最終章 序 あいつの叫び声
裏山につくと、もうすっかりと暗くなっていた。
ただでさえ怖い雰囲気を出しているのに、『ホゲーン』という得体の知れない怪物探しなんて……。
そんなものいるわけないと思いながらも、裏山の雰囲気にのまれていた。
「もう暗いしさ、帰ろうよ。おばさんが心配するよ」
「……びびってるのか?」
あいつが意地悪く笑う。
ここで帰ったら、びびりマンとして学校中に言いふらされてしまうかもしれない。そう思うと強く帰ろうとは言えなかった。
彼女はというと、特に怖がりもせずあいつにくっついている。
「私、怖い」とか言えば、あいつもやめるかもしれないのに!
そう思いながらも、そうはならないことを感じて、奥へと進むしかなかった。
「なぁ、どこまで行くんだよ?」
裏山は立ち入り禁止だったから、歩いてきた道、向かっているこの先について、まったくわからなかった。ただ、スルスルと進むあいつは初めてじゃないんだなと感じた。
もう少しというあいつの言葉に、疑いの気持ちを持ちながらも進むしかなかった。
帰りたい気持ちのために時間が経つのを遅く感じるのか、だいぶ歩き続けてきた気がする。なのに止まる気配はない。いつまで歩くんだ。月の光くらいしか照らすものがないこの道、迷子になってしまったんではないかと思い始めた。
あいつに声をかけようとした時、草むらからガサゴソという音が聞こえた。
さすがに声をあげてびっくりしてしまったけど、無表情について来ていた彼女も驚いた顔をしていて、びっくりしたのは自分だけでないのに安心した。
ただあいつは平気な顔をして僕らの前で立っていた。
「ホゲーンかもしれない、行こうぜ」
そう言ったあいつの目は、月明かりを受けて輝いていた。
ただこんな状況下で行こうなんて言えるほど、さすがに勇気はなかった。ビビリでも構わない。
「さっさと帰ろう」そう言うとあいつは「なら俺が見てくるよ」と言って、草むらの中に入っていった。
ガサガサと草を掻き分ける音が遠ざかっていく。危ないから帰ろうと声をかけたけど、あいつの場所を示す音は遠ざかっていくだけだった。
草むらの方をじっと見ていた。はやく帰ってこいよ、そう何度も繰り返し思った。ただ次に聞こえたのは、恐怖に似たあいつの叫び声だった。