第2章 第3幕 恋の重み
「ボルチェーンジ!」
部屋中に響き渡る声と共に、だっしゅさんがキャバクラさんと入れ替わるように入ってきた。
キャバクラさんが帰った方向をちらっと見て、「ケンカ?」と髪金に聞いていた。髪金は「さあね」と濁していた。
「だっしゅさ、お前、背後霊とか信じる?」
「背後霊?……よくわかんないけど、そういうのってあるんじゃないかな」
「だろ!? 俺もあると思うんだよ! トロ子がさ、背後霊を見ることができるんだよ。お前も見てもらえよ!」
共感できる仲間を見つけてうれしいのか、髪金は目をキラキラさせて、私の前にだっしゅさんを座らせた。
「……見えるの?」
だっしゅさんが確かめるように聞いてきたので、こくりとうなずく。
「なら見てもらおうかな」
「はーげ! はーげ!」
「……はげって何?」
「なんでもないよな、トロ子!」
髪金の頬が高潮している満面の笑みに、『共感できる仲間じゃなく、はげ仲間を探していただけだ』と気付き、なんだか見る気をなくした。けれど、髪金の期待を込めた目と、だっしゅさんのどう?という目に、見るしかないのかと覚悟を決めざるをえなかった。
私はだっしゅさんの顔の横あたりに目をやり、手をかざす。視界の片隅に映るだっしゅさんは、なんだか照れくさそうにしていた。
「ハゲか!?」
期待を込めた髪金の質問に首を振る。でもそれはハゲじゃないという意味ではなかった。
背後霊がいるべき場所には、ぽっかりと不思議な空間が広がっていた。
背後霊が出かけている?そう思った。
「どう?」
「……見えない」
「まぶしくて見えないか?」
「……背後霊、いない」
背後霊がいないと聞いただっしゅさんは、少し残念そうな表情を浮かべた。
「ま、気を落とすな!俺なんてハゲだからさ……」
落胆した髪金の後では、仲間を得ることが出来なかったハゲ背後霊も落胆していた。
ただ、だっしゅさんは不思議な光に包まれていて、これから起こることがとても明るい未来に見えた。その未来はとても暖かく、やさしく、新しい空気に包まれていた。
「……素敵な恋が始まる」
私は思ったことをそのまま口にしたことに、ハッとした。案の定、息を吸う動きすら止まるほど、二人はぴたっと静止していた。
そう、恋愛ご法度のボルレンジャーには、「恋」という言葉はあまりに重かった。