エピローグ すべてがはじまりのために
「そうなんだ」
私は彼女に宇宙に帰ること、もう会えないことを伝えた――当然、ニワトリ星人としてだけど。
「もうみんなが迎えに来てるの」
「ニワトリ星人の団体!?」
「そうね」
私は微笑んだ後、彼女の後にいる髪金に視線を送った。
髪金は頷くと、ことの発端である疑似体験モードを彼女にセットした。彼女が満面の笑みになる。
ダンボールの裏から見ていたリーダーが、こちらを確認している。髪金が親指を立てる。
「よし、全員集合!」
リーダーの掛け声と共に、みんな現れた。
「今度は何を見せてるんだ?」
彼女は満面の笑みで手を振っている。
「元気でねぇ! だっしゅさんにもよろしく!」
だっしゅという言葉に、髪金が私を見た。私は微笑み返した。
「ご覧の通り、お別れのシーンよ! これでニワトリ星人の件は一件落着。やっとまともに公務に戻れるわね」
「……無理してないか?」
髪金がやさしく声をかけてくれた。こみあげる涙をなんとかこらえて平気よと言えた。そう、くよくよなんてしていられない。
「さあ、トロ子状況説明を!」
「ミスターのびっくりどっきりメカが、街なかで佇んでいます」
「博士、ロボの調子は?」
「オイル充填完了済み。80%完成してるよ」
「80%か、私に使いこなせるか。よし、ぐずぐずしている暇はない! みんな行くぞ!」
散らばった部品から改造されて出来た『MSN-02 ロボング』にみんなが向かう。
私は立ち止まってそれを見ていた。
相変わらずの日々は続いている。
でもそこにだっしゅとキャバクラはいなかった。
でも、くよくよしてられない。走り続けなくてはいけないんだ。その先に、きっと何かがあるから。
「気をつけてね!」
彼女はニワトリ星人の大群に合えた喜びからか、満面の笑みを浮かべている。
ほんと能天気というか……。
私は小さく笑った。そしてポケットから疑似体験モードの別のシナリオが入ったテープを出した。
「協力してあげる」
彼女が見ている疑似体験モードのテープを、それと入れ替えた。
私の顔は晴れ晴れとしていた。そして私はロボングに走り出した。
部屋には、彼らの声が届いていた。
「ちょっと待って下さい、私は七人乗りじゃないですよ!」
「足がないぞ、これ!」
「あんなものは飾りです! 上の人にはわからないんですよ!」
「ならどうやって移動するんだ?」
「みなさんが運んでくれるんじゃないんですか?」
「アホなことを言うね、君は」
「クール以上のアホだ」
笑い声が届いている。みんなが笑っている。
「……おい、なんかこっちに飛んでこない?」
「なんかクルクル回ってるな」
「! みんな避けろ!」
リーダーの声の後に、スパッ! という音が続いた。
「な、何事だ!?」
「なんか切れた音がしたけど……」
「まさかミスターの攻撃か!?」
みんなが慌てふためくなか、髪金が声を震わせて言った。
「リ、リーダー、頭……」
「頭?」
「頭にアフロラッガーが!」
「なんだと? ……このさわり心地、この自毛の感触、これはあの日のアフロラッガーだ!」
「やった、やったぞ! リーダーの頭が復活したんだ!」
みんなの歓声があがるなか、ロボだけが悲観の声をあげる。
「あの、私、真っ二つなんですけど!」
色んな過去が今を作っている。
「あれ、だっしゅさん、どうしてここに?」
彼女の前で、にこりと微笑むだっしゅ。
「ニワトリ星へは? ……そうなんだ、地球人に帰化したんだ。ならこれからは地球人だね! これからもよろしく。え、そっか、忘れてた、うっかり」
擬似体験モードのメットの下から、笑った彼女の表情が見える。
「改めて自己紹介させて頂きます。えっと、私、私の名前は……」
だっしゅは、彼女を見つめ、微笑んでいる。
彼女も微笑んでいる。
そして物語は始まる。
――負けないで、未来は素晴らしいはずだから。
―― 了 ――
丁度執筆から1年かかりました。
当初の完成予定よりは、だいぶ伸びてしまいましたが……。
ご感想とかいただけると、とてもうれしいです。
今後も、「書く」ということに、精進していきたいと思います。
次回作も現在執筆中です。
近日公開しますので、そちらもよろしくお願い致します。