最終章 第4幕 二人
「もう、ふたが開くのは時間の問題だよ!」
モニターに映るビッグボールの真っ赤な口の隙間から、大きな愛くるしい目が瞬きしている。そしてマオー! という声とともに、その大きな口をこじ開けようとしていた。
ビーッグという焦りに近い声が響く。
キャバクラはその光景に声をあげた。
「! 想いを、もっと想いを集めて強くしないと! キャンディ! あなたの想いをはやく渡しなさいよ!」
「キャバクラ……あれは壊さなきゃだめだよ」
「渡せって言ってるのよ! やっと目覚めたのよ!? やっと守ってくれるモノが目覚めたのよ!」
その言葉にキャンディは首をふった。
「誰でもいい! 忘れたい過去を渡して! そうしたら、ビッグボールはホゲーンを閉じ込める!」
マオーという声がもう一度聞こえた。
「はやく想いを渡して! 過去を忘れて素晴らしい未来を!」
「過去の想いを忘れることはなんにも素晴らしいことじゃない。苦しい想い、つらい想い、それは確かに私たちを苦しめる。しかし、うれしい想い、素晴らしい想いが私たちを安らげてくれる。みんな様々な想いを背負って、未来を作っている。想いのない未来はないんだよ!」
リーダーがキャバクラを諭した。しかしキャバクラの想いは変わることはなかった。
「現実に想いは私を苦しめる! そうだ、私の想いをあげればいいのよ。私の想い全部!」
キャバクラは箱を取り出した。
「ビッグボール、私の過去を全部あげる! その代わり、そのうっとうしいやつを永遠に閉じ込めて!」
だっしゅはキャバクラにゆっくり近づいた。そして手に持った写真をキャバクラに見せると、キャバクラの表情がが動揺した。
「もう、閉じ込めることは出来ないんだよ。やっとわかった、彼女の持っていた箱を見たことがあった理由が。三人の想い出を閉じ込めた箱と同じだったんだ」
「やめて!」
「僕はさ、逃げることが得意だった。だから僕はあの日から逃げた。逃げて逃げて逃げまくった。でもね、気付いたんだよ」
だっしゅはキャバクラをしっかりと見ていた。
「僕の逃げ足より、向きあうべきモノの方が足が速いって。もう、逃げれないよ。あいつが僕らに追いついた」
キャバクラはだっしゅに銃を向けた。涙を流していた。どうしようもないとわかっていた。
「ふざけないで! よくもそんなことを簡単に言える! 何が追いつかれたですって!? さんざん逃げといて! 私はね、思いだしたくないの! あの日の事も、彼の事も、何もかも全部!」
「でも、あいつがさ、何度傷ついても戦ってるからさ」
だっしゅは部屋のモニターを見た。そこでは必至にビッグボールの口をこじ開けようとしているホゲーンが映されていた。
「あんな姿見てたら、もう逃げる事出来ないんだよ。僕たちが閉じ込めた想いを、解放したかったんだよ、あいつは」
だっしゅはみんなを見た。みんなもだっしゅを見ていた。
「お願いがあるんだ。僕には好きな人がいる。そして忘れてはいけない想いがある。そんな想いが、あの中に閉じ込められている。解放したいんだ、あいつをぶっ壊して、解放したいんだ。だから力を貸して欲しい!」