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※でぃ!  作者:
3/6

※2 俺と傷を舐め合いませんか?

 これまでのあらすじ。

 高校デビューを図ろうと期待に胸膨らませて入学式に出席した俺、五十嵐 誠の高校デビュー、大失敗。謎の先輩(♂)に告白される。



 し、しししし、しかし。

 まだ、まだ諦めるのは早いんじゃないのか?


 もしかすれば。万が一、億が一、男装した女の子かもしれないじゃないか。男装する女の子なら、漫画などでよく見たことがある。

 息を吸って、吐いて、深呼吸。

 さぁ、ユー、「実は私、女の子なんです」って言っちゃいなよ!


「俺は八重樫 健悟。ここの高校に通う高校3年生だ。よろしく」

 さようなら、俺の青春――。まさに俺は、「orz」の様なポーズをとった。やはり神様は、俺に高校デビューなんてできっこないとお思いなのだろうか。普通でイマイチ目立たない俺は、結局高校に入っても目立たないままで終わってしまうのか。いや、これ、違う意味で目立つんじゃね……?

 尚くん、あなたは俺に「限界を超えろ」と言いました。うん、俺は確かに限界どころか、先輩(♂)と一線超えてしまいそうです。


「誠」

「はい……?」

 項垂れたままで、俺が先輩――健悟先輩に返事を返す。


「お前が地味で目立たない存在から変われる方法なら、俺が知ってるぞ」

「だから付き合えって……」

 交際は確かに俺の青春に大きく刺激を与えることだろう。それによって、目立たない存在から一気に目立つ(と言うか浮く)存在になることなんて簡単なことだろう。しかし、交際と言っても付き合う相手は先輩の男子。それって、俺の青春に別の意味でとんでもない刺激を与えてしまうことになってしまうわけだ。

 あー……最悪だよ、もう。

 これなら、先程の野球部たちに勧誘され続けていたほうがまだマシだったのかもしれない。


「五十嵐 誠。――俺の、部活に入らないか」

 ……ベンチに座っている漢の人を想像した。




 ***




「こっちだ」

 健悟先輩に誘導されてやってきたのは、花園学園の旧校舎だった。あと数年で取り壊しが行われるそうで、今は誰も使っていない無人の建物だと聞く。


「あの、いいんですか、これ」

「勿論いいに決まってる。何せ、急遽作った部活だからな。部室が用意できなかったんだ。旧校舎までは遠いが我慢してくれ」


 って、俺ってもしかしてもう入部してる扱い?

 おいおい、冗談じゃない。まだこちとらどんな活動をするのか以前に、何部なのかも聞いていないぞ。


「立ち入り禁止とは書かれていないからな、万一そう書かれていたとしてもそれに従う理由なんて無い」

「それって学校の校則を否定していませんか?」

「していませんか? って、否定する以外に選択肢は無いだろう。現に俺は部活動を創部する際の校則は全て無視しているからな」

「じゃ、じゃあ……」

「勿論、生徒会に創部手続きを押し付けただけで許可なしに勝手に作った」


 健悟先輩の超ドヤ顔。このイケメン、一体何をしているんだ。


「生徒会はそんな校則で俺たちを縛り付けて、教師たちはダメな生徒を次々と切っていく。そんなの、おかしいことだと思わないか」

 健悟先輩の表情が深刻になる。何だか唐突な話題だな……。


「患部の意味を知っているか?」

「病気とか、傷の部分のこと……ですよね?」

 俺の答えに、そうだ、と健悟先輩は頷く。


「人には1つぐらい傷、つまり患部があるはずだ。1つぐらい悪いことだとか苦手なことだとか、そういうのを持っているものだ」

 そりゃそうだ。完璧な人間なんて存在しない。誰だって、どんな天才にだって、出来ないことなんて山ほどある。


「――現実世界は、人の患部だけを指摘して、非難する。その人の長所に気づこうともせずに、な」

「……」

 先程俺に告白してきた時、この先輩は頭が狂っているのかとも思ったが、今の言葉を聞いてそうでもないのかな、と思い直す。そうだ。確かに、人は短所を持っているが、それ以上に多くの長所を持っているはずだ。


「――俺は、それに腹を立てた」

 だから、と健悟先輩が接続詞を入れて話を続けた。


「俺は部活を作った。傷を舐め合えることができる人たちが集まれるような部活を」

「その表現、さっきまでの先輩だったら多分俺警察に通報していると思います」

 え? と首を傾げる先輩。いや、そりゃ同性の告白の後に「舐め合い」なんて言われれば、誰だって青い服の人にお世話になるに決まっているだろう。


「患部には、患部を、だ」

 傷を持つ者には傷を持つ者を。これが健悟先輩の短所ばかりを否定する教師と、生徒を校則で縛り付ける生徒会に対する対抗手段らしい。


「と、ここだ」

 旧校舎の階段を上がりに上がった4階の一番奥の「応接室」と書かれた教室の前で健悟先輩が立ち止まった。


「応接室……?」

「そこは気にするな。旧校舎で一番設備が充実している教室をそのまま部室にしただけだ。まぁ、遠慮なく入ってくれ」

「いや、まだ入部するなんて決めたわけじゃ……」

「お前、何座だ?」

「何座って?」

 いや、さっき土下座しましたけど?

「星座のこと」

「山羊座ですけど、それが何か?」

「山羊座か。なになに、今日の山羊座は――」

 と、突然スマートフォンを取り出し、手慣れた操作で何かのアプリを起動する先輩。星座占いでもやるつもりなのだろうか。


「山羊座。健悟先輩に誘われた部活に入るといいことがあるカモ☆ と書かれているぞ! 誠! これは入部するしか無いだろう!」

「ねーよそんな占い!」

 なんで占いに健悟先輩っていう固有名詞が出てくるんだ!


「おお、敬語を使うのを忘れるぐらいのナイスツッコミだったぞ」

「あ、すみません……つい」

「いやいや。ツッコミに先輩も後輩も無いからな。バンバンツッコミ入れてくれないと話が進まないことってよくあるし、これからも我が部員としてツッコミ頼むぞ!」

 上機嫌に笑いながら、健悟先輩が俺の肩をぽんぽん、と二、三度叩く。いや、だから『我が部員として』って俺完全に部員扱いされてるんですけど?


「まぁ、いつまでも入口で話していては始まらない。まずは部室に入ってゆっくりと話そうじゃないか」

 健悟先輩がドアノブに手をかけて、それを左にスライドする。長い間使われていなかったドアだけあって、開く際にきぃぃぃ、と耳を刺激する金属音が響いた。


「ようこそ、『患部』へ!」

「部活名そのままなんですか! もっとオブラートに包みましょうよ!」

「いいや、あえて部活の名前は患部そのままだ。患部には幹部を! これが俺のモットーな以上、絶対にそれだけは譲らないぞ」

 見れば、旧校舎の教室は誰も使っていないなんていうイメージを全て吹き飛ばしてくれるような先輩曰く、『患部』の部室がそこにあった。

 旧校舎応接室は、もともと生徒会室だったこともあって、まだまだ使える立派な赤いソファが2つと、来客用だ、とくるくるくるーと回ることができる事務用の椅子が2つ、その椅子とソファたちの中心に大きな机が置かれている。机の上には最新型のノートパソコンが1台。それだけでなく、立派な本棚が2つ(1つは空だが、もう1つにはぎっしりと本が詰め込まれている)、教室にこんな大きなテレビを置いていいのか、というテレビ(地デジ対応済み)に、棚の上にお茶、紅茶を淹れる為の小道具、マグカップと、お茶と一緒に食べるお茶菓子などがきちんと整理されており、さらにはトランプやUNOなどのカードゲームのほか、人生ゲームなどのボードゲームなどが入っているダンボールが置かれ、その隣には携帯ゲーム機などが置かれていた。

 


 ――結論。ここは遊び場か何かか?


「あの……」

「何だ? 質問か? 質問なら大歓迎だぞ」

「じゃあ、まず――ここは主に何の活動をする場所なんでしょうか」

「ん? 主に傷の舐め合いだ」

「その表現すごい危ないですから、一般の生徒の前では絶対に言わないでください」

「他にやることとすれば、この学校を変えることだな」

「普段傷の舐め合いなんてする部活が学校を変えるんですか!」

「人に不可能なんて無い。それを憎き教師、生徒会に証明するのが最終目標だ。インターハイとかそういうものはうちには無いからな」

「先輩」

 ふと疑問が頭に上がったので、俺はそれを先輩に聞いてみることにした。

「先輩って――モテますか?」

「俺はリア充が嫌いだ。付き合って下さい、なんて交際を申し込むだけで吐き気がする」

「さっきアンタ『俺と付き合って下さい』って言ってたよな」

「あれはただ、俺と傷の舐め合いをしませんか、と誘っただけで」

「アウトです! アウトアウト! スリーアウトチェンジ!」

 うん。この先輩、めちゃくちゃ顔はイケメンだからモテるんじゃないか、と思ったが、考えるその発想自体が残念すぎる。言い換えれば、「宝の持ち腐れ」だろうか。イケメン、もとい逝けメンだよな、絶対。


「そもそも、こんな部活を作る先輩がモテるわけない、か」

 ぼそっと先輩に聞こえないように小声で呟くように言う。

「とにかく、だ」

 部長が勢い良く両腕を広げる。抱きついておいで~と言わんばかりの卑猥なポーズにしか見えない。

「今日からここが俺と誠の部室、『患部』の部室になる!」

「だ、だから!」

 俺は部員じゃないって! まだ入部届けすら出していないのに!


「――お前もそうなんだろう?」

「……へ?」

「お前も、短所だけを、マイナスな部分だけを評価されてきた人間なんだろう?」

 マイナスな部分。それはすなわち、俺に突きつけられた「地味で目立たない」というイメージのこと。1人がそれを言うと、その周りの人たちも俺のことを何にも知らないはずなのに、「地味で目立たない」というイメージを持つ。

 何にも、知らないはずなのに。なのに。


「――はい」

 静かに、そっと、呟く。


「だからこの部活で、俺はお前の長所を見つけたい。コイツはこんなにも凄いヤツだ! とお前のことを何にも知らない奴らに怒鳴りつけてやりたい!」

 目を見開いた。心に衝撃が走った。頭に、俺の思いが浮かび上がった。



 ――彼なら……八重樫 健悟なら、俺の全てを分かってくれるんじゃないか……?


「さぁ、誠! 俺と存分に傷を舐め合おうじゃないか!」

「だからその言い方は止めてください!」

 この八重樫 健悟との出会いが――俺の青春に、大きな刺激を与えることになる。


 


 傾いた青春が、始まる。


【次回予告】

健悟「次回、誠が脱ぎます」

俺「捏造すんな!!」


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