外な質問に俺は目を丸くする。俺と部長が互いに見合ったあと、


「え、えっと、どういう意味でしょう?」

 代表して、俺が質問の意味を女子生徒に求める。


「……どちらが」

「ど、どちらが?」


「どちらが攻めて、どちらが受けなんですかッ!?」

「……へ?」

 攻め? 受け? 何それ、ポケモ●?


「ど、どういうことでしょう……?」

「だ、だって……ここは基本的に生徒が立ち入らない旧校舎……!! そこに現れた男二人イコール禁断の関係! お二人、付き合ってるんでしょ!? ねっ! ねっ!?」

「……部長」

「……なんだ」

「さっき、俺、この子が本当に残念か分からないから勧誘は止めた方がいいって言いましたよね?」

「……ああ、言ったな」

「すみません、俺が間違ってました」

 テンションが上がっているのか、はぁはぁ、と息遣いを荒くする女子生徒をちらっ、と見て、俺が呟く。



「――この子、残念の塊です」




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