最終章 第3幕 箱と想いと
「……もうやめようよ」
キャンディが俯いていた顔をあげた。
「隠しきれないよ、キャバクラ」
キャバクラは黙ってキャンディを見ていたが、ふっと息をつき、両手を広げた。
「……あんたがそんなこと言うから、決定的になったじゃないか」
「何を知っている、キャンディ」
「……私はただだっしゅをふりむかせたかっただけ」
*
彼女の好きな人が、私の擬似体験モードで作りあげたモノだと知った後、私は彼女に失恋する疑似体験を見せた。
私が苦しんでるのに、浮かれているのが許せなかったから。
案の定、彼女は泣き崩れ、苦しんだ。正直、それで私の気持ちは楽になった。
そんな泣き崩れる彼女にキャバクラは箱を渡して、やさしく声をかけた。
「泣きなさい、たくさん泣きなさい。そう、過去はあなたを苦しめる。痛いほどに切ないほどに。さあ、その想いを閉じましょう」
私はキャバクラが持っている箱のことを聞いた。
キャバクラは、その箱は想いを閉じ込め、忘れさせるものだと言った。ビッグボールはその箱を納めるものだと言った。そしてその想いを守るためのロボットだと言った。
キャバクラは想いを集めることで、守る力を強くしていた。でも……。
*
「だっしゅの想いを閉じ込めなくて良かった。キャバクラ、あれはおかしいよ!」
自分がこれまでしてきた事をさらけ出されたキャバクラだったが、その表情に動揺はなかった。むしろキャバクラは、まだ想いを探っていた。
「……だっしゅのこと好き? まだ好きなんでしょ? でもあいつには好きな人がいる、あなた以外のね!」
キャンディは耳をふさいでやめてと言った。
「でもどうしようもないよね! どうしてもふりむいてくれないよね!」
「キャンディ、キャバクラに耳を傾けるな!」
「ねぇ、キャンディ!」
「もうやめろ!」
止めにかかった髪金に、キャバクラは銃を構えた。キャバクラの目は焦点があっていなかった。不気味な笑いを浮かべ、キャバクラはとり付かれたように話す。
「あんな逃げた奴のこと忘れちゃいなさいよ! そんな想いひきずってたってつらいだけ! さあ、はやくこの箱へ!」
キャバクラの持っていた箱がキャンディに向けられた時、マオー! という声とともに部屋の扉が開いた。
そこには息を切らしただっしゅが立っていた。