最終章 第5幕 走り出す
みんな何も言わなくても、すべてがわかっているような顔をしていた。ただリーダーは意地悪そうにみんなに呼びかけた。
「どうする? ボルレンジャー辞めた奴だぞ?」
髪金はちらっと僕を見た。
「……まー、ふられたくらいで逃げたことは腹が立つが……戻ってきたってことは戦うって事なんだろ?」
僕はうなずいた。髪金は仕方ないなと、笑ってくれた。
「僕も協力するよ。あれはナンセンスだ」
今日のクールはどこか頼り甲斐があるように見えた。
「よく話がわかんねーよ」
最強はいまいち話が分からないみたいで、むくれていた。その仕草はかわいかった。
「ようは、だっしゅにしろ、キャバクラにしろ、この部屋のコにしろ、あの中に想いが閉じ込められてて、それを取り戻そうって事」
博士のシンプルな説明に最強がなるほど! という顔をした。
「つまりあいつをぶっ壊して、その思いを解放するって事か」
最強らしい発想だ。
「成功しそうか?」
髪金がトロ子に聞いた。
「大丈夫、素敵な未来が見える」
トロ子が言うなら間違いないとキャンディは笑顔で言ってくれた。
僕はみんなの言葉に大きく頷いた。
「なら私があそこまで連れて行きます」
ポンコツ気味のロボに乗るのは危険なはずなのに、不思議と不安はなかった。
「よし、私達はだっしゅがビッグボールへ近づけるように……何をすればいい?」
僕がみんなにして欲しい事はただひとつ。
「彼女を連れてきて欲しい」
僕の気持ちを彼女に伝える。臆病にならず伝えるんだ。
恋愛御法度のリーダーは、その言葉に険しい表情を浮かべた。でも怒られようが僕はこの気持ちを変えはしない。
「……よし、なら禁を破った罰として、必ず解放しろ、そして戻って来い。いいな?」
リーダーは優しく僕を応援してくれた。僕は頷いた。
その時、ひとつの銃声が部屋に響いた。
キャバクラが銃を上に向けていた。
「……想いは解放させない」
「……僕は行かなきゃダメなんだ。彼女のため、僕のため、みんなのために出来る事、初めて僕にしかできない事を見つけたんだ」
銃を僕に向けたキャバクラの目は本気だった。でも僕はキャバクラに近づいていった。彼女を救えるのも、僕しかいないから。
「撃つって言ってるのよ!」
キャバクラの涙声が響く。でも僕は止まらなかった。
僕に向けられていた銃がパンと鳴った。
「だっしゅ!」
みんなが不安な顔で僕を見ている。僕の腹部からは赤い液体が溢れている。
「大丈夫だよ、今のは空砲だ。弾なんてはいってない」
「でも血が!」
「血のりだよ。僕の体には逃げるための手段が99個埋め込まれているんだ。これは死んだフリをする時のカラクリだよ」
みんな疑った顔をしていたが、僕が血のりを取り出すと、ほっとした表情を浮かべた。
僕はキャバクラに近づいた。
「僕にはあの時間が大事なんだ。だろ? マオ」
忘れていた彼女の名前を言うと、キャバクラ、いやマオは泣き崩れた。マオにそっと手をかけた後、行ってくると言い、僕はロボを呼んだ。
「さあ、行こう。時間がない」
ロボにしがみつくと、一気にベランダから飛び出した。
僕の先には、必死にビッグボールの口を開こうとしているホゲーンの姿が見えた。
部屋ではキャバクラが泣き崩れていた。
キャンディがそっとキャバクラを抱きしめた。
今まで繋いでいた緊張の糸が切れたのか、まるで子供のように泣くキャバクラは声を震わせて言った。
「……じゃない。……撃ったよ、私。空砲なんかじゃない! 撃ったよ、私、だっしゅの事、撃ったよ!」
キャバクラの涙ながらの叫びが部屋にむなしく響いた。