第2章 第2幕 背後霊さんの悩み
「くだらない、背後霊なんていないわよ」
テレビを見ていたキャバクラさんが、背を向けたまま話に入ってきた。
「いないのか!?」
キャバクラさんはため息を一度つくと、振り返り、呆れた顔で言った。
「信じてるの?ばかねぇ、なんでも信じすぎなのよ」
「そうなのか、トロ子」
「いる。はげだけど」
そう、確かに見える、ハゲの手品師が。ハゲという言葉に過剰に反応しているハゲ手品師が。
「いないわよ!」
「いる。リアップしてる」
「がんばってるのか、俺の背後霊は!」
「背後霊がそんなことに気を使うわけないでしょ!」
「貴様に背後霊の何がわかる!わからないのか、リアップを使う男の気持ちが!屈辱、敗北感、それに耐えながらも光を求めてるんだよ!」
髪金の力説を「はいはい」と軽く受け流し、キャバクラさんはテレビの電源を消した。
そして立ち際に「十分光ってるからいいじゃない」と、ボソッと言った。
「貴様!今の発言は世界のハゲを敵にまわしたぞ!」
「いいわよ、ハゲに興味ないし」
「泣いてる、背後霊」
「がんばれ、俺背後霊!がんばれば必ず生えてくる!リアップリアップだ!」
「……馬鹿馬鹿しい」
そう言ってダンボールに戻ろうとしたキャバクラさんの背中に、うっすらとした影が見えた。うしろにと自然と口にしていた。
「若はげか!?」
髪金の素晴らしいくらいアホな言葉のせいか、キャバクラさんの背後霊は煙のようにすっと消えた。
「……やめて。私はね、幽霊だとか、そういうの全然信じてないの。ほんとに馬鹿馬鹿しい、ボル!」
気分を害したのか、声をあげてキャバクラはダンボールの裏に入っていった。
でも確かにキャバクラさんには背後霊がついていた。はっきりとは見えなかったけど、ぼんやりとしたその瞳は、どこかで見たことのある温かい瞳だった。